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復活の聖剣編

姫、決断する

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 26ー①

 参道を登ってきたダントは、武光とナジミの所へやってきた。

「唐観さん、ジャイナは……ジャイナ=バトリッチは何処どこです!?」
「えっと……あっちです」

 武光が指差した先では、ミトがアクダの顔に嬉々として落書きしている。ダントは武光達に一礼すると、足早あしばやにミトに近付き、背後から声をかけた。

「……姫様」

 振り返ったミトは、『ゲェーッ!?』などという、王家の姫君ひめぎみにあるまじき声を出した。

「ようやく見つけましたよ!! さぁ、すみやかにアナザワルド城にお戻り下さい!!」
「ひ、人違いです。私はエツィゴの街の縮緬問屋ちりめんどんやの娘で……」
「アホですか貴女は!!」
「アホ!? ダント=バトリッチ……たかが一介いっかいの監査武官が、王家の姫に対しなんて無礼な!!」
「やはり姫様ではないですか……」
「あっ……し、しまった。やるわね、ダント……と言うか、私の影武者作戦はどうしたのです!?」

 ダントはがっくりと肩を落とし、深い溜息ためいきいた。

「あんなもの、姫様が城を出た三日後にはバレてましたよ!!」
「私は国王陛下より、姫様を城にお戻しするよう特命を受けています。とにかく城にお戻り下さい!!」
「姫様、オトンも心配してるやろうし、帰った方がええんとちゃいますか?」
「そうですよ、国王様もきっと御心みこころを痛めておいでですよ?」
「嫌です!!」

 ダントの所にやって来た武光達も説得に加わったが、ミトはがんとして首を縦に振らない。

「では、城に戻る気は無いと!?」
「絶対に戻りませんっ!!」
「どうしてもですか!?」
「どうしてもですっ!!」

 ダントは再びがっくりと肩を落とし、深い深い溜息ためいきいた。

「……やはり、陛下のおおせの通りですね」

 そう言うと、ダントは背中に背負っていた細長い木の箱をミトに差し出した。

「これは……?」

 ミトは、箱を開けた。中に納められていたのは、つば柄頭つかがしらの部分に豪華な宝石の散りばめられた一振りのつるぎだった。

「これは……私のつるぎ!!」
「国王陛下はおおせられておりました。『あのむすめは我が子らの中で最もわし気性きしょうの荒い部分を受け継いでしまった。城に戻れと言ってもがんとして言う事を聞くまい』と」

 流石さすがお父ちゃんや、娘の事よう見てるわ、と武光は感心した。

「そして、これは陛下から姫様へのお言葉です。『どうしても魔王討伐に加わると言うのであれば、この《宝剣カヤ・ビラキ》を持って行くがよい……但し、魔王討伐に加わる以上、王家の一員ではなく一人の兵士として扱い、魔王を討伐するまではダイ・カイトへの帰還を禁ずる!!』……と。姫様どうか……どうか、城にお戻り下さい!!」

 国王の言葉を伝えたダントは、深々と頭を下げた。

 国王ジョージ=アナザワルド3世はその厳格さと威圧感から多くの者に恐れられてはいるが、ミトのワガママに振り回されたとは言え、吹けば飛ぶような民草たみくさに過ぎない自分達兄妹に深く謝罪されるなど、決して厳格なだけのおかたではないという事をダントは知った。

 ダントが必死に頭を下げているのは、国王直々の特命だからというだけではない、国王からの言葉を預かった時に、厳しい言葉の裏の『頼むから戻って来て欲しい』という痛切な願いを感じ取ったからだ。

 ミトは、しばらく考えた後、宝剣カヤ・ビラキを手に取った。

「ダント、お父様にお伝えしなさい。『お心遣こころづかい感謝致します。それでも……私は行きます!!』と」
「そうですか……決意は固いのですね。そういう事であれば、唐観さんとナジミさん……貴方達にお渡しするものがあります」

 そう言ってダントは、武光とナジミに一枚ずつ紙を渡した。


「ええと、何すかコレ? ……《友人御免状ゆうじんごめんじょう》?」


 二人が受け取った紙には、『ミトに対し、臣下の礼を取る事無く、対等に振る舞う事を許す』という文章が、国王ジョージアナザワルド3世の署名で書かれてあった。簡単に言えば、『姫やからって特別扱いせんでもええで、仲良くしたってな!!』というむねの書状である。

 ただし、武光が渡された方の紙には、『ウチの娘にちょっかい出したら、草の根分けても探し出し、地の果てまで追いかけてぶっ殺す!!』というむねの一文も書かれていたが。

 武光は、渡された友人御免状をしまうと、ミトに頭を下げた。

「じゃあ改めて……よろしくお願い致します、姫様!!」
「……名前」
「……はい?」
「貴方はお父様から私と対等に振る舞うように命じられたはずです。だから……その……な、名前で呼びなさいっ!!」
「いや、御免状って別にそういう事じゃな──」
「つべこべ言わない!! 処刑するわよ!!」
「ええっと……じゃあ、よろしく頼むな……ミト!!」
「~~~~~~っ!!」

 武光は笑顔でミトに言ったが、ミトは武光を両手で勢い良く突き飛ばし、凄い勢いで山を駆け下りて行ってしまった。

「な……何でなん!? 何で今俺突き飛ばされたん!?」
「さ、さぁ……姫様、顔が真っ赤でしたけど……」
「と、とにかく……セイ・サンゼンに戻るか。ちょっとやりたいも事あるし……」
「そうですね。武光様の怪我の治療もしないと」

 風の神から力を分けてもらった武光とナジミは、ダントと共にイクロ山《さん》から下山した。
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