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利根川強歩、その1、青龍大学名物、利根川強歩が始まる
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忙しない事に東条院青蓮の葬儀の翌日は利根川強歩の初日だった。
青夜達一組以組の生徒10人と教師1人は(学校が用意したバスではなく)東条院と白虎寺が用意した護衛付きの車列で、既に茨城県の水神市にきていた。
そう、水神市だ。
決してK市ではない。
K市だと気兼ねなく、燃やしたり破壊したり出来ず色々と困るので、茨城県水神市(という創作上の地名)だった。
以組の生徒全員が青龍大学の高等部の体操着を纏い、水神市の利根川沿いの河川敷を歩いてる。
強歩というだけあり、初日から異能力禁止で20キロも歩く事を強いられた。
あくまでも歩くだ。
走るのではなく。
マラソンのオリンピック選手は42・195キロを2時間チョイで走り切るが、それは異能力や『気』を使えない一般人の話。
異能力や気で身体能力を強化すれば20キロなど簡単に移動出来る訳だが、青龍大学の目的はレースではなく、利根川への示威行為なので、ゆっくりと、そして長々と歩いた。
「さすがは東条院のお坊ちゃんだよな、学校が用意したバスを使わないなんて」
三宝兎が呆れたが、青夜はキョトンとして、
「? 移動は青龍大学との取り決めで幼稚舎からオレは自家用車が普通だけど?」
「いやいや、普通じゃないわよ、さすがに」
高等部からの入学組で初めて見た義理の妹の良子もツッコむが、
「警備の関係でどうしてもね」
そんな事を喋る青夜達の後方で、
「ったく、どうして私までがこんな事を」
引率をする春菜がそうボヤいていた。
春菜は銀色が主体でピンク色や黒色のカラーが入ったお洒落なトレーニングウェアの上下を纏っている。靴もちゃんとランニングシューズを履いていた。
春菜のわがままボディーのラインが結構浮き彫りになってるが正直、着てるお洒落なトレーニングウェアは似合っていなかった。春菜が似合う衣裳は露出の激しいボディコン系のワンピースなのだから。
「なら、春菜センセーの一族権限で一年以組だけ宿泊研修を中止にしてくれたら良かったじゃないですか」
「止める訳がないでしょ。青龍大学に散々迷惑を掛けまくってる田中を使って茨城県の馬鹿どもを制圧するのに」
「うわ、センセーとは思えない凄い本音ですよね、それ」
と青夜は呆れた。
まあ『お似合いですよ、そのトレーニングウェア』との青夜のお世辞に『この美しい私にトレーニングウェアなんかが似合う訳ないでしょ、田中』と答える春菜だ。
本音を語ってくれる分、青夜的には助かったが。
「ってかさ、春菜ちゃん。本当に来るのか、そのバビロンとかいう連中?」
三宝兎が握った拳の骨を鳴らしながら問う中、
「それは確実にね、噂を流しておいたから。生意気な連中が東京から来るって」
堂々と言う春菜に青夜が、
「物騒な。平和にいきましょうよ、春菜センセー」
「どの口が言ってるのよ、田中?」
「じゃあ、サクッと潰すんでバビロンをオレに下さいよ」
「上げる訳ないでしょ、白虎寺の総取りよ。傘下に加えるんだから」
「それじゃあ、やる気が出ませんって。せめて彫師だけでも、こっちに・・・」
「何さらっと一番オイシイところをせびってるのよ。青龍大学の生徒なら白虎寺の為に戦いなさい」
などと喋りながら河川敷をダラダラと歩いたのだった。
刺青。
日本には古来から和彫りが存在し(まあ、中国から伝来したに決まってるのだが)、龍や摩利支天やらを愛好家達が彫ってる訳だが、異能力がある世界だ。
当然、その刺青にも効力があり、ちゃんとした『彫師』が彫ると、異能力の能力向上や新たな異能力の取得など様々な効果が得られた。
能力向上や異能力が得られるのは何も和彫りだけではなく、西洋から流れてきたオシャレなタトゥーでも同様な訳だが。
茨城県K市、じゃなかった、水神市では故意に(当初は故意か無自覚か判断が付かなかったが)異能力付与のタトゥーを一般人にばら撒いてる彫師が居り、日本にはまだまだオシャレで金を支払って身体にタトゥーを入れる一般人が少ない事から、好戦的な素人達が異能力を得て、徒党を組んで大ハシャギしていた。
それが今年の春先から始まった茨城県水神市の現状である。
お陰で茨城県内の勢力図は激変。
利根川の茨城県側の水神市も言う事を聞かなくなり始め、利根川沿いを統治する白虎寺が『舐めやがって』と兵隊を送れば万事解決したものを、兵隊を送らずに『そう言えば、そろそろ利根川強歩の時期か。青龍大学の学生にやらせよう』となったので、青龍大学の高等部の生徒である青夜達が駆り出されて迷惑する事態に陥っていた。
その茨城県の水神市でタトゥーを得て暴れてる異能力者チームの名前はバビロン。
バビロンとは古代メソポタミア文明の都市の名前の事だが、別に古代メソポタミア文明とは何の関係もない。
異能力のタトゥーは緑小鬼なのだから。
カッコイイからノリで付けたっぽいが、その名前が持つ言霊だろうか。
ゴブリンの異能力の癖に、かなり凶悪な徒党になりつつあった。
初日は茨城県までの車移動が長かったので、すぐにお昼となった。
春の陽気が射し込む長閑な利根川の河川敷で昼食だ。
一年以組には東条院のお坊ちゃんと真達羅通の女教師が居るのだ。
青龍大学の高等部が業者に発注したおにぎり弁当なんかを食べる訳もなく、宿泊研修の利根川強歩に追従する使用人が重箱を春菜に運んできたのを見て、
「青夜も大概だけど、春菜ちゃんも『そっち側』だったの?」
三宝兎は呆れたのだった。
「そんなに引かないの、関。その分、私も家にこき使われてるんだから。これくらいの待遇、バチは当たらないわよ」
春菜はそう笑いながら料理を食べ始めた。
2人とも食べ切れないくらいの豪華な料理で、青夜に至っては更に東条院の一党のクラスメイト、174センチ、黒髪茶道部の高城貴文が毒味までする始末だった。
「ってか、敵、出ねえよな?」
「あのね、ギン様。タトゥーを入れてるような奴が午前中からこんな河川敷をウロチョロしてる訳がないでしょ? 狙ってくるとしたら夜よ」
昼食を食べる稲穂はそう言いながらも霊獣の鳩のポッピーで周囲を警戒している。
「そういう事、全員覚悟するようにね。そうだ、夜も青龍大学の体操着で居るのよ。その体操着だと公僕が便宜を図ってくれるから」
春菜の言葉を聞いて、三宝兎が、
「ええぇ~、私、寝不足とかマジで嫌なんだけど」
「全員よ」
良子もツッコむ。
「ってか、どこまでやるんですか、春菜センセー? 黒幕の十字軍もやっちゃっていいんですか?」
との青夜の質問に春菜が真面目な顔で、
「十字軍が噛んでるの、茨城県の騒動?」
「らしいですよ」
「どこの情報?」
「もちろん内緒ですよ」
「ったく、まあ、問題ないでしょ、そっちも狩って」
などと物騒な会話をしながら食事をしたのだった。
昼食後に強歩を再開したが、問題の敵はまだ出て来ない。
だが、茨城県には敵対勢力の他にも勢力が居り、散歩中の老婆2人が『おやおや、元気ねぇ~。学生さん?』と声を掛けてきたが、
「白虎寺配下、蜂須賀メイです。いい加減、バビロンとかいう連中を何とかして下さい。既存の勢力が軒並みバビロンに寝返り始めていますので」
と陳情された。
それも一年以組の班は教師を含めて11名なのに何故か青夜に。
いつもの癖で『気』を抑えてたはずなのに、実力を見抜かれたのか、事前情報で顔バレしてたのかは分からないが。
「その原動力はやはり今、噂のタトゥーですか?」
青夜が年寄りに敬意を払って質問すると、
「はい」
「噂通り、異能力を持つ者にタトゥーを加えても先天性の異能力が損なわれないんですか?」
「ええ、『邪の力』が弱い為にそのような現象が」
「分かりました。対処します」
青夜がそう答えると、会釈して老婆2人は歩いていったのだった。
昼2時頃、ようやく最初の地元の異能力者の敵が現れた。
さすがは茨城県だ。異能力者の敵はイメケンヤンキー映画から出てきたような金髪リーゼントにボンタンを履いた7人組の高校生だった。
「おまえらかよ。東京から来てる青龍高校の連中は?」
「えっ、違いますけど」
『落ちこぼれ』を長年演じてきた青夜は真顔で淀みなくそう答えれる性格だったが、暴れたくてウズウズしていた三宝兎が、
「だったら何だってんだよ?」
「いや、女は殴らねえから下がってろ、男どもだけだ」
「はあ? そういうのを雑魚に言われるのが一番ムカつくんだよっ!」
問答無用で三宝兎がカンフー飛び蹴りを喰らわせて7メートル吹き飛ばし、喧嘩が始まった。
まあ、秒で決着は付いたが。
何せ、『ゴブリン』は西洋では最下層の雑魚モンスターなのだから。
因みに、緑小鬼の当て字がされるが、ゴブリンのタトゥーの属性は『邪』だった。
古来より日本での『鬼』の選別は単純にして明快だ。
『角』があるかどうかだけなのだから。
そしてゴブリンには角がなかった。
だが、しかしである。
『桃太郎』の異能力の『鬼退治』の『鬼判定』はかなりの幅があった。
妖怪の一部や幕末でいう夷狄(外国人、主に西洋人)も『鬼』と断じれる古式ゆかりさから、西洋の一部の異能力も『鬼』と分類出来たのだ。
世界大戦では日本国が領土を『拡大』した事で、それはもう『桃太郎』の異能力は恐れられたモノだ。
そんな訳で、ゴブリンのタトゥーは属性が『邪』でありながら、三宝兎の『桃太郎』では『鬼』判定となり、相性最悪だった。
春菜の指示で吹き飛ばされた不良7人は一箇所に集められて、青夜以外の東条院の護衛の男子生徒の榊弁真、高城貴文、宇治川拳、中村四摩が衣服を脱がすと、本当に緑色の西洋小鬼のタトゥーがあった。図柄が横顔で妙にオシャレだったが。
「ねえ、そのタトゥーを彫った人の顔、見た? それとも煙で眠らされてやっぱり見てない?」
春菜の内情を熟知した突っ込んだ質問に、三宝兎に殴られても意識のあった不良は驚きながらも、
「ああ、彫る前に使いの美人に『吸え』と言われて煙を吸ったら6時間くらい意識が飛んで、起きたらもうタトゥーが彫られてた」
「そして、強くなってたのね?」
「ああ」
このゴブリンのタトゥーは異能力付与の効果があるとは言っても精々『身体強化』だ。
倍率も2倍前後。
それでも握力40キロの人間が握力80キロになり、ゲームセンターのパンチングマシーンの100の数値が200になって、垂直跳びのジャンプ力も40センチが80センチになる。
その攻撃力、防御力、敏捷力が2倍になる身体能力を得た素人の異能力者達は、タトゥーなしの人間に対して絶対的な強者となるのだ。
身体強化を得た異能力者に対抗する為に、他の人間もタトゥーをし、どんどんタトゥーをする人間が増えるという図式だった。
タトゥーの属性は『邪』。
邪は夜の方が強いので、2倍の倍率は夜の数値で、昼間だとそれよりも倍率が落ちてはいたが。
だが、このゴブリンのタトゥーの最大の特色は、異能者へ付与しても既に持ってる異能力が損なわれない点だ(人為的に新たな異能力を取得すると前の異能力を失う時があるのだが)。
つまり、持ってる異能力に『身体強化』をプラス出来る訳だ。
どこまでが本当かは分からないが、その所為で既存の異能力者の中にもタトゥーを入れる者達が現れて異能界の勢力図が変わる現象が起きていたのだった。
「何人くらい居るの、そのタトゥーをしてる人?」
「さあな。ウチの高校はまだ100人くらいだけど、地元じゃあ2000人近く居るって話だぜ」
「タトゥーは全部、同じ奴なの? それとも違うのも居た?」
「まあな。運良くコイツのバックに炎や稲妻が入ってるのが」
「運良くって事は・・・使えるのね、そのタトゥーだと炎や稲妻とかが?」
「そうだ」
「何人くらい居るの、そのタトゥーを持ってるの?」
「オレが知ってるのは10人くらいだ」
「じゃあ、タトゥーを入れる前は弱かった癖にタトゥーを入れたら他よりも急に強くなった人は?」
「それは・・・・・・」
「ボスな訳ね、いいわ。言わなくて」
と質問を終わらせた春菜はニッコリと笑いながら人差指でその不良の額をツンッと突き、電撃をバチッと頭部に流して気絶させてから、
「予想以上に数が増えてるわね、百鬼夜行でも起こすつもりかしら?」
そう独りごちたのだった。
青夜達一組以組の生徒10人と教師1人は(学校が用意したバスではなく)東条院と白虎寺が用意した護衛付きの車列で、既に茨城県の水神市にきていた。
そう、水神市だ。
決してK市ではない。
K市だと気兼ねなく、燃やしたり破壊したり出来ず色々と困るので、茨城県水神市(という創作上の地名)だった。
以組の生徒全員が青龍大学の高等部の体操着を纏い、水神市の利根川沿いの河川敷を歩いてる。
強歩というだけあり、初日から異能力禁止で20キロも歩く事を強いられた。
あくまでも歩くだ。
走るのではなく。
マラソンのオリンピック選手は42・195キロを2時間チョイで走り切るが、それは異能力や『気』を使えない一般人の話。
異能力や気で身体能力を強化すれば20キロなど簡単に移動出来る訳だが、青龍大学の目的はレースではなく、利根川への示威行為なので、ゆっくりと、そして長々と歩いた。
「さすがは東条院のお坊ちゃんだよな、学校が用意したバスを使わないなんて」
三宝兎が呆れたが、青夜はキョトンとして、
「? 移動は青龍大学との取り決めで幼稚舎からオレは自家用車が普通だけど?」
「いやいや、普通じゃないわよ、さすがに」
高等部からの入学組で初めて見た義理の妹の良子もツッコむが、
「警備の関係でどうしてもね」
そんな事を喋る青夜達の後方で、
「ったく、どうして私までがこんな事を」
引率をする春菜がそうボヤいていた。
春菜は銀色が主体でピンク色や黒色のカラーが入ったお洒落なトレーニングウェアの上下を纏っている。靴もちゃんとランニングシューズを履いていた。
春菜のわがままボディーのラインが結構浮き彫りになってるが正直、着てるお洒落なトレーニングウェアは似合っていなかった。春菜が似合う衣裳は露出の激しいボディコン系のワンピースなのだから。
「なら、春菜センセーの一族権限で一年以組だけ宿泊研修を中止にしてくれたら良かったじゃないですか」
「止める訳がないでしょ。青龍大学に散々迷惑を掛けまくってる田中を使って茨城県の馬鹿どもを制圧するのに」
「うわ、センセーとは思えない凄い本音ですよね、それ」
と青夜は呆れた。
まあ『お似合いですよ、そのトレーニングウェア』との青夜のお世辞に『この美しい私にトレーニングウェアなんかが似合う訳ないでしょ、田中』と答える春菜だ。
本音を語ってくれる分、青夜的には助かったが。
「ってかさ、春菜ちゃん。本当に来るのか、そのバビロンとかいう連中?」
三宝兎が握った拳の骨を鳴らしながら問う中、
「それは確実にね、噂を流しておいたから。生意気な連中が東京から来るって」
堂々と言う春菜に青夜が、
「物騒な。平和にいきましょうよ、春菜センセー」
「どの口が言ってるのよ、田中?」
「じゃあ、サクッと潰すんでバビロンをオレに下さいよ」
「上げる訳ないでしょ、白虎寺の総取りよ。傘下に加えるんだから」
「それじゃあ、やる気が出ませんって。せめて彫師だけでも、こっちに・・・」
「何さらっと一番オイシイところをせびってるのよ。青龍大学の生徒なら白虎寺の為に戦いなさい」
などと喋りながら河川敷をダラダラと歩いたのだった。
刺青。
日本には古来から和彫りが存在し(まあ、中国から伝来したに決まってるのだが)、龍や摩利支天やらを愛好家達が彫ってる訳だが、異能力がある世界だ。
当然、その刺青にも効力があり、ちゃんとした『彫師』が彫ると、異能力の能力向上や新たな異能力の取得など様々な効果が得られた。
能力向上や異能力が得られるのは何も和彫りだけではなく、西洋から流れてきたオシャレなタトゥーでも同様な訳だが。
茨城県K市、じゃなかった、水神市では故意に(当初は故意か無自覚か判断が付かなかったが)異能力付与のタトゥーを一般人にばら撒いてる彫師が居り、日本にはまだまだオシャレで金を支払って身体にタトゥーを入れる一般人が少ない事から、好戦的な素人達が異能力を得て、徒党を組んで大ハシャギしていた。
それが今年の春先から始まった茨城県水神市の現状である。
お陰で茨城県内の勢力図は激変。
利根川の茨城県側の水神市も言う事を聞かなくなり始め、利根川沿いを統治する白虎寺が『舐めやがって』と兵隊を送れば万事解決したものを、兵隊を送らずに『そう言えば、そろそろ利根川強歩の時期か。青龍大学の学生にやらせよう』となったので、青龍大学の高等部の生徒である青夜達が駆り出されて迷惑する事態に陥っていた。
その茨城県の水神市でタトゥーを得て暴れてる異能力者チームの名前はバビロン。
バビロンとは古代メソポタミア文明の都市の名前の事だが、別に古代メソポタミア文明とは何の関係もない。
異能力のタトゥーは緑小鬼なのだから。
カッコイイからノリで付けたっぽいが、その名前が持つ言霊だろうか。
ゴブリンの異能力の癖に、かなり凶悪な徒党になりつつあった。
初日は茨城県までの車移動が長かったので、すぐにお昼となった。
春の陽気が射し込む長閑な利根川の河川敷で昼食だ。
一年以組には東条院のお坊ちゃんと真達羅通の女教師が居るのだ。
青龍大学の高等部が業者に発注したおにぎり弁当なんかを食べる訳もなく、宿泊研修の利根川強歩に追従する使用人が重箱を春菜に運んできたのを見て、
「青夜も大概だけど、春菜ちゃんも『そっち側』だったの?」
三宝兎は呆れたのだった。
「そんなに引かないの、関。その分、私も家にこき使われてるんだから。これくらいの待遇、バチは当たらないわよ」
春菜はそう笑いながら料理を食べ始めた。
2人とも食べ切れないくらいの豪華な料理で、青夜に至っては更に東条院の一党のクラスメイト、174センチ、黒髪茶道部の高城貴文が毒味までする始末だった。
「ってか、敵、出ねえよな?」
「あのね、ギン様。タトゥーを入れてるような奴が午前中からこんな河川敷をウロチョロしてる訳がないでしょ? 狙ってくるとしたら夜よ」
昼食を食べる稲穂はそう言いながらも霊獣の鳩のポッピーで周囲を警戒している。
「そういう事、全員覚悟するようにね。そうだ、夜も青龍大学の体操着で居るのよ。その体操着だと公僕が便宜を図ってくれるから」
春菜の言葉を聞いて、三宝兎が、
「ええぇ~、私、寝不足とかマジで嫌なんだけど」
「全員よ」
良子もツッコむ。
「ってか、どこまでやるんですか、春菜センセー? 黒幕の十字軍もやっちゃっていいんですか?」
との青夜の質問に春菜が真面目な顔で、
「十字軍が噛んでるの、茨城県の騒動?」
「らしいですよ」
「どこの情報?」
「もちろん内緒ですよ」
「ったく、まあ、問題ないでしょ、そっちも狩って」
などと物騒な会話をしながら食事をしたのだった。
昼食後に強歩を再開したが、問題の敵はまだ出て来ない。
だが、茨城県には敵対勢力の他にも勢力が居り、散歩中の老婆2人が『おやおや、元気ねぇ~。学生さん?』と声を掛けてきたが、
「白虎寺配下、蜂須賀メイです。いい加減、バビロンとかいう連中を何とかして下さい。既存の勢力が軒並みバビロンに寝返り始めていますので」
と陳情された。
それも一年以組の班は教師を含めて11名なのに何故か青夜に。
いつもの癖で『気』を抑えてたはずなのに、実力を見抜かれたのか、事前情報で顔バレしてたのかは分からないが。
「その原動力はやはり今、噂のタトゥーですか?」
青夜が年寄りに敬意を払って質問すると、
「はい」
「噂通り、異能力を持つ者にタトゥーを加えても先天性の異能力が損なわれないんですか?」
「ええ、『邪の力』が弱い為にそのような現象が」
「分かりました。対処します」
青夜がそう答えると、会釈して老婆2人は歩いていったのだった。
昼2時頃、ようやく最初の地元の異能力者の敵が現れた。
さすがは茨城県だ。異能力者の敵はイメケンヤンキー映画から出てきたような金髪リーゼントにボンタンを履いた7人組の高校生だった。
「おまえらかよ。東京から来てる青龍高校の連中は?」
「えっ、違いますけど」
『落ちこぼれ』を長年演じてきた青夜は真顔で淀みなくそう答えれる性格だったが、暴れたくてウズウズしていた三宝兎が、
「だったら何だってんだよ?」
「いや、女は殴らねえから下がってろ、男どもだけだ」
「はあ? そういうのを雑魚に言われるのが一番ムカつくんだよっ!」
問答無用で三宝兎がカンフー飛び蹴りを喰らわせて7メートル吹き飛ばし、喧嘩が始まった。
まあ、秒で決着は付いたが。
何せ、『ゴブリン』は西洋では最下層の雑魚モンスターなのだから。
因みに、緑小鬼の当て字がされるが、ゴブリンのタトゥーの属性は『邪』だった。
古来より日本での『鬼』の選別は単純にして明快だ。
『角』があるかどうかだけなのだから。
そしてゴブリンには角がなかった。
だが、しかしである。
『桃太郎』の異能力の『鬼退治』の『鬼判定』はかなりの幅があった。
妖怪の一部や幕末でいう夷狄(外国人、主に西洋人)も『鬼』と断じれる古式ゆかりさから、西洋の一部の異能力も『鬼』と分類出来たのだ。
世界大戦では日本国が領土を『拡大』した事で、それはもう『桃太郎』の異能力は恐れられたモノだ。
そんな訳で、ゴブリンのタトゥーは属性が『邪』でありながら、三宝兎の『桃太郎』では『鬼』判定となり、相性最悪だった。
春菜の指示で吹き飛ばされた不良7人は一箇所に集められて、青夜以外の東条院の護衛の男子生徒の榊弁真、高城貴文、宇治川拳、中村四摩が衣服を脱がすと、本当に緑色の西洋小鬼のタトゥーがあった。図柄が横顔で妙にオシャレだったが。
「ねえ、そのタトゥーを彫った人の顔、見た? それとも煙で眠らされてやっぱり見てない?」
春菜の内情を熟知した突っ込んだ質問に、三宝兎に殴られても意識のあった不良は驚きながらも、
「ああ、彫る前に使いの美人に『吸え』と言われて煙を吸ったら6時間くらい意識が飛んで、起きたらもうタトゥーが彫られてた」
「そして、強くなってたのね?」
「ああ」
このゴブリンのタトゥーは異能力付与の効果があるとは言っても精々『身体強化』だ。
倍率も2倍前後。
それでも握力40キロの人間が握力80キロになり、ゲームセンターのパンチングマシーンの100の数値が200になって、垂直跳びのジャンプ力も40センチが80センチになる。
その攻撃力、防御力、敏捷力が2倍になる身体能力を得た素人の異能力者達は、タトゥーなしの人間に対して絶対的な強者となるのだ。
身体強化を得た異能力者に対抗する為に、他の人間もタトゥーをし、どんどんタトゥーをする人間が増えるという図式だった。
タトゥーの属性は『邪』。
邪は夜の方が強いので、2倍の倍率は夜の数値で、昼間だとそれよりも倍率が落ちてはいたが。
だが、このゴブリンのタトゥーの最大の特色は、異能者へ付与しても既に持ってる異能力が損なわれない点だ(人為的に新たな異能力を取得すると前の異能力を失う時があるのだが)。
つまり、持ってる異能力に『身体強化』をプラス出来る訳だ。
どこまでが本当かは分からないが、その所為で既存の異能力者の中にもタトゥーを入れる者達が現れて異能界の勢力図が変わる現象が起きていたのだった。
「何人くらい居るの、そのタトゥーをしてる人?」
「さあな。ウチの高校はまだ100人くらいだけど、地元じゃあ2000人近く居るって話だぜ」
「タトゥーは全部、同じ奴なの? それとも違うのも居た?」
「まあな。運良くコイツのバックに炎や稲妻が入ってるのが」
「運良くって事は・・・使えるのね、そのタトゥーだと炎や稲妻とかが?」
「そうだ」
「何人くらい居るの、そのタトゥーを持ってるの?」
「オレが知ってるのは10人くらいだ」
「じゃあ、タトゥーを入れる前は弱かった癖にタトゥーを入れたら他よりも急に強くなった人は?」
「それは・・・・・・」
「ボスな訳ね、いいわ。言わなくて」
と質問を終わらせた春菜はニッコリと笑いながら人差指でその不良の額をツンッと突き、電撃をバチッと頭部に流して気絶させてから、
「予想以上に数が増えてるわね、百鬼夜行でも起こすつもりかしら?」
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