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盤石

トルオン、異変に気付くもズッコケる

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 それはセレリュアの誕生から僅か3日目の夜の事だった。

 その異変に最初に気付いたのは寝室のベッドでベルラベートを抱いていたトルオンで、どうして気付いたかと言えば、セレリュアに目印(魔力による識別印)を付けており、生後3日のはずの赤子のセレリュアのその目印が何故かネレシオ砦内から砦敷地内のグリフォン厩舎まで移動してたのを不審に思い、イチャイチャの最中に渋々とガウンを羽織って転移魔法で厩舎前まで出向けば、乳母として雇ったばかりのドラグニュートのナシゼフィーがセレリュアを抱いて厩舎に向かってる現場に出くわしていた。

 ナシゼフィーは身長174センチ。金髪黄翼のドラゴニュートだ。乳母に採用されたのだから出産した直後で乳も出る訳だが。

「おまえ、いったい何をしようとしているのかな?」

「こ、こないで・・・」

 (イチャイチャの邪魔をされて)露骨に不機嫌なトルオンの強さを知ってるのか、ナシゼフィーが赤子のセレリュアを盾にする。

 そんな事をされてはさすがにトルオンも父親として(イチャイチャの邪魔をされた事もあり普段よりも)ブチキレ、

「・・・」

 無言で【神速】【瞬動】ですぐさまナシゼフィーに突進するも、

「ほへっ?」

 ズルッとズッコケた。

 ギフト【ズッコケ】で【神速】【瞬動】状態が解除される。

 普段通りの速度の両足を上げての仰向けのズッコケだった。

 そして、ゴチンッと後頭部を地面に打ち付けたトルオンはそのまま気絶した。

 トルオンにセレリュアの誘拐がバレて青ざめてたナシゼフィーだったが、トルオンが勝手にズッコケて動かなくなり、10秒待っても動かなかったので、恐る恐る大の字で気絶するトルオンを避けるように移動し、そのまま待ってた仲間のグリフォンに乗って赤子のセレリュアと一緒に夜空へと飛び立っていったのだった。





 深夜だったので赤子のセレリュアの誘拐に気付いた者は居らず、ネレシオ砦を巡回していた私兵団がガウン姿でノビてるトルオンを保護して治癒室に運び・・・





 ◇





 トルオンが目覚めたのは誘拐から3時間後の事だった。

「ーーはっ! ここは?」

「ネレシオ砦の治療室だよ」

 そう答えたのは治癒医のモンドーニだった。

 モンドーニは人間で48歳。身長は159センチ。焦茶色の髪とオシャレ髭で、右眼を包帯で隠してる中年だった。勤務中も葡萄酒を飲んで酔っ払ってるが、まあ、治癒師としての腕がいいらしいので処罰対象とまではいっていない。

「旦那さんは厩舎の前で寝てたらしいぞ。3時間くらい前に治療室に運ばれてきてな。そのままグースカ寝てた訳だが。厩舎の前で何をしてたんだ?」

「何ってーー」

 そう呟いたトルオンが、気絶した前の記憶を思い出し、慌てて、

「セレリュアがさらわれたっ! さらったのはドラゴニュートの乳母の女だっ! すぐに追えっ!」

 と命令を出して、それで初めてセレリュアの安否を確認して、本当にセレリュアと乳母のナシゼフィーが居らず、娘のセレリュアが連れ去られた事が判明してネレシオ砦内は騒然となったのだった。
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