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用心棒編

老人、惨状を語る

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 30-①

 武光達が全員店の中に入ったのを確認すると、店の主らしき老人は急いで戸を閉め、鍵を掛けた。

「こっちだ、ベッドがある」

 老人は少年を抱きかかえているミトと、ナジミを店の奥の従業員の居住スペースに案内し、少年をベッドに寝かせた。
 ナジミはずっと少年の傷口に手をかざし続けている。かなり荒かった呼吸も大分落ち着いたようだが、それでもかなり苦しそうだ。

「刺された場所が急所ではなかったようなので、ひとまず一命は取り留めたようです。でもまだ安心は出来ません、私はこの子に付いています」

 苦しむ少年を見て、老人は沈痛な面持ちでつぶやいた。

「あいつら……こんな子供にまで……ひでぇ事しやがる」
「ご店主、えっと……」
「タスマだ、タスマ=シメノーヤ」
「タスマさん、俺、唐観武光って言います。で、隣のこいつがジャイナ=バトリッチ、あの男の子の看病してるのが、巫女のナジミです。タスマさん……この街で一体何が起きてるんですか!?」
「この街は今──」

 武光の問いに、タスマが答えようとしたその時、にわかに店の前が騒がしくなった。

「来な……見た方が早い」

 タスマは再び店の方にミトと武光を案内すると、閉じてあった窓をほんの少しだけ開けた。
 窓の外では、数名の男達がにらみ合っていた。武光が斬った男の仲間と思われる男達が四人。四人共、頭や二の腕に白い布を巻いている。そして、もう一方は頭や二の腕に赤い布を巻いている男達が三人だ。

 一触即発いっしょくそくはつだった白と赤の集団は、互いに剣を抜き放ち、斬り合いを始めた。

 やがて、白の集団が赤の集団を全員斬った。だが、白の集団も二人が斬られ、一人が手傷を負ったようだ。武光達は窓をそっと閉め、店の奥に戻った。

「見ただろう? この街は今……二つの無法者共に支配されとる。赤い方が《タイラーファミリー》、白い方が《幻璽げんじ党》だ」
「ちょ……ちょっと待って下さい、この街は魔王軍の魔物に占領されているのではないのですか!?」

 ミトの問いにタスマが答える。

「ああ……数ヶ月前までは、この街は侵攻してきた魔王軍の魔物共に支配されとった……男も女も大人も子供も奴隷どれいにされておったが、待てど暮らせど救援の王国軍は来ない。皆が絶望しかけたその時、タイラーファミリーが現れて、この街を占領していた魔物共を蹴散けちらしたんだ……最初は皆、喜んだんだがなぁ……」

 そう言って、タスマは遠い目をした。

「今度は、タイラーファミリーの連中が好き放題し始めた。追い出そうにも奴らは強い、それに……もし仮に追い出せたとしても、たちまち魔物共がやって来て再びこの街は占領されてしまうだろう。この街の住人は、『話が通じるだけ魔物よりマシだ』と、タイラーファミリーの横暴にジッと耐えておったんだが……しばらくして、今度は幻璽党がやって来よった。そこから先はタイラーファミリーと幻璽党の血で血を洗う抗争だ。街の者は抗争に巻き込まれる事を恐れて、皆家に閉じこもっちまった」

 忌々いまいましげに吐き捨てた老人を見て、武光は一つの疑問を持った。

「でも……何でタイラーファミリーと幻璽党はここまで激しく争ってるんですか?」
「……この街には、とある伝説があってな……『古の王がこの辺りに莫大な財宝を隠した』という、まぁ……古くからこの辺りに伝わるおとぎ話みたいなもんさ。タイラーファミリーと幻璽党は互いにそのお宝を狙っとるのよ」

 抗争の理由を聞いた武光は唖然とした。

「……はぁ!? いやいやいやいや、あいつらそんな有るか無いかも分からんもんの為に斬り合いしてるんですか!? うっわぁ、アホちゃうか………アタマ悪過ぎるやろ」
「それがなぁ……出ちまったんだよ」
「出たって何がです?」
「宝だよ、宝。この街の周囲にはいくつもの古い遺跡があってな。この街の皆で大事に管理していたんだが、遺跡の一つから宝石や大昔の金貨の入った小さな宝箱が出て来ちまった。それが本当に伝説のお宝の一部なのかどうかは分からんが……とにかく、タイラーファミリーはソレを見つけちまった。そして……幻璽党はその事を知っちまった」

 その後、ボゥ・インレに、タイラーファミリーや幻璽党に取り入って甘い汁を吸おうとする無法者が押し寄せて来たせいで、両勢力の数は膨れ上がり、もはや抗争は激化する一方……この街が滅びるのも時間の問題だと、タスマは語った。

 老人の悲哀と苦悶に満ちた横顔と、連中の残虐非道な行為により傷付けられ、苦しむ少年を見て、武光は決心した。


「タイラーファミリーも幻璽党も………俺が全員叩っ斬る!!」

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