上 下
27 / 180
復活の聖剣編

宝剣、名乗る

しおりを挟む

 27-①

 セイ・サンゼンの宿屋に戻ってきた武光はナジミに怪我を治療してもらっていた。

 ナジミが傷口に手をかざすと、傷が塞がり、痛みがどんどん引いてゆく。殴られまくってボコボコに腫れた顔面も元に戻った。

 まるでゲームの回復魔法だと思う武光だった。

「これで良し……と」
「今までただのドジな巫女さんやと思ってたけど……凄いねんな、自分」
「ふふん、これでも癒しの力を持つアスタトの巫女ですから」
「よし……怪我も治ったし、そろそろやるか!!」
「やるって何をですか?」
「ふふん、それはやな……」

 言いかけた所で、部屋のドアがバタンと開いて、ミトが入ってきた。その胸にはさやに納められた宝剣カヤ・ビラキが抱かれている。

「あっ、姫様」
「……カヤが、挨拶あいさつしたいって言うから」
〔違うでしょう姫様、武光さんに謝るのではなかったのですか?〕

 宝剣から声がした。落ち着いて品のある、若い女性の声だ。

「う……えっと……その、突き飛ばしたりして……ごめんなさい」

 かなりぎこちない動きで、ミトは武光に頭を下げた。

〔本人も反省しておりますので、許してやって頂けないでしょうか? イクロ山から戻ってきてからずっと、どうしてあんな事してしまったんだろうって、悩んでいたんです〕
「ちょっと、カヤ!!」

 ワガママで凶暴なだけかと思ってたけど、案外可愛らしい部分もあるんやな、と武光は思った。

「な……何ニヤニヤしてるのよ、は……早く許しなさいよ!! 処刑するわよ!!」
〔姫様!! そんな謝罪の仕方がありますかっ!?〕
「だって……」
「……ええよ!! 俺らも危ない所を助けてもらったし、助けてくれてありがとうな……ミト」
「は……ハイ!!」

 ミトが笑顔になったところで、カヤ・ビラキが言った。

〔では、姫様の謝罪も済んだ事ですし、改めて皆様にご挨拶あいさつをさせて頂きたいと思います〕
「あっ、ハイ」

 武光とナジミはカヤ・ビラキの前に正座した。

〔はじめまして……ではありませんね、武光さんとナジミさんにお会いするのは。アナザワルド城の謁見えっけんで、姫様が泣かされた時以来ですか〕
「だ、誰が泣かされてなんか……!!」
〔はいはい。わたくしの名はカヤ・ビラキと申します。アナザワルド王国第三王女、ミト=アナザワルド様の為に造られたつるぎでございます。ふつつか者ですが、姫様共々よろしくお願い致します〕

 カヤ・ビラキの物腰柔らかく、瀟洒しょうしゃな物言いに武光とナジミは思わず背筋をピンと伸ばした。

「えっと……じゃあ俺らも挨拶させてもらいます。唐観武光って言います、こちらこそよろしくお願いします」
「アスタトの神殿で巫女を務めさせて頂いております、ナジミと申します。これからよろしくお願い致します」

 ナジミと武光はカヤ・ビラキに頭を下げた。

〔こちらこそ。あら? そちらのお方は……?〕
〔我が名はイットー・リョーダン、唐観武光のつるぎだ〕


〔キ……キィィィィィィィィィヤァァァァァァァァァ!!〕


 カヤ・ビラキが突如として叫びを上げた。

〔な……何なんだ、一体!?〕
〔あああ貴方様があの伝説の聖剣、イットー・リョーダン様なのですか!?〕
〔う、うむ……まぁ、そうだが……〕
〔ヒャッホォォォォォウ!! ヤッバイ……超ヤッバイ!! わ……私、伝説の聖剣である貴方様にずっと憧れを抱いておりました!! そ、そのお方が私の目の前に……フゥゥゥゥゥ!! つ、鍔迫つばぜり合いしてもらっても良いですか!? ダメなら結婚でも……〕
〔い、いや……〕
「ちょっと、カヤ!?」

 愛刀の今まで見た事の無い異常なテンションに持ち主のミトも慌てた。

〔ハァ……ハァ……姫様……私、今日ほど自分が剣で良かったと思った事はありません。人間だったら致死量の鼻血吹き出してますコレ!!〕
「いや、そんな事言われても……」
〔と、言うか……姫様もどうしてわたくしのイットー・リョーダン様がいる事を先に教えてくれなかったのですか!!〕
〔わ、私の……?〕

 もはや当初の瀟洒しょうしゃさの、しの字も見当たらない。暴走するカヤ・ビラキにドン引するイットー・リョーダンに対し、武光はニヤニヤしながら言った。

「くくく……モテモテやな、イットー? よっ、色男!!」
〔じょ、冗談じゃない……んん? オイ、武光、あの剣から何か出てるぞ!!〕

 カヤ・ビラキの刀身からモクモクと湯気が立ち上っている。

〔ハァ……ハァ……か、刀身とうしんが……あ、熱い……〕

 湯気の量が凄まじい勢いでどんどん増えてゆく。

「わーっ!? ちょっ、ミト、お前何とかせぇや!!」
「む、無理です!! こんなの初めてですし……イットー・リョーダン!!」
〔わ、我か!? ナ、ナジミ!!〕
「み、皆さん落ち着いて下さい!! こういう時こそ心を落ち着け、目を閉じて……って言うか皆さん何処ですかー!?」

 カヤ・ビラキの刀身から吹き出している湯気は、もはや白煙と化して武光達の視界を奪う程になっていた。

 ……その日、武光達の宿泊している宿屋は『一階の部屋から煙が出ている!!』と、大騒ぎになり、武光達は宿屋の主人に平謝りする羽目になった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 前作、『斬られ役、異世界を征く!!』から三年……復興が進むアナザワルド王国に邪悪なる『影』が迫る。  新たな脅威に、帰ってきたあの男が再び立ち上がる!!  前作に2倍のジャンプと3倍の回転を加えて綴る、4億2000万パワー超すっとこファンタジー、ここに開幕!! *この作品は『斬られ役、異世界を征く!!』の続編となっております。  前作を読んで頂いていなくても楽しんで頂けるような作品を目指して頑張りますが、前作を読んで頂けるとより楽しんで頂けるかと思いますので、良かったら前作も読んでみて下さいませ。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています

テツみン
ファンタジー
 二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。  七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。  しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……  なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。  当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。  そこは都市国家連合。異世界だったのだ!  彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。  彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……  ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。 *60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。  『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...