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青刃の北海道でのやらかし、青夜は底が知れない、ロシア皇帝と知り合った経緯
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日本国内にある他国の異能機関が出資してる在日組織を潰す際には『上手く立ち回る』のが基本である。
つまりは事前に裏交渉をして『出来レース』にするのが双方の被害を最小限に抑える賢い抗争のやり方な訳だ。
そんな事は青夜も知っていたし、やり方も知っていた。
昭和の敗戦時には四柱家になっていた東条院だ。
例え、先代がロシア艦隊を沈め(という事になっている)、敵対関係のロシア上層部とも東条院は独自のパイプを当然構築している。
無ければ、日本外務省のパイプを使える事も青夜は知っていた。
外務省がダメなら青夜が隠してる個人のパイプを使えばいい。
最悪、三女のアンジェリカに泣き付くのもテだ。
何が言いたいかと言えば、大人達のように『上手く立ち回ろう』と思えば青夜も出来なくはなかった。
だが青夜はそれを故意にやらなかった。
結果、
貿易会社『スノーディア』を潰された日本国内のロシア派が報復に動こうとして、東条院が先に先制攻撃する形で在日ロシア派の連中と戦争になったのだった。
ロシアは現在、ウクライナに全精力を傾けている。
大国ロシアがEU支援のウクライナに苦戦して泥沼化しており、人員が呼び戻されているのだ。
お陰で日本国内のロシア派などは雑魚ばかり。
そんな訳で、ロシア政府出資の貿易会社『スノーディア』が潰れた休日の夜には、都内でもロシア派の勢力が3つほど潰れたのだった。
青夜はロシアと揉めても何も困っていない。
東条院とロシアの戦争で困ってるのは、他国の異能勢力が国内で暴れないように調整を取っている外務省異能課だった。
◇
都内は何ら問題はない。
問題が起きたのは、日本の最北、北海道だ。
北海道はロシアと上手くやってオイシイ思いをしてる親ロシア派が結構ある。
そして北海道は最北の為、東条院の威光が通じない場所も多い。
どういう事かというと、
東条院の北海道傘下の現職の『蝦夷探題』安藤霊休がロシアの連中に暗殺された、なんて事も起こる訳だ。
東条院として当然、放置などはあり得ない。
直ちに都内から北海道へ遠征となったが、
副宗家で皇軍(吽)の司令官である青夜は動けない。
動くのは東条院分家の地方担当の鵜殿家の当主、青刃と青刃に死なれたら本当に困る四乃森の一党だった。
◇
東条院流青龍拳(中国神話神仙術、北斗派青龍)には明確なランクがある。
『子龍』はゼロ距離戦闘時、青龍の気が拳や蹴りに乗る。
『若龍』は全長50センチ級の青龍の拳圧が放出出来る。距離は7メートル(『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』戦の青刃はアイテムで上乗せ)。
『成龍』は全長2メートル級の青龍の拳圧が放出出来た。距離は49メートル。
『青龍』は全長20メートル級の青龍の拳圧が放出出来た。距離は300メートル。
それに青刃が常にしてる(先代の青蓮に与えられた)左手首の東条院の秘宝『青龍の腕環』の効果が上乗せされると、
7月中旬の祝日の海の日に北海道札幌市の某所で、
「違う違う違う違うっ! オレじゃないっ! オレじゃないからなっ!」
青刃が必死に自分の無実を主張していた。
というのも、
北海道は土地が有り余ってる。
なので、一軒一軒がデカイ。
札幌市の市街地から離れたロシア系のアジトのビルに青龍拳の拳圧を放ったら、全長20メートル級の青龍の拳圧が出て、アジトを軽々と瓦礫と化して、裏にあったもう1軒を吹き飛ばし、更に直線状に進んで横道を跨いでもう1軒を吹き飛ばし、更にその奥の家屋をバキバキバキッと青龍の拳圧が潰してるところだった。
「どう見ても青刃様がやってますから。あれだけ出発前に副宗家が『手加減するんだぞ』と口を酸っぱく言われてましたのに。ってか、あの拳圧消せないんですか?」
バキバキバキッと更に奥の家を潰してるのを見ながら今や副官扱いの陰気な黒マスクの柳原隼人が質問すると、青刃が堂々と、
「七夕の節句の『青龍穴の儀』以降、初めて出したから何とも言えん」
「あのですねぇ~。さすがは御兄弟。嫌というほど血の繋がりが感じられますね」
「待て。今、オレを兄貴と比べたのか、柳原? いくら何でもオレは兄貴ほど酷くは・・・」
青刃が何かを言おうとした時、青龍の拳圧の進行方向にあった距離にして200メートル先のガソリンスタンドが、
ドゴォォォォォォンっ!
と爆発したのだった。
青龍の拳圧がたった今潰した6軒の瓦礫と化した家屋の残骸越しにその爆発を見ながら青刃が、
「・・・ど、どうしよう」
「大丈夫でしょう。これを見れば北海道の連中も震え上がって恭順の意を示すはずですから」
そう言われて何かを思い付いた青刃が兄の青夜とそっくりな顔で、
「これ、最悪、柳原がやったって事でよろしくな」
「何さらっとお兄様みたいな事言ってるんですか、青刃様っ!」
罪をなすりつけられかけた隼人はそうツッコミを入れたのだった。
青刃の活躍によって北海道制圧は夜までに完了したのだった。
◇
7月中旬の祝日の海の日の昼下がり、青夜はアンジェリカとデートをしていた。
アンジェリカはセレブなので無論、普通のデートではない。
青夜はタキシード、アンジェリカは赤のドレスで、イタリア大使館のパーティーに昼間から参加していた。
それも大使館自慢の庭園で。
つまりは野外だ。
7月中旬はもうクソ暑いのに。
まあ、異能力者は異能で温度調整も出来る。
属性が違って出来なくても異能アイテムもあったので余裕な訳だ。
そんな訳で青夜も冷却しており、熱を集める真っ黒なタキシード姿でも汗1つ掻かずに出席していたが・・・
青夜は御存知、異能力が『中国神話青麒麟』だとバレたところだ。
そうでなくても『東条院の落ちこぼれ』だったのに活躍して、皆が注目していた。
そもそも『東条院は落ちこぼれ』は白鳳院令のお気に入り。
国粋主義との噂もある。
東条院の先代が嫡子を(落ちこぼれを理由に)表に出さず、隠していたので殆どの外国人は青夜に会った事がない。
色々と興味津々だった。
そして、パートナーのアンジェリカはブラッディームーン一族。
イタリア大使館でも主賓扱いで周囲に囲まれていた。
「私の義理の弟の青夜よ。もうすぐ夫になるけどね」
わがままアンジェリカが当たり前のように顔見知りの他国の異能外交官達に次々に青夜を紹介し、
「そういう事なので、よろしく」
青夜も平然と挨拶した。
この辺は東条院のお坊ちゃんである。
『落ちこぼれ』は演技だったので、全く物怖じしない。
もう『青麒麟』だとバレてるので堂々どころか王者の風格さえ漂わせていた。
「私はアメリカ大使のアーサー・ソフトンです。ホテル王の一族でもあります。お困りの際はお声をおかけ下さい」
「中国大使のリン・エイオウです。お見知り置きを」
「イギリス大使のライオネス・ホールです。よろしく」
などと挨拶された。
日本であって日本でないのが大使館の敷地内だ。
なので飛び交う言葉も英語やイタリア語だったが、青夜は悲しいかな、喋れた。
英語やイタリア語で挨拶してると、ある人物が庭に姿を現わし、青夜やアンジェリカ並みに視線を集めた。
『おお、出席するか』『まあ、外交の場ですから』と口々に周囲が囁く中、アンジェリカが青夜に、
「誰か分かる?」
「ロシア大使のセントス・ゴルバッハでしょ?」
「何だ。知ってたの?」
つまらなそうにアンジェリカが言う中、青夜がさらっと、
「前に命を狙われて返り討ちにして半殺しにした事があったからね」
「・・・何の話?」
アンジェリカが驚きの余り眼を見開いて青夜を見た時には、セントスが青夜の前にやってきた。
セントスは39歳、198センチ、白金髪のオールバックで精悍な顔付き、体格も体脂肪率が1桁の筋骨隆々だった。
ロシアの異能局出身で、セントス自身、将軍の風格を放つ。
そのセントスが青夜の前で、片膝を地面に付けてナイトが王に平伏するように頭を垂れた。
「お久しぶりでございます、青夜様」
日本語でそう青夜に話しかけ、
「ああ、久しぶり」
セントスの行動が当然かのように青夜は気軽に挨拶したが、隣に居るアンジェリカは当然驚き、同席してイタリア大使館のパーティーの出席者達も当然驚愕した。
この男は頭を下げない事で有名なのだから。
「何やら親父殿の暗殺に噛んでるんだって?」
「いいえ、決して――そうだ。我らが皇帝が青夜様にお話しがあるそうです」
「はん?」
と青夜が不快感を示したが、セントスが素早くスマホを出して、スピーカーフォンにされたスマホから、
『よう、久しぶりだな、東条院の少年』
本当にロシア国を裏から牛耳っているスターマールス帝族の皇帝ゼウスの声が流れてきた。
ロシア人なのだからロシア語だ。
青夜は悲しいかな、ロシア語も理解出来たし、喋れた。
そして、この声は本当に本人の声だった。
よって声だけでも『圧』があり、異能力の弱い者達30人以上が軒並みイタリア大使館の庭園で気絶する中、
「どうも、ゼウス殿」
青夜は流暢なロシア語で返事をした。
『何やらロシアに対して攻撃をしているようだな? 朕が怒らないと本気で思ったのか?』
「そっちが先にオレを怒らせたんでしょうがっ! オレの父親の殺しに関与してっ!」
『邪気玉を日本に運んだだけだろ?』
「それがダメなんだよっ!」
青夜は不機嫌さを爆発させて、セントスが持つスマホを指差しながら、
「そっちだってオレがロシアの反政府勢力に武器を流したらそれだけでブチギレるだろ? それと一緒だっ! いや、もっと悪いっ! こっちはその武器で親父殿が死んでるんだからなっ!」
『・・・ふむ。なるほど。確かにな。もういいだろ。許してくれ』
ロシア語が分かり、会話を聞いていた連中の誰もが『ロシア皇帝のゼウスが『許してくれ』と今確かに言ったぞ』と思った。
(本人だよな?)
(そのはずだ。この『圧』は)
(あの子供、何者だ?)
と気絶しなかった大物達が注目する中、青夜は気軽に、
「見返りは?」
『何が欲しい? 因みに北方4島はやらないぞ』
「なら、オレとブラッディームーン一族のアンジェリカが結婚する際のゼウス殿の祝福。もちろん『心』からの」
『? 結婚するのか? 姉弟だろ?』
「義理のね。その内、系譜を正すさ」
『・・・それで『手打ち』なんだな?』
「待った。北海道で家来がやられた。家来をやった奴を潰してようやく『手打ち』だ。今、弟を送ってるから今日中にケリが付くだろう」
『では、それで』
スマホの通話相手のゼウスが気軽に承諾する中、青夜が確認するように、
「心からの祝福を貰えるので?」
『・・・特別だぞ』
「『特別』、いい言葉の響きだ」
『じゃあな』
「では」
との青夜の返事で通話が切れて、膝を折っていたセントスが立ち上がった。
日本語で、
「我らが皇帝の申し出を受けてくださり、ありがとうございました、青夜様」
「別にいいよ」
と答えてから、周囲を見て、
「おまえ達は今、何も聞かなかった。いいな?」
青夜がさらっと英語で言ったが、アンジェリカが、
「いい訳ないでしょっ! ロシア皇帝とどういう知り合いなの、青夜はっ? あの男は滅多に国外に出ないから私でさえ面識がまだないのにっ? ってか、まずはこの男からよっ! 『半殺しにした』って何の事? どうしてロシアの凄腕を青夜がナイトのように服従させてるのよっ! 全部、教えなさいっ! 今すぐにっ! まさか、青夜が裏でロシアとつるんでいたなんてっ! それを理由に一族から結婚の反対が出たらどうするのよっ!」
と青夜に詰め寄って、
「いやいや、ここで言う訳ないでしょ。また後でね、アン」
「じゃあ、今からパーティーを退席しましょう。絶対に聞くからね」
こうして青夜はアンジェリカに腕を引っ張られるようにしてイタリア大使館のパーティーを出ていき、リムジンカーに乗る破目になった。
◇
青夜がロシアと揉めたのは3年前の中1の夏である。
その年、北海道で先進国の首脳が集まるサミットが開かれて、樺太沖に北海道を襲撃する為に集結していたロシア艦隊が何故か沈没する事故が起きた。
やったのは海流を操った当時の東条院の宗家当主、青蓮という事になってるが、本当にやったのは青夜だ。
まあ、真相はこの際、どうでもいい。
問題は世間的に異能界で発表された方。
つまりは『ロシア艦隊を東条院青蓮が沈めた』という噂だ。
そんな事をされてロシアが黙ってる訳もなく、超精鋭、ぶっちゃければロシア国のトップ5の異能力者の内の2人が東条院の宗家屋敷に送り込まれた。
結果は惨敗。
何せ、東条院貴子の命日に襲撃計画を企てた為に青夜の機嫌を損ねて。
そして、ロシア側は本当にロシア艦隊を沈めた犯人を知る事になる。
中1の青夜だと。
鼻歌混じりに中1の子供がロシア最強の2人を半殺しにして、ロシア語で、
「オレの家来になるなら殺さないけど?」
見下したムカつく笑みを浮かべながら無理な二択を迫ってきた。
愛国主義者の1人が断ってその場で殺されて、もう1人、つまりはセントス・ゴルバッハの方は、
「従います」
と日本語で答えて、
「じゃあ、もう襲ってこないでね。会った時、ナイトのような態度と言葉遣いで接してくれるだけでいいから。別に命令とかは出さないから安心してくれていいよ」
それで本当にセントスは(術で記憶を消される事もなく)解放された為に、東条院青夜の実力が(口止めされなかったセントスによって)ロシア側にモロバレする事となった。
セントスは東条院青蓮の暗殺任務失敗で失脚。
辛うじて降格で済み、日本大使館の大使として残った。
だが、それで終わりではない。
ロシア側は艦隊を沈められているのだ。
何度も何度も暗殺者を青夜に送り付け、そして全員が全滅した。
人員と経費の無駄だと悟り始めたロシア側が、『夢』で当時から『ロシア皇帝』だったゼウス・スターマールスが直接青夜と接触した。
当時24歳、188センチ、長い白金髪で中性的な美貌の王子様で、衣装も王冠にマントと皇帝風の男が、
「おまえがロシア艦隊を沈めた奴か?」
ロシア語だった訳だが、青夜は中1の時点でペラペラだったので、
「凄いな、アンタ。オレの『岩持ちの苦行』の夢を突破したのアンタが初めてだぞ?」
「それはどうも。で、どうしてロシア艦隊を沈めた?」
「あれは父が・・・・・・」
「嘘をつかれるの朕は嫌いなんだが? 本当の事を言え、忘れてやるから」
「マジで忘れてくれるの? オレがやったんだよ。だから許してね」
青夜はさらっと図々しく『忘れる』から『許して』に言葉をすり替えた。
言葉のすり替えに気付いたゼウスが不機嫌そうに、
「・・・どうやって?」
「『日本神話ワタツミ』を持ってるから、それでだよ」
「何だ、それ?」
「海神・・・『日本神話』版のポセイドンかな?」
「そんな情報はなかったが?」
「そりゃあ、隠してるからね」
「だが、日本固有の異能力がロシア領域まで異能力が発動したのはどうしてだ?」
「樺太は元は日本国の領土だったからね。拡大解釈が出来るんだよ」
「・・・なるほど」
「本当の事を教えたから許してね」
「その前に、どうしてロシア艦隊を沈めた?」
「『どうして』って命令されたからだけど?」
キョトンとした顔で青夜は答えた。
「ロシア嫌いとかじゃないのか?」
「別にロシアを好き嫌いで判断した事はないけど?」
「ロシアと言って何を思い付く?」
「ロシア美人かな? またはロシアハーフ美人」
「他には?」
「最近頻繁に送られてくる雑魚の暗殺者がいい加減鬱陶しい、かな?」
「雑魚なのか?」
「うん。最初の2人が一番マシだったよ」
それが中1の青夜の率直な感想で、今の一通りの会話に好感を持ったゼウスが、
「良かろう。但し、友達になってくれ」
「ええぇ~、オッサンよりも美人なお姉さんがいい」
「誰がオッサンだ」
「オレから見たら・・・」
「友達は朕だ。いいな」
「はいはい」
このような会話が夢で本当にされたのだった。
◇
その青夜の話の一部始終をリムジンの車内で黙って聞いていたアンジェリカの第一声は、
「誰も信じないわよ、そんな話・・・」
だったが、
「ロシア艦隊を沈めたのは知ってたけど『中国神話青麒麟』の他に『日本神話ワタツミ』まで持ってたの?」
ジャパンかぶれで『ワタツミ』が何か理解しているアンジェリカが呆れる中、青夜が、
「内緒だよ」
「そして全盛期のゴルバッハを中1で半殺しにして従わせてるって」
「アイツ、それほど強くなかったよ? 多分、アンでもギリ勝てるから」
「・・・あのねぇ~。で、スターマールス帝族のトップ、ロシア皇帝が夢にやってきて友達になったと」
「本人ならね」
「・・・やっぱり誰も信じないわね。あの大使館でのスマホの会談を見ていなければ私でも」
アンジェリカは呆れながら青夜を見たのだった。
つまりは事前に裏交渉をして『出来レース』にするのが双方の被害を最小限に抑える賢い抗争のやり方な訳だ。
そんな事は青夜も知っていたし、やり方も知っていた。
昭和の敗戦時には四柱家になっていた東条院だ。
例え、先代がロシア艦隊を沈め(という事になっている)、敵対関係のロシア上層部とも東条院は独自のパイプを当然構築している。
無ければ、日本外務省のパイプを使える事も青夜は知っていた。
外務省がダメなら青夜が隠してる個人のパイプを使えばいい。
最悪、三女のアンジェリカに泣き付くのもテだ。
何が言いたいかと言えば、大人達のように『上手く立ち回ろう』と思えば青夜も出来なくはなかった。
だが青夜はそれを故意にやらなかった。
結果、
貿易会社『スノーディア』を潰された日本国内のロシア派が報復に動こうとして、東条院が先に先制攻撃する形で在日ロシア派の連中と戦争になったのだった。
ロシアは現在、ウクライナに全精力を傾けている。
大国ロシアがEU支援のウクライナに苦戦して泥沼化しており、人員が呼び戻されているのだ。
お陰で日本国内のロシア派などは雑魚ばかり。
そんな訳で、ロシア政府出資の貿易会社『スノーディア』が潰れた休日の夜には、都内でもロシア派の勢力が3つほど潰れたのだった。
青夜はロシアと揉めても何も困っていない。
東条院とロシアの戦争で困ってるのは、他国の異能勢力が国内で暴れないように調整を取っている外務省異能課だった。
◇
都内は何ら問題はない。
問題が起きたのは、日本の最北、北海道だ。
北海道はロシアと上手くやってオイシイ思いをしてる親ロシア派が結構ある。
そして北海道は最北の為、東条院の威光が通じない場所も多い。
どういう事かというと、
東条院の北海道傘下の現職の『蝦夷探題』安藤霊休がロシアの連中に暗殺された、なんて事も起こる訳だ。
東条院として当然、放置などはあり得ない。
直ちに都内から北海道へ遠征となったが、
副宗家で皇軍(吽)の司令官である青夜は動けない。
動くのは東条院分家の地方担当の鵜殿家の当主、青刃と青刃に死なれたら本当に困る四乃森の一党だった。
◇
東条院流青龍拳(中国神話神仙術、北斗派青龍)には明確なランクがある。
『子龍』はゼロ距離戦闘時、青龍の気が拳や蹴りに乗る。
『若龍』は全長50センチ級の青龍の拳圧が放出出来る。距離は7メートル(『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』戦の青刃はアイテムで上乗せ)。
『成龍』は全長2メートル級の青龍の拳圧が放出出来た。距離は49メートル。
『青龍』は全長20メートル級の青龍の拳圧が放出出来た。距離は300メートル。
それに青刃が常にしてる(先代の青蓮に与えられた)左手首の東条院の秘宝『青龍の腕環』の効果が上乗せされると、
7月中旬の祝日の海の日に北海道札幌市の某所で、
「違う違う違う違うっ! オレじゃないっ! オレじゃないからなっ!」
青刃が必死に自分の無実を主張していた。
というのも、
北海道は土地が有り余ってる。
なので、一軒一軒がデカイ。
札幌市の市街地から離れたロシア系のアジトのビルに青龍拳の拳圧を放ったら、全長20メートル級の青龍の拳圧が出て、アジトを軽々と瓦礫と化して、裏にあったもう1軒を吹き飛ばし、更に直線状に進んで横道を跨いでもう1軒を吹き飛ばし、更にその奥の家屋をバキバキバキッと青龍の拳圧が潰してるところだった。
「どう見ても青刃様がやってますから。あれだけ出発前に副宗家が『手加減するんだぞ』と口を酸っぱく言われてましたのに。ってか、あの拳圧消せないんですか?」
バキバキバキッと更に奥の家を潰してるのを見ながら今や副官扱いの陰気な黒マスクの柳原隼人が質問すると、青刃が堂々と、
「七夕の節句の『青龍穴の儀』以降、初めて出したから何とも言えん」
「あのですねぇ~。さすがは御兄弟。嫌というほど血の繋がりが感じられますね」
「待て。今、オレを兄貴と比べたのか、柳原? いくら何でもオレは兄貴ほど酷くは・・・」
青刃が何かを言おうとした時、青龍の拳圧の進行方向にあった距離にして200メートル先のガソリンスタンドが、
ドゴォォォォォォンっ!
と爆発したのだった。
青龍の拳圧がたった今潰した6軒の瓦礫と化した家屋の残骸越しにその爆発を見ながら青刃が、
「・・・ど、どうしよう」
「大丈夫でしょう。これを見れば北海道の連中も震え上がって恭順の意を示すはずですから」
そう言われて何かを思い付いた青刃が兄の青夜とそっくりな顔で、
「これ、最悪、柳原がやったって事でよろしくな」
「何さらっとお兄様みたいな事言ってるんですか、青刃様っ!」
罪をなすりつけられかけた隼人はそうツッコミを入れたのだった。
青刃の活躍によって北海道制圧は夜までに完了したのだった。
◇
7月中旬の祝日の海の日の昼下がり、青夜はアンジェリカとデートをしていた。
アンジェリカはセレブなので無論、普通のデートではない。
青夜はタキシード、アンジェリカは赤のドレスで、イタリア大使館のパーティーに昼間から参加していた。
それも大使館自慢の庭園で。
つまりは野外だ。
7月中旬はもうクソ暑いのに。
まあ、異能力者は異能で温度調整も出来る。
属性が違って出来なくても異能アイテムもあったので余裕な訳だ。
そんな訳で青夜も冷却しており、熱を集める真っ黒なタキシード姿でも汗1つ掻かずに出席していたが・・・
青夜は御存知、異能力が『中国神話青麒麟』だとバレたところだ。
そうでなくても『東条院の落ちこぼれ』だったのに活躍して、皆が注目していた。
そもそも『東条院は落ちこぼれ』は白鳳院令のお気に入り。
国粋主義との噂もある。
東条院の先代が嫡子を(落ちこぼれを理由に)表に出さず、隠していたので殆どの外国人は青夜に会った事がない。
色々と興味津々だった。
そして、パートナーのアンジェリカはブラッディームーン一族。
イタリア大使館でも主賓扱いで周囲に囲まれていた。
「私の義理の弟の青夜よ。もうすぐ夫になるけどね」
わがままアンジェリカが当たり前のように顔見知りの他国の異能外交官達に次々に青夜を紹介し、
「そういう事なので、よろしく」
青夜も平然と挨拶した。
この辺は東条院のお坊ちゃんである。
『落ちこぼれ』は演技だったので、全く物怖じしない。
もう『青麒麟』だとバレてるので堂々どころか王者の風格さえ漂わせていた。
「私はアメリカ大使のアーサー・ソフトンです。ホテル王の一族でもあります。お困りの際はお声をおかけ下さい」
「中国大使のリン・エイオウです。お見知り置きを」
「イギリス大使のライオネス・ホールです。よろしく」
などと挨拶された。
日本であって日本でないのが大使館の敷地内だ。
なので飛び交う言葉も英語やイタリア語だったが、青夜は悲しいかな、喋れた。
英語やイタリア語で挨拶してると、ある人物が庭に姿を現わし、青夜やアンジェリカ並みに視線を集めた。
『おお、出席するか』『まあ、外交の場ですから』と口々に周囲が囁く中、アンジェリカが青夜に、
「誰か分かる?」
「ロシア大使のセントス・ゴルバッハでしょ?」
「何だ。知ってたの?」
つまらなそうにアンジェリカが言う中、青夜がさらっと、
「前に命を狙われて返り討ちにして半殺しにした事があったからね」
「・・・何の話?」
アンジェリカが驚きの余り眼を見開いて青夜を見た時には、セントスが青夜の前にやってきた。
セントスは39歳、198センチ、白金髪のオールバックで精悍な顔付き、体格も体脂肪率が1桁の筋骨隆々だった。
ロシアの異能局出身で、セントス自身、将軍の風格を放つ。
そのセントスが青夜の前で、片膝を地面に付けてナイトが王に平伏するように頭を垂れた。
「お久しぶりでございます、青夜様」
日本語でそう青夜に話しかけ、
「ああ、久しぶり」
セントスの行動が当然かのように青夜は気軽に挨拶したが、隣に居るアンジェリカは当然驚き、同席してイタリア大使館のパーティーの出席者達も当然驚愕した。
この男は頭を下げない事で有名なのだから。
「何やら親父殿の暗殺に噛んでるんだって?」
「いいえ、決して――そうだ。我らが皇帝が青夜様にお話しがあるそうです」
「はん?」
と青夜が不快感を示したが、セントスが素早くスマホを出して、スピーカーフォンにされたスマホから、
『よう、久しぶりだな、東条院の少年』
本当にロシア国を裏から牛耳っているスターマールス帝族の皇帝ゼウスの声が流れてきた。
ロシア人なのだからロシア語だ。
青夜は悲しいかな、ロシア語も理解出来たし、喋れた。
そして、この声は本当に本人の声だった。
よって声だけでも『圧』があり、異能力の弱い者達30人以上が軒並みイタリア大使館の庭園で気絶する中、
「どうも、ゼウス殿」
青夜は流暢なロシア語で返事をした。
『何やらロシアに対して攻撃をしているようだな? 朕が怒らないと本気で思ったのか?』
「そっちが先にオレを怒らせたんでしょうがっ! オレの父親の殺しに関与してっ!」
『邪気玉を日本に運んだだけだろ?』
「それがダメなんだよっ!」
青夜は不機嫌さを爆発させて、セントスが持つスマホを指差しながら、
「そっちだってオレがロシアの反政府勢力に武器を流したらそれだけでブチギレるだろ? それと一緒だっ! いや、もっと悪いっ! こっちはその武器で親父殿が死んでるんだからなっ!」
『・・・ふむ。なるほど。確かにな。もういいだろ。許してくれ』
ロシア語が分かり、会話を聞いていた連中の誰もが『ロシア皇帝のゼウスが『許してくれ』と今確かに言ったぞ』と思った。
(本人だよな?)
(そのはずだ。この『圧』は)
(あの子供、何者だ?)
と気絶しなかった大物達が注目する中、青夜は気軽に、
「見返りは?」
『何が欲しい? 因みに北方4島はやらないぞ』
「なら、オレとブラッディームーン一族のアンジェリカが結婚する際のゼウス殿の祝福。もちろん『心』からの」
『? 結婚するのか? 姉弟だろ?』
「義理のね。その内、系譜を正すさ」
『・・・それで『手打ち』なんだな?』
「待った。北海道で家来がやられた。家来をやった奴を潰してようやく『手打ち』だ。今、弟を送ってるから今日中にケリが付くだろう」
『では、それで』
スマホの通話相手のゼウスが気軽に承諾する中、青夜が確認するように、
「心からの祝福を貰えるので?」
『・・・特別だぞ』
「『特別』、いい言葉の響きだ」
『じゃあな』
「では」
との青夜の返事で通話が切れて、膝を折っていたセントスが立ち上がった。
日本語で、
「我らが皇帝の申し出を受けてくださり、ありがとうございました、青夜様」
「別にいいよ」
と答えてから、周囲を見て、
「おまえ達は今、何も聞かなかった。いいな?」
青夜がさらっと英語で言ったが、アンジェリカが、
「いい訳ないでしょっ! ロシア皇帝とどういう知り合いなの、青夜はっ? あの男は滅多に国外に出ないから私でさえ面識がまだないのにっ? ってか、まずはこの男からよっ! 『半殺しにした』って何の事? どうしてロシアの凄腕を青夜がナイトのように服従させてるのよっ! 全部、教えなさいっ! 今すぐにっ! まさか、青夜が裏でロシアとつるんでいたなんてっ! それを理由に一族から結婚の反対が出たらどうするのよっ!」
と青夜に詰め寄って、
「いやいや、ここで言う訳ないでしょ。また後でね、アン」
「じゃあ、今からパーティーを退席しましょう。絶対に聞くからね」
こうして青夜はアンジェリカに腕を引っ張られるようにしてイタリア大使館のパーティーを出ていき、リムジンカーに乗る破目になった。
◇
青夜がロシアと揉めたのは3年前の中1の夏である。
その年、北海道で先進国の首脳が集まるサミットが開かれて、樺太沖に北海道を襲撃する為に集結していたロシア艦隊が何故か沈没する事故が起きた。
やったのは海流を操った当時の東条院の宗家当主、青蓮という事になってるが、本当にやったのは青夜だ。
まあ、真相はこの際、どうでもいい。
問題は世間的に異能界で発表された方。
つまりは『ロシア艦隊を東条院青蓮が沈めた』という噂だ。
そんな事をされてロシアが黙ってる訳もなく、超精鋭、ぶっちゃければロシア国のトップ5の異能力者の内の2人が東条院の宗家屋敷に送り込まれた。
結果は惨敗。
何せ、東条院貴子の命日に襲撃計画を企てた為に青夜の機嫌を損ねて。
そして、ロシア側は本当にロシア艦隊を沈めた犯人を知る事になる。
中1の青夜だと。
鼻歌混じりに中1の子供がロシア最強の2人を半殺しにして、ロシア語で、
「オレの家来になるなら殺さないけど?」
見下したムカつく笑みを浮かべながら無理な二択を迫ってきた。
愛国主義者の1人が断ってその場で殺されて、もう1人、つまりはセントス・ゴルバッハの方は、
「従います」
と日本語で答えて、
「じゃあ、もう襲ってこないでね。会った時、ナイトのような態度と言葉遣いで接してくれるだけでいいから。別に命令とかは出さないから安心してくれていいよ」
それで本当にセントスは(術で記憶を消される事もなく)解放された為に、東条院青夜の実力が(口止めされなかったセントスによって)ロシア側にモロバレする事となった。
セントスは東条院青蓮の暗殺任務失敗で失脚。
辛うじて降格で済み、日本大使館の大使として残った。
だが、それで終わりではない。
ロシア側は艦隊を沈められているのだ。
何度も何度も暗殺者を青夜に送り付け、そして全員が全滅した。
人員と経費の無駄だと悟り始めたロシア側が、『夢』で当時から『ロシア皇帝』だったゼウス・スターマールスが直接青夜と接触した。
当時24歳、188センチ、長い白金髪で中性的な美貌の王子様で、衣装も王冠にマントと皇帝風の男が、
「おまえがロシア艦隊を沈めた奴か?」
ロシア語だった訳だが、青夜は中1の時点でペラペラだったので、
「凄いな、アンタ。オレの『岩持ちの苦行』の夢を突破したのアンタが初めてだぞ?」
「それはどうも。で、どうしてロシア艦隊を沈めた?」
「あれは父が・・・・・・」
「嘘をつかれるの朕は嫌いなんだが? 本当の事を言え、忘れてやるから」
「マジで忘れてくれるの? オレがやったんだよ。だから許してね」
青夜はさらっと図々しく『忘れる』から『許して』に言葉をすり替えた。
言葉のすり替えに気付いたゼウスが不機嫌そうに、
「・・・どうやって?」
「『日本神話ワタツミ』を持ってるから、それでだよ」
「何だ、それ?」
「海神・・・『日本神話』版のポセイドンかな?」
「そんな情報はなかったが?」
「そりゃあ、隠してるからね」
「だが、日本固有の異能力がロシア領域まで異能力が発動したのはどうしてだ?」
「樺太は元は日本国の領土だったからね。拡大解釈が出来るんだよ」
「・・・なるほど」
「本当の事を教えたから許してね」
「その前に、どうしてロシア艦隊を沈めた?」
「『どうして』って命令されたからだけど?」
キョトンとした顔で青夜は答えた。
「ロシア嫌いとかじゃないのか?」
「別にロシアを好き嫌いで判断した事はないけど?」
「ロシアと言って何を思い付く?」
「ロシア美人かな? またはロシアハーフ美人」
「他には?」
「最近頻繁に送られてくる雑魚の暗殺者がいい加減鬱陶しい、かな?」
「雑魚なのか?」
「うん。最初の2人が一番マシだったよ」
それが中1の青夜の率直な感想で、今の一通りの会話に好感を持ったゼウスが、
「良かろう。但し、友達になってくれ」
「ええぇ~、オッサンよりも美人なお姉さんがいい」
「誰がオッサンだ」
「オレから見たら・・・」
「友達は朕だ。いいな」
「はいはい」
このような会話が夢で本当にされたのだった。
◇
その青夜の話の一部始終をリムジンの車内で黙って聞いていたアンジェリカの第一声は、
「誰も信じないわよ、そんな話・・・」
だったが、
「ロシア艦隊を沈めたのは知ってたけど『中国神話青麒麟』の他に『日本神話ワタツミ』まで持ってたの?」
ジャパンかぶれで『ワタツミ』が何か理解しているアンジェリカが呆れる中、青夜が、
「内緒だよ」
「そして全盛期のゴルバッハを中1で半殺しにして従わせてるって」
「アイツ、それほど強くなかったよ? 多分、アンでもギリ勝てるから」
「・・・あのねぇ~。で、スターマールス帝族のトップ、ロシア皇帝が夢にやってきて友達になったと」
「本人ならね」
「・・・やっぱり誰も信じないわね。あの大使館でのスマホの会談を見ていなければ私でも」
アンジェリカは呆れながら青夜を見たのだった。
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