上 下
63 / 180
攻城編

新兵器、火を吹く

しおりを挟む

 63-①


 リヴァルがロイ=デストと出会ってから十日が経過した。

 クツーフ・ウトフ城塞から出陣した主力部隊、第一軍八千はクラフ・コーナン城塞の南西に布陣し、ジューン・サンプ方面から進軍してきた第二軍四千も到着し、クラフ・コーナン城塞の北東に布陣した。

 クラフ・コーナン城塞奪還戦の作戦開始時刻まで後一時間を切っている。

 リヴァル達の参加した特別攻城部隊は、クラフ・コーナン城塞の北西およそ600m程の地点にある小高い丘に布陣していた。

「なるほど『決して落ちる事の無い星』か……」

 遠くに見えるクラフ・コーナン城塞を眺めていたリヴァルは思わずつぶやいた。

 《クラフ・コーナン城塞》はミトの曾祖父そうそふに当たるジョージ・アナザワルド一世が魔物達の跳梁ちょうりょうを抑える為の西方のかなめとして、当時の築城技術のすいを集めて建造させた巨大な城塞である。

 城塞全体が五芒星ごぼうせいのような形をしており、その特異な外見から《輝星城きせいじょう》とも呼ばれている。

 この高い城壁を持つ星形の城は、五方向に張り出した稜堡稜堡りょうほ(=城や要塞の張り出した角状の部分)と稜堡の間……星のおうの部門に城門が設けられているのだが、城門目掛けて突撃すれば、左右の稜堡から矢や石を浴びせられる。
 しかも、門に近付けば近付く程、城壁によって左右への逃げ道が奪われ、攻撃の回避は難しくなる。かと言って、先に稜堡を攻めようとしても、城壁の特殊な形状により一度に城壁の上に登る事の出来る人数は少ない。
 登った途端、城壁の上で待ち構えている多数の兵に槍で串刺しにされるという、非常に攻めがたき城であった。

 ……そして、そんなただでさえ攻め難い城を更に攻め難くしているのが、魔王軍が城塞中央に設置した《結界塔》の存在である。

 この塔から発せられる結界は塔の半径およそ200mをドーム状に覆い、外側からの攻撃を防ぎ、内側からの攻撃を通す。

 つまり、攻撃側は結界の内側に突入するまでずっと守備側の矢や術による攻撃にさらされ続けるという事だ。

 そして、この結界を破り、クラフ・コーナン城塞を奪還する為の秘密兵器が、現在リヴァル達が護衛している、全長15mはあろうかという巨大な大砲……決戦兵器《破壊神砲》である。

 破壊神砲は、砲身の根元で火術による爆発を起こして、その反動を利用して特殊弾を撃ち出すという新型攻城兵器で、従来式の木や発条ばねの弾性を利用した投石機の三倍以上の射程と、従来式の投石機を圧倒的に上回る破壊力を有する王国軍の虎の子の兵器である。

 幸いにして、敵の結界は、術による攻撃や弓矢のような質量の軽い攻撃は防ぐ事が出来ても、岩などの大質量兵器の攻撃は防げない。
 特別攻城部隊に与えられた任務は、この破壊神砲をって結界の外側から結界塔を砲撃し、破壊する事である。

 設置が終わった破壊神砲の周囲では、四~五人の測量兵が目標までの距離や角度を測り、測量兵の指示に従って、十方向に取っ手の伸びた巨大な石臼いしうす状の台座を兵士達が三十人掛かりで回し、砲の向きを微調整している。

 弾は三発しかないのだ……失敗は許されない。

「破壊神砲……か」
「リヴァルさーん!!」

 リヴァルが破壊神砲を見上げていると、キサン、ヴァンプ、ダントの三人がやって来た。

「……フン、『破壊神』とは、随分ずいぶんとご大層な名前だな」

 今一つ新兵器を信用していないといった風のヴァンプにリヴァルは笑いながら言った。

「なぁに、あの鉄壁の守りを突き崩すには、それくらい強そうな名前の方が良いさ……さぁ、戦が始まるぞ!!」

 63-②

 クラフ・コーナン城塞の五つの稜堡りょうほは、先端が真北を指している稜堡を《一番稜堡》として、時計回りに一番~五番まで番号が割り振られている。

 敵の注意を破壊神砲かららすべく、特別攻城部隊が見守る中、クツーフ・ウトフ城塞から進軍して来た第一軍八千は、南西から四番稜堡と五番稜堡の間の南西門に向かって……ジューン・サンプ方面から進軍してきた第二軍四千は、北東から一番稜堡と二番稜堡の間の北東門に向かって、それぞれ進軍を開始した。

 両部隊とも、大楯おおだてを装備した重装歩兵と風術士を二人一組にした混成部隊を前面に押し出し、通常の槍隊や弓隊はそれより更に後方である。

 先鋒が結界まであと100mという所まで接近した時、城側が攻撃を開始した。攻撃部隊の頭上に、おびただしい量の矢が降り注ぐ……戦いの火蓋ひぶたが切って落とされたのだ。
 降り注ぐ敵の矢に対して、術士が風術で頭上に突風を起こして飛来する矢の軌道をらし、逸らしきれなかったを矢を重装歩兵が大楯で防ぐ。
 すかさず後方の弓隊が城壁の上の敵に向けて応射するが、放たれた矢は、結界に阻まれて落ちてしまった。
 矢による執拗な攻撃に何とか耐えながら、重装歩兵隊と術士隊がジリジリと結界に接近してゆく。

 重装歩兵隊が結界のすぐそばまで接近したその時だった。

 轟音と共に、数人の重装歩兵が吹き飛んだ。城側が投石機による攻撃を開始したのだ。
 流石に岩は風術でも大楯でも防げない……岩を避ける為には、投石機の射程外に出るか、懐に潜り込むしかない、重装歩兵隊と術士隊は数を減らしながらも尚も城門目掛けて進んだ。
 重装歩兵隊と術士隊の奮戦により、敵の目は完全にそちらに向いている。
 リヴァルは、砲撃手席にいる隊長に向かって叫んだ。

「隊長殿……今です!!」
「おうさ!! 破壊神砲……発射ーーーーーっ!!」

 耳をつんざく爆音を轟かせ、破壊神の名を持つ巨砲が火を噴いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 前作、『斬られ役、異世界を征く!!』から三年……復興が進むアナザワルド王国に邪悪なる『影』が迫る。  新たな脅威に、帰ってきたあの男が再び立ち上がる!!  前作に2倍のジャンプと3倍の回転を加えて綴る、4億2000万パワー超すっとこファンタジー、ここに開幕!! *この作品は『斬られ役、異世界を征く!!』の続編となっております。  前作を読んで頂いていなくても楽しんで頂けるような作品を目指して頑張りますが、前作を読んで頂けるとより楽しんで頂けるかと思いますので、良かったら前作も読んでみて下さいませ。

忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~

こげ丸
ファンタジー
世界を救った元勇者の青年が、激しい運命の荒波にさらされながらも飄々と生き抜いていく物語。 世の中から、そして固い絆で結ばれた仲間からも忘れ去られた元勇者。 強力無比な伝説の剣との契約に縛られながらも運命に抗い、それでもやはり翻弄されていく。 しかし、絶対記憶能力を持つ謎の少女と出会ったことで男の止まった時間はまた動き出す。 過去、世界の希望の為に立ち上がった男は、今度は自らの希望の為にもう一度立ち上がる。 ~ 皆様こんにちは。初めての方は、はじめまして。こげ丸と申します。<(_ _)> このお話は、優しくない世界の中でどこまでも人にやさしく生きる主人公の心温まるお話です。 ライトノベルの枠の中で真面目にファンタジーを書いてみましたので、お楽しみ頂ければ幸いです。 ※第15話で一区切りがつきます。そこまで読んで頂けるとこげ丸が泣いて喜びます(*ノωノ)

かの世界この世界

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

くノ一その一今のうち

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
お祖母ちゃんと二人暮らし、高校三年の風間その。 特に美人でも無ければ可愛くも無く、勉強も出来なければ体育とかの運動もからっきし。 三年の秋になっても進路も決まらないどころか、赤点四つで卒業さえ危ぶまれる。 手遅れ懇談のあと、凹んで帰宅途中、思ってもない事件が起こってしまう。 その事件を契機として、そのは、新しい自分に目覚め、令和の現代にくノ一忍者としての人生が始まってしまった!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...