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予選が始まる
いい暮らしをしてるようだのう【ラトラーシナside】
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私はクワナリス侯爵家のエニスさん専属メイドのラトラーシナです。
まあ、セーラお嬢様がお屋敷に居る時は、お嬢様専属メイドの2席なのですが。
私はエニスさんがクワナリス侯爵家の滞在された去年の10月中旬から、エニスさんのクワナリス侯爵家の屋敷でのお世話は受け持っております。
エニスさんの入浴の際のお背中流し。
エニスさんの寝着のチョイス。
エニスさんの起床。
エニスさんの食事の配膳。
エニスさんの滞在部屋の掃除。
エニスさんの衣服の洗濯。
エニスさんの下着管理。
エニスさんの私物管理。
エニスさんの屋敷滞在中の護衛。
私がクワナリス侯爵家に居る時は大抵、それらに従事しております。
今、クワナリス侯爵家で問題となってるのはエニスさんの私物です。
これまでもランク【S】の炎狼の毛皮でライダースーツなんかを作ってたエニスさんですが、まさか、ランク【SSS】の地竜の素材でドレスやサラシや下着なんかを作るんですもん。
1つでも紛失したら使用人の何人の首が飛ぶか。
それなのにエニスさんがサラシを1枚、後輩に上げたのを1日私に言い忘れたお陰で、
「地竜の素材のサラシが1枚、ない」
と大騒ぎ。
本当に大変なんですよ、エニスさんの専属メイドも。
そんな回想をしてると、エニスさんがもう屋敷に帰ってきました。
本日の予定は都内校交流戦の予選のはずですが。
部屋から玄関ホールに向かった時にはミリアリリー女学園の訓練着姿のエニスさんが玄関を潜っていて、
「お帰りなさいませ、エニスさん」
「ただいま」
と答えるエニスさんの横で、
「いい暮らしをしてるようだのう、エニスちゃん」
いつの間に玄関から入ってきたのか、そう老人が気軽に声を掛けて、エニスさんも驚く事なく、
「あら、珍しい。ここまで出向くなんて。明日は雪かしら?」
「とぼけとらんで、とっとと【白の5】の【羅針盤】を出さんか」
と老人が手を出すと、
「はいはい」
エニスさんが何も持ってない手を老人の手に置いた。
すると満足した老人が、
「因みに何日持っておった?」
「10日以内」
「ふん、【白の7】の【手紙配達係】の末裔まで取り込みおって・・・ズルをしようとしておったな?」
老人のその指摘に、エニスさんにしては珍しく口を尖らせて、
「だって【月級】まで育てるのに2年は掛かりそうなんだもん。こっちの方が早そうだったし」
「確かに出来なくもないが【気】の封印は解けぬままだぞ? ちゃんと精進せい」
「やってるわよ」
「良く言う」
エニスさんを上から下まで舐め回すように一瞥した老人が、
「本当にそのペースだと2年掛かるかものう。死ぬ気で修練に励め、エニスちゃんや」
そう言ってから、思い出したように、
「そう言えば、先程、闘技場に出向いて気付いたんだが【黒の2】が多くないか?」
「この前、顔を出したからね。染まったんでしょ」
「助けてやらんかったのか?」
「【恩恵】授与の邪魔をしろ、と?」
「ふむ。【恩恵】か。そうとも言えるかのう」
と顎の髭を撫でた老人が、
「【羅針盤】を回収したお礼に強くなるヒントが欲しかったりしてぇ~」
「甘えるではないわ。【白の7】の【手紙配達係】だけではなく、【黒の2】の【残り香】まで取り込んでおる事を見逃してやっておるだけでもありがたく思え」
そう呆れ果てると老人は玄関から出ていった。
2人が喋ってる様子を眺めてた私は遅蒔きに我に返って、
「ええっと、エニスさん。応接室にお通ししなくても良かったんですか、今の方?」
「本人が帰りたがってたからいいんじゃないの」
「というか誰だったんですか、今の? 一応、ここは騎士団長の御屋敷で誰でも通す訳にはいかないのですが」
「さあ、誰なのかしら? 私も初めて見たから」
「嘘ですよね? 親しそうでしたもん」
私がツッコむと、エニスさんも初対面の嘘は無理だと思い直したのか、
「・・・知り合いのお爺さんよ」
「お名前を伺っても?」
「本人に聞いてよ、私じゃなくて」
と答えたエニスさんが、
「わざわざここまで出てきて否定しなかった事は持ってたら「戻れた」って事よね、確実に。何でこんなに早くバレたんだろ?」
そう溜息を吐いて、ガッカリした様子で滞在部屋に歩いていき、
「・・・あの老人はいったい・・・」
と私が呟いた時には・・・・・・
あれ?
私は今の今までエニスさんと喋ってた老人の顔をすっかり忘れてて、どんなに思い出そうとしても顔どころか、髪や眼の色すら思い出せなくなっていた。
まあ、セーラお嬢様がお屋敷に居る時は、お嬢様専属メイドの2席なのですが。
私はエニスさんがクワナリス侯爵家の滞在された去年の10月中旬から、エニスさんのクワナリス侯爵家の屋敷でのお世話は受け持っております。
エニスさんの入浴の際のお背中流し。
エニスさんの寝着のチョイス。
エニスさんの起床。
エニスさんの食事の配膳。
エニスさんの滞在部屋の掃除。
エニスさんの衣服の洗濯。
エニスさんの下着管理。
エニスさんの私物管理。
エニスさんの屋敷滞在中の護衛。
私がクワナリス侯爵家に居る時は大抵、それらに従事しております。
今、クワナリス侯爵家で問題となってるのはエニスさんの私物です。
これまでもランク【S】の炎狼の毛皮でライダースーツなんかを作ってたエニスさんですが、まさか、ランク【SSS】の地竜の素材でドレスやサラシや下着なんかを作るんですもん。
1つでも紛失したら使用人の何人の首が飛ぶか。
それなのにエニスさんがサラシを1枚、後輩に上げたのを1日私に言い忘れたお陰で、
「地竜の素材のサラシが1枚、ない」
と大騒ぎ。
本当に大変なんですよ、エニスさんの専属メイドも。
そんな回想をしてると、エニスさんがもう屋敷に帰ってきました。
本日の予定は都内校交流戦の予選のはずですが。
部屋から玄関ホールに向かった時にはミリアリリー女学園の訓練着姿のエニスさんが玄関を潜っていて、
「お帰りなさいませ、エニスさん」
「ただいま」
と答えるエニスさんの横で、
「いい暮らしをしてるようだのう、エニスちゃん」
いつの間に玄関から入ってきたのか、そう老人が気軽に声を掛けて、エニスさんも驚く事なく、
「あら、珍しい。ここまで出向くなんて。明日は雪かしら?」
「とぼけとらんで、とっとと【白の5】の【羅針盤】を出さんか」
と老人が手を出すと、
「はいはい」
エニスさんが何も持ってない手を老人の手に置いた。
すると満足した老人が、
「因みに何日持っておった?」
「10日以内」
「ふん、【白の7】の【手紙配達係】の末裔まで取り込みおって・・・ズルをしようとしておったな?」
老人のその指摘に、エニスさんにしては珍しく口を尖らせて、
「だって【月級】まで育てるのに2年は掛かりそうなんだもん。こっちの方が早そうだったし」
「確かに出来なくもないが【気】の封印は解けぬままだぞ? ちゃんと精進せい」
「やってるわよ」
「良く言う」
エニスさんを上から下まで舐め回すように一瞥した老人が、
「本当にそのペースだと2年掛かるかものう。死ぬ気で修練に励め、エニスちゃんや」
そう言ってから、思い出したように、
「そう言えば、先程、闘技場に出向いて気付いたんだが【黒の2】が多くないか?」
「この前、顔を出したからね。染まったんでしょ」
「助けてやらんかったのか?」
「【恩恵】授与の邪魔をしろ、と?」
「ふむ。【恩恵】か。そうとも言えるかのう」
と顎の髭を撫でた老人が、
「【羅針盤】を回収したお礼に強くなるヒントが欲しかったりしてぇ~」
「甘えるではないわ。【白の7】の【手紙配達係】だけではなく、【黒の2】の【残り香】まで取り込んでおる事を見逃してやっておるだけでもありがたく思え」
そう呆れ果てると老人は玄関から出ていった。
2人が喋ってる様子を眺めてた私は遅蒔きに我に返って、
「ええっと、エニスさん。応接室にお通ししなくても良かったんですか、今の方?」
「本人が帰りたがってたからいいんじゃないの」
「というか誰だったんですか、今の? 一応、ここは騎士団長の御屋敷で誰でも通す訳にはいかないのですが」
「さあ、誰なのかしら? 私も初めて見たから」
「嘘ですよね? 親しそうでしたもん」
私がツッコむと、エニスさんも初対面の嘘は無理だと思い直したのか、
「・・・知り合いのお爺さんよ」
「お名前を伺っても?」
「本人に聞いてよ、私じゃなくて」
と答えたエニスさんが、
「わざわざここまで出てきて否定しなかった事は持ってたら「戻れた」って事よね、確実に。何でこんなに早くバレたんだろ?」
そう溜息を吐いて、ガッカリした様子で滞在部屋に歩いていき、
「・・・あの老人はいったい・・・」
と私が呟いた時には・・・・・・
あれ?
私は今の今までエニスさんと喋ってた老人の顔をすっかり忘れてて、どんなに思い出そうとしても顔どころか、髪や眼の色すら思い出せなくなっていた。
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