斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
上 下
70 / 180
攻城編

巫女、荒ぶる

しおりを挟む

 70-①

 武光はからまったくさりほどくのも忘れてポカンとしてしまった。

 自分達がベンと闘っている間に、ナジミが仰向あおむけに転倒させたセンノウの上に馬乗り……総合格闘技などで言うところの《マウントポジション》を取って、センノウをボコボコに殴りまくっていた。

「ちょっ、おま……何してんねん!?」
「ハイ!! 小さい方なら私でもやっつけられるかもと思って!!」

 普段はドジでトロいくせに、変なスイッチが入った時に見せるこの俊敏さは何なのか。

(うわぁ……アイツよう見たら手の中に石握り込んで殴ってるやんけ……)

 武光は若干引いたが、今はそれどころではない。

「と、とにかくそいつを逃すな!! 痛めつけてベンさんの洗脳を解く方法を吐かせろ!!」  
「任せて下さい!! えいっ!! やあっ!!」

 ナジミのパンチがセンノウを襲う。それにしてもこの巫女、ノリノリである。

「……よっしゃ、ほどけた!! 俺はミトの援護に行きます!! 先生はナジミを護衛して下さい!!」
「分かったよ武光君」

 絡まった送雷鋼縄を解いた武光はミトの援護に向かった。

「うぉぉぉりゃあああ!!」

 “すん”

 武光は、ミト目掛けて振り上げられた大槌おおつちのヘッド部分を、背後からイットー・リョーダンで斬り落とした。 “ずしん” と音を立て、大鎚のヘッド部分が地面に落ちる。

「大丈夫か、ミト!?」
「え、ええ」
「今、ナジミと先生がベンさんを元に戻す方法を吐かせとる、それまでベンさんをセンノウに近付けさせるな!!」
「分かったわ!!」

 二人の視線の先では、ベンが、柄だけになった大鎚を無造作に捨て、背中の武器を手に取っていた、右手に長巻ながまき、左手に大剣である。

「よっしゃ、まずはイットーで武器を潰す!! ミト……悪いけど、囮になってくれへんか?」
「任せなさい!!」

 武光の提案に、ミトは力強くうなずいた。

「よっしゃ、行くで……ミト!!」
「ええ!!」

 ミトがベンに向かって突撃した。ベンが、右手の長巻をミトの頭目掛けて振り下ろすが、ミトは優れた反射神経を活かして左に跳躍して回避した。くうを切った長巻の切っ先が地面にめり込む。

「せりゃあああっ!!」

 ……そして、その瞬間を狙って、ミトからワンテンポずらして突撃していた武光が、ベンの長巻を刀身の根元から切断した。
 すかさず、右から大剣の一撃が横薙ぎに襲って来たが、武光はイットー・リョーダンを縦に構えて防御した。ベンの怪力によって、武光は大きく吹っ飛ばされたものの、ベンの大剣は刀身の真ん中付近で切断されていた。

「大丈夫、武光!?」
「痛たたた……アカン、おもっくそケツ打ってもうた。ケツが割れたかもしれん……」
「バカな事言ってないで、次が来るわよ……ナジミさん、白状しましたか!?」
「ま……まだです!! 早く……吐きなさい……っ!!」

 武光達の視線の先では、荒ぶるナジミが、うつぶせに倒れたセンノウの背に馬乗りになって、キャメルクラッチ(に酷似した技)をめていた。上半身のり具合から見て、これはかなり深くまっている……吐くのも時間の問題か。

「ミト、もう少しや……もう少しだけ踏ん張るぞ!!」
「ええ!!」

 ベンは、再び背負っていた武器を手に取った。今度は右手に槍、左手に大鎌である。
 先程と同じように、ミトが気を引き、武光が武器を狙って攻撃する。

 武光とミトは槍と大鎌を破壊した。

「ナジミっ、センノウは吐いたか!?」

 武光がナジミの方にチラリと視線をやると、ナジミが両手を高々と天に向かってかかげていた。足元には白目をいたセンノウが転がっている。

「はぁっ……はぁっ……か……勝ったーーーーーっ!!」
「あ……アホーーーっ!! 失神させてどないすんねん!?」
「はうぁっ!? ご、ごめんなさいっ!! つい興奮しちゃって……急いで吐かせますからっ!! ……い、癒しの力っ!!」

 ナジミは癒しの力を使い、センノウが意識を取り戻した瞬間に、すかさず腕ひしぎ逆十字固めをめた。センノウが苦悶の声を上げる。

「さぁ、ベンさんの洗脳を解きなさい!! さもないと今度はもっと痛い事しちゃいますよっっっ!!」 
「ぐぁぁぁっ!? わ……分かった!! 解く!! ムカクにかけた術を解いてやる!! ムカク、大人しくするのじゃ!!」

 ついにセンノウがを上げた。センノウの命令でベンが動きを止めたのを見たナジミは技を解いた。

「良いでしょう……さぁ、早くベンさんの洗脳を解きなさい!!」

 ナジミにうながされて、センノウはベンに近付いた。無論むろん、センノウの首には、武光のイットー・リョーダン、ミトのカヤ・ビラキ、そして、リョエンのテンガイが突き付けられている。

「分かっていると思いますけど、少しでもおかしな真似まねをしたら……」

 ナジミは武光達に視線を向けた。

「叩っ斬るぞ?」
〔真っ二つにな!!〕
「斬り刻むわよ?」
〔細切れにね!!〕
「焼き尽くしますよ?」
〔デンゲキ モ アルヨ!!〕

 ダメだ……ここは大人しくムカクの洗脳を解くしかない。ムカクを手放すのは惜しいが、どうせこの戦いの後には人間だろうと魔物だろうと、新たな素体の補充には事欠かない。

 センノウはベンの洗脳を解いた。意識を失ったベンが地面にドサリと倒れ込む。ナジミがベンにそっと近付いた。

「大丈夫、生きてます……邪悪な気配も感じられません!! 皆さん……剣を引いてあげて下さい」

 ナジミに言われて、三人は武器を引いた。そしてその瞬間、ナジミの跳び膝蹴ひざげりがセンノウに炸裂さくれつした。

「グハァッ!? な、何をする!? せ、洗脳は解いたじゃろうが!?」
「確かに私は『洗脳を解かないと痛い目にあわせる』と言いました。でも……『洗脳を解いたら痛い目にあわさない』とは言ってませんっっっ!! どりゃーーー!!」
「ひっ!?」 

 もはや無茶苦茶だ。ボルテージが振り切れ、荒ぶりまくってやりたい放題のナジミがセンノウに再び襲いかかろうとしたその時だった。


 “ドォォォォォンッッッ!!”


 空気を震わす轟音が鳴り響いた。塔が……結界塔が崩壊してゆく。破壊神砲の第二射が、クラフ・コーナン城塞の結界塔を撃ち抜いたのだ。

 武光達が結界塔の崩壊に気を取られているすきを突いて、センノウは逃げだした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 前作、『斬られ役、異世界を征く!!』から三年……復興が進むアナザワルド王国に邪悪なる『影』が迫る。  新たな脅威に、帰ってきたあの男が再び立ち上がる!!  前作に2倍のジャンプと3倍の回転を加えて綴る、4億2000万パワー超すっとこファンタジー、ここに開幕!! *この作品は『斬られ役、異世界を征く!!』の続編となっております。  前作を読んで頂いていなくても楽しんで頂けるような作品を目指して頑張りますが、前作を読んで頂けるとより楽しんで頂けるかと思いますので、良かったら前作も読んでみて下さいませ。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...