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本編
週1の採血検査と美術館鑑賞
しおりを挟むナノマシンのステータス数値の30オーバーで倒れた柚子太は週に一度、病院でメディカルチェックを受ける事が義務付けられており、採血を受けていた。
土曜日の午後に、である。
平日の他の外来客が待つ中、順番割り込みの方が柚子太的には助かったが、土曜日の午後に柚子太を都内に釘付けにするのが柚子太の両親の思惑なのでこの時間帯となっていた。
龍馬医大総合病院は、土曜日の午後に外来客は居らず、セレブ達による貸し切りである。
龍馬医大総合病院の採血室で血を抜かれながら柚子太はスマホの画面で弐賀財閥経由で入手した衛星画像を見ていた。
地表には丸い更地が出来ている。
中国の重慶があったエリアのど真ん中に。
重慶の人口は2020年調べで3205万人。
世界で人口トップの大都市だ。
それが消滅していた。
当然、世界中が大騒ぎだ。
情報統制が出来る中国政府は認めていないが。
(未来のロボット軍団に負けたらこうなる訳ね~。「敗北」の定義は分からないが)
そして2年チョイ前に同じ現象でイタリアの都市ローマが消滅していた。
当時はロシアの秘密兵器の陰謀論が囁かれていたが、
(ローマの消滅はEUと敵対していたロシアの秘密兵器の陰謀説とかじゃあなくて未来からの攻撃だったと。ってか、ブルーフィールドが全世界規模だったとはね。東京がこうなってないのはナノマシン戦闘員の先輩達が奮闘してくれたお陰って事か。頭が下がるな。まあ、オレが引き継いだからには負けるつもりはないけどね)
柚子太は不敵に笑ったのだった。
龍馬医大総合病院には柚子太の他にも数名、貸し切り状態の病院に来ており、その一人が昨夜ブルーフィールドで知り合ったナノマシン戦闘員の手離イバウだった。
身長173センチ。ドイツ系のクオーターで、栗色の髪のポニーテールと白人の肌と美貌のクールビューティーだ。外国人の血を引くだけありナイスバディーでもある。
ブルーフィールド内ではイバウは自慢すらしなかったが、調べてみれば、夏はアーチェリーのオリンピック代表最有力選手。冬はクロスカントリースキーのオリンピックの強化選手で身体能力は抜群だった。
「おっ、妙なところで。どうしたの?」
「練習で爪を割っちゃってね。コーチが念の為にって」
ジャージ姿のイバウが笑う中、
「プロジェクトからの連絡はもうきた?」
「まだだけど中国の都市の消滅がロボット軍団の仕業だと知った以上は参加ね」
「じゃあ、伝えてとくね。それと借りた物は今夜にでも」
「ええ」
「そのポニーテール、似合ってるよ」
「あら、ありがと。じゃあね」
「うん、また」
柚子太はイバウと廊下で別れたのだった。
そんな出会いごときで終わらないのが主人公体質の柚子太である。
龍馬医大総合病院の無人に近い廊下の角を曲がれば、暇を持て余した制服女子の一人が廊下で壁に右足を掛けていた。問題は壁に掛けてる足の高さだ。新体操の選手なのか、足を真っ直ぐ伸ばして、爪先は頭の高さだった。
つまりは壁の支えを借りての開脚のストレッチをしており、スカートがめくれてピンク色のパンツが丸見えだった。背を向けてるのも災いして柚子太の存在に気付いていない。
ここで柚子太の取るべき選択は、
1:そのまま出口に向かうべく廊下を進み、その女子の横を通過する。
2:廊下を戻って事なきを得る。
どちらかなのだが、主人公体質の柚子太は騒動に巻き込まれる体質なので、
3:廊下を移動中の看護師が運んでた医療器具をガシャンと落としてその音でその女子が振り返り、異性の柚子太の存在が気付く。
これが強制的に選ばれたのだった。
振り返った女子は黒髪パーマにカチューシャを付けた小顔の美人だ。骨格は新体操選手ではなく、もっと華奢だった。それもそのはず。幼少期にクラッシックバレーをかじった事のあるだけのアイドルだったのだから。
出井亜麻。アイドルグループ月乃丘44の3期生だ。
芸能関係に疎い柚子太は当然のように知らなかったが。
柚子太は仕方なく出口に向かって歩き出し、開脚を止めた亜麻が、
「えっと、見た?」
「えっ、オレに聞いてるの?」
「そうだけど」
「何を?」
「私の白の下着をだけど」
「白は見てないね」
「見てるじゃないの」
「見せられたの間違いでは?」
「あれ――えっと、もしかして」
「?」
「いえ、何でもないわ。帰るならどうぞ」
「?」
柚子太が不思議そうにしてる廊下を歩き去ろうとする中、廊下に面したスライドドアが開き、
「お待たせ、亜麻ちゃん」
部屋から出てきたのは制服姿の礼智瑠夏だった。
(おっと、ここでバッティングするか)
柚子太が思わず視線を送ると、その視線で「正体に気付かれた」と悟った瑠夏が、
「ただの微熱で、どこも悪くないから変な誤解しないでね」
「誰にも言いませんよ。後、応援してます」
柚子太はそう瑠夏にリップサービスをすると、亜麻が、
「私には?」
「えっ、もしかして芸能関係なの? それでは」
柚子太はそのまま歩いていったが、その背後では、
「私に気付かないなんて信じらんない。私の方がルカより有名よね? センターをやった事があるんだから?」
「私に聞かないでよ」
そんな事を瑠夏と亜麻は喋ったのだった。
◇
柚子太は柚子太で忙しい。
弐賀財閥総帥の弐賀桂敏の召集を受けていた。無論、重慶が消滅した煽りで急遽決まった召集である。
弐賀財閥の東京本社ビルの総帥室で、
「重慶のあれは絵梨が噛んでる夜のでいいんだよな?」
「はい」
「東京が重慶のようになるのは困るが絵梨の方が大事だ。その認識で行動するのように」
「分かりました」
「では帰ってよし」
会見は僅か30秒で終わった。
「TELで済ませろよ、それくらい」とは柚子太は思わない。顔に出てしまうから。
何も考えずに、
「失礼します」
柚子太は通常運転で総帥室から出たのだった。
総帥室から本社ビルの玄関までは顔見知りの美人秘書の四枝理真が案内してくれた。
柚子太はこれでも露図グループの東京支社長だ。
ビル内を気軽にうろつかれたら迷惑なので。
「相変わらず綺麗ですね、四枝さんは」
「誰にでも言ってますよね」
「いえいえ、誰にもは。美人にしか」
「そう言えば、仲の良い徐瀬芙モータースの御令嬢は入院中とか?」
「ええ、お見舞い禁止を言い渡されましたが」
「どうしてです?」
「乙女心だそうです」
「入院中は髪も整えられませんからね」
理解を示して、玄関で高級車に柚子太が乗り込むまで理真は見送ってくれたのだった。
◇
柚子太の土曜の予定は部活に参加してた時は栗虹高校だったが、今は違う。
余暇が出来たので弐質財閥系の計良東京美術館に寄った。
純粋な名画鑑賞が目的だ。
柚子太はスパダリ気質で音楽系の才能はあったが、絵の方はデッサンの段階で止めた。デッサン用の胸像が男で馬鹿らしかったので。デッサンにヌードモデルが多用されれば絵の方の才能も開花したかもしれないが。
柚子太のお気に入りの絵画の種類は美しさよりも感情が染み出した系である。
悪趣味な死神の絵にも見入ってしまった。
その柚子太の横で、
「美しいわ」
と呟いたのは柚子太と絵画の趣味が同じで頻繁にこの美術館で遭遇する女子高生、譲司鳴だった。
黒髪を左側にズラしてアップにしてる独特な髪型で、素材は美人だが野性味に溢れてる女子だ。服装には無頓着で、普段はデイム姿。
最大の特徴は半分自分の世界に住んでて独り言が多い事だ。
3度目の遭遇でさすがに調べさせたら、絵で名門の譲司一族だった。
中でも鳴は才能があって絵画コンクールで賞を総ナメにしてる。
(またか。集中出来ないんだよな、コイツがいると。ノーブラだから)
柚子太は別の絵へと移動したのだが、その際に女子と擦れ違いざまにドンと肩をぶつけた。
運の悪い事に柚子太がぶつかった相手がどん臭い女子で、
「キャア」
よろけて倒れて、M字開脚してスカートの中を披露するという痴態を演じた。
どう見てもティーンだったのに、刺繍入りのアダルトな黒の紐パンツだった事には柚子太も驚いたが、
「申し訳ない。手をどうぞ」
視線をパンツから顔に移して手を差し伸べてから、柚子太はぶつかった相手が初めて根利雪だと気付いた。
「根利先輩?」
「えっと、誰だっけ?」
「体力測定の時に保健室まで運んだ二年の男子です」
「ああ、白子が言ってた二年のイケメンくん?」
「何ですか、その呼び方。勘弁して下さい。露図柚子太ですよ」
雪は柚子太に手を取って起き上がった。
雪は黒髪ロングでカチューシャをして清楚系のワンピース姿だった。
パンツは凄いのを穿いてたが。
「よく来られるんですか、計良東京美術館には?」
「いえ、編集――ええっと、知り合いに美術館のチケットを貰って」
「根利先輩が漫画家な事は知ってますから大丈夫ですよ」
「そう? なら正直に。取材の一環よ」
「今日は顔色はいいみたいですね」
「ええ、ネームが決まるまではね。それよりも暇なの、露図くんは」
「2時間ほどは」
「なら、少し付き合ってよ。取材したい場所があるんだけど、一人だと入りづらくって」
「構いませんが」
その一言が運の尽きだとは柚子太は思いもしなかった。
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