92 / 282
双竜塞編
斬られ役(影)、見抜かれる
しおりを挟む92-①
「ま、まさちゃぁぁぁぁぁん!! 待ってぇぇぇぇぇ!!」
「し……しつけぇぞコノヤロー!!」
こっ恥ずかしさのあまり、姫の間を飛び出した影光は、オサナに追いかけ回されていた。
「はぁ……はぁ……ま、待って……ぎゃんっ!?」
「お、おい……大丈夫か……?」
オサナが派手にすっ転んだ。転倒したオサナは廊下に突っ伏したままピクリともしない。
影光は遠くから声をかけたが……へんじがない。まるで しかばねのようだ。
「オサナ……? おい、オサナ!?」
どこか変な場所でも打ったのだろうか、心配になった影光がオサナに近付いたその時……
“ガシィッ!!”
「何ぃっ!?」
オサナが素早く体を反転させ、両脚で影光の胴体を挟みこんだ!!
「フッフッフ……かかったな愚か者め!! 飛騨の山中に籠る事十余年、編み出したるこの技名付けてカニバサミ!! もがけばもがくほど身体に食い込むわ!! どうや、動けるもんなら、動いて──」
影光はカニバサミされたまま立ち上がり、オサナをズリズリと引きずった。
「熱っつ!? ま、摩擦がっ!? こ、後頭部が……熱い熱い熱いハゲるハゲるハゲる!!」
あまりの熱さにオサナはカニバサミを解いた。床に転がって悶絶するオサナを見下ろしながら、影光が呟く。
「忘れてたぜ……子供の頃、お前が吉◯新喜劇の大ファンだったって事を……めだか師匠のギャグで来るとは小癪な真似を……」
「うぅ……酷いわまさちゃん、婚約者に……」
「だーかーらー!! 俺はお前の婚約者なんかじゃないっつってんだろうが!! 良いか、これ以上俺に……構うな、近づくな、つきまとうな!!」
「……何でそんなにウチの事を遠ざけようとするん?」
「…………」
オサナの問いかけに対し、影光は一言も発しなかった。
「…………本物のまさちゃんとちゃうから?」
「……ッ!? お前……気付いてたのか」
「……うん」
「いつからだ……」
「一目見た時から……かな。ウチも巫女として厳しい修行を積んできたから、色んなモンが見えたり聞こえたりすんねん。神様の姿とか、霊魂の声とか……あと、ウチの記憶にはほとんど残れへんけど、霊力が強すぎて、《サクシャ》とかいう『何かヤバい奴』と繋がってる事もあるらしいわ。ま……とにかく、気配が人間やなかったから……」
少しの間の後、影光は絞り出すように呟いた。
「お前の言う通り、俺は……アイツの記憶と人格をコピーされた影魔獣だ……だから、お前の好意には応えられない……すまん」
「関係……あるかーーーーーっ!!」
オサナの叫びに、影光はたじろいだ。
「う、うるせーな!! 何だよ突然!?」
「ふふ……まさちゃん覚えてる? 今の……まさちゃんに『何でアイツらにいじめられてるんや?』って聞かれて、『ウチ、ニンゲンとちゃうから……』って答えた時に、まさちゃんが言ってくれたんやで」
「……そんな事あったか?」
「あったあった!! 『オサナはええ奴や、泣かす奴は俺がゆるさん!!』って、いじめっこに喧嘩売りに行って……ボッコボコの鼻血ブーで戻って来たけど……ぶふっ」
「いや、だから思い出し笑いすんじゃねーよ!?」
「ごめんごめん。でも、本物とかニセモンとか関係あらへん、本物と同じ記憶と人格を持ってるんやったら、それはやっぱりまさちゃんやわ。身体が影魔獣でも、魂が本物と一緒やったからウチは──」
「それでも……俺はニセモノだ!!」
それを聞いたオサナは、しばらく考えた後、ポンと手を打った。
「よし!! じゃあ、こうしよう……影光っちゃんは……『2号』やねんっっっ!!」
「はぁ……2号!? 何だそりゃ!?」
「影光っちゃんはな、まさちゃんのニセモンなんかやなくて、まさちゃん2号やねん。シ◯ッカーライダーと仮◯ライダー2号は見た目が似てても全然違うやろ?」
仮◯ライダー2号のポーズをとりながら、(私、良い事言った!!)感満載のドヤ顔をしているオサナを見て、影光は思わず笑ってしまった……そう言えば子供の頃、二人でよく仮◯ライダーのビデオを見て、ラ◯ダーごっこしたっけか。
何だか上手く丸め込まれようとしている気もするが……悪い気はしない。
「ふっ、2号か……考えといてやるよ」
そう言って笑った影光に対し、オサナは影光に顔を近づけて怪訝な表情をした。
「んんーーー?」
「な、何だよ……」
「なー、その喋り方ワザとやろ? ニセモンって言われたくなくて……『アイツとは別人感』を出す為にやってるやろー」
「……うっ」
「正直言うて……全ッッッ然似合ってへんで」
「え……嘘やん」
「嘘ちゃうよ、違和感しかあらへん」
「いや、そんなん言われても……今更話し方元に戻すんも気恥ずかしいしやな……」
「じゃあ、ウチと二人だけの時は普通に話してや。何か……その喋り方はしっくりけぇへんわ、キショイ」
「おまっ!?」
「まっ、積もる話もあるし、立ち話もなんやからウチの部屋で話そ?」
「お……おう」
影光がオサナの後に付いて歩き出そうとしたその時だった。
「み、見つけたぞーーーーー!!」
ゲンヨウが物凄い勢いで走って来た。
「どうしたジイさん、そんなに血相変えて……」
「お、思い出したぞ……お主、私と共にお嬢様の御前まできてもらおうか!!」
「えっ!? ちょっ、待てってジイさん……おわーーーーー!?」
「か、影光っちゃーーーーーん!?」
オサナが止める間も無く、影光はゲンヨウに連れ去られてしまった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
家に帰りたい狩りゲー転移
roos
ファンタジー
リョーホは冴えない帰宅部の高校生。取柄といえば、全世界で有名なハンティングゲーム『シンビオワールド』をそれなりに極めたことぐらいだった。
平穏な日々を送っていたある日、目が覚めたらリョーホはドラゴンに食われかけていた。謎の女性に助けられた後、リョーホは狩人のエトロと出会い、自分が異世界転移したことに気づく。
そこは『シンビオワールド』と同じく、ドラゴンが闊歩し、毒素に対抗するために菌糸を兼ね備えた人類が生きる異世界だった。
リョーホは過酷な異世界から日本へ帰るべく、狩人となってドラゴンとの戦いに身を投じていく。なんの能力も持たないと思われていたリョーホだったが、実は本人も知らぬうちにとてつもない秘密を抱えていた。
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「話が違う!!」
思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。
「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」
全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。
異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!
と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?
放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。
あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?
これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。
【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません
(ネタバレになるので詳細は伏せます)
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載
2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品)
2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品
2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる