上 下
40 / 180
用心棒編

斬られ役、魔将を迎え撃つ(前編)

しおりを挟む

 40-①

 ボゥ・インレの南から進軍してくるコウカツ軍主力部隊およそ百八十に対し、武光率いるボゥ・インレ守備隊二十名は打って出た。

 ボゥ・インレの南、およそ一里(約400m)の地点、武光達は街道脇の小高い丘に身を潜め、コウカツ軍の到来を待った。

 待つことおよそ30分、コウカツ軍の先鋒部隊が姿を現した。武光は物凄い数のオークの群れに内心めちゃくちゃビビりながら、ヤケクソ気味に絶叫した。

「……投げまくれぇぇぇっ!!」

 眼下の敵目掛けて、昨日のうちに、あらかじめ丘に運び込んで隠しておいたびんを投げまくる。投擲とうてきされたびんがオークの頭上に降り注ぎ、中の液体をぶち撒ける。
 武光達に気付いた敵は、頭上から雨よあられよと降り注ぐ瓶をものともせず、丘の上目掛けて進軍してくる。

「……たる!!」

 武光の合図で、ナジミ軍の男達が、びん同様、荷車で運んでおいた樽を次々と丘の上から転がした。樽は、丘を駆け上ろうとするオークに直撃して、中に入っていた液体を盛大にぶちけたが、やはりオークはそれをものともせず突き進んでくる。

「よっしゃ……喰らえぇぇぇっっっ!! 秘技……荒ぶる自由の女神!!」

 武光は火をつけた松明たいまつを頭上に高々と掲げると、油にまみれた敵軍目掛けて放り投げた。

 40-②

『先鋒部隊、敵の火計により壊滅』

 知らせを聞いたコウカツは、伝令の小悪魔を蹴り飛ばした。

「くっ、小癪こしゃく真似まねを……!!」

 正直な所、コウカツは敵が打って出てくるとは思っていなかった。

 ある時はタイラーファミリーの兵に、またある時は幻璽党の兵に、そしてまたある時は町人にと、乗り移る相手を転々としながら、ボゥ・インレを監視していたコウカツの目には、タイラーファミリーの人間も幻璽党の人間も、自分より弱い者を平然としいたげ、強い者には易々と尻尾を振るクズだと映っていた。

 ボゥ・インレに『三日後に攻め入る』とあの男に言ってわざと進軍を遅らせたのも、逃げ出す猶予ゆうよを与えてやったのだ。

 助かる道があるならば、飛び付かずにいられないのが脆弱ぜいじゃくなる人間のさがというものだ……少なく見積もっても自分達の十倍もの軍勢を前に、タイラーファミリーや幻璽党の残党共は今頃我先にと逃げ出して、防備は無いに等しいものとたかくくっていたのだが……

「この三日の間に防備を固め、徹底抗戦の構えを取るとはな……唐観武光……あの男の仕業か……!!」

 コウカツは拳を握り締め、後続部隊に追撃命令を下した。

 40-③

 コウカツが先鋒部隊壊滅の報を受けている頃、武光達はヒィヒィ言いながら、全力ダッシュで逃げ帰っていた。

防塁ぼうるいまで走れーーーー!!」

 武光達の行く手には、街の住人総出で、街の南口前方、10mほどの地点に築いた土塁があった。土塁は成人男性の背丈よりも少し高いくらいで、梯子はしごが立てかけてある。
 武光達は土塁にかけてあった梯子はしごを駆け上がり、全員がのぼりきったのを確認すると梯子はしごを引き上げた。
 防塁の裏では奇襲から戻ってくる武光達の為に、ナジミが水の入った瓶を大量に用意して待っていた。ナジミが次々と瓶を手渡してゆく。

「あ……姐さん……み、水をくれ……」
「は、ハイッ!!」
「んぐっ……んぐっ……ぷはーっ!! うめえ!!」
「姐さん、こっちにも水を……」
「ハイッ、水です!!」
「んぐっ……んぐっ……ふぅー!! 生き返るぜ!!」

 用意してあった水瓶をナジミが次々と配ってゆく。

「ナジミ!! 俺にも水くれ!!」
「ハイッ、武光様!!」
「……んぐっ」
「あっ、ごめんなさい!! それ油瓶あぶらびんです!!」
「ぶはぁっ!? おえええええ!!」
「水はこっちです!!」

 武光はナジミから水の入った瓶を受け取り、中身を一気に飲み干した。

「よし、ナジミ。お前は下がって街の中央で待機や、怪我人が出たら治したってくれ!!」
「分かりました!! 無茶しないで下さいね!!」
「おう!!」

 武光は防塁の上に登ると、背後を振り向き、呟いた。

「気ぃつけろよ、ナジ……あっ、あいつまたコケとるやんけ……おー、起き上がった。よし、ええぞ……走れーーー!!」

 再び、正面を向いた。砂塵を巻き上げ、敵の軍勢が迫っている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 前作、『斬られ役、異世界を征く!!』から三年……復興が進むアナザワルド王国に邪悪なる『影』が迫る。  新たな脅威に、帰ってきたあの男が再び立ち上がる!!  前作に2倍のジャンプと3倍の回転を加えて綴る、4億2000万パワー超すっとこファンタジー、ここに開幕!! *この作品は『斬られ役、異世界を征く!!』の続編となっております。  前作を読んで頂いていなくても楽しんで頂けるような作品を目指して頑張りますが、前作を読んで頂けるとより楽しんで頂けるかと思いますので、良かったら前作も読んでみて下さいませ。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています

テツみン
ファンタジー
 二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。  七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。  しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……  なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。  当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。  そこは都市国家連合。異世界だったのだ!  彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。  彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……  ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。 *60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。  『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...