119 / 123
一年1学期の終業式
しおりを挟む7月下旬の最初の日は青龍大学の高等部の終業式である。
青龍大学は異能力者養成機関なだけあり、夏休みの宿題などはない。
まあ、青夜を始めとした生徒達には『宿題が無くて有り難い』などという感情はない。
何故ならば夏休みは式典だらけ。
その上、幽霊が活性する期間。
異能力がある分、やる事だらけで遊ぶ時間など余りないのだから。
『寧ろ、宿題や課題があった方が、それを理由に家業を休めてラッキーなのに』
『初等部から思ってたが青龍大学は学生の事を何も考えていない』
そう生徒達は思ったのだった。
体育館内で行われた終業式では新たな高等部長の近藤政子という43歳、身長164センチ(+ハイヒール)、パーマを掛けた黒髪ロングに知的な眼差しで、泣きボクロが左眼の横にある妙に色気ムンムンのスーツとタイトスカートと黒ストッキング姿の、大手企業の女常務タイプが壇上から、
『明日からは夏休みですが、青龍大学の高等部の一員として自覚のある行動を・・・』
有り難いお言葉を長々と喋っていた訳だが、整列する中、三宝兎が、
「青夜、マジで招待してくれるんだよな、日本国内にある南国の島に?」
「もちろん」
「今日神奈川県に帰って長に了解を貰ったら速攻で向かうから横浜のヨットハーバーに水上機を用意しておいてくれよな」
浮かれている三宝兎の顔を見ながら青夜が、
「ギン様に一応言っておくけど」
「何?」
「ヘリやセスナは墜落するものだからな」
「青夜、縁起でもない事言うなよ」
「いや、マジだって。オレ、何回墜落した事があると思ってるんだよ」
「・・・何回なんだ?」
「8回」
嫌そうな顔をした三宝兎が、
「青夜は別の水上機で行けよ」
「オレは自家用フェリーで向かうからいいよ」
「フェリー? 船の事だよな? 船は沈まないのか?」
「海は沈んでも岸まで泳げるからね」
「泳げない設定はどこにいったんだ、青夜?」
「ああ、そんな設定もあったなぁ~」
青夜達は喋りながら終業式の高等部長の話を聞いたのだった。
終業式は8月に催される全国高等学校異能力選手権大会、ーー通称、インターハイ(異能)の壮行会も兼ねている。
十二傑生徒会執行部の全員が壇上に並び、高等部長の政子が、
『8月の上旬にある全国高等学校異能力選手権大会に出場する青龍大学高等部の代表選手達に拍手を』
との音頭で疎らな拍手がされる中、
「優勝お願いしますね、島津先輩っ!」
悪ノリした青夜が声援を送り、
「はいはい」
茨は軽く手を挙げて適当にあしらったが、
「オレ達の代表なんですから勝ち星を売って小遣い稼ぎしないで下さいよっ!」
「誰がそんな事するかっ!」
結局は茨も吠えて青夜を睨んだのだった。
◇
その後、終業式が終わって一年以組の教室でも真達羅通春菜が、
「みんな、明日からは夏休みね」
青夜を見ながら言った。
視線を浴びた青夜が『何当たり前の事を言ってるんだ?』ときょとんとしながら、
「? それが?」
「田中、夏休みで一番ムカつく事を言ってみて」
「暑い?」
「ハズレ」
「蝉が五月蠅い?」
「違うわ」
「アイスを食べ過ぎて太る?」
「私が太る訳ないでしょうがっ!」
「じゃあ、家に居ると親や上司が五月蠅い?」
「それもあるけど・・・一番じゃないでしょっ!」
と言ってから、
「一番ムカつく事はね、休み中に学校に生徒の事で呼び出される事よっ!」
ドヤ顔で春菜が正解を言って、青夜も、
「ああ、それは確かにムカつきますね」
「だから絶対に私が呼び出されるような事はしないようにね、みんな。特に田中」
「どうしてオレなんですか? オレほどの真人間は他には居ませんのに」
ぬけぬけと言う青夜に、
「真人間は異能力を隠したりしないわよっ!」
「隠しますよ、情報戦は異能力バトルの前哨戦なんですから」
「・・・・・・ロシア皇帝との面識を隠したりも・・・」
「隠しますよ。まだ直接会ってもいないんですから。確定情報でもないのに周囲に漏らすなんてあり得ませんから」
「ああ言えばこう言う」
と春菜が呆れる中、
「そうだ、春菜センセー」
青夜が思い出したように、
「実は夏休みの頭にオレ達、小笠原諸島に持ってる島に行く予定なんですが・・・・・・」
「東条院が小笠原諸島に持っている島? ああ、志村島ね?」
「ええ。なので、死人が出たらすみません。先に謝っておきますね」
しれっと青夜が言った。
「ちょっと待て。何をやる気なのよ?」
「普通に夏のバカンスを楽しむだけですよ」
「それでどうして死人が出るのよ?」
「東条院所有の無人島と言えば他国の非正規部隊の攻撃じゃないですか?」
「どういう発想よ」
春菜がツッコむ中、三宝兎が、
「そうなの?」
「まあね。志村島って結構襲いやすいから」
青夜が言い、良子が、
「冗談でしょ。ちゃんと警備してよね」
「うん」
青夜が答える中、春菜が、
「ちょっと待ちなさい。以組の全員で行くの?」
「はい」
「どうして私を呼ばないのよ?」
春菜がそう指摘すると、
「東条院所有の島で真達羅通家の人間がキズモノになったら洒落になりませんから」
「生徒達の方がそうよ。関や野々宮なんて特にっ!」
「大丈夫ですって。2人とも強いですから」
「本当に大丈夫なのよね?」
「・・・多分」
「頼むわよ、田中。マジで」
春菜はそう言って1学期最後のホームルームを終えたのだった。
0
お気に入りに追加
2,026
あなたにおすすめの小説
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる