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青龍大学名物、火武祭開幕

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 青龍大学は異能力者育成機関だ。

 その為、普通の学校とは色々と違う。

 学校行事も通常の学校とは程遠く、中等部と高等部では5月、6月、10月、11月、1月に青龍大学名物の『武祭』なるモノが合同で催された。





 中等部と高等部の合同武祭の5月の名前は『火武祭』だ。

 火武祭は火術部門と武術部門に分けられる。

 異能力の火術部門は炎系以外の異能力が禁止の結界内での男女混合の炎術演武大会。

 純粋な武術部門は男子は相撲、女子は長刀なぎなたの武術演武大会となった。





 無論、異能力者育成機関である青龍大学の『火武祭の華』は異能力や術式を使う火術部門だった。





 ◇





 (時を前後するが『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』討伐の論功行賞前の)ゴールデンウィークが終わった直後の5月初旬。

 青龍大学の一年以組のホームルームで担任の真達羅通春菜が、

「全員、火武祭は優勝を獲りにいくわよっ!」

 気合十分、熱血発言をして、関三宝兎も同調して、

「さすがは春菜ちゃん、燃えてるねぇ~」

 賛同したが、青夜が白け気味に、

「春菜センセー、オレ、オリンピック選手が金メダルを取った直後にかかる『燃え尽き症候群』って奴みたいで無理です」

 さらりと言った。

 端午の節句のあった5月5日の夜に富士樹海決戦で『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』と全力バトルをやったところだ。

 今更学生相手に手加減して戦うのは馬鹿馬鹿しい。

 それが青夜の正直な心情な訳で、そもそも今日はゴールデンウィーク後の初の登校日な事から、登校時の出待ちの中に三宝兎が待ち伏せてて『マジで戦ったのか、『ヤマタノオロチ・伍ノ首』と?』『どのくらい強かったんだ?』 『ってか、『伍ノ首』がウチの学校の始業式のオッサンって本当なの?』『そうだ。桑原のジッチャンが『ヤマタノオロチ』の覚醒先を事前に知ってたのか知りたがってたぞ?』『面倒臭がってないでもっと詳しく私に教えろよ、青夜』と一日中質問責めに合い、下校前のホームルームの時間にはもう青夜のライフポイントは残っていなかった。

「そう言わずにやる気を出しなさい、田中。青龍大学の学長以下教授連が軒並み『伍ノ首』になった前副学長に狩られたの知ってるでしょ? その関係で白虎寺の七人会議が火武祭に見学しにくる事になって勝たないと拙いのよ、私。そうでなくても利根川強歩で色々と文句が出ててね」

「何、まだスタジアムの件、言われてるの?」

 三宝兎が問う中、春菜が、

「違うわよ」

 否定して不機嫌そうに青夜を睨んだので、

「えっ? もしかしてお色気を使ってオレを操れって極秘命令でもされたんですか?」

「まだ、そこまでは言われていないわ。ただ田中の専属教師だった中等部の西丸先生と較べられてね。『機能してない』扱いされちゃって」

 春菜の愚痴に三宝兎が興味深そうに青夜を見て、

「何、専属教師って? そんなのが居たのか、青夜?」

「オレ、『落ちこぼれ』のフリをしてたからな。危機感を抱いた中等部の教師陣に2、3年の時に付けられちゃって。お陰で大変でさ、あれはあれで」

「どう大変だったんだ?」

「『落ちこぼれ』の演技の手が抜けなかったりだよ。まあ、お陰で『気配消し』と『分身の操作法』とかはかなり上達したけど」

「うわ、可哀想、その先生ぇ~」

 などと喋る中、春菜が、

「話を戻すわよ。火武祭だけど、女子の長刀部門は関、いけるわよね?」

「ええっと、春菜ちゃん。手加減出来るか分からないぞ、私?」

「大丈夫よ。死人が出ても『弱いのが悪い』で処理されるから、青龍大学では」

 春菜の言葉を聞いて三宝兎が『この学校も大概だよな』と呟く中、春菜が、

「相撲部門は・・・一年以組の男子で一番強いのは誰なの?」

「今年も例年同様、『気』は『あり』なんですよね?」

 そう質問したのは榊弁真だ。

「ええ、『気』は使えるわ」

「なら、副宗家ですが・・・男子の相撲部門の優勝は『十二傑、序列一位』高等部3年の明治坂田で『聖気覚醒』してる坂田金猿先輩ですよ?」

「分かってるわ。でも優勝候補に当たるまでのそこそこの成績も欲しいからね」

 と喋ってる中、三宝兎が、

「えっ? そうなの?」

 眼をパチクリした。

「この学校の高等部で青夜の次に強い男子は金髪に染めてる3年の島津って『鬼』の奴だと思ったけど?」

「確かに『序列三位』島津先輩の異能力(『酒呑童子』の腹心で渡辺綱に斬られた)『茨木童子』はその辺の『五色鬼』とは違い、名付きネームドで強力だけど、相撲は体操着の上からマワシを締めないといけないから今時の男子は嫌がる傾向にあるのよ、ギン様。ましてやカッコつけの島津先輩なら尚更ね。マワシをしてる姿なんて一度も見た事がないから」

 内部進学組で事情を知ってる稲穂がそう教え、相撲を嫌ってる良子が微妙な顔をする中、青夜が、

「でも島津先輩は現金だからなぁ~。白虎寺のお偉方の見学があると知ったら名前を売る為に本気を出すかも」

 そうひょうしたのだった。

 春菜が、

「で、火術部門は? 優勝候補の東京月御門の生徒が転校して混戦模様なのよね? 一年以組では誰が一番強いの? 清水山、アナタ、陰陽道系よね? 本当に・・・得意なのは何系なの?」

「治癒系と伝達系ですけど」

「えっ? なら、火術部門で一番強いのは誰?」

 と春菜が生徒10人を見渡した。

 田中青夜は青龍拳で水。

 関三宝兎は関帝信仰で水。桃太郎は対鬼。

 野々宮稲穂は霊獣使いで鳥と蛇。

 坂田良子は金太郎で怪力。

 榊弁真は青龍密教で水。

 高城貴文は香道で治癒。補助。解毒。

 宇治川拳は武術で気。

 中村四摩は武術で気。

 浅野陽香は鬼道で呪詛。

 清水山江利香は陰陽道で治癒と伝達。

「陰陽道をかじってる副宗家ですけど」

「えっ、出場しないぞ、オレは。水系のオレが勝ったら火系の家門のメンツを潰す事になるし」

「田中、火術部門と相撲部門の両方、出場しなさいね」

「一回戦負けでいいのなら」

「そんなの認める訳ないでしょ、(表彰前で情報が錯綜してて断定出来なくて)『ヤマタノオロチ』の討伐に絡んでる男が。優勝しなさい」

 こんな事があり、青夜は高1の火武祭は両部門出場する破目になったのだった。





 ◇





 そして表彰後の5月中旬、火武祭1日目。

 青夜は体操着の上にマワシを諦めて初日から男子武術部門の相撲演武大会に出場する事となった。

 青夜は色々と特別扱いらしい。

 初戦の相手が青龍大学の高等部のトップ集団『十二傑』の『序列一位』で優勝候補の明治坂田の坂田金猿なのだから。

「『ヤマタノオロチ』の第2武勲者なら手加減する必要はないな」

 土俵の上でそう言った金猿は高3の5月現在、身長189センチ、黒髪の坊主頭で、顔は精悍だが、如何せん、相撲取り体型で体重は130キロ前後もあった。

 ただのデブじゃない。脂肪の下は筋肉の鎧だ。

 この体型で異能力が『金太郎』なのだ。

 更に言えば、明治坂田とは江戸時代の幕末に幕府陣営に与する四嫡流に対抗して『『金太郎』には『金太郎』をぶつけるのが定石』との戦略から、薩長同盟がスカウトした当時最強の坂田一族を言い、明治維新後に明治天皇から5番目の坂田一族の嫡流に任じられて、『金太郎』は更にややこしくなった訳だが。

 五嫡流の1つだけあり、それはもう強い。

 確か16歳の時に『聖気覚醒』しているはずだ。

 そんな『聖気覚醒』した『金太郎』を相手に、これから相撲を取るのだから馬鹿らし過ぎる。

 青夜は苦笑しながら、

(さてと、どうしようかなぁ~。青龍大学の高等部最強で、五嫡流の『聖気覚醒』した『金太郎』を相手に相撲で勝ったら大問題になるよなぁ~、やっぱ。お茶を濁すか? でも『ヤマタノオロチの論功行賞』直後に負けるのは・・・う~ん)

 と迷ってると、

「頑張れ、青夜っ!」

「若様ぁ!」

 そんな声援に混じって、

「お兄ちゃん、頑張れぇ~」

 と聞き慣れた声が聞こえ、そちらに視線を向けると、小巻園青花が声援を上げていた。

 藤名金城まで居る。

(何で青花まで居るんだ? ・・・仕方ないな。少しは妹にもカッコイイところを・・・って、違うんだよなぁ~。まさか今更異母妹じゃないと判明するとは。それもよりにもよって白鳳院の落胤って。信じられないから、法子さんも、親父殿も、司様も。このやるせない鬱積・・・眼の前の相手にぶつけてもいいよなぁ~)

 『やる気スイッチ』ならぬ『八つ当たりスイッチ』を入れた青夜が飄々としたやる気のなさそうなポーカーフェイスで金猿と対峙し、行司役の教師が、

「見合って見合って・・・」

 と言い、続く、

「はっけようい・・・」 

 の言葉と、金猿と青夜の、

『発気揚揚』

 との言葉が重なった瞬間だった。

 金猿が『普通の気』を爆発させて半径2メートル級に高めたのに対して、『八つ当たりスイッチ』を入れた青夜が半径6メートル級に『仙気』を爆発させて、

「なっ!」

 金猿が驚愕の表情を浮かべる中、行司役の教師が惰性で、

「・・・残った」

 と勝負を開始してしまい、青夜が突進しながら張り手を繰り出し、

「はあああああああああああああああああああああっ!」

「・・・くっ、はああああああああああああああっ!」

 青夜の強さに気付いてから慌てて『普通の気』から『聖気』を練った事で立ち合いに一瞬遅れた金猿が張り手を合わせた事で、青夜と金猿の手が合わさり、パァァァンッと空気が甲高く破裂すると同時に土俵の上で衝撃波が起こった。

 この力比べで吹き飛んだのは金猿で(行司役の教師も当然吹き飛んでる)、異能力戦の相撲なので土俵の外まで一気に吹き飛び、観客席前の障壁に叩きつけられたのだった。

 青夜の方は吹き飛ぶ事なく土俵に残り、無傷だったが、それでも体操着は衝撃波でビリビリだった。

「おお、凄いな、さすがに明治坂田は。まあ、オレの敵じゃなかったけど」

 青夜は土俵の上でそう勝ち誇りながら、小巻園青花に手を振り、続いて鵜殿青刃にも指を差してニヤリと合図したのだった。





 その様子を応援席で見ていた三宝兎が、

「凄っ。何、今の『気』の質と量? ・・・やっぱ、いいな、青夜は」

 と惚れ直し、

「・・・本当に」

 稲穂も隣で眼を輝かせて青夜を見ていた。

 逆に良子は青ざめており、

「嘘、『聖気覚醒』してる明治坂田の御曹司に相撲で勝った・・・の? どうして?」

 坂田嫡流の1つの坂田金猿が負けた事に絶句していた。





 火武祭は中等部と高等部の合同なので、昨年まで青夜の専属教師をしていた西丸藤子は、

「・・・『ヤマタノオロチ』の論功行賞を聞いた時はまさかと思ったけど、本当にそこまで強かったのね。私の2年間って何だったの?」

 と観客席で唖然としたのだった。





 真達羅通春菜は特等席で、

「はいぃぃぃぃぃ? ・・・明治坂田に勝ったぁぁぁぁぁぁ? 十二傑の序列一位にぃぃぃぃぃぃ?」

 唖然としながらも、

(・・・えっと、これって拙くない? 東条院と明治坂田が戦争になる? いえ、青龍大学と明治坂田の戦争かしら?)

 青ざめたのだった。





 別の応援席では鵜殿青刃が『やっぱ兄貴は凄過ぎる。『金太郎』に相撲で勝つなんて』と呆れ果て、





 別の関係者応援席では小巻園青花が無邪気に、

「やったぁ~、お兄ちゃんが勝ったぁ~」

 喜び、『そうですな』と横で藤名金城が答えながら、

(相手が油断してたとはいえ明治坂田の御曹司に『相撲』で勝つとは・・・先々代や先代、目高殿が愚痴ってたのが今ならよぉ~く分かるわい。明治坂田と事を構えるのは避けねばな)

 と頭痛を覚えたのだった。





 この取組が今年の火武祭の相撲部門の最大の見せ場で、後は惰性で青夜は2日間相撲を取って優勝したのだが・・・・・・
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