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ヤマタノオロチ・伍ノ首VS桃太郎、東条院青刃の釈放、住所ゲット

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 『日本神話ヤマタノオロチ』の異能力は総て判明している。





 『日本神話ヤマタノオロチ』は基本的に総ての異能力が段違いで強い。

 ヤマタノオロチも大蛇系なので蛇の天敵の孔雀や三竦み等々には相性は悪いはずだが、強過ぎるので殆ど相性の効果は期待出来ない。

 蛇なので『熱探知』や『脱皮』等々も出来る。

 更に首ごとの異能力も総て判明しており、その最大の特徴は、





 壱ノ首。喰。攻撃。

 弐ノ首。眼。予知。

 参ノ首。毒。猛毒。

 肆ノ首。冥。死霊。

 伍ノ首。皮。防御。

 睦ノ首。喉。恐怖。

 漆ノ首。天。強運。

 捌ノ首。魔。破壊。





 である。





 『伍ノ首』の皮は防御型だ。

 皮を『硬化』する。

 それだけではない。蛇は脱皮して生まれ変わる。

 損傷個所を『脱皮』で回復だ。

 脱皮による空蝉で逃げるくらいは朝飯前で、短距離の転移くらいなら可能な事が過去の記録から判明している。

 『ヤマタノオロチ』はどれも面倒臭いが、中でも『伍ノ首』はしぶとく、仕留めるのが面倒臭い相手だった。





 ◇





 栃木県に居た鍋島加我は夜9時には東京に舞い戻っていた。

 どこで調達したのか、服装も囚人服から和服の紫色の紋付に変わっている。

 そして、加我が一番最初に向かった場所は当然、東条院の宗家屋敷だった。

 東条院の宗家屋敷の場所は有名で、都内に住む異能力者なら誰もがその場所を知っている。

 加我も知っており、それで出向いた訳だが・・・

 東条院の宗家屋敷は4月1日に発生した邪気汚染がまだ完全に浄化されておらず、立入禁止で誰も住んでいなかった。

「クソ、誰も居ないだと? そもそもあの小僧は今は田中と名乗っていたな?」

 と呟いてから入学式の事を思い出して苛立ってると、

「居た居た、おまえが『ヤマタノオロチ・伍ノ首』か? 凄いな、その邪気?」

 背後から声が掛かった。

 加我が視線を向けると、ド派手な桃色のスーツを纏った桃色に髪を染めた吉備桃矢が立っていた。

 手には抜き身の(日本刀ではない)両刃の剣を握ってるが、剣が黄金色の『神気』を独自に放っていた。

 吉備桃矢は有名人過ぎる。

 『桃太郎』の名声も相まって桃矢を知らない異能力者は国内にはさすがに居ないので、加我も当然知っており、

「おっと、吉備の頭領、吉備桃矢か。拙いのに見つかったな」

「オレと遊んでくれよ? とりあえず場所を変えるか」

 桃矢が身体から放出した視認出来るくらいの桃の香りに加我は包まれ・・・・・・





 その桃の香りが晴れた時には富士山が見える樹海の上空に居た。

 2人とも当然のように空中に立っている。

「富士の樹海?」

(『桃太郎』に転移能力なんてなかったはずだが? アイテムか何かか?)

「ここなら気兼ねなく遊べるだろ? それじゃあ、行くぜっ!」

 問答無用で桃矢が空中で突進し、両刃の剣で斬り掛かり、

「ふん、『桃太郎』ごときが返り討ちにしてくれるわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 邪気で作った剣を握って加我も応戦したのだった。

 『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』は確かに強かったが、それ以上に桃矢の『桃太郎』の方が強かった。

 桃矢は『桃太郎』の異能力をフルに使いこなせており、『百人分身』『日本一補正』『桃の香り』とやりたい放題で攻め立てる。

 加我の異能力は元々『香道』系だったので剣術は10代にかじった程度で初段止まりの腕前だ。いくら『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』の覚醒で能力値が跳ね上がっていても押され気味で頬や腕を薄く斬られていた。

「くそぉぉぉぉぉぉっ! どうしてだ? 『伍ノ首』は『防御力特化型』のはずだろうがぁぁぁぁぁぁっ? どうして、あんな日本刀でもない両刃の剣でこんなにも簡単に斬られるんだぁぁぁぁぁぁっ?」

 と負け惜しみを叫んでた加我がハッと息を飲み、鍔迫り合いをする剣ををマジマジと見て、

「まさか・・・十拳剣とつかのつるぎ?」

「それは月御門貯蔵でまだ京都から届いてねえよっ! だから代わりに草薙剣くさなぎのつるぎを用意してやったぜっ! 三種の神器に斬られるんだから光栄に思いなっ!」

 ニヤリと桃矢が笑い、鍔迫り合いの中、バキッと蹴りを入れた。

「おお、かたっ! さすがは『伍ノ首』だぜっ! 草薙剣以外の攻撃はキツそうだなっ!」

「ど、どうして、そんな物がここにあるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ? 皇居貯蔵の三種の神器の1つだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?」

「さすがは吉備のトップだろ? 皇居から借り出せるんだからよっ!(無断でだけど)」

 そう笑った桃矢の剣の速度が増す。

 『桃太郎』の剣技は吉備鬼切流で強い。

「クソ、このままじゃあ・・・・・・ギャアアアアアア」

 加我の右腕が肘付近で切断された。

「おらおらおらおらっ! オレをもっと楽しませてくれよ、ヤマタノオロチっ!」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! こんなのと付き合ってられるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 と吠えた加我は次の瞬間、糸の切れた操り人形のように脱力して浮力を失い、樹海に落下を始めた。

「何だ?」

 不審に思い、後を追った桃矢が落下中の加我の襟を掴み、そして、

「生気がない? まさか『空蝉』か、これ? 蛇系なら『脱皮』だが・・・切断した右腕の切れ端で肉体を瞬時に作った?」

 瞬時に見抜いた桃矢がハッと周囲を見渡す。

 富士の樹海の上空には桃矢と身代わりの動かない加我だけだった。

 加我本体の姿はもちろん気配もどこにもない。

「逃げやがっただとぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! ふざけやがってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 加我を見失い、富士の樹海の上空で桃矢は怒りの絶叫を轟かせたのだった。





 ◇





 白鳳院の西東京市屋敷は上位百氏族専用の罪人収容所な訳だが、時代劇で高貴な身分の者が幽閉されるような綺麗な新品の緑色の畳が敷かれた座敷牢の木格子の外側から、

「東条院青刃、出ろ」

 袴姿の看守が声を掛けてきた。

 座敷牢に1人閉じ込められてる青刃が、

「・・・? 出ろとは?」

「釈放だ。『御前』に頭を下げた『お気に入り』の兄に感謝するんだな」

「妹の青花も?」

「いや、おまえだけだ。後はおまえの活躍次第だろうさ」

 こうして東条院青刃は西東京市の白鳳院屋敷から出され、屋敷の門前では母方の一族の柳原隼人以下、四乃森の残党5人が出待ちをしており、

「お勤め御苦労さまでした、若様」

 極道映画の出所風景のように全員で頭を下げて挨拶した。

 青刃は不機嫌そうに、

「この物騒な気配、何があった?」

「『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』が出現しました」

「『兄がオレを一時的に出した』と聞いたが?」

「はい、そのお兄様がお呼びです」

「・・・『伍ノ首』の討伐が先だろうが」

「大好きなお兄様からの御命令です。『言う事を聞け』だそうです」

 隼人のべんに青刃が嫌そうに、

「待て? 大好きなお兄様って何だ?」

「副宗家の事です。そう言えば『青刃様が言う事を聞く』と節句前大挨拶会で指示されましたが?」

「誰が聞くか。『伍ノ首』の現在地を教えろ。って聞くまでもないか、この邪悪な気配なら。向かうぞ」

「副宗家の兄君の許には向かわないのですか?」

「『伍ノ首』を追えば、その内、会えるだろ。それで十分だ」

「しかし・・・」

「どの面を下げて会えと? 兄貴は東条院の副宗家で(まあ、これはこれで兄貴が宗家じゃないのも問題なんだが)こっちはその東条院の先代宗家殺し関与の罪人だぞ? 兄貴に会う為にも功績が居るんだよっ!」

 青刃はそう吐き捨てて『ヤマタノオロチ・伍ノ首』を追跡したのだった。





 ◇





 防御特化型の『ヤマタノオロチ・伍ノ首』は回復力も早い。

 切断された右腕くらいなら瞬時に生やしていた訳だが、その加我は現在、勝手知ったる青龍大学に来ていた。

 目的は田中青夜の現住所の情報を得る為だったが。

 5月5日は日本では当然、祝日だ。

 その祝日の夜9時40分。

 通常ならば、この日この時間、青龍大学の校舎内には人は居ない。

 だが、現在、青龍大学では教授達が全員、緊急の夜の教授会に呼び出される事態となっていた。

 原因は無論、副学長だった鍋島加我が『日本神話ヤマタノオロチ・伍ノ首』の異能力を覚醒した事での加我の情報の聞き取り調査をする為で、リモートワークのモニター越しの聞き取りではなく直接招集なのは偽証を許さない為だったのだが。

 加我は御存知、学長の夏目夏雄や教授達にも怨みがある。

 完全な逆怨みだが、怨みは怨みだ。

 なので、ついでに・・・・教授会を襲う事態となった。





 教授会の会議室の床に倒れた学長の夏雄の顔を踏み付け、

「グアアアアアアアアア」

 と苦痛のこもった悲鳴を聞いて加我が悦に浸りながら、

「気に入らない学長の顔を踏める日がくるなんて、なんて今日は素晴らしい日なんだ? 『ヤマタノオロチ』サマサマだな。ハァーッハッハッハッ」

「グゥゥゥ・・・分かっておるのか、鍋島? 『ヤマタノオロチ』の行きつく先は破滅だぞ?」

「分かってませんな、学長殿はぁぁぁっ? この私が負ける訳がないではあぁ~りませんかぁぁぁ、ハァーッハッハッハッ」

 上機嫌な高笑いと共に大口を開けた時、床に這う教授の1人が錠剤を加我の口に撃ち込んだのだった。

 錠剤を飲み込んでしまった加我が、

「んんっ・・・何だ、今のは? 酒?」

「酒の成分を10億倍に濃縮したカプセル錠だ。美味うまかろう?」

「馬鹿が、こんなものが効く訳がなかろうがぁぁぁぁぁぁっ!」

 手を振っただけでその倒れてる教授はベキベキベキッと遠隔で身体が逆海老反りになり、

「ギャアアアアアアア」

 と絶命したのだった。

「この圧倒的なパワー、凄過ぎるな。面倒なのにさえ遭わなければ・・・ヒクッ」

 カプセル1つで軽く酔っ払った加我が、

「いかんいかん。さっさと目的を果たすか・・・だが、その前に」

 踏んでる夏雄の頭部をグシャリッと潰し、更に他の教授達の頭も自ら直に、

「や、止めろっ!」

「ヒィィィ」

「頼む、助け・・・」

「グギャアア」

「鍋島様、お願いです、命だけは・・・ギャアアア」

 と踏み潰して回り、その後、ノートパソコンからアクセスして青夜の現住所の情報を得たのだった。
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