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本編
弐賀邸の室内プールと軍法イエロー
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セントラルパークホテル東京のロイヤルスイートの第2寝室で寝ようとした柚子太のスマホが鳴った。TELだ。それも弐賀絵梨。出ない、という選択肢はない。
「何、エリ姫?」
『6人死んだわよ。戦術ランクEのブルーフィールドでさっき』
「どれだけ雑魚なの、その6人?」
『違うわ。集まってたところをロボット陣営に察知されて戦術ランクAに強制変更されてよ。それで未来の人類側も干渉してエスケープゲートからの脱出戦だったらしいわ』
「へ~、そんなのもあるんだ」
『それで分かった事があるわ。ブルーフィールドのプロジェクトを発足するから柚子太も噛みなさい』
これは命令である。なので、
「いいけど」
『じゃあ、明日の14時、弐賀邸で』
「いやいや、今、ママが日本にーー」
『言い訳無用。いいわね』
「は~い」
柚子太は渋々と返事したのだった。
◇
弐賀邸は「本当に都内かよ、ここ」と思えるくらいの敷地を有している豪邸だった。
大財閥の豪邸なので無駄に庭が広い。正門から本邸前まで車で5分掛かるくらいだ。
指定時間の20分前に到着した柚子太はメイド4名に案内というか、包囲されて通らされたのは室内プールだった。
春先だが暖房が掛かってて暑いくらいだ。
そしてプールでは水着の美女達がキャッキャしていた。
金色のビキニの水着姿の絵梨がプールサイドチェアで寛ぐ中、
「来たわね。泳ぐ、柚子太も?」
「親が帰りを待ってるので」
また総帥からの呼び出し案件だな、これ。と柚子太はうんざりしながら、
「で、プロジェクトって?」
「ナノマシン戦闘員による親睦会」
「真面目に聞いたんだけど」
「だから真面目に答えたじゃないの。いい。ブルーフィールド内で初めて出会った戦闘員と共闘になって、敗戦濃厚となったら柚子太ならどうする?」
「エリ姫が居たらエリ姫を抱えて逃げる、かな?」
「あら、ありがと。昨夜の戦術ランクAのブルーフィールド戦ではその意思統一に失敗して各自が勝手に動いて6人が死んだそうよ」
柚子太が別の事に興味を覚えて、
「ブルーフィールドで死んだらどうなるの? 敵機みたいにデジタル加工されて消えるの?」
「いえ。負傷個所とかは一切ない原因不明の遺体が残るだけらしいわ。財閥で調べさせてるけど不審な点はないそうよ」
「――もしかして、今プールで遊んでるのって?」
「ええ。私が知ってる戦闘員を呼んだわ。柚子太は誰か知ってる?」
「徐瀬芙蘭もだったよ」
「徐瀬芙モータースの令嬢?」
「うん。昨夜のディナー中に偶然ブルーフィールドに巻き込まれて。4戦目だって」
「ああ、露図家と徐瀬芙家はベッタリだったわね。ってか、父に会う前に四重仁家とお見合いしてたのに、夜は徐頼芙家なの?」
「お見合いって・・・ただの顔合わせだよ」
見張られてたのか、と疑ったがどうも違ったらしい。
「ねえ~、葉里、こっちに来なさい」
絵梨がプールに居る女子の一人に声を掛けたら四重仁葉里がやってきたのだから。
葉里も水着で紺色のワンピースだったがハイレグだった。
「何、お姫様? あっ、柚子太、昨日ぶり」
「ハリー? 何してるの、ここは選ばれし者しか入れない弐賀邸だよ?」
「私のレーシングチームのオーナーがそこのお姫様だから。で、柚子太は何しにきたの?」
「ナノマシン戦闘員のプロジェクトに呼ばれて」
「えっ、柚子太もなの? いつから?」
「今月の頭だよ。『棚ボタで階級:一つ星に立ち会ってさあ大変』ってね」
「へ~」
と喋ってると、プールから別の女子が現れて、
「男の戦闘員って露図なの?」
「そりゃ居るか。これだけ金持ちが集まってれば音糸銀行のお嬢様も」
赤のチューブトップ水着の音糸知穂を見た。
「もしかして喧嘩を売ってるのかしら?」
「どうしてそうなる。エリ姫の前だぞ、控えろ」
この頃にはプールの中に居た他の4人も集まってきた。
柚子太が知ってるのはいない。
「エリ姫、自称アイドルは?」
「ルカは仕事よ。何、会いたかったの?」
「逆だよ。居たらプロジェクトは参加したくないかも~って。オレ、デビュー戦で殺されかけたし。昨夜の6人もどうせあの自称アイドルの仕業でしょ?」
「違うわよ」
と不在の瑠夏を擁護したのは府井美葉だった。
水着は海外の痴女が愛用するきわどく身体の大切な箇所だけが隠れるピンク地に花柄のマイクロビキニだ。
中流階級だがネット小説がヒットしてる女子高生作家だった。
作家名はPIYO。柚子太も読んでいる。
「元々作戦に無理があったのよ。見ず知らずの初対面なのに共闘なんて」
「――で、オレらは仲良しチームを作るの?」
「いいえ。ブルーフォールドの完全制覇を目指すプロジェクトチームよ。情報共有から始めましょ」
「残機1機の命懸けのブルーフィールドで共闘ね~。無理だと思うけど」
「嫌なら入らなければいいじゃない」
知穂の言葉に、柚子太が眼を輝かせて、
「えっ、入らなくてもいいの、エリ姫? なら早く言ってよ~」
「いい訳ないでしょ。知穂も勝手に決めないの」
声のトーンは普通だが、凄い迫力で絵梨は二人を見た。柚子太と知穂が慌てて、
「音糸が勝手に」
「露図が弐賀財閥に反逆を」
「ふざけるなよ」
「アンタがでしょ」
二人が睨み合う中、
「で、いつ仲直りするのかしら?」
絵梨がつまらなそうに二人に問うと、
「知穂さん、すみませんでした。その水着、似合ってますよ」
「こっちこそ、ゴメンね、柚子太くん。その服、決まってるわよ」
二人は同時に謝って仲直りの握手までしたのだった。
無論、内心では許してはいないが表面上は仲直りだ。
弐賀財閥のお嬢様をブチギレさせたら本当に大変だから。
「良かったわ、仲直りして。じゃあ、スマホに登録しておいてね。そうそう、このプロジェクトの間は恋愛禁止だから。特にみんな。柚子太には惚れないようにね」
「えっ、エリ姫、何それ? 何も出来ないただの高校生のオレに惚れる女子なんている訳がないじゃん」
謙遜する柚子太に知穂が、
「確かにね」
ジロリ。
「何も言ってないわよ」
「まあ、数名手遅れみたいだけど」
絵梨は周囲の顔色を見ながら呟いたのだった。
柚子太が早々にプールから退散した後、
「で、知穂と葉里の他に、何人くらいが柚子太の事を知ってるの?」
「私、あの露図って人、多分知ってるかも。中学生の部のヴァイオリンのコンクールで1回、優勝してるわよね?」
ゼブラ柄のワンピースだがへそが見えてるエロ系の水着を纏った馬音佐英夢が言った。
「私も。ニューヨークのチェス大会で大人に混じって優勝候補を相手に勝ってるのを見た事があるわ。次の対戦日の日程が合わないとかで棄権してたけど」
白のビキニを纏った利々場千が答えた。
「年齢制限なしの豪華客船のカジノでチップを山積みにしてるのを見た事があるわ」
ピンク色のミニスカ付きのワンピースの水着の城路那須羽も口を開く。
「全員じゃないの。ビー、もしかしてアナタもなの?」
「知らないけど・・・ってか、そんなに有名なの、今の?」
「ええ、柚子太は何でもハイスペックのスパダリ男だから」
絵梨が柚子太を評して、
「本当に恋愛禁止だからね、みんな。柚子太の色恋沙汰でチーム崩壊とか見てられないから」
宣言したのだった。
◇
弐賀邸を出た後も柚子太は母親の華羅に連れ回された。
物件巡りだ。
「何、オレの次住む部屋探し?」
「そうよ。ルームシェアをさせるわ」
「嫌だよ。他人と住むなんて」
「他人じゃなくて社員の子供よ。安心なさい」
「一緒でしょ。絶対に・・・」
「なら、徐瀬芙家の屋敷で下宿よ。どっちがいい? ちゃんと弐賀財閥の総帥の許可も取ってあるから今度は断れないわよ」
「ぐっ・・・なら、ルームシェアで」
「どうして徐瀬芙家はそんなに嫌なのよ?」
「リビングに出る度に鏡で身嗜みをチェックとか面倒臭いからね。それに年頃の蘭も居るのに。手を出しちゃったらどうするんだよ」
「その時は結婚すればいいじゃない」
「順番が逆でしょ」
「それもそうね」
と呑気に喋っていた訳だが。
同時刻。
世の中には「落とし前」という言葉がある。
昨夜の六人(本当は十二人)の戦死の落とし前を付ける為に礼智瑠夏は芹井兎院と対面していた。
リアル空間で二人が対面したのは、瑠夏がアイドルグループ星乃丘44所属のアイドルで、芹井兎院が白ギャルのティーン誌モデルで、フォロワー数100万人を越えるインフルエンサーという職業的理由から、仕事で出向いたテレビ局の地下駐車場で本当に偶然、ニアミスしたからに他ならなかったのだが。
「凄い行動力ね、リアルで会いに来るなんて。さすがはアイドルってところかしら。で、何?」
「『何?』じゃないでしょ。アナタの所為で六人も死んだのよ」
「ああ、自分が守れなかったのを私の所為にして罪悪感を軽くしたい訳ね」
「違うわよ。どうして逃げたか聞いてるのよ」
「そういう脱出ミッションだったじゃないの」
「そうじゃなくて自分一人でどうして逃げたか聞いてるのよ」
「だって~、みんなも無事に脱出出来ると思ったんだも~ん」
可愛く演技した後、兎院が、
「これで満足?」
「このっ!」
煽られてカアァとなった瑠夏が反射的に兎院の頬にビシッとビンタをした訳だが、次の瞬間、
【ビィー、ビィー。警報:無印戦闘員による一つ星戦闘員への暴行は軍法イエローに該当します。ナノマシン戦闘員の規定により戦闘員、礼智瑠夏のナノマシンを無期限の休眠状態とさせて頂きます】
とのアナウンスが出ると同時に、
「キャアアア」
瑠夏は悲鳴を上げてその場で気絶したのだった。
【報告:軍法イエローにより戦闘員、礼智瑠夏の「ナノマシン」と「戦闘員としての記憶」が封印されました】
柚子太の視界にもアナウンスが流れた。
(何をやったんだ、あの自称アイドル)
と思った1秒後には柚子太のスマホが鳴った。エリ姫からの直電だ。
「母が居るんですけどね。何ですか?」
『ルカのアナウンス、流れた?』
「ええ」
『柚子太は何か知ってる?』
「全然ですよ。そんな機能がある事すら知りませんでしたから」
『後でまた電話するわ』
「では」
柚子太はスマホを切った。
「またエリ姫? 柚子太、何をやったの? 相当気に入られてるようだけど?」
「何もだよ」
「断っておくけど、エリ姫とは結婚出来ないわよ。家の総資産が釣り合わないから」
結婚? エリ姫と? 冗談じゃない。
「・・・分かってるよ」
柚子太はそう澄まして答えたのだった。
「何、エリ姫?」
『6人死んだわよ。戦術ランクEのブルーフィールドでさっき』
「どれだけ雑魚なの、その6人?」
『違うわ。集まってたところをロボット陣営に察知されて戦術ランクAに強制変更されてよ。それで未来の人類側も干渉してエスケープゲートからの脱出戦だったらしいわ』
「へ~、そんなのもあるんだ」
『それで分かった事があるわ。ブルーフィールドのプロジェクトを発足するから柚子太も噛みなさい』
これは命令である。なので、
「いいけど」
『じゃあ、明日の14時、弐賀邸で』
「いやいや、今、ママが日本にーー」
『言い訳無用。いいわね』
「は~い」
柚子太は渋々と返事したのだった。
◇
弐賀邸は「本当に都内かよ、ここ」と思えるくらいの敷地を有している豪邸だった。
大財閥の豪邸なので無駄に庭が広い。正門から本邸前まで車で5分掛かるくらいだ。
指定時間の20分前に到着した柚子太はメイド4名に案内というか、包囲されて通らされたのは室内プールだった。
春先だが暖房が掛かってて暑いくらいだ。
そしてプールでは水着の美女達がキャッキャしていた。
金色のビキニの水着姿の絵梨がプールサイドチェアで寛ぐ中、
「来たわね。泳ぐ、柚子太も?」
「親が帰りを待ってるので」
また総帥からの呼び出し案件だな、これ。と柚子太はうんざりしながら、
「で、プロジェクトって?」
「ナノマシン戦闘員による親睦会」
「真面目に聞いたんだけど」
「だから真面目に答えたじゃないの。いい。ブルーフィールド内で初めて出会った戦闘員と共闘になって、敗戦濃厚となったら柚子太ならどうする?」
「エリ姫が居たらエリ姫を抱えて逃げる、かな?」
「あら、ありがと。昨夜の戦術ランクAのブルーフィールド戦ではその意思統一に失敗して各自が勝手に動いて6人が死んだそうよ」
柚子太が別の事に興味を覚えて、
「ブルーフィールドで死んだらどうなるの? 敵機みたいにデジタル加工されて消えるの?」
「いえ。負傷個所とかは一切ない原因不明の遺体が残るだけらしいわ。財閥で調べさせてるけど不審な点はないそうよ」
「――もしかして、今プールで遊んでるのって?」
「ええ。私が知ってる戦闘員を呼んだわ。柚子太は誰か知ってる?」
「徐瀬芙蘭もだったよ」
「徐瀬芙モータースの令嬢?」
「うん。昨夜のディナー中に偶然ブルーフィールドに巻き込まれて。4戦目だって」
「ああ、露図家と徐瀬芙家はベッタリだったわね。ってか、父に会う前に四重仁家とお見合いしてたのに、夜は徐頼芙家なの?」
「お見合いって・・・ただの顔合わせだよ」
見張られてたのか、と疑ったがどうも違ったらしい。
「ねえ~、葉里、こっちに来なさい」
絵梨がプールに居る女子の一人に声を掛けたら四重仁葉里がやってきたのだから。
葉里も水着で紺色のワンピースだったがハイレグだった。
「何、お姫様? あっ、柚子太、昨日ぶり」
「ハリー? 何してるの、ここは選ばれし者しか入れない弐賀邸だよ?」
「私のレーシングチームのオーナーがそこのお姫様だから。で、柚子太は何しにきたの?」
「ナノマシン戦闘員のプロジェクトに呼ばれて」
「えっ、柚子太もなの? いつから?」
「今月の頭だよ。『棚ボタで階級:一つ星に立ち会ってさあ大変』ってね」
「へ~」
と喋ってると、プールから別の女子が現れて、
「男の戦闘員って露図なの?」
「そりゃ居るか。これだけ金持ちが集まってれば音糸銀行のお嬢様も」
赤のチューブトップ水着の音糸知穂を見た。
「もしかして喧嘩を売ってるのかしら?」
「どうしてそうなる。エリ姫の前だぞ、控えろ」
この頃にはプールの中に居た他の4人も集まってきた。
柚子太が知ってるのはいない。
「エリ姫、自称アイドルは?」
「ルカは仕事よ。何、会いたかったの?」
「逆だよ。居たらプロジェクトは参加したくないかも~って。オレ、デビュー戦で殺されかけたし。昨夜の6人もどうせあの自称アイドルの仕業でしょ?」
「違うわよ」
と不在の瑠夏を擁護したのは府井美葉だった。
水着は海外の痴女が愛用するきわどく身体の大切な箇所だけが隠れるピンク地に花柄のマイクロビキニだ。
中流階級だがネット小説がヒットしてる女子高生作家だった。
作家名はPIYO。柚子太も読んでいる。
「元々作戦に無理があったのよ。見ず知らずの初対面なのに共闘なんて」
「――で、オレらは仲良しチームを作るの?」
「いいえ。ブルーフォールドの完全制覇を目指すプロジェクトチームよ。情報共有から始めましょ」
「残機1機の命懸けのブルーフィールドで共闘ね~。無理だと思うけど」
「嫌なら入らなければいいじゃない」
知穂の言葉に、柚子太が眼を輝かせて、
「えっ、入らなくてもいいの、エリ姫? なら早く言ってよ~」
「いい訳ないでしょ。知穂も勝手に決めないの」
声のトーンは普通だが、凄い迫力で絵梨は二人を見た。柚子太と知穂が慌てて、
「音糸が勝手に」
「露図が弐賀財閥に反逆を」
「ふざけるなよ」
「アンタがでしょ」
二人が睨み合う中、
「で、いつ仲直りするのかしら?」
絵梨がつまらなそうに二人に問うと、
「知穂さん、すみませんでした。その水着、似合ってますよ」
「こっちこそ、ゴメンね、柚子太くん。その服、決まってるわよ」
二人は同時に謝って仲直りの握手までしたのだった。
無論、内心では許してはいないが表面上は仲直りだ。
弐賀財閥のお嬢様をブチギレさせたら本当に大変だから。
「良かったわ、仲直りして。じゃあ、スマホに登録しておいてね。そうそう、このプロジェクトの間は恋愛禁止だから。特にみんな。柚子太には惚れないようにね」
「えっ、エリ姫、何それ? 何も出来ないただの高校生のオレに惚れる女子なんている訳がないじゃん」
謙遜する柚子太に知穂が、
「確かにね」
ジロリ。
「何も言ってないわよ」
「まあ、数名手遅れみたいだけど」
絵梨は周囲の顔色を見ながら呟いたのだった。
柚子太が早々にプールから退散した後、
「で、知穂と葉里の他に、何人くらいが柚子太の事を知ってるの?」
「私、あの露図って人、多分知ってるかも。中学生の部のヴァイオリンのコンクールで1回、優勝してるわよね?」
ゼブラ柄のワンピースだがへそが見えてるエロ系の水着を纏った馬音佐英夢が言った。
「私も。ニューヨークのチェス大会で大人に混じって優勝候補を相手に勝ってるのを見た事があるわ。次の対戦日の日程が合わないとかで棄権してたけど」
白のビキニを纏った利々場千が答えた。
「年齢制限なしの豪華客船のカジノでチップを山積みにしてるのを見た事があるわ」
ピンク色のミニスカ付きのワンピースの水着の城路那須羽も口を開く。
「全員じゃないの。ビー、もしかしてアナタもなの?」
「知らないけど・・・ってか、そんなに有名なの、今の?」
「ええ、柚子太は何でもハイスペックのスパダリ男だから」
絵梨が柚子太を評して、
「本当に恋愛禁止だからね、みんな。柚子太の色恋沙汰でチーム崩壊とか見てられないから」
宣言したのだった。
◇
弐賀邸を出た後も柚子太は母親の華羅に連れ回された。
物件巡りだ。
「何、オレの次住む部屋探し?」
「そうよ。ルームシェアをさせるわ」
「嫌だよ。他人と住むなんて」
「他人じゃなくて社員の子供よ。安心なさい」
「一緒でしょ。絶対に・・・」
「なら、徐瀬芙家の屋敷で下宿よ。どっちがいい? ちゃんと弐賀財閥の総帥の許可も取ってあるから今度は断れないわよ」
「ぐっ・・・なら、ルームシェアで」
「どうして徐瀬芙家はそんなに嫌なのよ?」
「リビングに出る度に鏡で身嗜みをチェックとか面倒臭いからね。それに年頃の蘭も居るのに。手を出しちゃったらどうするんだよ」
「その時は結婚すればいいじゃない」
「順番が逆でしょ」
「それもそうね」
と呑気に喋っていた訳だが。
同時刻。
世の中には「落とし前」という言葉がある。
昨夜の六人(本当は十二人)の戦死の落とし前を付ける為に礼智瑠夏は芹井兎院と対面していた。
リアル空間で二人が対面したのは、瑠夏がアイドルグループ星乃丘44所属のアイドルで、芹井兎院が白ギャルのティーン誌モデルで、フォロワー数100万人を越えるインフルエンサーという職業的理由から、仕事で出向いたテレビ局の地下駐車場で本当に偶然、ニアミスしたからに他ならなかったのだが。
「凄い行動力ね、リアルで会いに来るなんて。さすがはアイドルってところかしら。で、何?」
「『何?』じゃないでしょ。アナタの所為で六人も死んだのよ」
「ああ、自分が守れなかったのを私の所為にして罪悪感を軽くしたい訳ね」
「違うわよ。どうして逃げたか聞いてるのよ」
「そういう脱出ミッションだったじゃないの」
「そうじゃなくて自分一人でどうして逃げたか聞いてるのよ」
「だって~、みんなも無事に脱出出来ると思ったんだも~ん」
可愛く演技した後、兎院が、
「これで満足?」
「このっ!」
煽られてカアァとなった瑠夏が反射的に兎院の頬にビシッとビンタをした訳だが、次の瞬間、
【ビィー、ビィー。警報:無印戦闘員による一つ星戦闘員への暴行は軍法イエローに該当します。ナノマシン戦闘員の規定により戦闘員、礼智瑠夏のナノマシンを無期限の休眠状態とさせて頂きます】
とのアナウンスが出ると同時に、
「キャアアア」
瑠夏は悲鳴を上げてその場で気絶したのだった。
【報告:軍法イエローにより戦闘員、礼智瑠夏の「ナノマシン」と「戦闘員としての記憶」が封印されました】
柚子太の視界にもアナウンスが流れた。
(何をやったんだ、あの自称アイドル)
と思った1秒後には柚子太のスマホが鳴った。エリ姫からの直電だ。
「母が居るんですけどね。何ですか?」
『ルカのアナウンス、流れた?』
「ええ」
『柚子太は何か知ってる?』
「全然ですよ。そんな機能がある事すら知りませんでしたから」
『後でまた電話するわ』
「では」
柚子太はスマホを切った。
「またエリ姫? 柚子太、何をやったの? 相当気に入られてるようだけど?」
「何もだよ」
「断っておくけど、エリ姫とは結婚出来ないわよ。家の総資産が釣り合わないから」
結婚? エリ姫と? 冗談じゃない。
「・・・分かってるよ」
柚子太はそう澄まして答えたのだった。
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