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後ろ盾

トルオン、宰相の前でズッコケる

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 せっかく帝都アースレナに来てるのだ。

 冒険者ギルドの倉庫でアイテムボックスにストックしてある魔物を販売した。

 もうアースレナの冒険者ギルドは顔見知りなので融通が利いたが、冒険者ギルドがトルオンがアースレナで出没する唯一の場所な事も知ってる者は知っており、それでもこれまではわざわざ会いに出向く事はなかったが、女伯爵のルーヴァケビスの軍警察の長官就任に伴い、遂には重い腰を上げ・・・・・・

 冒険者ギルドで魔物の死骸を売っ払って、後日、その肉と料金をトルオンが受け取りにいくと、

「お初にお目にかかります。私、パーミアスと申します」

 そう倉庫内に居た初対面の男に名乗られた。

 54歳の人間で、身長は183センチ。黒髪の総髪で善人顔。動物に例えると熊タイプだった。平服だったので素性が分からず、

「どうも、トルオンです」

 と気軽に挨拶したが、

「因みに役職はエトリア帝国の宰相です」

 役職を名乗られた時にはトルオンは内心で『面倒臭ぁ~』と思った。

 宰相と名乗った割には、護衛は居ない。

 本当に宰相か疑いたかったが、嘘をつく理由も見当たらない。

「その宰相様が取るに足らない一般人のオレに何か御用でしょうか?」

「ドラゴン素材を売ってエトリア帝国躍進を陰から支えたトルオン殿と知己を得たく」

「口外しないで下さいよ。内緒なんですから、それ」

「ええ、それはもう」

 と頷いた宰相のパーミアスが、

「・・・時にトルオン殿にお願いがあるのですが」

「却下」

「まだ何も言ってませんが?」

「ネレシオのドラゴニュートの徴兵は認めませんよ。こっちはルーヴァを貸してるだけでも大損なのに」

 と喋りながらトルオンは気付いた。

 倉庫内に職員が1人も居ない。無人だ。

 最初は居たはずだが、いつの間にかトルオンと宰相パーミアスの2人っきりになっていた。

 会談の場が設定されていたようだ。

 なので仕方なく、倉庫内での立ち話は続き、

「いえいえ、そういうお願いではなく」

「では何です?」

「私も『強くなりたいなぁ~』と思いまして」

 パーミアスの言葉が意外だったので、トルオンはマジマジと見てから、

「では魔物退治をされたらどうです、『石版』のお陰でもう影魔法が使えるのでしょう?」

「『楽して・・・強くなりたいなぁ~』と思いまして」

「楽には無理でしょうよ」

「おとぼけを。礼はします」

 パーミアスがその件を知ってるのは無論、2トップからの情報ではない。

 ルーヴァケビスの長官就任に際して、素性を洗い、3人の妻の治癒医の報告書を読んだからだった。

「具体的には?」

「平穏を望まれてる御様子なので関与しません」

「素晴らしい」

 トルオンは思わずそう口にしたが、

「まあ、やり方なんて知りませんが」

「そこを何とか」

 とパーミアスが言った時だった。

「ですから、何の事だか・・・」

 否定しようとしたトルオンが、

「うわっとっ!」

 ズルッとズッコケた。

 文字通りのズッコケだ。

 無論、むさ苦しいオッサンに突っ込んで押し倒すような事はトルオンはしない。

 1人で勝手にズッコケた。

 だが、ズッコケる際にトルオンの右手が宙を踊り、勝手にアイテムボックスから杖を1本取り出し、カタンッと床に落としていた。

「イタタタ」

「大丈夫ですか? 確か不運系のギフト【転倒】でしたか?」

「ええ・・・あれ?」

 トルオンが起き上がる際に杖に気付いた。

「トルオン殿が今、転倒された際に自分で出されましたよ」

 不思議そうにするトルオンに宰相パーミアスが事実を伝え、

(【ズッコケ】でアイテムボックスを出したねぇ~。つまりはあの時の女勇者の聖剣と同じ訳か。ってか、この杖は覚えてるな。大賢者の塔の残骸から出てきた奴だ)

「なるほど。では、この杖を宰相様にレンタルしましょう」

 プレゼントでないのがトルオンらしかった。

 意外にセコイ。

 まあ、相手が美女ではなく、むさ苦しい中年だったので分からなくもないが。

「いやいや、私はそれよりも・・・・・」

「これが大陸東部の大賢者の塔の出土品だと言ったら信じます?」

 杖を勧めるトルオンが試すように囁いた。

「・・・ええっと」

「『『影の石版』の出所もそうだ』って言ったら、宰相様は杖を受けとってくれますかね?」

 もはや誘惑だ。

「つまりはトルオン殿が、あの・・・」

 と口にして黙った宰相パーミアスが目の前の杖をマジマジと見て、

「手に取ってみてもいいですか?」

「その前にレンタルですからね、これは。プレゼントしませんよ」

 トルオンが念を押すと宰相パーミアスが、

「レンタルの期間は?」

「無論、オレへの『敬意が薄れる』までですよ」

「つまりは敬意があれば『死ぬまで』と解釈してよろしいのですね?」

「ええ。但し、国家への反逆とかは止めて下さいね。マジで」

「無論です」

「後、後ろ盾になってくれたら助かります。ドーベル殿が死んでから身の程知らずどもが逆らって少し大変で」

 これは即興で出たトルオンのただの愚痴だったが、口外してから『意外にいい案かも』とトルオンも思った。

 最近の無駄な雑務は全部ドーベルが死んだのが(裏切ったのが)原因だったのだから。

「それは・・・杖の威力と帝太后陛下の承認後となりますが覚えておきましょう」

 こうしてトルオンは宰相パーミアスに杖1本をレンタルしたのだった。





 その後、宰相パーミアスは周囲に隠してた・・・・(『突如使えるようになった』では色々と都合が悪いのでそのように落ち着いた)重力魔法を駆使して、暇を見付けてはグリフォンで狩猟場に出向いて魔物相手に無双し、強さを手に入れたのだった。





 そして宰相パーミアスがトルオンやネレシオ領、クラージュ財閥、ドーベル銀行の後ろ盾になったのだった。
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