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ゾンビは既に死んでいる。よって水分補給は必要ない。水道橋が崩れた

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 オレが水道橋に到着したのは夜だった。

 寄せの茶色の粉末のお陰で魔物が十数回襲ってきたからな。

 鷲系の大型魔物2羽に同時に襲われた時はどうなるかと思ったが、所詮は鳥だ。

 死んだふりで地上に誘って闇の手で1羽を倒したら、もう1羽がオレじゃなくて仲間の死骸をついばみ始めて、闇の手を使って2羽目も撃破。

 美味しくいただいてたら、こんな時間になってしまった。

 だが、夜に近付いたのは正解だったがな。

 何せ、大都市の生命線だ。

 兵士の見回りがある。

 距離が距離なので、騎兵だ。

 馬ではなく馬サイズの4足歩行の蜥蜴に乗った。

 それが見えてたので、わざと接近は夜を待った。

 それでは倒すか。

 兵士ではなく、水道橋を。

 オレは水道橋の真横の地面に穴を掘り始めたのだった。





 ◇





 施工日数は、まさかの50日間。

 50日を24時間丸々働いたオレの何と勤労意欲に溢れる事か。

 日本でもこんなに真面目に何かに取り組んだ事はなかったぞ。

 オレは一応、何でもハイスペックにこなせるタイプだったからな。





 ◇





 さあ、総仕上げだ。

 オレはまだ持ってた茶色の粉末が出る布ボールを自分の身体に振り撒いた。

 魔物達が寄ってくる。

 鴉、蛇、蜥蜴、狼、おっと、虎まで。

 それらを倒して時間を潰す。

 美味しくいただいて戦闘で傷付いた損傷箇所を修復しながら。

 だが、本命がなかなか来ない。

 もう3羽狩ったからな。

 打ち止めか?

 魔物達が水道橋に寄ってる事に気付いて水道橋を守る騎士達の方が本命よりも先に現れた。

「何だ? どうして、こんなに魔物が・・・」

「おい。あれ、ゾンビじゃないのか?」

「そう言えば、名前付きネームドのゾンビが南下したって報告が冒険者ギルドから上がってたな。なんて名前だっけ?」

 騎士連中の無駄話は地味な精神攻撃となった。

 覚えておけ、『リスカの悪魔』だよ。

 間もなく別の呼び方になるだろうけどな。

 全部で騎士が20人か。

 馬サイズの蜥蜴は10匹。

 全員が2人乗りだ。

 クソ、手こずるかもな。

 と思ったが、更なる問題が発生した。

 集まった騎士達は誰も乗ってる蜥蜴から下りてオレに接近してこなかったのだ。

 騎士達は全員が騎乗したままで、

 そして数名がカウボーイで御馴染の投げ縄をオレに投げてきた。

 おいおい。

 この後の展開が読めて、さすがにオレも絶句したが、

 オレはゾンビだ。

 俊敏性だけはない。

 ノロノロだ。

 その為、拙い事は十分理解していたが、投げ縄を回避する事が出来ず、

 約10回の投げ縄で1本のロープの輪が上手くオレの身体を捕えて、ゾンビポーズの腕の下に落ちた瞬間に引っ張られた。

 投げ縄の輪が縮む。

 胸部でロープが完全に縛られた。

「よし、上手く引っ掛かったぞ」

 投げ縄を成功させた騎士が勝ち誇る。

 拙い。

 オレはロープを握って引っ張ったが、既にオレの身体を捕らえたロープの先端は蜥蜴の背鞍に繋がっている。

「はっ!」

 その蜥蜴に乗ってる騎士が蜥蜴を走らせた。

 ロープが引っ張られてオレが引きずられる。

「ゾンビ風情などこれで十分さ、ヒャッホー」

 オレを引きずる蜥蜴に乗った騎士がカウボーイのようにはしゃぐ。

 クソ、拙いぞ。

 そうだ、歯でロープを切断するんだ。

 引きずられたオレは必死に掴んでたロープを歯に掛けて噛んだ。

 なかなか切れない。

 だろうな。

 こんな引きずり用に使ってるロープなんだから。

 頑丈に決まってる。

 オレはロープを切るのに体感5分間を必要とした。

 それでどうにか引きずられの刑から解放される。

 水道橋から離されなかったのだけが救いだ。

 だが、またオレを囲んだ騎士達が投げ縄を投げてきた。

 拙い。

 ゲームに詳しくないオレでも分かるぞ。

 これってハメ技っていう奴だろ。

 どうにかしないと、と思った時だった。

 オレが立つ場所に影が掛かった。

 騎士達に集中してて気付かなかったが、ようやく本命の到着だ。

 そう、オレが待ってた鷲系の大型魔物の到着だった。





「なっ! どうして、コイツが?」

「全員、戦闘能勢だ」

 もうオレなんて相手にされない。

 騎士達は矢を構えて上空の鷲系の大型魔物を射てる。

 オレはその隙に水道橋のギリギリまで移動した。

 引きずられた足は大丈夫だ。

 ちゃんと歩けた。

 問題は場所だ。

 ここは範囲内か、それとも外か?

 どっちだ。

 オレは水道橋の周囲を見る。

 駄目だ。

 同じ風景で分からない。

 出たとこ勝負か。

 などと思ってると、鷲系の大型魔物が急降下してきた。

 狙いはオレかと思ったが、矢を射てる連中が鬱陶しかったのか、騎士達へ攻撃を始めた。

「ギャアアア」

「クソ、怯むなっ!」

 必死に戦ってる騎士どもが滑稽に思えて仕方がない。

 ってか、早く水道橋を倒したいんだが。

 オレは闇の手で射程範囲内に居た騎士2人を始末した。

 全員が上空の鷲系の大型魔物に集中してたので、簡単に当たった。

 それどころか、オレが倒した事すら気付かれなかった。

 後は射程範囲外なので手出しは出来なかったが。

 これって、もしかして騎士を美味しくいただけるんじゃないか。

 鷲系の大型魔物と騎士連中の戦闘中に、オレはそんな事を考えてたが、

 ようやく系の大型魔物がオレに狙いを定めた。

 オレは水道橋のギリギリに立つ。

 被弾は覚悟の上だ。

 そして鷲系の大型魔物がオレを攻撃しようと水道橋にぶつかった時だった。

 ドシンッと鷲系の大型魔物の巨体が水道橋に当たると、その衝撃でゆっくりとだが水道橋がズズズッと倒れ始め、最後には石製の水道橋が倒れた。

 水がバシャアアァッと地面に零れる。

「ぬああああ、水道橋がっ!」

「アテミス15万人の生命線なのにっ!」

「なんて事してくれるんだ、この魔物はっ!」

 騎士どもが喚いてるが、

 倒れた箇所は系の大型魔物がぶつかった付近から10メートルだけだった。

 あれっ?

 たったのそれだけ?

 400メートルは倒れるはずだったのに。

 オレはとりあえず水道橋が倒れた事で、健在してる水道橋と倒れた水道橋の境目から滝のように流れてる水へと移動し、水を頭から浴びて魔物寄せの粉を落とすと、ノロノロとだが倒れた水道橋の瓦礫の上を移動して、騎士達が居るのとは反対側へと離脱を試みた。

 もう騎士達はゾンビのオレどころの騒ぎではないらしい。

 信じられない事にオレはまんまと離脱に成功し、穴を掘って倒れなかった水道橋の下にあった地中の道へと移動したのだった。





 クソぉ~。

 50日間のオレの努力の結晶が。

 僅か10メートルって。

 400メートルは倒れる大作だったのにぃ~。
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