上 下
14 / 39

ゾンビは既に死んでいる。よって喋る蝙蝠をナマで美味しくいただいても問題ない

しおりを挟む
 24時間睡眠要らずで動けるオレは夜中、枯れて全滅した麦畑を歩いていた。

 もう最悪。

 何度も何度も冒険者達がアタックしてきやがって。

 それも遠距離の魔法攻撃ばっか。

 後、矢な。

 例の聖水とやらを塗ってるのか、最近は身体に刺さるとシュウシュウッと音が鳴ってるし。

 苦戦の連続でオレは現在、左腕が欠落していた。

 右腕1本を前に上げて歩いている。

 いい加減、このゾンビポーズは止めたいが。

 なんて思ってると、

「よう、まだ生きてたのか?」

 喋る蝙蝠が飛んできた。

「アアアァアァァァ(まあな。最近冒険者に狙われて災難だよ)」

 と答えながらオレが何を考えてたのか正直に告白しよう。





 左腕の修復の足しに少しはなるかな?





 だった。

 『友達を美味しくいただくなんて酷い奴だ』と思うかも知れないが、

 人間社会でもファンタジーでも弱肉強食は原則だからな。

 それにだ。

 この喋る蝙蝠はおそらくは足を引っ張るタイプの友達だ。

 ここでお別れした方がオレの為にもいいはず。

 確証はないがな。

 ただの直感だから。

 だが、あえて言わせて貰えれば、





 名前も知らない奴を果たして友達と呼べるのか?





 だな。

 一般常識で言えば。

「仕方ないだろ、修道院を落として今や有名人なんだから」

「アアアアァァァ(なあ、あれ、斥候じゃないよな?)」

 オレが水を向けて、喋る蝙蝠が遠方を見た瞬間だった。

 残った右手で闇の手を発動。

 射程範囲の3メートル以内に喋る蝙蝠は飛んでて、オレの中では当たる確率50パーセントの博打だったが、

「あれはただの案山子かかしだろ」

 と答えた喋る蝙蝠に闇が当たり、

 オレの中では、蜥蜴系の魔物同様、効かない確率80パーセントだったので、殆どダメ元だったのだが、

「・・・グオオオ、何の真似だっ!」

 悲鳴を上げ、意識を保ってたものの、喋る蝙蝠が地上に落ちてきた。

 嘘、闇が効いた?

 蜥蜴系の魔物には効かなかったのに?

 あの蜥蜴だけが特別だったのか?

 ともかく賭けに勝ったオレは慌てて、ノロノロながらも全速力で落下点に近付いて喋る蝙蝠を足で踏み、

「グアアアア、まさか、おまえっ?」

「アアアァァァ(じゃあな)」

 オレは覆い被さるように蹲って、口を大きく開けて右手で掴んだ喋る蝙蝠に噛み付いたのだった。

「ギャアアアアアア」

 喋る蝙蝠が断末魔を上げた瞬間、

 喋る蝙蝠が人間になった。

 小学生くらいだろうか。

 少年に。

 妙に肌が青白い。

 それに牙があった。

 ファンタジーにうといオレでもここまでヒントがあればさすがに分かる。

 ヴァンパイアって奴だ。

 喋る蝙蝠じゃなかったのか。

 これだけの量なら左腕の修復も可能かな?

 でもヴァンパイアの癖にオレの闇の手が効くって。

 雑魚の部類だな。

 蝙蝠なんかに化けてたくらいだから。

 オレはその後、そのヴァンパイアを美味しくいただいたのだった。





 さすがは高級食材(?)。

 一口美味しくいただいた直後に左腕の損傷個所が修復された。

 心臓も美味しくいただいたが、闇に身体が包まれる事はなかった。

 その程度のエネルギーだったって事だ。

「アアアアァァァァ」

 声を出してみたが喋れなかったし。

 何を期待してたんだか。

 ゾンビなんだ。

 喋るのは諦めよう。

 美味しくいただき終えるとオレは両腕をまた前に上げてノロノロと歩き始めた。





 こうして喋る蝙蝠との縁は切れたのだった。





 ◇





 戦いは続く。

 正確には冒険者どもに狙われまくりだ。

 狙われる理由はオレが嫌われ者のゾンビだから。

 それだけの理由で。

 そしてゾンビは移動速度が限られてる。

 目撃情報から移動予測は簡単に出来る訳だ。

 お陰で最近では待ち伏せされてる始末だ。

 だが、喋る蝙蝠ことヴァンパイアを美味しくいただいてからのオレの調子はすこぶる良い。

「おい、どうなってる? 魔法が効かなくなってるぞ?」

「ああ、この前までは20発もお見舞いしたら腕の一本は吹き飛んでたのに・・・」

「聖水の矢もだ」

「このままじゃあ、聖郭せいかくに辿り着くぞ」

 今もオレに攻撃してきてる遠巻きに囲む冒険者達が驚いてる。

 オレ自身も驚いてるがな。

 冒険者達が放つ攻撃魔法の効きが弱くなってきてるんだから。

 連中の驚きようから手を抜いてるなんて事はないようだ。

 耐性が付いた?

 それとも防御力が上がったって奴か?

 もしかして飛ばせる闇の射程距離も・・・

 オレは『闇の手』を使った。

 ダメだ、伸びてない。

 射程距離は5メートル圏内のままだったから。

 つまり、反撃の手段はない訳か。

 どうしようもないな。

 オレは魔法攻撃や矢攻撃を浴びながら歩いた。





 そして、魔法を放ってた魔術師達が疲労で、

「ダメだ。もう」

「オレもだ」

 魔法を撃たなくなり、

 束で矢を持って来ていた狩人達は、

「クソ、矢が尽きた」

「こっちもだ」

 と悔しがり、

「一先ず撤退だ」

 と撤退していったのだった。





 その逃げる後ろ姿を眺めながらオレは、





 全然ダメージはないっぽいが、あれだけ散々攻撃されてやられっぱなしってのはどうもなぁ~。





 苦笑したのだった。





 ◇





 オレは小高い丘から城壁を眺めていた。

 城や街を囲う城壁じゃない。

 小さな山が離れて二つあり、その間に長い城壁がずっと繋がっていた。

 中国の万里の長城っぽいな。

 ファンタジー風だが。

 そして城壁の色は白色。

 純白である。

 黄金装飾までが白い城壁に施されており、キラキラと太陽の光で反射していた。

 模様は紋章だろうか?

 ってか、城壁に黄金って?

 ただの成金趣味なだけか?

 それともファンタジーらしく魔法が関係してる?

 城壁はともかく、

 冒険者の連中が執拗にオレを攻撃していた理由が分かった。

 あれを越えさせたくないんだ、と。

 ふむ。

 理由がまったく分からない。

 確か『聖郭せいかく』って呼んでたな。

 国境か何かか?

 ニュースで見たアメリカとメキシコの国境みたいな?

 それにしては壁が真っ白だが・・・

 ダメだ。

 冒険者達が必死だった意図が今一分からない。

 情報が少な過ぎて。

 情報収集が必要かもな。

 オレはそう思いながらとりあえず土を掘って地中に潜って城壁に近付いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

200年後の日本は、ゾンビで溢れていました。

月見酒
ファンタジー
12年間働いていたブラック企業やめた俺こと烏羽弘毅(からすばこうき)は三日三晩「DEAD OF GUN」に没頭していた。 さすがに体力と睡眠不足が祟りそのまま寝てしまった。そして目か覚めるとそこはゾンビが平然と闊歩し、朽ち果てた200年後の日本だった。 そしてなぜかゲーム内のステータスが己の身体能力となり、武器、金が現実で使えた。 世界的にも有名なトッププレイヤーによるリアルガンアクションバトルが始動する! 「一人は寂しぃ!」

【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!

鏑木 うりこ
ファンタジー
 幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。 勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた! 「家庭菜園だけかよーー!」  元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?  大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ
ファンタジー
高校生の時に異世界に召喚された主人公――四河日門。文化レベルが低過ぎる異世界に我慢ならず、元の世界へと戻ってきたのはいいのだが、地球は自分が知っている世界とはかけ離れた環境へと変貌していた。文明は崩壊し、人々はゾンビとなり世界は終末を迎えてしまっていたのだ。大きなショックを受ける日門だが、それでも持ち前のポジティブさを発揮し、せっかくだからと終末世界を異世界アイテムなどを使ってのんびり暮らすことにしたのである。

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

処理中です...