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一狼の墓地候補、暗殺者(雑魚)、濡良狸日代の助言
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第1候補の青福寺はダメだったが、それくらいで愛がめげる訳もなく、青夜は第2候補の墓地のあるお寺に愛に連れて来られた訳だが・・・
今度は都内にある白虎宗の白国寺だった。
「却下」
入るまでもなく門前できっぱりと言う青夜に愛が、
「どうしてよ、青夜君?」
「田中家は東条院の一党なんだよ、分かってる? 青龍宗ならともかくどうして白虎宗なんかを選ぶんだよ、ママ? ママの考え方の方がおかしいでしょ?」
「だって、方位が良かったから」
「当然でしょ、都内にある白虎宗の主要な仏閣なんだから。ちょっと他の候補を見せてみて、ママ。ほら、スマホを」
こうして青夜が愛のスマホを奪い、マップを確認した訳だが、
「何これ? 第3候補が吉備の桃源寺で、第4候補が『ぶふっ』藤泉寺? 冗談じゃないっ! 最低1000年は歴史のある高位の公家以外は無理なのに、どうして候補に入ってるの? 頭おかしいの、ママ? 東条院宗家でも無理なのに」
青夜が呆れ、愛が、
「だって、だって、いいところに一狼さんの遺骨を入れてあげたいじゃないの」
というのが未亡人としての主張だったが、
「いいトコ過ぎだよ。こんな名だたる仏閣にお墓なんて建てたら死んだパパだって肩身の狭い思いをするって」
青夜がそう指摘し、愛に、
「都内じゃないとダメなの? 埼玉県や千葉県とかなら立派なお墓を立てて上げられると思うけど」
「埼玉や千葉なんて田舎じゃないのっ!(愛個人の感想です)」
出身県人が聞いたら怒りそう事をさらっと愛は主張したのだった。
「ともかく一度、仕切り直そう。これらの候補はどれも問題があり過ぎるから」
という訳で車に乗り込んだのだった。
車内でも真剣な協議となり、青夜が、
「ママ、京都の仏閣なら余裕だと思うんだけど?」
「無理よ。絶対に実家が妨害するから。もしくは私が戻るのを条件に出してくるか」
「じゃあ、鴨川家が口出し出来ない場所ならいいんだね?」
「そんなお寺、どこにあるのよ?」
「比叡山延暦寺」
青夜がさらりと言った。
比叡山延暦寺とは御存知『日本一の大天狗』後白河法皇ですら御せず、『第六天魔王』に至っては焼き打ちにしている日本の聖地の1つである。京都府じゃなくて滋賀県だったが。
「待って。比叡山はさすがに・・・」
京都出身だけあり、比叡山の凄さを知ってる愛が逡巡する中、
「東条院の権力を使えば余裕だけど、どうする、ママ?」
「でも一狼さんだとさすがに格が・・・」
「東条院の現副宗家の義父だよ、格なら十分あるさ」
「青夜君、分かったからそんなに意地悪な事言わないで」
と愛が降参した時、車内設置の電話が鳴った。青夜が出る。
「何?」
相手は藤名月弥で、
『逃げてた法子様の小間使い、鹿石麗奈の身柄を確保し『鏡』を回収致しました』
「残る二つは?」
『記憶を読みましたが知りませんでした』
「そう、御苦労様。おっと『鏡』が使用された形跡は?」
『あります』
「ふ~ん。ジイの指示に従うように」
『はっ』
青夜はそこで電話を切ったのだった。
「話を戻すけど」
「分かったわ。じゃあ、神奈川県で我慢するわね。そんな訳で鎌倉の二千石寺の紹介をお願いね、青夜君」
可愛くおねだりする愛に青夜は真顔で、
「何さらっと図々しい事言ってるの、ママ? 二千院の菩提寺なんて余計に無理だって。確かに二千院はオレの母方の実家だけど、二千院は東条院以上に面倒なんだから」
「ちょっと、青夜君。それだとまとまる話もまとまらないじゃないの」
「都外があるでしょ」
「都外ねぇ~。あてはあるの、青夜君?」
「まさか。お坊ちゃん育ちのオレにある訳ないでしょ。ママが見つけてよね」
「ええぇ~」
との会話の後、結局は墓地巡りは諦めて、ソフトンニューヨークホテル東京に戻る事となったのだった。
◇
ソフトンニューヨークホテル東京は一流ホテルだが、ホテルはホテルだ。
多数の人間が出入りし、警備する側は非常に大変だった。
玄関正面からホテル内に入って一階ロビーを移動する青夜が、
「ホテル住まいも正直どうにかしないとね」
そうしみじみと呟き、愛が、
「今の殺気? ソファーに座って新聞で顔を隠してるあの男よね? でも分かり易過ぎない? 囮かしら?」
「オレ的には興味もないけど」
青夜と愛が相手にせず移動する中、新聞男が不意にソファーの上で意識を失い、ホテル側の従業員数人が介抱する形でその男を捕獲していた。
まあ、意識を失ったのもホテル側の術師の仕業なのだが。
このソフトンニューヨークホテルはBB財団系列なので警備も全部BB財団の仕切りだ。お陰で東条院も皇居吽軍も警備出来なかった。
「青夜君狙いかしら? それともアンちゃん?」
「案外ママかもね。パパと結婚して結構な婿候補のメンツを潰しちゃったんでしょ? モテる女は大変だよね」
「どうして私なのよ? 絶対に青夜君狙いよ」
などと笑いながらエレベーターに乗ると他の客3人と相乗りとなった。
ホテルなのだからエレベーターの相乗りは仕方がない。
ただ一流ホテルだと客も一流な訳だが、その3人は見るからに一流とは違い、東条院の警備だったらエレベーターに同乗させるなどというこんな不細工な事は怒らなかった訳だが、同乗した事で青夜は呆れたのだった。
愛も苦笑して青夜と視線で『あの囮はこの3人をエレベーターに乗せる為の捨て駒だった訳ね。駆除よろしくね、青夜君』『ママがやってよ』『入学式の時のように操れば楽勝でしょ?』『人を操るのは犯罪だよ?』などと視線で会話してるとエレベーターが3階から4階へと移動中に殺気を膨らませたので愛が仕方なく3人の意識を陰陽道で奪ったのだった。
「さすがは鴨川のお嬢様、術で無傷で捕獲って凄いよね」
青夜は賞賛したが、愛は口を尖らせて、
「こんな荒事、青夜君がやってよね。男の子なんだから」
「いやいや、子供を守るのは親の役目だから。強くて綺麗なママが居て息子のオレは幸せ者だよ」
「あのねぇ~」
その後、青夜はエレベーターのパネルにルームキーを翳した。
青夜達が宿泊してる部屋はセレブ用の特別な階層だったので、ルームキーがないとエレベーターが止まる以前にボタンにランプが点かないのだ。
宿泊してる上層階のフロアにエレベーターが到着してドアが開くとBB財団の外国の異能力者が5人待っており、
「お帰りなさい、義弟君」
25歳、身長173センチ、まとめた金髪で青眼の凛々しいイギリス系のアメリカ人のニキ・エアリアルが英語で話し掛けてきた。
BB財団の護衛は客の偽装をしていない限り、黒スーツとカラーシャツで、女もズボンなのだからニキもそうだった。見るからに海外のSPといった感じだ。
「どうも、ニキさん。この3人をよろしくね。殺気を放ってきたから」
流暢な英語で言葉を返しながら青夜達がエレベーターを出ると、BB財団の海外の護衛2人がエレベーター内に乗り込み、気絶した3人共々、下の階層へとエレベーターで降りていった。
◇
そしてホテルの客室に帰宅した訳だが、部屋では部外者の女がソファーの上で寛いでルームサービスの紅茶を飲んでいた。
「お帰りなさい」
と気軽に青夜達に声を掛けてくる始末だ。
部外者の女と青夜は初対面だったが、見知らぬ女でもなかった。
女が有名人だったからだ。
21歳、身長162センチ。まとめた長い黒髪で切れ長の二重で睫毛の長い白肌の撫子の美貌だが、高価な黒地に富士の柄の描かれた着物を胸の谷間と太股の柔肌が見えるように時代劇の花魁のように着崩して着ていた。
「えっ、嘘っ! 濡良狸日代?」
驚いた愛が瞬時に陰陽札を両手で扇状に広げて臨戦態勢で構える中、青夜はつまらなそうに濡良狸日代を見た。
BB教団が厳重に警戒するこのロイヤルスイートに侵入してルームサービスを頼んでるのだから本物だろう。
この日代の異能力はその名から想像出来るように『ぬらりひょん』だった。
『ぬらりひょん』とは日本の妖怪の名前だ。
ゲームや漫画では日本の妖怪の親玉として描かれる事が多いが、異能力の『ぬらりひょん』は確かに強いが、日本で一大勢力を誇る程の戦闘力や統率力はない。
だが、可愛い異能力でもなく、それどころか日本では最悪の部類の異能力だった。
異能力『ぬらりひょん』の最大の問題点は・・・・・・
『勝手滞在』だ。
他人の家に勝手に侵入して家主のように寛ぐ。この『家主のように』がポイントでパソコンやスマホのパスワード、金庫も解錠出来るのだから始末に負えない。
家人に発見されても家族扱いされて追い出されない。この『家族扱い』もポイントで家族のように会話して秘密を吐露させる。
また存在を気付かせない事もある。これもポイントで『自動で記憶を消す』事が可能っぽかった。
捕縛された話も聞かないので『捕縛不可』か『完全脱出』は絶対にある。
他にも『びっくり』がある。
いきなりの遭遇や助言等々で相手を仰天させて喜ぶ傾向にあった。
一見、無害な異能力のように思えるが、悪用すると厳重警備な屋敷だろうと簡単に侵入して要人を暗殺出来るし、ネットバンクや金庫も自由に出来るので好きなだけお金を持っていける。機密情報も楽々ゲット出来た。
お陰で日本でも要注意の異能力の1つになっている。
「何? オレに用なワケ?」
「いいえ、少し疲れたからホテルの一番いい部屋で休憩をさせて貰ってただけよ。まさか、東条院の有名人と『ひょん』なところでニアミスするなんてね。私の方が驚きだわ」
「なら早く帰ってよ。車代に2億円包むから」
「あら、私を捕縛しなくていいの?」
面白そうに日代が青夜を見る中、青夜が、
「皇居侵入の件は他国の機密情報を盗んで相殺されたと報告を受けてるからね」
「ちょ、青夜君。何、呑気な事言ってるの? この女はここで殺さないと・・・・・・」
愛が堪らず口を挟むが、
「それは京都の名家連合の1つ『平安華』だけの決定でしょ? 東条院は関係ないから。ってか、無理だし。皇居の御上の前まで行って堂々と帰ってるんだから」
と拒否した青夜が堂々と日代に、
「それよりも何かビックリする事を教えてよ」
「そうね。妹の東条院青花は特に大切にした方がいいわよ」
(もう知ってるよ、その話は・・・ってか、この女はどこで妹の素性を知ったんだ? 法子さんは記憶を封印されてたっぽいし、親父殿には『ぬらりひょん』は効かないっぽいのに)
「妹を大切にするのは当然の事でしょ?」
青夜がつまらなそうに言うと、
「何だ、知ってたのね。ならちゃんと守ってあげないと。今ならまだギリギリ間に合うはずだから」
と手首の内側に付けた女物の腕時計を見ながら日代が青夜に忠告した。
次の瞬間、ゾワッと全身の毛を逆立たせた青夜が『これを伝えにきたのか』と確信し、
「相手は?」
「白鳳院の下っ端に雇われた部外者」
想像以上の黒幕にゲンナリしながら、
「車代2億円と情報料1億円を後で取りに来て。支払うから」
そう約束すると同時に青夜は部屋の外へと飛び出したのだった。
今度は都内にある白虎宗の白国寺だった。
「却下」
入るまでもなく門前できっぱりと言う青夜に愛が、
「どうしてよ、青夜君?」
「田中家は東条院の一党なんだよ、分かってる? 青龍宗ならともかくどうして白虎宗なんかを選ぶんだよ、ママ? ママの考え方の方がおかしいでしょ?」
「だって、方位が良かったから」
「当然でしょ、都内にある白虎宗の主要な仏閣なんだから。ちょっと他の候補を見せてみて、ママ。ほら、スマホを」
こうして青夜が愛のスマホを奪い、マップを確認した訳だが、
「何これ? 第3候補が吉備の桃源寺で、第4候補が『ぶふっ』藤泉寺? 冗談じゃないっ! 最低1000年は歴史のある高位の公家以外は無理なのに、どうして候補に入ってるの? 頭おかしいの、ママ? 東条院宗家でも無理なのに」
青夜が呆れ、愛が、
「だって、だって、いいところに一狼さんの遺骨を入れてあげたいじゃないの」
というのが未亡人としての主張だったが、
「いいトコ過ぎだよ。こんな名だたる仏閣にお墓なんて建てたら死んだパパだって肩身の狭い思いをするって」
青夜がそう指摘し、愛に、
「都内じゃないとダメなの? 埼玉県や千葉県とかなら立派なお墓を立てて上げられると思うけど」
「埼玉や千葉なんて田舎じゃないのっ!(愛個人の感想です)」
出身県人が聞いたら怒りそう事をさらっと愛は主張したのだった。
「ともかく一度、仕切り直そう。これらの候補はどれも問題があり過ぎるから」
という訳で車に乗り込んだのだった。
車内でも真剣な協議となり、青夜が、
「ママ、京都の仏閣なら余裕だと思うんだけど?」
「無理よ。絶対に実家が妨害するから。もしくは私が戻るのを条件に出してくるか」
「じゃあ、鴨川家が口出し出来ない場所ならいいんだね?」
「そんなお寺、どこにあるのよ?」
「比叡山延暦寺」
青夜がさらりと言った。
比叡山延暦寺とは御存知『日本一の大天狗』後白河法皇ですら御せず、『第六天魔王』に至っては焼き打ちにしている日本の聖地の1つである。京都府じゃなくて滋賀県だったが。
「待って。比叡山はさすがに・・・」
京都出身だけあり、比叡山の凄さを知ってる愛が逡巡する中、
「東条院の権力を使えば余裕だけど、どうする、ママ?」
「でも一狼さんだとさすがに格が・・・」
「東条院の現副宗家の義父だよ、格なら十分あるさ」
「青夜君、分かったからそんなに意地悪な事言わないで」
と愛が降参した時、車内設置の電話が鳴った。青夜が出る。
「何?」
相手は藤名月弥で、
『逃げてた法子様の小間使い、鹿石麗奈の身柄を確保し『鏡』を回収致しました』
「残る二つは?」
『記憶を読みましたが知りませんでした』
「そう、御苦労様。おっと『鏡』が使用された形跡は?」
『あります』
「ふ~ん。ジイの指示に従うように」
『はっ』
青夜はそこで電話を切ったのだった。
「話を戻すけど」
「分かったわ。じゃあ、神奈川県で我慢するわね。そんな訳で鎌倉の二千石寺の紹介をお願いね、青夜君」
可愛くおねだりする愛に青夜は真顔で、
「何さらっと図々しい事言ってるの、ママ? 二千院の菩提寺なんて余計に無理だって。確かに二千院はオレの母方の実家だけど、二千院は東条院以上に面倒なんだから」
「ちょっと、青夜君。それだとまとまる話もまとまらないじゃないの」
「都外があるでしょ」
「都外ねぇ~。あてはあるの、青夜君?」
「まさか。お坊ちゃん育ちのオレにある訳ないでしょ。ママが見つけてよね」
「ええぇ~」
との会話の後、結局は墓地巡りは諦めて、ソフトンニューヨークホテル東京に戻る事となったのだった。
◇
ソフトンニューヨークホテル東京は一流ホテルだが、ホテルはホテルだ。
多数の人間が出入りし、警備する側は非常に大変だった。
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そうしみじみと呟き、愛が、
「今の殺気? ソファーに座って新聞で顔を隠してるあの男よね? でも分かり易過ぎない? 囮かしら?」
「オレ的には興味もないけど」
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このソフトンニューヨークホテルはBB財団系列なので警備も全部BB財団の仕切りだ。お陰で東条院も皇居吽軍も警備出来なかった。
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「どうして私なのよ? 絶対に青夜君狙いよ」
などと笑いながらエレベーターに乗ると他の客3人と相乗りとなった。
ホテルなのだからエレベーターの相乗りは仕方がない。
ただ一流ホテルだと客も一流な訳だが、その3人は見るからに一流とは違い、東条院の警備だったらエレベーターに同乗させるなどというこんな不細工な事は怒らなかった訳だが、同乗した事で青夜は呆れたのだった。
愛も苦笑して青夜と視線で『あの囮はこの3人をエレベーターに乗せる為の捨て駒だった訳ね。駆除よろしくね、青夜君』『ママがやってよ』『入学式の時のように操れば楽勝でしょ?』『人を操るのは犯罪だよ?』などと視線で会話してるとエレベーターが3階から4階へと移動中に殺気を膨らませたので愛が仕方なく3人の意識を陰陽道で奪ったのだった。
「さすがは鴨川のお嬢様、術で無傷で捕獲って凄いよね」
青夜は賞賛したが、愛は口を尖らせて、
「こんな荒事、青夜君がやってよね。男の子なんだから」
「いやいや、子供を守るのは親の役目だから。強くて綺麗なママが居て息子のオレは幸せ者だよ」
「あのねぇ~」
その後、青夜はエレベーターのパネルにルームキーを翳した。
青夜達が宿泊してる部屋はセレブ用の特別な階層だったので、ルームキーがないとエレベーターが止まる以前にボタンにランプが点かないのだ。
宿泊してる上層階のフロアにエレベーターが到着してドアが開くとBB財団の外国の異能力者が5人待っており、
「お帰りなさい、義弟君」
25歳、身長173センチ、まとめた金髪で青眼の凛々しいイギリス系のアメリカ人のニキ・エアリアルが英語で話し掛けてきた。
BB財団の護衛は客の偽装をしていない限り、黒スーツとカラーシャツで、女もズボンなのだからニキもそうだった。見るからに海外のSPといった感じだ。
「どうも、ニキさん。この3人をよろしくね。殺気を放ってきたから」
流暢な英語で言葉を返しながら青夜達がエレベーターを出ると、BB財団の海外の護衛2人がエレベーター内に乗り込み、気絶した3人共々、下の階層へとエレベーターで降りていった。
◇
そしてホテルの客室に帰宅した訳だが、部屋では部外者の女がソファーの上で寛いでルームサービスの紅茶を飲んでいた。
「お帰りなさい」
と気軽に青夜達に声を掛けてくる始末だ。
部外者の女と青夜は初対面だったが、見知らぬ女でもなかった。
女が有名人だったからだ。
21歳、身長162センチ。まとめた長い黒髪で切れ長の二重で睫毛の長い白肌の撫子の美貌だが、高価な黒地に富士の柄の描かれた着物を胸の谷間と太股の柔肌が見えるように時代劇の花魁のように着崩して着ていた。
「えっ、嘘っ! 濡良狸日代?」
驚いた愛が瞬時に陰陽札を両手で扇状に広げて臨戦態勢で構える中、青夜はつまらなそうに濡良狸日代を見た。
BB教団が厳重に警戒するこのロイヤルスイートに侵入してルームサービスを頼んでるのだから本物だろう。
この日代の異能力はその名から想像出来るように『ぬらりひょん』だった。
『ぬらりひょん』とは日本の妖怪の名前だ。
ゲームや漫画では日本の妖怪の親玉として描かれる事が多いが、異能力の『ぬらりひょん』は確かに強いが、日本で一大勢力を誇る程の戦闘力や統率力はない。
だが、可愛い異能力でもなく、それどころか日本では最悪の部類の異能力だった。
異能力『ぬらりひょん』の最大の問題点は・・・・・・
『勝手滞在』だ。
他人の家に勝手に侵入して家主のように寛ぐ。この『家主のように』がポイントでパソコンやスマホのパスワード、金庫も解錠出来るのだから始末に負えない。
家人に発見されても家族扱いされて追い出されない。この『家族扱い』もポイントで家族のように会話して秘密を吐露させる。
また存在を気付かせない事もある。これもポイントで『自動で記憶を消す』事が可能っぽかった。
捕縛された話も聞かないので『捕縛不可』か『完全脱出』は絶対にある。
他にも『びっくり』がある。
いきなりの遭遇や助言等々で相手を仰天させて喜ぶ傾向にあった。
一見、無害な異能力のように思えるが、悪用すると厳重警備な屋敷だろうと簡単に侵入して要人を暗殺出来るし、ネットバンクや金庫も自由に出来るので好きなだけお金を持っていける。機密情報も楽々ゲット出来た。
お陰で日本でも要注意の異能力の1つになっている。
「何? オレに用なワケ?」
「いいえ、少し疲れたからホテルの一番いい部屋で休憩をさせて貰ってただけよ。まさか、東条院の有名人と『ひょん』なところでニアミスするなんてね。私の方が驚きだわ」
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「あら、私を捕縛しなくていいの?」
面白そうに日代が青夜を見る中、青夜が、
「皇居侵入の件は他国の機密情報を盗んで相殺されたと報告を受けてるからね」
「ちょ、青夜君。何、呑気な事言ってるの? この女はここで殺さないと・・・・・・」
愛が堪らず口を挟むが、
「それは京都の名家連合の1つ『平安華』だけの決定でしょ? 東条院は関係ないから。ってか、無理だし。皇居の御上の前まで行って堂々と帰ってるんだから」
と拒否した青夜が堂々と日代に、
「それよりも何かビックリする事を教えてよ」
「そうね。妹の東条院青花は特に大切にした方がいいわよ」
(もう知ってるよ、その話は・・・ってか、この女はどこで妹の素性を知ったんだ? 法子さんは記憶を封印されてたっぽいし、親父殿には『ぬらりひょん』は効かないっぽいのに)
「妹を大切にするのは当然の事でしょ?」
青夜がつまらなそうに言うと、
「何だ、知ってたのね。ならちゃんと守ってあげないと。今ならまだギリギリ間に合うはずだから」
と手首の内側に付けた女物の腕時計を見ながら日代が青夜に忠告した。
次の瞬間、ゾワッと全身の毛を逆立たせた青夜が『これを伝えにきたのか』と確信し、
「相手は?」
「白鳳院の下っ端に雇われた部外者」
想像以上の黒幕にゲンナリしながら、
「車代2億円と情報料1億円を後で取りに来て。支払うから」
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これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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