異世界転生したら両腕を前に上げてノロノロ歩くゾンビだった

竹井ゴールド

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ゾンビは既に死んでいる。よって水分補給は必要ない。夜の復旧作業現場は狩り場以外の何物でもない

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 水道橋が倒れた事で、川から水道橋に水を供給していた装置も止まったのか、水の流れは一時的に停止した。

 アテミスの人口は騎士いわく15万人らしい。

 魔術師は水を出せるが、干上がるのは時間の問題で、その日の内に作業員がわんさか来た。

 500人は居る。

「2日で直せ、いいな」

 偉いさんの檄に、

「へいっ」

 全員が作業を開始した。

 倒れた水道橋の瓦礫を撤去して、土台の地面を専用の叩く道具で固める。

 それから石を組み始めたが、水道橋が倒れたのは昼下がりだ。

 あっという間に太陽が沈んだ。

 それでも復旧作業は続く。

 作業員を守る騎士達も山ほど居た。

 松明や篝火をガンガンに周辺に焚いてる。

 問題ないがな。

 何せ、現存する水道橋の下には地中の道があるんだから。

 昼間の内に、魔物の残骸が多数残るオレが最初に居た場所に捨ててあった魔物寄せの茶色の粉末のボールを回収してたので、一番外側の駐車場となってる場所に蜥蜴が8頭も止まっていたので、全部の腹にこすり付けてやった。

 全員が作業現場に注目してたので、地中を進み、蜥蜴の下で顔と腕だけを出してるオレには誰も気付きもしない。

 この工程を終えると、オレは土の中で魔物達が来るのを待った。





 1時間後。

 狼系や蜥蜴系の魔物が山ほど登場だ。

「何だ、コイツラ? どうしてこんなに?」

「絶対に作業員には手を出させるな」

 騎士達が必死に魔物達と戦ってる最中に、オレは闇の手を使った。

 地中の道の上に居た作業員を落とす。

 そして地中に引きずり込んだ。

「ん? マック、どこだ?」

 一瞬の出来事だ。

 音はしたが、騎士達と魔物達の喧噪もある。

 そっちに意識が向いていたので人は消えても問題なし。

 更には水道橋の下に移動したから。

 オレはそこでその1人を美味しくいただいたのだった。

 更にはもう1人。

 どんどん作業員を落としては地中に引きずり込んで美味しくいただく。

「おい、地中に何か居るぞ?」

 さすがに大工達が気付くが、魔物がウヨウヨ寄ってきてて、騎士達はそれどころではない。

 ガルルル。

 地上に顔を出さずとも、その唸り声だけで分かった。

 虎系の魔物の登場だ。

「クソ、どうしてこんなに魔物がっ!」

「作業員は絶対に守れっ! 水道橋の復旧が遅れたらアテミスが終わるぞっ!」

 その後も騎士達と魔物達の戦いは続いた。





 オレが6人を地中で美味しくいただいた頃、

「アテミスから魔物避けの香が届いたぞっ!」

「さっさと使ってくれっ!」

 現存する焚き火の中に次々に香が放り込まれて大規模に煙が焚かれる。

 これで一安心かと思いきや、

「どうして、これだけ魔物避けの香を使ったのに、まだ魔物が集まってくるんだ?」

「そう言えば、報告書には大型の魔物が水道橋を潰す前、ゾンビと魔物が戦ってたとあったぞ」

「・・・まさか、ゾンビに魔物寄せの道具を使った冒険者が居る? その残り香に誘われてるのか、コイツラ?」

「おいおい、魔物寄せの道具が使われてるんじゃあ、魔物避けの香は効かないって事じゃねえか。誰かアテミスから増援を呼べ。このままじゃあ全滅するぞっ!」

 と、まだまだ戦闘は続いた。





 お陰で朝が明けるまででオレは24人を地中に引きずり込んで美味しくいただいたのだった。





 ◇





 朝になっても騎士達は呼び寄せられた魔物達と戦ってる。

 美味しくいただいて、戦闘での損傷箇所の修復したオレは、土木作業の見直しに入った。

 幅2メートルの水道橋が立つ足元は想像通り、地下までは補強されていなかった。

 土の上に立つのみだ。

 その水道橋が建つ地下の土を□の左上と右下に線を引いた上側の三角部分の形になるようにオレは掘っていた。

 長々と400メートルも。

 50日間掛けて。

 後は衝撃を与えれば地盤の緩みから右側に倒れる目算だったのだが。

 オレはエリートだが高校生だ。

 土木建築にはそれほど詳しくない。

 もう少し地盤を緩めるか。

 オレは水道橋の地下を掘り続けたのだった。





 ◇





 2日目の夜が来た。

 やる事は決まってる。

 蜥蜴の休憩場所に地中を掘り進めて移動して、蜥蜴の腹に茶色の粉末のボールをこすり付ける。

 また魔物がやってきて大騒ぎだ。

 騎士団の方も迎え撃つ気満々で重装備だった。

 オレは少し離れた現存する水道橋の真横に顔だけ出して戦いを見てた訳だが。

 例の地雷を使ってて、魔物が踏んで燃えていた。

 他にも騎士が、

「これでも喰らえっ!」

 爆発する石を投げてる。

 それを見てオレは、

 あれが手に入れば地中を爆発させて簡単に倒させるのになぁ~。

 オレは無数に設置されたテントを見た。

 あの中の1つに保管されてる?

 どのテントか限定出来ないのに行当りバッタリで乗り込むという選択はないな。

 それに投げた衝撃で爆発するとして、地中で投げたら、オレまで御陀仏だし。

 何か他にいい方法はないものか。

 つるはしがあったら水道橋の破壊に使えそうだが、今回の建築作業は既に削られた石を水道橋として組むだけだ。

 作業員が必死に石を並べてる。

 最高地点は高さ4メートル。

 クレーンのないファンタジーの世界だ。

 水道橋の横に土を盛って斜面を作って土を運ぶ。

 地道な作業だが、その建築方法でエジプトのピラミッドも作ったらしいからな。

 理には適ってる。

 但し、このファンタジーの世界では石を運ぶのは人じゃなくて蜥蜴や牛だったが。

 事故を起こさせて作業を送らせてもいいのだが、もっと決定的な何かはないのか。

 そう思ってた時だった。

 ズズッと音がした。

 へっ?

 オレが音のした方向に視線を向ける。

 視線の先は崩れなかった現存する水道橋だった。

 もしかして、もう崩れる寸前なのか、これって?

 オレは地上に右腕を出して石製の水道橋を押してみる。

 すると、





 ズズズ・・・





「えっ?」

「何だ?」

 と作業員達が騒ぎ出す中、





 ドシィィィィン。





 と水道橋が倒れたのだった。

 それもオレの当初の予想被害の400メートル全部が。

 一応言っておく。

 確かにオレが押したが右腕一本だけだ。

 いくらゾンビがパワフルでも、水道橋を倒せる程ではない。

 これはオレの50日間の地道な努力の結晶が結んだ結果だった。

「嘘だろ、水道橋がっ!」

「そんなぁ~」

「ど、どど、どうなってるんだっ?」

 騎士達が喚いてる。

「あそこに何か居るぞっ!」

 おっと、オレが発見された。

 オレは慌てて土の中へと逃げて地中の道の中を移動したのだった。
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