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高校デビューに成功した者の末路

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 まだ始業式から(休日を含み)1週間しか経過していない4月中旬。

 青龍大学の高等部の校舎前に東条院宗家代理の藤名金城が用意した東条院家の3両の車列が登校してきた。

 校舎前の車降り場に3両が停車して、まずは前後の護衛の車から降りた青龍大学の高等部の制服を纏った生徒達が前の車から2人、後ろの車から1人降り、降り場で車の到着を待ってた生徒達20人以上の中から代表者が真ん中の車に近付いて後部ドアを開け、野々宮稲穂に続いて田中青夜が下車すると、20人以上の生徒達が一斉に、

『おはようございます、青夜様』

 と挨拶をしたのだった。

(中等部までの通学ではこんな東条院の宗家屋敷みたいな挨拶、一度もなかったんだけどなぁ~。はぁ~、これが高校デビューって奴か)

 お坊ちゃん育ちで世間知らずの青夜が高校デビューを誤解しつつ、

「ああ、おはよう」

 制服に青龍大学の高等部に通学する生徒の中でも一際優秀な生徒を示す黄金の肩章を付けた青夜は心底の憂鬱さとは裏腹に明るく挨拶した。

 総ては始業式のあった日の夜に東条院の宗家代理の藤名金城と白虎寺大僧正の白虎寺雷司の連名で東条院の宗家簒奪を図った百合一族の追討令を出したのがきっかけだ。

 お陰で百合一族は日本から消える事となった。

 元々、東条院にフルボッコにされて白虹、百子の親子も死に、青龍大学や田中の関係者を襲撃して返り討ちにあっていた訳だが・・・

 東条院の宗家代理と白虎寺のトップの連名の追討令が配布された事により、逃亡や協力勢力に身を隠していた百合の残党は、無関係な連中からの追撃や味方と思っていた勢力の裏切りに遭い、最後まで根絶やしにされていた。

 青龍大学には高等部だけで3学年合わせて百合一族が20人以上通学していたが全員(死亡、または運が良ければ捕縛により)退学処分となった。

 大学や他の学部も合わせると50人を越えるらしい。

 それら友人知人の死や捕縛によって、東条院が四柱と称される偉大な名家かを生徒や教師達は改めて再認識する事となった。

 副学長の鍋島もいつの間にか辞めてるし。

 百合一族だけではなく、野々宮一族には忠誠の起請文の提出を強要し(世間的にはそうなってる)、起請文の提出を断った肥後一族も暴力で屈伏させてる(世間ではそうなってる)。

 それだけではない。

 関係が全くない(転校していった)被害者のはずの月御門の東京分家などは(『夢見の総崩れ』はまだ世間に出回ってはいないのに)入学式の3日後に当主が代替わりしていた。

 それも新当主は京都本家の親類でその日に東京分家に養子に入った19歳の娘、萌美もえみで、東京分家の月御門の血が当主から弾かれる事態となっており、(時期が時期だけに憶測だけで、世間的に)これまた『東条院が何かした』となっている。

 他にも入学式の後に警察等々に被害届を出した(叙勲情報が流れて全員がヤバイと思って被害届を引き下げたのに)27の家と入学式で声を掛けた7家や始業式の通学中に車通学の妨害をした8家に対して、どこからか情報を入手した東条院が個別に訪問して迷惑料と称する大金、または生徒と保護者の両方に忠誠を誓う起請文を強要したり、始業式の日に逮捕された東京月御門の陪臣の2人は『従四位を狙ったのがバレて実刑になる公算が高い』との話もある。

 お陰で東条院は今や宗家屋敷が呪詛汚染する前以上のアンタッチャブルな名門家に返り咲き・・・

 そして連名の追討令を出した、つまりは始業式の翌日からは青龍大学の高等部で青夜の登校時にこの整列の出待ちが誕生していた。

 その筆頭は後部ドアを開けた代表者の身長173センチ、オシャレ線のある坊主頭の榊弁真だ。

「若様、御鞄をお持ちします」

「ああ、頼む」

 初日に無駄な抵抗を諦めて、受け入れた青夜は平然と鞄を渡した。

 車降り場で待ち伏せされた初日に青夜が、

「藤名のジイの指示か、これ?」

宗家代理・・・・の指示です」

「全員、東条院の兵隊なのか?」

「まさか、たったの16人だけですよ」

「そんなに居た訳ね」

「そりゃ若様が通学されてるんですから」

 との会話で青夜は本当に無駄な抵抗を諦めている。

 東条院のお坊ちゃんである青夜に青龍大学内にも『(幼稚舎から)生徒の護衛が付いていたのだ』と遅蒔きに知って。

 宗家当主の父親の青蓮は青夜に伸び伸びと学校生活を送らせる為に(2年下の異母弟の方も)『陰ながら』の護衛に徹しさせていたが、現在の東条院の状況で青夜に死なれては絶対に・・・困る宗家代理の金城が『東条院の』を見せつける為にこのような露骨な出迎えをやらせていた。

 総ては東条院の宗家代理に据えようと藤名金城を呼び戻して『東条院宗家への出戻り』を防ごうと自己保身に図った『青夜の悪手が招いた結果』という訳だった。

 次の(桑原家の)車で降りてきた三宝兎が、

「いつ見ても凄い大名行列だな? さすがは東条院のお坊ちゃん」

 そう茶化してきた。

「完全に誤解だからな、ギン様。中等部の卒業まではこんなんじゃなかったんだからっ! 始業式の日は違っただろ?」

「はいはい」

 全然信じていない返事が三宝兎から戻ってきて、青夜は、

「信じてくれよぉ~。オレは中等部までは登校に迎えなんてない普通の学生だったんだってぇ~」

 声を大にしてそう主張したが、出迎え生徒20人以上を引き連れた青夜の言葉に説得力はなかった。





 白虎寺の『四柱協定』違反疑惑(あくまで疑惑段階での自決・・で決着)に伴い、白虎寺が傘下の青龍大学に介入し、青夜のクラスは1学年だけ特別に新設された組となった(いろはにほへとの『い』の漢字表記)。

 青夜と、1年のランクSS以上の野々宮稲穂、関三宝兎。

 同学年の東条院の兵隊が6人。

 それに青夜が養子に入った田中家系譜の同年の義理の妹、坂田良子。

 これが以組の生徒だった。

 と言うか、睦組の浅野陽香も東条院の兵隊だと判明した。まあ、あんな事があった入学式の翌日に平然と登校してきたのだから陣営を知れば納得だが。

 三宝兎でなくとも、青夜自身が『さすがは東条院のお坊ちゃんだな。守られてるぅ~』と皮肉げに思ったものだ。

「どうして私まで」

 以組の新設でクラス替えとなった良子が恨めしそうに青夜を見る中、

「仕方ないだろ、良子にオレの巻き添えで死なれた日には養子に入ってる田中家でオレが大変な目に遭うんだからさ。入学式の後、大変だったんだぞ、おまえまでコールをさせた所為で葉月からお叱りを受けて」

 そう持論を主張したものだった。

 そして一年以組の担任は白虎寺の七人会議がわざわざ青龍大学の高等部に派遣してきた女教師の真達羅通しんだらどおり春菜だった。

 26歳。身長164センチ。茶髪パーマをオシャレにアップにしたキャバ嬢風の髪型で、美貌と意志の強さ、それに知性を併せ持つ。紺色のパンツスーツが良く似合っていた。胸が苦しいのか、カラーブラウスを第2ボタンまでを開いて胸元を露出させていたが。

 だが、問題は十二神将の寅将の『真達羅しんだら』に『とおり』の付いた個性的な名字だ。

 こんな名字、日本では白虎寺の一族しかあり得ない。

 真達羅通家は江戸時代の徳川幕府で言えば一橋家に相当し、白虎寺という家名は『当主』『妻』『後継者』『なら』『きょうと』『つしま』『裏』の最大7人しか名乗れず、他の一族は全員が真達羅通家に入れられる方式が取られていた。

 この真達羅通の家門システムは外部からは誰の血統か分からない仕組みなので、かなり問題がある。家門に入って3代までは真達羅通の名字が名乗れたはずだ。白虎寺を名乗る7人中『妻』を除く6人が不測の事態で空席になれば補填される要員でもあった(お陰で白虎寺の不慮の死は毎回陰謀が渦巻くのだが)。

 異能界で分かってる事はただ一つ。

 真達羅通なんてふざけた名字の奴が居たら要注意だって事だけだ。

 お陰で春菜のブラウスの胸元が開いてても、思春期真っ只中の高校男子は怖くて興奮も出来なかった。

 因みに生徒指導室に居た西丸藤子は1日だけでまた中等部に帰っている。藤子に同情した青夜の指示だったが。

「高等部からの入学組の関や坂田も、青龍大学が普通の高校でない事は噂の入学式や始業式で理解したわね? そんな訳で普通じゃない学校の青龍大学では4月下旬に普通じゃない宿泊研修があるわ。宿泊研修は当然、中等部からの青龍大学名物、利根川強歩きょうほよ」

「春菜ちゃん、何なの、それ?」

 三宝兎の質問に、春菜が、

「江戸時代、徳川の御代では利根川の氾濫は幕府が抱える難題の1つでね。それを解消する為に幕臣や有識者を集めた勉強会、並びに幕府お抱えの氾濫阻止の異能力者集団を総じて『青龍塾』といい、それが青龍大学の前身になる訳よ。まあ、江戸城無血開城の際に有益な組織は総て明治新政府軍が接収し、その後、論功行賞で再分配されて、幕末では異能力者がたったの4人だけのそんなちゃっちいのが白虎寺に回ってきて、当時の白虎寺も『こんなもの要らないぞ』って不満タラタラだったらしいけど、それでも大切に教育機関にして発展させて、今の青龍大学にまで成長させたってワケ。その歴史の経緯から利根川と青龍大学は切っても切れない関係でね。青龍大学の生徒にも利根川が危険な川だと理解して貰う為に宿泊研修や校外学習等々で散策させるのよ」

 と長々と説明してから、

「というのが明治以来の青龍大学が掲げてるお題目よ」

 ニヤリと笑った。

 三宝兎が、

「お題目? 建前って事か? じゃあ、実際は?」

「利根川界隈の地元の異能力者全員に利根川が白虎寺の縄張りだって示す為の威嚇行為よ。何せ、長いからね、利根川は。そこを全部、白虎寺がいただく為に青龍大学の生徒を使ってるって訳よ」

「何だよ、それ?」

「だって遷都直後の明治に御上からゴーサインが出ちゃったんだもん。明治の混迷期に情勢不安の関東の制圧を白虎寺にやらす為だったと思うけど。それで利根川界隈を白虎寺が貰って、現在はもう白虎寺に逆らうバカは滅多に居ないんだけど、それでも毎年、少なからずイザコザがあってね。まあ、大丈夫でしょう。一年以組の担当は河口の茨城県だから」

「どこが大丈夫なんですか、真達羅通センセー? バビロンが居るのに・・・」

 青夜の苦情は春菜の、

「その名字で呼ぶなって言ったでしょうが、田中。私も東条院って呼ぶわよ?」

 という言葉にかき消された。青夜が苦笑しながら、

「それだけは勘弁して下さい、春菜センセー」

 仕方なく言い直すと、春菜が満足して、

「最初からそう呼んでればいいのよ。それにしてもバビロンの情報まで既にキャッチしてるなんて腕っ節じゃなくて頭もキレる訳ね、田中は。楽が出来そうで助かるわ」

 と勝手な事を言ってから、

「茨城県は今少し面倒な事になっててね。宿泊研修では全員、背後から飛んでくる矢以上に前側に注意するようにね。下手すると大怪我するから」

 と説明したのだった。





 ◇





 一年以組の武術の授業風景は壮絶だった。

 まず授業は男子と女子で分けられる事はなかった。

 これは一年の生徒が減少したのが理由だからではない。

 以組だけの特例の措置だ。

 以組の生徒は男子女子関係なく全員が担当教師達よりも既に強かったからだ。

 なので武術系の授業は総て自習となり、中でも抜きん出てるのが外部入学組の関三宝兎と中等部卒業まで無能を演じていた田中青夜で、その2人が高等部にある異能力バトル専用の闘技場で手合わせをしてる訳だが、

「今日こそ、その面に一発入れてやるからな、青夜っ!」

 三宝兎が出力最大で闘技場内の試合場全域に視認出来る桃の香りを展開させて30人に分身して、その分身全部にも訓練着の上から鎧化した桃の香りを纏わせて、青龍偃月刀で斬り掛かっていた。

「マジで勘弁してくれよ、ギン様っ! 手の内を大っぴらに見せるのはお互い拙いだろっ? 敵に情報を渡さないのも戦略なんだぞっ?」

 青夜も8人に実体分身して応戦中だ。

 地上ではなく、双方が明らかに試合場から3メートルは上空で浮遊停止して、その上、空中をピョンピョンと移動していた。

 桃太郎は日本一だし、関帝信仰の関羽は武神でもあるので三宝兎は、まあ、強い。

 通常の相手なら三宝兎は余裕で倒せるのだが、相手は格上の青夜だ。

 まだ勝てた事はなかった。

 その青夜の方もあんまり技を見せて手の内を明かす事をしたくなく(8人分身や空中ジャンプを晒すのも本当は嫌なのだが)30人で迫る三宝兎の分身を(50センチ級に抑えた)青龍の拳圧で撃ち落としていた。

 こんな異能力バトルを高出力で、それも闘技場で展開してるものだから、校舎からは他のクラスの生徒が『眼』を飛ばして、空いてる教師は直接顔を見せて見物していた。

「そんなの知るかよっ!」

「ああ、もうっ!」

 この日も青夜は三宝兎に突っ掛かられて武術の授業をする破目になった。





 実力がバレた青夜の青龍大学の高等部の学生生活はこんな感じで本当に大変だった。
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