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第二回・殴り込み編
天驚魔刃団、斬り込む
しおりを挟む131-①
敵の数……およそ三百体。
押し寄せる影魔獣の群れは、まるで真っ黒な津波のようだった。
「よし……行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
影光の雄叫びと共に、天驚魔刃団は一丸となって敵の軍勢に向けて走り出した。
敵軍の先頭との距離がグングンと縮まる。敵の前衛は右腕が突撃槍状になった《槍影兵》をズラリと並べて槍衾を組んでいる。
「蹴散らせ、レムのすけ!!」
「グォォォォォッ!!」
影光の号令でレムのすけが両手に握った《風月》を振り上げた。風月は影光が考案した対影魔獣用武器で、厚さ約20cm・大きさは畳一畳ほどもある巨大な金属板に棒状の柄を取り付けた物で、使い方は至って簡単である。
シンプルに、叩き潰す!!
振り下ろされた風月の圧倒的な重量と、レムのすけの怪力によって、槍影兵はペシャンコに押し潰され、核を粉々に粉砕された。単純だが、怪力を誇るレムのすけだからこそ扱える武器である。
ちなみに、『風月』という名は、考案者の影光が、その見た目からお好み焼きを食べる時のコテを連想し、(武光が)普段よく行くお好み焼き屋の店名を冠したのだ。
めちゃくちゃ余談だが、影光(=武光)が好きなメニューは牛すじねぎ月見玉である。
「遅れるなよ、猫娘ッッッ!!」
「うるさい!! アンタには絶対に負けーーーん!!」
レムのすけがこじ開けた突破口にガロウとフォルトゥナが勢い良く飛び込み、敵の隊列をかき乱す。
「フンッッッ!! ガゥッ!! グルァァァァァッッッ!! 猫娘、右脇腹!!」
「い、言われなくても分かってたし!! ウゥゥゥ……ガォォォォォッ!!」
ガロウは魔狼族自慢の優れた嗅覚で影魔獣の核の匂いを嗅ぎ分け、鋭い爪牙で次々と影魔獣を屠り、フォルトゥナもガロウにフォローされながら、なんとか敵を倒してゆく。
そんなガロウ達を横目にヨミは艶かしいポーズを取って、竜人達に妖艶に微笑みかけた。
「ねぇ、ドルォータ、シンジャー、ネッツレッツ……私の為に……死力を尽くして戦ってくれるわよね?」
「「「もっ……萌ェェェェェェェェェッッッ!!」」」
感情の昂りによって、竜人三人組は、全身の筋肉が膨れ上がり、爪牙は鋭さを増し、全身が強固な鱗に覆われた。
竜人族の持つ戦闘形態変化能力……《竜身化》である。
「ドルォータさんとシンジャーさんはガロウさんとフォルトゥナさんが囲まれないように二人の背後を守って下さい!!」
「お任せあれキサイ氏!!」
「承知した!!」
「ネッツレッツさんはレムのすけさんの援護を‼」
「うむ!! ヨミ様……我らの活躍、ご照覧あれ!!」
キサイの指示を受け、竜身化した三人はそれぞれガロウ達の援護に回った。
「ねぇガリ鬼……さっきの……毎回やらなきゃダメ?」
「やって下さいよ、減るもんじゃなし!! それよりもヨミさんは──」
キサイが指示を出す前に、ヨミは翼を羽ばたかせ、ふわりと飛び上がった。
「フフ……私に読心能力がある事忘れてない? 私はいいから他の連中に指示を出してやりなさい」
「わかりました、頼みます!!」
ヨミは漆黒の翼を広げると、ガロウ達と交戦中の部隊の後方からガロウ達を狙っていた《弩影兵》の群れに向かって、矢のような勢いで飛翔した。
「アハハ……遅い遅い♪」
弩影兵が弩状になった右腕から放つ矢を、ヨミは易々と回避し、弩影兵部隊の中央に突入した。ヨミは片刃の短刀を取り出し、次々と弩影兵の核を刺し貫き、消滅させてゆく。
ヨミは、レムのすけのような超怪力も、ガロウのような超嗅覚も持ち合わせてはいなかったが、自身が持つ《読心能力》を駆使して、影魔獣の核の位置を察知していた。
相手の殺意が生じている場所……そこに、影魔獣の核はある。
およそ三十分が経過した。天驚魔刃団は敵陣の中央部にまで斬り込んだものの、連戦に次ぐ連戦に、疲労の色が見え始め、突撃の勢いが弱まりつつあった。未だに目標は姿を現さない。
影光も疲労の色が隠せなくなってきたが、足を止めたが最期、敵の群れに押し包まれて全滅させられる。影光は敵陣後方を見据えた。
(……ここから届くか? いや、役者の意地に賭けて届かせる!!)
影光は背筋を伸ばすと、ゆっくりと息を吐き出し、鼻から息を吸った。横隔膜を下げる事で胸腔を広げ、目一杯空気を吸い込む……いわゆる腹式呼吸という奴だ。
影光は 腹の底から さけんだ!!
「遠からん者は音にも聞けッッッ!! 近くば寄って目にも見よ!! 俺の名は……唐観武光ッッッ!! 日ノ本一の傾奇者だーーーーーっ!!」
……その声は、むやみに荒々しく、やたらと大きく、しかしながらよく通った。
(どうだ、届いたか……って、うおおおおおっ!?)
影光の渾身の叫びが戦場に響き渡った直後、影光達の頭上から、無数の火球が降り注いだ。
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