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敵対者

トルオン、殴られかけてズッコケる

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 それは突然だった。

 ネレシオ砦の一室で出撃前のネルネにキスをして、

「ちょ、私はこれから田畑巡回の仕事だぞ。それなのに」

「お出かけのキスをされるの好きな癖に」

 トルオンがイチャイチャしてると、





「トルオンって奴、今すぐ出て来いぃぃぃぃぃぃっ!」





 との大声が響いて、窓から砦内の中庭を見下ろすと、兎人族のオッサンが周囲の注目を集めていた。

 装備がエトリア帝国の幹部騎士の恰好だったので、

「何だ、エトリア帝国の騎士団幹部? ちょっと行ってくる」

「待て。親衛隊の私も一緒に出る」

 トルオンとネルネが3階の窓から中庭へと飛び出した。

 トルオンは強者なので、3階から地上へのジャンプくらいギフトが発動しなければ何ともない。

「エトリア帝国の騎士の方ですよね? アースレナ宮殿からの火急の使者か何かでしょうか?」

 トルオンは問いながら兎人族の40代の男を見た。

 身長は264センチ(耳を入れたら329センチ)。金髪赤眼白肌で顎が割れてて、ゴリゴリのマッチョだった。筋肉の質量による圧が凄い。歴戦の騎士だろう。

「金髪金眼・・・そうか、おまえがトルオンか?」

「ええ、そうですが、どういった御用件――」

 とのトルオンの言葉は、 兎人族の拳をゴキゴキッと鳴らした、

「おまえがオレの可愛いエイチェナちゃんを手を出したバカ男って事かっ!」

 との言葉で掻き消えた。

 『あっ、面倒臭い』とトルオンが瞬時に悟る中、

「とりあえず1発撫でさせて貰おうかっ!」

 マッチョのオッサンが殴りかかってきて、

「ちょ、落ち着きーーのわっとっ!」

 止めようとしたトルオンがズルッとズッコケた。

 のけ反るようにズッコケて、カウンターでマッチョのオッサンの股間をゴキンッと蹴りあげる。

「ぬのぉぉぉぉっ!」

 とマッチョのオッサンが股間を押さえてピョンピョンする中、レンガの敷かれた地面で後頭部を打ったトルオンが、

「イテテテ」

 と起き上がると、

「パパ? どうしたの、急に?」

 城塞街の方に居たのか、城壁を飛び越えてエイチェナがやってきた。

 股間の激痛から何とか復活した騎士団幹部が、

「おお、エイチェナちゃん。聞いたぞ、悪い男に引っ掛かっ――ほべぇっ!」

「トルオン様の事、悪く言うんなら帰ってよねっ!」

 エイチェナが父親らしき騎士団幹部を鮮やかに蹴っ飛ばしたのだった。





 その後、ネレシオ砦の来賓室でトルオンはエイチェナの父親、エトリア帝国騎士団第3隊長のエイレクトと面談する破目になった。

「で? 妻が3人も居ながら、どういう了見でウチの娘を孕ませてくれたんだ?」

 とエイレクトが不機嫌どころか股間を蹴られてブチキレてる中、

「それが美人だったので、つい」

「責任を取るんだよな?」

「一生面倒を見ます」

「ふざけるな。結婚しろ」

 と詰め寄られて、

「ちょっと、パパ。自分だって私のママと結婚しなかった癖に」

「いいんだよ、オレは族長だから。でもコイツは族長じゃないからダメだ」

 『そういや族長の娘だって言ってたっけ』とトルオンは思い出しながら、

(戦争が始まりそうで戦場に出したくなかった騎士団幹部の父親がエイチェナを僻地のネレシオ砦に左遷させたとも。その親バカの族長がこの男か。ハーレム男で子供が50人以上居るとか聞いてたが)

 と納得した。

 同時に他の自分の妻や親衛隊の素性を思い返す。

 ルーヴァはバーラ平原のダークエルフ族だが下位戦士だ。一人っ子で母親は死んでいるが父親は生きてる(トルオンやルーヴァが知らないだけで死んでる)。父親も魔法が使えぬダークエルフの下位戦士らしいが。

 セレシレル、セレーリュは都市国家ヒーナの王女。両親が同じで、都市国家ヒーナが降伏した時に裏切り者に父王は殺されてる。母親はその前に病で死んでる。だが2人を慕ってドラゴニュートがバカみたいに移住してきて、ネレシオ砦に2500人以上集まっていた。

 アナリアは孤児だが、血の繋がっていない兄弟が5人くらい居るらしい。

 ネイナ、ネルネは都市国家ヒーナの将軍を排出する名門武家の出身で。

 父方の祖父母が一緒でネレシオに来てる。

 ネルネは両親は死んでるが、弟が居てネレシオに来てる。

 ネルネは母親と妹が生きてて、同じくネレシオに来てる。

 ベリラベートは滅んだアジャ公国の姫。ハーフエルフの関係で2代前の公王の妹だ。父親が3代前の公王(人間)でもう死んでる。母親はエルフだが捕虜となってその後、無理矢理ベリラベートを身籠らされて出産後に自殺したらしい。

(もしかして面倒臭いのが結構居る?)

 自問してると、エイレクトがトルオンを睨んで、

「で? 結婚するんだよな?」

「いいえ。妻は今のところ3人だけです」

「貴様っ!」

 座るエイレクトが身を乗り出そうとする中、エイチェナが制止させるように、

「パパっ!」

「だが、コイツが」

「私がトルオン様を選んだの。だから、口出ししないで」

「だがな、エイチェナちゃん」

「パパっ!」

 エイチェナの方が強いのかエイレクトを言い負かす中、トルオンが、

「あの・・・」

「何だ?」

「御実家だとエイチェナは安心して子供を産めるんでしょうか?」

「うん? ここだと危険なのか?」

「正直、1年未満の砦なので働いているのも新参者ばかりで把握し切れていない状況でして」

「ふむ。正直に言えば、今の帝都アースレナも併合した旧他国者が多くてな。領地の兎人族の里にも戦利品の兎人族が結構たくさん入ってて・・・」

 『戦利品の兎人族』という不穏な言葉をさらりとスルーしたトルオンが、

「では、エイチェナはこのまま預からせていただきますね」

「ああ。頼むぞーーそれと殴らせろ。1発だけ」

「嫌ですよ」

「はあ? 結婚もせずに娘を孕ませたんだ。父親には当然のその男を殴る権利があるだろうが」

 『ええぇ~、そうなの?』と思いながらもトルオンが、

「分かりました、1発だけですよ」

 と納得して、立ち上がった2人は来賓室で向かい合ったが、いざ殴ろうって時に、

「のわっ!」

 トルオンがズルッとズッコケて、パンチを仰向けになって避け、

「この野郎、また避けーーぬあああああああ」

 またゴキンと股間を蹴りあげて、エイレクトは股間を押さえながらピョンピョンしたのだった。





 その後、トルオンはエイチェナのとりなしで殴らずに済み、エイレクト第3騎士隊長は帰っていったのだった。
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