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両雄邂逅編

少年、吼える

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 57-①

「シルエッタ……お前……!!」

 武光達はシルエッタをにらみつけた。

「何でや……何でこの人を殺した……!!」

 怒りのこもった武光の問いに対し、シルエッタは男の死体にチラリと視線をやると、穏やかな微笑を浮かべたまま答えた。

「何故って……不要になったからですよ」

 シルエッタが右のてのひらを上に向けると、男の背中に刺さっていた操影刀が、黒い蟲へと姿を変えてシルエッタの元へ飛んで行き、再び小刀に形を変えて、シルエッタの掌に収まった。

「そこの男が持っていた刀鍛冶としての知識と技術は、この黒蟲達が読み取りました。この操影刀を使えば、そこの男の知識と技術を受け継いだ影魔獣を生み出す事が出来ます……もはや、そこの男に価値はありません」

 相変わらず、人を人とも思わないシルエッタに、武光達……特に、過去にシルエッタに利用されていたフリードは怒りを露わにした。

「アンタは……アンタは人を何だと思ってるんだっっっ!!」
「その髪の色……貴方は……ええと、誰だったかしら?」
「なっ!?」
「……ごめんなさいね、逃げ出した実験動物の名前なんていちいち覚えていられないの」

「お前……っ!! お前ぇぇぇぇぇっ!!」

 激昂げきこうしたフリードが、シルエッタに殴りかかった。
 フリードの拳を躱したシルエッタはフリードに問うた。

「この気配は……まさか貴方、自分の肉体に影魔獣を宿したというのですか?」
「うおあああああっ!!」

 シルエッタは再び殴りかかってきたフリードの拳を躱した。
 拳を大きく空振りし、前につんのめって転倒したフリードを見下ろしながら、シルエッタは告げた。

「ふふ……馬鹿な事をしましたね。そんな事をすれば影魔獣に生命を吸われて死ぬしかないというのに」
「うぐぐ……何だ……力が入らない……?」

 フリードは立ち上がろうとしたが、そのままバタンと倒れてしまった。倒れたフリードに武光が慌てて駆け寄る。

「だ、大丈夫かフリード!?」
「だ、ダメだ……腹が減って仕方ないよ……助けて……アニキ……」
「ふふふ……激しい怒りによって体内の影魔獣が急激に活性化したようね? もうすぐ貴方は体内の影魔獣に命を吸い尽くされて……死ぬわ」
「くっ、シルエッタ……フリードを助ける方法を教えろコラァ!!」

 苦しむフリードを見た武光はイットー・リョーダンを抜刀し、切っ先をシルエッタに向けたが、シルエッタは、余裕の笑みを崩さない。

「ふふふ……良いでしょう。吸命剣と引き換えです。そこの男の代わりはいくらでも生み出せますが、吸命剣の代わりはありませんからね」

 男の屍にチラリと視線をやりながら、シルエッタは微笑んだ。
 妖月をシルエッタに渡してしまったら、間違いなく、今より多くの操影刀が造られ、暗黒教団による被害が広がってしまう。多くの人を救う為には、吸命剣を渡さないのが正しい。
 だが……正しいからと言って、武光は目の前で苦しんでいる弟分を見捨てられるような男ではなかった。

「くっ…………持ってけ」
「ふふ……賢明な判断です」

 武光は、苦々しい表情で、押収した吸命剣・妖月を差し出したが…… 

「だ……ダメだ、渡しちゃダメだ!!」
「フリード!?」

 フリードは渾身の力を振り絞って立ち上がると、武光の手から妖月を奪い取り、そのまま鞘から抜き放ってシルエッタに襲い掛かった。

「し……シルエッタァァァァァ!!」

 フリードはシルエッタ目掛けて、左手に握った妖月を突き出したが……

「ふふ……」

 シルエッタの足元の影から、人型影魔獣が飛び出し、シルエッタの盾となってフリードの攻撃を防いだ。妖月の刀身は影魔獣の腹部に深々と突き刺さったものの、シルエッタには届かなかった。

「……つくづく愚かね。無理に動いたりしなければ、あと数十秒くらいは生き永らえたもの──」
「う…………うおおおおおっ!!」 
「なっ!?」

  フリードが、右の拳で影魔獣を思いっきり殴り飛ばした。

 虫の息だったはずのフリードの一撃を目の当たりにした武光とナジミは唖然とし、シルエッタの顔からは微笑みが消えた。

 影魔獣を殴り飛ばしたフリードの拳は、ペンキの缶にブチ込んだかのように真っ黒に染まっていた。

「貴方のどこにそんな力が……!? 間違いなく貴方は影魔獣に命を吸い尽くされて死ぬ寸前だったはず!!」

 フリードは重心を低くすると、左手を前に突き出し、右拳を振り上げて構えた。

「はあっ……はあっ……そんなこと……俺が知るかッッッ!! 覚悟しろよ……シルエッタァァァァァッ!!」

 “グオアアアアアッッッ!!”

 フリードと……黒王の頭部へと変貌した彼の右拳が雄叫びを上げた。

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