実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド

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3月末日、シャンリーの悲劇

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 田中家で空手をやってるのは一狼、葉月、シャンリーだけだ。

 愛は京都陰陽師で戦闘系の日本舞踊の天狗扇が使え、弥生は母親が東条院一党の封魔忍軍だったので幼少から忍者修行、アンジェリカはサイレント・キリングが出来て更には独自に忍者を雇って修行している。

 青夜は無能でも嫡子なので東条院流青龍拳だが、これはルーツは中国拳法っぽい。

 そんな訳で幼少期から田中ビルの1階の空手道場に週3で通うシャンリーは空手2段の腕前だった。

 春休みも練習に励む。

 眼鏡女子のシャンリーは一子相伝の異能の所為で中国の党本部に狙われているので(自分の身を守る為の)自身を鍛えるのに余念がない。

 そして空手の練習をした後は、そのまま自宅の3階に上がって空手の練習で流した汗をシャワーで洗い流すのが日課だったが、3月中旬のある日、普段通りに練習後にシャワーを浴びて浴室から脱衣所に出て『しまった』とシャンリーは気付いた。

 3階の脱衣所にはタンスはあるが、タンスに入ってるのは下着やバスタオルやTシャツだけだ。服が入っていない。

 これまでは男は父親の一狼だけで何の問題もなかったが昨日から青夜という義理の弟が出来た。

 3階にはキッチンダイニングとリビングがあるのでかち合う可能性がある。

 シャツを着ても下半身はパンツのままだ。

 汗で汚れた空手着はあるが、シャワー後に着たくはない。

 『まあ、大丈夫でしょう』とTシャツとパンツ姿で脱衣所を出たシャンリーはバッタリと青夜と出会ってしまった。

 青夜が困った顔をしながら、

「お似合いですよ、ピンクのパンツ」

「全然フォローになってないわよっ!」

 そう赤面しながらシャンリーは自室に逃げていったのだった。

 それが青夜が田中家に引き取られた翌日の昼間の出来事だった。





 ◇





 シャンリーは田中ビルの2階のトレーニングジムも利用している。

 筋肉よりも持久力が欲しいシャンリーは、ランニングマシーンで30分間走るのが常だ。

 ランニングするなら外を走ればいいと思うかもしれないが、それは狙われていない一般人の考えだ。

 シャンリーはマジで中国政府の異能部隊に狙われてるので、都内などで走ったら『捕獲して本国に強制連行してもいいですよ』と同意語なのでランニングマシーンを使った。

 30分間、余力が残らぬほどのハイペースで走ったらどうなるか?

 もちろん汗だくだ。

 3月下旬のシャンリーのトレーニングウエアに肌の露出は存在しない。

 30分間走って温まった身体はスポーツドリンクのガブ飲みぐらいで冷える訳もなく、早くシャワーを浴びたい。それが心からの願望だった。

 そう、1秒でも早くだ。

 2階のトレーニングジムを出て3階へと向かう階段は田中家のプライベート空間である。

 階段を上りながら上半身のウエアを脱いでブラ姿で3階の玄関を潜った時、シャンリーは青夜とはち合わせた。

「お似合いですよ、そのトレーニングウエア」

「だからフォローしないでよ。どうして3階に居るのよ?」

「ええっと、自動掃除機のゴミ掃除をするという栄誉を賜りまして」

「もういいわ」

 正直何を言ってるのか理解不能だったが、ブラ姿のシャンリーは恥入りながらバスルームへと向かったのだった。





 ◇





 シャンリーは今年の春から高3、つまりは受験生だ。

 その為、春休みはトレーニング以外は自宅で受験勉強漬けだ。

 第1進学希望に狙うはアメリカ合衆国の大学。

 アメリカ合衆国の大学への進学希望は、シャンリーがアメリカ合衆国生まれだからでも、ステータスだからでもない。

 安全保障面での問題だ。

 日本よりもアメリカの方が中国に狙われてるシャンリーからすれば安全なので。

 まあ、アンジェリカに頼んだら入学は確実なのだが、アンジェリカの一族に借りを作るのは最終手段だ。

 なので、真面目に夜遅くまで英文で勉強した。

 そして、田中家の朝食はどんな事があっても朝7時から始まる。

 これは決定事項だ。

 わがままアンジェリカが2年前に田中家にやってきた直後に論争となって、家族会議で決まった事なのだから。

 その為、夜遅くまで勉強したシャンリーは寝不足で頭がまだ眠ってる状態でベットから出て、3階の自室から同フロアのキッチンダイニングへと寝着のスエットの上下で出向いた訳だが、

「ちょ、シャンリー、パンツ丸出しよ。ズボンはどうしたの?」

 葉月が慌てて指摘して、

「えっ?」

 視線を下半身に向けると、本当にいつの間にかズボンが脱げてて下はパンツ姿だった。

 テーブルには青夜が既に着席してる。

「ええっと、似合ってるよ、黒も」

「だから、フォローになってないわよっ!」

 慌ててシャンリーは自室にズボンを取りに戻ったのだった。

 それが3月下旬の出来事だった。





 ◇





 だが、これらの出来事はシャンリーが見舞われた最大の悲劇に比べれば些細なものだ。

 シャンリー最大の悲劇は3月末日に起こった。

 その日も午前中からトレーニングジムで(午前中なのは利用客が少ないからだ)ランニングマシーンを走った訳だが、切り上げてシャワーに入ろうと3階に戻ったら、先客が居た。

 アンジェリカだ。アンジェリカが外出前にシャワーを使っていたのだ。

 シャンリーは30分間走って汗だくだ。今すぐシャワーに入りたいのにアンジェリカの長いシャワータイムを待てる訳もない。

 なら、どうするか?

 別の階のバスルームを使えばいい。田中家には4階と5階にもバスルームがあるのだから。

 4階は義理の弟の青夜の生活空間なので論外。

 正解は5階だ。

 そんな訳で5階に出向き、

「ママ、シャワーを借りるわね。3階のはアンが使ってるから」

 と一応断って、3階と同系の脱衣所で衣服を脱いでバスルームに入ると、バスルームに人が居た。屈んで排水溝の髪を取ってる。

 そして、お風呂掃除用の洗剤の香り。

 お風呂掃除をしてた訳ね。

「ママ、掃除なら後にして。こっちは今すぐにでもシャワーを浴びたいんだから」

 とシャンリーが言い放ったのはシャワーに入る為に眼鏡を外した為だ。

 シャンリーはド乱視なのだ。

「ほら、ママ、早く出てよ。こっちは汗だくなんだから」

 こうして掃除していた人物を追い出してシャンリーはシャワーに入った訳だが、昼食時間に3階のキッチンダイニングに向かうと愛が居なかった。

「あれ、ママは?」

「ママなら朝からパパと百貨店巡りよ。ほら、明日、東条院の宗家屋敷にパパが出向くから。お祝いの品選びとか、着ていく服選びとか」

「・・・? ママならさっき5階のお風呂場に居たわよ? 掃除してたし」

「何言ってるの、それは青夜でしょ? お風呂掃除をしたいって言うから」

 との葉月の言葉で、シャンリーはピシッと固まり、ギギギィッとぎこちなく顔を青夜に向けると、青夜もバツが悪そうに、

「さすがは姉妹だね、アンとお揃いだなんて」

「フォローになるか、そんな言葉がぁぁぁぁぁっ!」

 シャンリーは昼食時間に絶叫する破目になったのだった。





 因みにシャンリーとアンジェリカの何がお揃いかはヒミツだ。
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