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攻城編
新兵器、火を吹く
しおりを挟む63-①
リヴァルがロイ=デストと出会ってから十日が経過した。
クツーフ・ウトフ城塞から出陣した主力部隊、第一軍八千はクラフ・コーナン城塞の南西に布陣し、ジューン・サンプ方面から進軍してきた第二軍四千も到着し、クラフ・コーナン城塞の北東に布陣した。
クラフ・コーナン城塞奪還戦の作戦開始時刻まで後一時間を切っている。
リヴァル達の参加した特別攻城部隊は、クラフ・コーナン城塞の北西およそ600m程の地点にある小高い丘に布陣していた。
「なるほど『決して落ちる事の無い星』か……」
遠くに見えるクラフ・コーナン城塞を眺めていたリヴァルは思わず呟いた。
《クラフ・コーナン城塞》はミトの曾祖父に当たるジョージ・アナザワルド一世が魔物達の跳梁を抑える為の西方の要として、当時の築城技術の粋を集めて建造させた巨大な城塞である。
城塞全体が五芒星のような形をしており、その特異な外見から《輝星城》とも呼ばれている。
この高い城壁を持つ星形の城は、五方向に張り出した稜堡稜堡(=城や要塞の張り出した角状の部分)と稜堡の間……星の凹の部門に城門が設けられているのだが、城門目掛けて突撃すれば、左右の稜堡から矢や石を浴びせられる。
しかも、門に近付けば近付く程、城壁によって左右への逃げ道が奪われ、攻撃の回避は難しくなる。かと言って、先に稜堡を攻めようとしても、城壁の特殊な形状により一度に城壁の上に登る事の出来る人数は少ない。
登った途端、城壁の上で待ち構えている多数の兵に槍で串刺しにされるという、非常に攻め難き城であった。
……そして、そんなただでさえ攻め難い城を更に攻め難くしているのが、魔王軍が城塞中央に設置した《結界塔》の存在である。
この塔から発せられる結界は塔の半径およそ200mをドーム状に覆い、外側からの攻撃を防ぎ、内側からの攻撃を通す。
つまり、攻撃側は結界の内側に突入するまでずっと守備側の矢や術による攻撃に晒され続けるという事だ。
そして、この結界を破り、クラフ・コーナン城塞を奪還する為の秘密兵器が、現在リヴァル達が護衛している、全長15mはあろうかという巨大な大砲……決戦兵器《破壊神砲》である。
破壊神砲は、砲身の根元で火術による爆発を起こして、その反動を利用して特殊弾を撃ち出すという新型攻城兵器で、従来式の木や発条の弾性を利用した投石機の三倍以上の射程と、従来式の投石機を圧倒的に上回る破壊力を有する王国軍の虎の子の兵器である。
幸いにして、敵の結界は、術による攻撃や弓矢のような質量の軽い攻撃は防ぐ事が出来ても、岩などの大質量兵器の攻撃は防げない。
特別攻城部隊に与えられた任務は、この破壊神砲を以って結界の外側から結界塔を砲撃し、破壊する事である。
設置が終わった破壊神砲の周囲では、四~五人の測量兵が目標までの距離や角度を測り、測量兵の指示に従って、十方向に取っ手の伸びた巨大な石臼状の台座を兵士達が三十人掛かりで回し、砲の向きを微調整している。
弾は三発しかないのだ……失敗は許されない。
「破壊神砲……か」
「リヴァルさーん!!」
リヴァルが破壊神砲を見上げていると、キサン、ヴァンプ、ダントの三人がやって来た。
「……フン、『破壊神』とは、随分とご大層な名前だな」
今一つ新兵器を信用していないといった風のヴァンプにリヴァルは笑いながら言った。
「なぁに、あの鉄壁の守りを突き崩すには、それくらい強そうな名前の方が良いさ……さぁ、戦が始まるぞ!!」
63-②
クラフ・コーナン城塞の五つの稜堡は、先端が真北を指している稜堡を《一番稜堡》として、時計回りに一番~五番まで番号が割り振られている。
敵の注意を破壊神砲から逸らすべく、特別攻城部隊が見守る中、クツーフ・ウトフ城塞から進軍して来た第一軍八千は、南西から四番稜堡と五番稜堡の間の南西門に向かって……ジューン・サンプ方面から進軍してきた第二軍四千は、北東から一番稜堡と二番稜堡の間の北東門に向かって、それぞれ進軍を開始した。
両部隊とも、大楯を装備した重装歩兵と風術士を二人一組にした混成部隊を前面に押し出し、通常の槍隊や弓隊はそれより更に後方である。
先鋒が結界まであと100mという所まで接近した時、城側が攻撃を開始した。攻撃部隊の頭上に、夥しい量の矢が降り注ぐ……戦いの火蓋が切って落とされたのだ。
降り注ぐ敵の矢に対して、術士が風術で頭上に突風を起こして飛来する矢の軌道を逸らし、逸らしきれなかったを矢を重装歩兵が大楯で防ぐ。
すかさず後方の弓隊が城壁の上の敵に向けて応射するが、放たれた矢は、結界に阻まれて落ちてしまった。
矢による執拗な攻撃に何とか耐えながら、重装歩兵隊と術士隊がジリジリと結界に接近してゆく。
重装歩兵隊が結界のすぐそばまで接近したその時だった。
轟音と共に、数人の重装歩兵が吹き飛んだ。城側が投石機による攻撃を開始したのだ。
流石に岩は風術でも大楯でも防げない……岩を避ける為には、投石機の射程外に出るか、懐に潜り込むしかない、重装歩兵隊と術士隊は数を減らしながらも尚も城門目掛けて進んだ。
重装歩兵隊と術士隊の奮戦により、敵の目は完全にそちらに向いている。
リヴァルは、砲撃手席にいる隊長に向かって叫んだ。
「隊長殿……今です!!」
「おうさ!! 破壊神砲……発射ーーーーーっ!!」
耳を劈く爆音を轟かせ、破壊神の名を持つ巨砲が火を噴いた。
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