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三夜鈴の返還、廊下での立ち話、桃切国綱の在処

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 『三夜鈴』。

 別名、『子龍鈴』。

 東条院の秘宝の1つ。

 銀製で、形状は三日月型。子龍の装飾が施されている。

 秘宝というくらいだから当然、強大な霊力を宿す。

 鈴の音色は美しく、その音だけで邪気を祓い、場を清めた。

 霊力は龍脈で補充するタイプで使用制限がある。霊力の補充には『青龍穴』が使われ、『青龍穴』をもってしても補充するのに3夜掛かる事から『三夜鈴』との呼び名が付いていた。





 青龍大学の授業が終わり、青夜は早々に皇居に来ていた。

 学生の正装、青龍大学の肩章付きの青学ラン姿だったが。

 昨日の今日なので用件は想像出来、理由を付けて辞退したかったのだが、呼び出しの用件が『『鈴』が手元に入ったので返却する』なのだから出向かない訳にはいかず、青夜は顔を出していた。

 上座の晴彦の、

「東条院の秘宝『三夜鈴』を返却しよう」

 その言葉で、侍従が盆に布かれた紫布の上に載せられた三夜鈴を運んできた。

 青夜がそれを見て、更に手に取って、

「えっ、まさか本当に本物の東条院うちの『三夜鈴』? 『鈴』って鈴姫の事ではなく『三夜鈴』の事だったのですか? しかし、いったい、どこで、東条院の宗家屋敷の宝物庫に安置されてるはずの三夜鈴これを手に入れられたのです?」

 青夜が名演技で晴彦に尋ねると『知らぬ』と騙された晴彦が言いにくそうに、

「それがな・・・・・・白鳳院君子が持っていてな」

「?」

「東条院法子から貰ったらしい」

「ええっと、死人に口なしとそういう・・・」

 青夜が考えるフリをしてそう問うと、晴彦が、

「いや本当だ。盗んでたのならまだ良かったが、よりにもよって東条院法子当人から貰ったらしい」

「東条院の秘宝を法子さんが白鳳院に譲渡とした、ですか? それも御当主様や代理様ではなく君子様個人に? ますます意味が・・・」

 と呟いた青夜がハッと何かに気付いた演技をして、

「ま、ま、ま、まさか、東条院の『先代落とし』に君子様が・・・」

「違う。白鳳院は一切関知していない。それだけは断言する。変な邪推はしないでくれっ!」

 晴彦がそう否定したのだった。

 青夜は疑うような演技をしながらも、内心では、

(・・・白鳳院が噛んでる事を何も知らない訳か。ってか、青花の存在も。ふむ、なら学校で青花を狙った白鳳院は・・・いや違う。正確には『白鳳院の下っ端』だ。ーーっ! そうか、傍系か。やれやれ、紛らわしい言い方をしてくれる)

 別の事を考えて、

「当主代理様がそこまで断言されるのであれば、その御言葉、信じましょう」

「助かる」

 と呟いた晴彦が、

「それにしても大騒動になったな」

「はい。やはり宗家屋敷が邪気爆発したのが大きかったですね。東条院がここまで舐められるなんて。それとも青龍大学の教育方針が悪かったのでしょうか?」

「ふむ。『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』の覚醒者も青龍大学の関係だったな。一度監査するのもいいかもな」

「それがよろしいかと」

 青夜が頷く中、晴彦が探るように、

「それでだ。『三族連座』だがどうにかならんか? このままだと公家の血が予想以上に流れる事になってな」

「? と言うと?」

「だから許したりは・・・」

「『白赦』という事ですか? ならば従うだけですが」

 青夜がそうさらりと言うと、晴彦が言いにくそうに、

「いや、当主は『粛々と処理せよ』と仰せでな。だが、それは余りに血も涙もなく、出来れば吽近衛大将の方から温情を・・・」

 青夜が警戒するように晴彦に、

「お待ちを、当主代理様。アナタ様は今、白鳳院の御当主様の決定に逆らおうとされておられますよ?」

「逆らうなどと言葉が過ぎよう、吽近衛大将。私はただ・・・・・・」

 『これ以上、ぬるい事をほざくこの男に喋られて巻き込まれるのは御免だ』と警戒マックスの青夜が言葉を遮るように、

「東条院としては『先代落とし』の件が片付くまで何もする気はありませんよ」

「片付くとは?」

「無論、白鳳院君子様の処罰内容を聞くまでは、という意味です。正確には『もう1人』を含んだお2人の、ですが」

「もう1人? どういう意味だ?」

「私の口からは何とも。当主代理様が白鳳院の後継になる為の試験でもあるらしいので、これ以上の助言は控えさせていただきます」

「白鳳院後継の試験・・・ふむ」

「では、私はこれで失礼しますね」

 青夜はそう言って席を立ち、

「待て。『三族連座』の件は・・・」

「当主代理様の働き次第とさせていただきます。では」

 青夜はそう言って、さっさと退室したのだった。





 ◇





 皇居内の面談後、さっさと車に乗り込んで田中邸へとは向かえなかった。

 皇居内を移動中、廊下で偶然・・、白泉冷一と菊今出辰斗と出会ったからだ。

「どうも」 

 と青夜は軽く会釈をして通り過ぎようとしたが、

「お待ちを、吽近衛大将殿」

「吽近衛大将殿にたってのお話が・・・」

 冷一と辰斗に呼び止められた。

 辰斗は59歳。173センチ。黒髪で特注の耳に掛けるタイプの右側だけの片眼鏡をしたポワロ髭の男だった。恰好は皇居なのだから公家服。

 菊今出家も白鳳院の傍系で、官位は『従四位上、たかむらのとう』。

 篁は蔵人所を意味するので皇居首席秘書だった。

 菊今出家も、内々の会で辛うじて出席する遠縁の新井白菊が馬鹿な事をした為に、辰斗の叔父の妻から『三族連座』が伸びてきて、4等親のところで叔父と従弟いとこ兄弟3人が捕縛されるという不名誉を味わっていた。

「御安心下さい。当主代理様の顔を立てて、ちゃんと『三族連座の件』は話がまとまりましたから」

 嘘臭い笑顔の青夜の先回りした言葉を鵜呑みにして『そうですか』『ありがとうございます』と素直に安堵するようでは皇居幹部は務まらない。

「失礼、どのようにでしょうか?」

「東条院の『先代落とし』に噛んだ白鳳院2人の首と引き換えに、ですよ」

 青夜の言葉に2人が背筋をゾクリとさせ、『巻き込まれては拙い』と瞬時に悟り、下手な演技で、

「おわ、耳元に虫が・・・・・・今、何を言われたので?」

「本当に。皇居の廊下で虫とは・・・おっと、いけない。御上に呼ばれてるのでした。では、失礼」

「私も。失礼、吽近衛大将殿」

 さっさと退散していき、その後ろ姿を見送りながら『ふん』と鼻を鳴らし、青夜も廊下を歩いていったのだった。





 ◇





 皇居で青夜に『三夜鈴』を返した白鳳院晴彦は『白鳳院の次期当主』に是が非でもなりたかったので、すぐに『もう1人』を探らせた。

 田中青夜が何の事を言ってるのかは部下に探らせるまでもなく晴彦自身も既に分かっていた。

 東条院が密かに探してた秘宝は『三夜鈴』と『桃切国綱』だった事を知っていたからだ。

 つまりは白鳳院の一族の中に東条院の秘宝『桃切国綱』を持つ者が居るという訳だ。

 そして、会談を終えて皇居から自分の屋敷に戻った僅か40分後には東条院の秘宝『桃切国綱』のある場所が判明し、側近の桑原与一が、

「本当に東条院の『桃切国綱』がございました」

「ほう、もう発見出来たのか、早かったな。これで『三族連座』は解決か。誰が持っていた? 叔父上か?」

 『だったら完全に叔父上を追い落とせるのだが』と都合の良い事を考えていたが、世の中そんなに甘くはなく、与一が申し訳なさそうに、

「それが・・・この屋敷の宝物庫の中にございました」

「はあ?」

 自分の耳を疑った晴彦が与一を見ると、与一が淡々と、

「宝物庫内の当主代理の日本刀コレクションの中に紛れ込んでおりました」

「ふざけるな。私は知らないぞっ!」

 と叫んだ晴彦は次の瞬間、ハッと何かに気付いて、

「『御前のお気に入り』にハメられた?」

「いえ、東条院ではなく・・・」

「まさか、叔父上か?」

「いえ、違います」

「なら誰だ? 早く言えっ!」

「天彦坊ちゃんです」

 長男の名前を言われて、

「はあ?」

 一瞬、何の事を言われてるのか分からなかったが、理解した後、

「天彦だと? 嘘を言え。まだ10歳だぞ、天彦は?」

 35歳の晴彦がそう指摘した。

「残念ですが事実てす。『過去視』でアリアリと確認出来ました。それも天彦坊ちゃんだけではなく、当家の宝物庫には当然、錠前が掛かっており、開けられるのは晴彦様、奥様、私の3人だけでして、その、奥様が執事2人とメイド2人と一緒に宝物庫を開けて天彦坊ちゃんが『桃切国綱』を納めるところを目撃しており・・・」

 与一の報告に『クソ、あの『お気に入り』め。知っていたな』と呻くどころか軽い眩暈めまいを覚えながら、

「『桃切国綱』がこの屋敷にあった事、何人が知ってる?」

「10人以上かと」

 想像以上に多い。『別の場所で発見された事には出来ないか』と瞬時に悟った晴彦が覚悟を決めて、

「天彦を捕らえよ」

「よろしいのですか?」

「どうせ父上の耳にももう入ってる。下手に温情を掛けたらこちらの信用まで失うわ」

 そう吐き捨てて、軽く握った右手の親指と人差指で顎を摘まみながら、

(『東条院法子からの譲渡』だと東条院の『先代落とし』に関与した事になる。東条院の混乱に乗じてドサクサで盗んだ事にする? 10歳の子供がか? 無理だ、誰も信じないぞ。どうすればいいんだ、こんなの? 父上の裁決を仰がねば)

「父上に会いに本邸に行く。準備しろ」

 そう晴彦は席を立ったのだった。





 ◇





 白鳳院の本邸のベッドで令がつまらなそうに、

「晴彦、おまえの裁定は?」

「・・・10歳の子供に東条院の『先代落とし』に関与出来る訳もなく・・・」

「私情を挟むのは感心せんな」

「いえ、決して、そのような事は・・・」

「もうよい。君子、天彦の処断は私がやろう」

「お願いします」

 晴彦はそう頭を下げたが、この判断を一生後悔する事となった。





 何故ならばその1時間後に、白鳳院令の名前で、





 4月の東条院青蓮殺害の関与者の処罰、追加発表。





 白鳳院天彦、死罪。

 白鳳院君子、死罪。





 と全国に通知されたからだ。





 ◇





 その通知を田中邸で聞いた青夜は、

(どうせ、発表だけで生きてるんだろうけど。やっぱり怖いよな、白鳳院の御当主様は。ここまでするんだから)

 と呆れた。





 寝耳に水の藤名金城は背筋を正しながら、

(何をやったんじゃ、若様はっ! 白鳳院相手に。ってか、白鳳院の後継(とみんなが思ってる)晴彦様の嫡子を処断って)

 絶句したのだった。





 同じく寝耳に水の二千院目高は、

(白鳳院が血の連なる10歳と17歳の次代を担う子供達を許さずに処罰した? 意味が全く分からんが・・・絶対に今日、皇居に出向いた青夜が噛んでおるぞ、これは。ワシは当分重体のフリをせねば・・・あっ、七夕の節句は御前の誕生日だった。出向かねばならんのか、1月半後に?)

 と布団の中で青ざめたのだった。





 そして、この通知後、誰も田中青夜襲撃者の『三族連座』の助命活動をしなくなった。
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