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ゾンビは既に死んでいる。女悪魔にスカウトされて村を落とせと命令される【後編】

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 このファンタジー世界での松明の原理は以下の通りである。





 木の棒の先に油を染み込ませた布切れを巻き、火を付ける。






 問題は第2回遠征時に逃げた兵士達がその備品を丸々洞窟の中に置いていった事にある。

 つまり、オレは油を持ってた訳だ。

 火打ち石などは冒険者を倒した時からも集めてるから大量にある。





 そんな条件下の中、





 ある夜。

 村の丸太の塀に油を全部掛けて、火打ち石で引火すると一気に燃えたのだった。





 火を使うゾンビって。

 そんな奴はオレだけだろうな。





 火が燃え広がった時点で、オレは穴からさっさと逃げた訳だが。





 翌日の夜に見に行くと・・・

 村を囲っていた7分の1の区画の丸太の塀が焼失していた。





 さてと、次だ。

 もう地面の中の道はあるんだ。

 オレは夜に村に出没した。

 夜の村内は警戒厳重だが、村の男手が2人1組で巡回していた。

 その士気は低く、酒の入った革袋を煽りながら、

「夜中に見回りとかやってられないぜ、ヒクッ」

「まったくだぜ」

 というものだった。

 なので、小石を路地裏に投げて壁にカツンッと音を立てて誘い出すと、

「何だ、今の音?」

「さあな、虫か何かだろ」

「ちょっと見てくる」

 と1人で別行動してくれて、オレが待ち伏せしてて、

「ヒィっ」

 と叫ぼうとしたが、右手で呆気なく口を塞いで先に落とした。

「おい、ベータ? 早く行こうぜ」

 だが返事はない。

 普通なら路地裏に心配して見に来るものだが、酔っぱらいには常識は通用せず、

「先に戻ってるからな」 

 と言って、表通りを歩いていった。

 ほう。

 1人で先に行ったか。

 実戦はやはり想定通りには行かない訳か。

 勉強になるな。

 オレはそう思いながら、村人を美味しくいただいたのだった。





 村の連中が焼失した塀回りだけを心配してたので、この後、巡回してた村人5組10人を喰らい、計11人を始末して、オレは村人が持ってた松明に火を付けて村を3軒燃やしてから、夜の内に地面に掘った穴から森へと帰ったのだった。





 もう森に冒険者達は来ない。

 連中は攻勢ではなく防戦となったのだから。

 そう。

 オレの攻撃のターンになっていた。

 もうやりたい放題だ。

 林で柴刈りをしてる老人2人を人知れずに始末した。





 だが、世の中、そんなに思い通りにはいかない。





 兵隊が村に増援に来た。

 それも200人も。

 はい、もう無理無理。

 詰んだ。

 村を落とすのはオレ1人ではもう無理だ。

 そんな戦法は存在しないから。

 ーーそうかっ!

 兵糧攻めか。

 村の塀じゃなくて、村の横の林を、油を使って燃やせば良かったのか。

 そうすれば、燃料が無くなって村が落ちてたのに。

 ああ、クソ。

 失敗したぁ~。





 などと思っていたが、この村攻防戦に第3勢力が参戦してきた。





 熊系の魔物3頭だ。

 普通の熊でもヤバイのに、魔物だから。

 それも全長4メートル級。

 そして、コイツ、どうも人間とゾンビのオレの区別が付かないらしい。

「ガオオオオっ!」

 遠くからオレに向かって猛突進してきたから。

 なので、慌てて地面の中の道へと逃げたのだった。





 これでどうなるか分からなくなってきたな。

 何せ、村の塀はまだ焼失した状態だ。

 熊が突進したら笑える事になるかもよ。





 ◇





 そして熊は村の中に突入した。

 兵士150人以上、冒険者30人以上の損害を与えて。

 熊2頭も戦死。

 残る熊1頭だけが村の中に突入してボーナスタイムだ。

 武器を持たない村人相手に大暴れをしていた。

 喰えば喰うだけ強くなるのは熊も同様らしい。

 喰ってる途中で熊の毛皮が青色から赤色に変化。

 背中から炎まで出してる。

 おお、怖。

 あんなのに関わりたくはないな。

 これで村はもう落ちたな。

 ほら、遂に門がギギギッと開いた。

 馬車じゃなくて蜥蜴が引く車に乗って村人達が逃げ始めてる。

 兵士や冒険者達もだ。

 村人達を守って街道を進んだ。

 林に逃げたら、オレもオコボレに呼ばれようと思ったが。

 おっと、炎熊がそれを追い掛けて村から出ていったから。

 凄い食欲だなぁ~。





 以上を以て、村は陥落したのだった。





 さてと。

 オレのその後の動きは決まってる。

 地面の中の道から村に突入だ。

 何故かと言えば、オレはゾンビなので喋れないが、

 転生特典なのか、この世界の人間の言葉が分かる。





 そして夜に村の巡回をしてた村人達が、

「村長の家の食糧庫の地下室には何人隠れられたんだっけ?」

「あんな小さい部屋、10人が限界だろうよ。いざという時は冒険者ギルドに立て籠もるんだってさ。冒険者ギルドには食糧の備蓄もあるらしいから」

「へぇ~」

 なんて呑気に喋ってたからな。





 この世界の連中は情報戦のなんたるかを知らな過ぎる。

 ぬるい連中のお陰で情報を得て、オレは村長宅らしき一番デカイ屋敷の食料庫の錠を素手で潰して、食糧庫内の床の取っ手を発見し、開けた。

 そしたら階段があり、

「もう大丈夫なのかい?」

 隠れてた老婆が質問したので、

「アアアァァァァ」

 とゾンビの声で返事してやると、

「ヒィィィ。ゾンビィィィ」

「いやああっっ!」

 とか7人くらいの老婆や子供、女達が喚き出した。

 まあ、これも戦場の掟だ。

 オレも散々命を狙われたんでな。

 糧になりな。

 オレは全員を毒の手で落としてから喰らったのだった。





 後は炎熊が燃やした村を更に燃やす。

 村長の食糧庫で油を発見したので、重点的に丸太の塀の方を燃やした。

 これで村は再起不能だ。





 それだけではない。

 塀の外で熊が倒した兵士や冒険者達の死体180人分も、炎熊が戻ってこなかったので、丸1日半掛けてオレが美味しくいただいたのだった。

 ついでに塀の外側で倒された熊系の魔物2頭も試しに喰らってみた。

 それが正解だったのか、

 熊2頭の内蔵か、心臓かは知らないが、喰らったら、

 また黒い闇に一瞬包まれて、今度は黒いボロを纏うようになっていた。

 黒と言えば、ダークサイドだが、

 ダメだ。

 ファンタジーの知識がオレ、殆どないから。

 その衣裳変化に満足したオレは地面の穴から森へと帰っていったのだった。





 ◇





 90日を待たずに、50日でM字開脚座りの女悪魔が森にやってきた。

「もう村を落としたの? 凄いわね? どうやったの?」

「アアアァァァ(オレがやったんじゃないけどな)」

「へぇ~、凄いわね、やるじゃないの」

 絶対にオレの言葉分かってないだろ、この女悪魔。

「この森を住処にしてていいわよ。命令は珠にするだけだから」

「アアアアァァ(だから、ならないって)」

「ええ、じゃあね」

 一方通行の会話の後、空を飛んで帰っていったのだった。

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