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1560年、桶狭間の戦い
沓掛城から今川義元出発
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【松平元康、尾張丸根砦攻めの際に戦死説、採用】
【善応院、1539年生まれ説、採用】
【七条、1556年生まれ説、採用】
【織田信房の織田姓は褒美説、採用】
【毛利新介、1539年生まれ説、採用】
【毛利新介を信長に推薦したのは森可成説、採用】
三河の松平元康は尾張の丸根砦を攻めてた訳だが、守将は佐久間盛重である。
尾張の氏族名門の佐久間の人間が守るのだから要所であり、織田方も防衛に必死で、戦国時代の最新兵器、火縄銃が20丁も与えられていた。
火縄銃20丁が弾込めが終わると同時に丸根砦から発射され、攻める松平勢に降り注いだ。
そんな中、指揮官の松平元康は、
「絶対に清州城に一番乗りするぞっ!」
やる気に満ちていた。
それには理由がある。
幼少期に織田家の人質となった元康は信長の虐め抜かれており、通常ならば牙を抜かれてるところだが、三河松平の御曹司だけあって牙が抜かれておらず、
(殺してやるっ! 絶対に殺してやるぞ、信長ぁぁぁっ! 童のオレを当たり前のように何度も何度も殴った信長の側近の大人の河尻秀隆ぁぁぁぁっ! それと信長の腕に噛み付いたくらいで背中に火縄銃の火薬を撒いて火縄で点火して背中を火傷させた腰巾着の岩室長門守ぃぃぃっ! そしてそして、火縄銃の的にして笑いながらオレの足の甲を撃ち抜きやがった織田信長ぁぁぁぁぁぁっ! おまえら3人だけは絶対に許さんからなぁぁぁぁっ! 絶対に殺してやるぅぅぅぅぅぅぅっ!)
信長憎しで三河兵に無謀な突撃をさせていたのだが、丸根砦とは別方向からの銃撃音と共に元康の首筋に激痛が走り、
「ぐああああああ、首があああ、痛い痛い痛いっ!」
「えっ、元康様?」
「拙い。元康様を守れ」
「一端兵を退くぞっ!」
松平家中の兵に守られて松平元康は撤退したのだった。
元康を撃ったのが丸根砦からの火縄銃ではなく、木の上に潜んだ服部正成が撃った火縄銃である事に気付いた者はこの混沌とした戦場では誰も居なかった。
沓掛城の今川義元の許に、
「三河の松平元康、火縄銃で撃たれて負傷しました」
その報告が届けられたのは元康が狙撃された当日だった。
元康暗殺用に松井宗信が放った弓隊からの報告なので虚偽ではないが、
「どこを撃たれた? 腹か頭か? 死に至る程の重傷なのか?」
「三河松平の重臣達のあの騒ぎようでは明日をも知れぬ命かと」
その報告に、
「あの狂犬の小僧を火縄銃で撃ってくれた織田兵に感謝せねばな、ハーッハッハッハッ」
高笑いを上げた義元は、
「よし、明日、沓掛城を出発して最前線の大高城に入るぞ。そう触れを出せ」
「ははっ」
沓掛城からの進軍を決めたのだった。
この今川義元の出発情報が清州城に入ったのはその日の昼間だったが、その頃には信長の方も清洲城下の全軍に登城の触れを出していた。
その登城の触れが出た事を受けて池田屋敷に居た池田恒興は戦に出る覚悟を決めて家族と向き合った。
恒興は既婚者である。
正室の名前は善応院。
こんな名前なのは前夫に先立たれた後家だからだった。
前夫の信長の異母兄の織田信時。
尾張で織田家の御曹司の妻になるのだ。善応院は美人な上に家柄も良かった。
まあ、善応院の実家の荒尾氏は早々に今川方に降伏しているのだが。
その善応院の横には前夫との娘で池田屋敷に引き取った七条が座る。
「どうやら明日だ。籠城か野戦かは信長様のお心次第だが」
「そうですか、死なないで下さいね」
「いざという時は勝九郎を頼むな」
女中があやしてる赤子を見ながら恒興は答えた。
「今川に降伏はされないのですか?」
「信長様の為に死ぬのみさ」
その言葉は自然と口から出たが遅蒔きに気付いて、カッコイイ、と思ってる三枚目なのが恒興なので締まらなかったが。
その後も戦前なので夫婦らしく愛し合った。
翌日。
今川義元は沓掛城から出発しなかった。
天気が理由ではない。快晴なのだから。
つまりは義元も馬鹿ではないという事だ。
清州城の内情を今川方も掴んでおり、信長が清洲城に兵を集めた事を知って、出撃するか相手の出方を見る為に出発を延期にしていたのだ。
「甘いわ、小僧。この義元を甘く見るではないぞ」
そう清州城の方を見て笑ったのだが、
奇行で知られる信長の方も清洲城に兵を集めただけで別に出陣などはしなかった。
触れで清州城内に兵が集められただけだ。
兵が集まった清洲城内にて、
「おい、恒興。信長様は本当に籠城策を選ばれるおつもりなのか?」
佐々成政が恒興に尋ねるが、本当に教えて貰っていないので、
「知らんよ。『出陣と籠城、両方の用意をしておけ』としか言われてないんだから。だよな、長門」
同意を求められた小姓筆頭の岩室重休は初耳とばかりに、
「えっ、両方なのか? オレは信長様から『籠城だ』と直接聞いたぞ」
「あれ、そうなのか?」
恒興の方がそう驚いたが、これは別に不思議な事でも何でもない。
信長は乳兄弟の恒興が嘘のつけない性格な事を知っており、本当の事は教えず、両方だ、と煙に巻き、重休は才人で嘘もさらりとつけるので野戦方針なのを知ってたが「籠城だ」と嘘をついているのだから。
「だよな、サル?」
重休が偶然通り掛かった藤吉郎に声を掛け、
「ええ、籠城だと思います。薪の確認をするように信長様に言われて、数えにいくところですから」
藤吉郎も演技派なので、そう答えて歩いていった。
「やはり籠城か。信長様なら討って出ると思ったんだがな」
そう成政は残念がったのだった。
◇
これで話は終わりではない。
何故ならば、この小説は創作多数だが史実の流れに沿っているのだから。
二日後の深夜。
今川義元が滞在中の沓掛城の門を、三河松平の陣からの脱走者が褒美欲しさに訪ねて来ていた。
「実はとっておきの情報があるのですが」
門を守る夜勤の兵は、またか、と思いながらも、素知らぬ顔をして通せ、と言われていたので命令通りに通した。
その密告者の応対をしたのは今川上洛軍に合流した笠寺砦の守将、三浦義就である。
直接、義就が対応するのは、雑兵の密告内容がそれだけの内容だったからだ。
まあ、この雑兵で三河松平からの密告者は4人目なのだが。
最初に起こされた時はうんざりしたが、その後も何人も松平の陣から密告者が現れるので完全に眼が醒めた義就が、
「とっておきの情報とは何だ?」
「はっ、その前に御褒美はいただけますのでしょうか?」
「内容次第だな」
「実は松平の殿様が死にました」
これまでの密告者と内容は同じだった。
「直接見たのか?」
念の為に聞いてみる。
まあ、見てないだろう。どう見ても雑兵だ。
「いえ、さすがに。ですが家老の酒井様が大泣きしてるのを見ました」
「そうか。では褒美をやろう」
と視線で合図すると、密告者の背後に居た部下が槍でブスリッと突き刺し、
「グアアアアア、な、何を――」
「三河の雑兵ごときがオレの眠りを妨げた罰だっ! あの世で閻魔にそう告げよっ!」
4人目の雑兵が殺された時、奥から副将の松井宗信までが出てきた。
「悲鳴が漏れるとは仕事が荒いな。口を防いでから殺さぬか」
「申し訳ございません」
暗殺の指南をしてると、
「松平勢に付けていた暗殺部隊が戻って参りました」
との報告と共に、宗信の前に弓隊に扮する近習の1人が現れた。
「只今、戻りました」
「おまえ達が戻ってきたという事は死んだか?」
「はっ、火縄銃の流れ弾が首に当たって意識不明だった三河の若僧が先程、死にましてございまする」
「確実か? 丸根砦を松平勢が今日の昼間落としたと報告を受けたが?」
「はい、松平の陣に忍び込んで直接確認致しました。織田との戦が終わるまで松平の重臣どもは御大(御大将の事)に報告しない腹づもりです。手柄を積み上げて御家の存続を図るとか言っておりました」
「馬鹿どもが。それが理由で三河松平が解体されるとも知らずに」
宗信はニヤリと笑ったのだった。
同時刻。
信長は敦盛を舞ってから、清州城から出発した。
その信長の行動に付いていけたのは信長の鎧着せを手伝った小姓の岩室重休、長谷川橋介、山口飛騨守、加藤弥三郎、佐脇良之の5人だけだった。
尚、佐脇良之は姓が違うが前田利家の弟である。
呑気に清州城内で仮眠を取っていた恒興は鎧を脱いで眠っていたので、
「信長様が清州城から出陣したってよ」
「何だと?」
「どこに行ったんだ?」
「熱田神社で集合だそうだ」
「だったら急がないと」
と城内が騒然となってようやく起き、鎧を着て追い掛けようとしたのだが。
恒興は織田一門衆と同格扱いだ。
よって足軽の鎧ではなく立派な鎧を与えられており、当然1人では装着出来ず、
「おい、誰かオレの鎧を着るのを手伝ってくれ。ああ、九右衛門、いいところにーー」
「悪い、勝さん。オレも親父みたいに織田姓が貰えるくらいの手柄を立てたいんでね、お先に」
小姓の菅屋長頼はそう言って足軽鎧を着ながら出ていった。
「嘘だろ。信長様だぞ? 戦場に出送れたらオレでも怒られるんだぞっ! そこの、ええっと、毛利新介っ! 鎧を着るのを手伝えっ!」
次に名前を呼ばれた21歳の若武者の毛利新介が嫌そうな顔で、
「ああ、もう。早く鎧を着て下さいよ、池田殿。池田殿と違って、小姓のオレの場合、送れたら本当に首が飛ぶんですから」
文句を言いながらも鎧を着るのを手伝ったのは恒興が織田一門衆と同格扱いだからだけではない。
新介を信長の小姓に推薦したのが森可成で、信長のお気に入りの可成と織田一門衆と同格扱いの池田恒興との仲が良好だったという家臣派閥の政治的な背景もあった。
恒興に名前が知られていたのもその所為だ。
それに織田一門衆と同格扱いの恒興に嫌われるのは、織田家中ではかなり拙いのも事実だ。
新介は渋々と手伝い、恒興はそのお陰でどうにか鎧を着る事が出来て清洲城から出発したが完全に出遅れたのだった。
そして夜が明けた朝、沓掛城からは今川義元の本隊が出発した。
目指すは尾張内の今川最前線基地の大高城である。
睡眠が妨げられる事もなく、寝起きと同時に、
「三河の松平勢は隠しておりますが、どうも松平元康が死んだようです」
との報告を受けた義元が御機嫌で出発の触れを出して。
馬に乗れないのではなく、京での生活の練習として輿に乗り込もうとした義元が、
「今日は良い事がありそうだな」
曇った天気だったがそう呟き、
「案外、清州城で寝返りに遭った織田の若僧の首が落ちてるやもしれませんな」
副将の松井宗信もそう追従し、
「そうかもしれんな、ハァーッハッハッハッ」
本当に機嫌良く出発したのだった。
登場人物、1560年度
松平元康(17)・・・三河松平家当主。祖父と父親同様、誰にでも噛み付く狂犬。信長憎し、織田憎しで有名。享年17歳。元康が知る信長は影武者だった池田恒興。
能力値、松平の狂犬一族S、三河魂D、信長憎しSS、生傷が絶えずA、雪舟の鎖B、本日の運勢最悪☆☆☆
善応院(21)・・・恒興の正室。前夫は信長の異母兄の織田信時。前夫との間に娘、七条あり。
能力値、再婚は信長の命令B、姑に頭上がらずSS、政治に口を挟まずA、実家にウンザリA、子育てA、今の生活に満足D
佐々成政(24)・・・信長の近習。近江源氏の佐々氏の庶流。織田信安の元部下。政務が有能。正室は村井貞勝の娘。
能力値、まさかの文官肌A、不運の佐々☆、豪傑への尊敬A、信長への絶対忠誠B、信長からの信頼B、織田家臣団での待遇B
岩室重休(24)・・・信長の寵臣の小姓。通称、長門守。文武、容姿共に優れている。甲賀五十三家の岩室氏の傍系。信秀の最後の側室、岩室殿とは無関係。
能力値、命知らずA、隠れなき才人A、信長の寵臣A、信長への絶対忠誠S、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A
菅屋長頼(22)・・・織田家の家臣。織田信房の次男。父親の信房は繊田一族とは無関係。信房の織田姓は褒美。恒興とは領地が隣同士。兄は小瀬清長。
能力値、父親の七光りB、武芸は下手の横好きA、若き奉行候補A、信長への忠誠A、信長からの信頼C、織田家臣団での待遇C
毛利新介(21)・・・織田家の家臣。信長の小姓。言わずと知れた桶狭間の戦いの主役。
能力値、我武者羅A、森可成の推薦A、信長への忠誠B、信長からの信頼B、信長家臣団での待遇D、本日の運勢最高☆☆☆
【善応院、1539年生まれ説、採用】
【七条、1556年生まれ説、採用】
【織田信房の織田姓は褒美説、採用】
【毛利新介、1539年生まれ説、採用】
【毛利新介を信長に推薦したのは森可成説、採用】
三河の松平元康は尾張の丸根砦を攻めてた訳だが、守将は佐久間盛重である。
尾張の氏族名門の佐久間の人間が守るのだから要所であり、織田方も防衛に必死で、戦国時代の最新兵器、火縄銃が20丁も与えられていた。
火縄銃20丁が弾込めが終わると同時に丸根砦から発射され、攻める松平勢に降り注いだ。
そんな中、指揮官の松平元康は、
「絶対に清州城に一番乗りするぞっ!」
やる気に満ちていた。
それには理由がある。
幼少期に織田家の人質となった元康は信長の虐め抜かれており、通常ならば牙を抜かれてるところだが、三河松平の御曹司だけあって牙が抜かれておらず、
(殺してやるっ! 絶対に殺してやるぞ、信長ぁぁぁっ! 童のオレを当たり前のように何度も何度も殴った信長の側近の大人の河尻秀隆ぁぁぁぁっ! それと信長の腕に噛み付いたくらいで背中に火縄銃の火薬を撒いて火縄で点火して背中を火傷させた腰巾着の岩室長門守ぃぃぃっ! そしてそして、火縄銃の的にして笑いながらオレの足の甲を撃ち抜きやがった織田信長ぁぁぁぁぁぁっ! おまえら3人だけは絶対に許さんからなぁぁぁぁっ! 絶対に殺してやるぅぅぅぅぅぅぅっ!)
信長憎しで三河兵に無謀な突撃をさせていたのだが、丸根砦とは別方向からの銃撃音と共に元康の首筋に激痛が走り、
「ぐああああああ、首があああ、痛い痛い痛いっ!」
「えっ、元康様?」
「拙い。元康様を守れ」
「一端兵を退くぞっ!」
松平家中の兵に守られて松平元康は撤退したのだった。
元康を撃ったのが丸根砦からの火縄銃ではなく、木の上に潜んだ服部正成が撃った火縄銃である事に気付いた者はこの混沌とした戦場では誰も居なかった。
沓掛城の今川義元の許に、
「三河の松平元康、火縄銃で撃たれて負傷しました」
その報告が届けられたのは元康が狙撃された当日だった。
元康暗殺用に松井宗信が放った弓隊からの報告なので虚偽ではないが、
「どこを撃たれた? 腹か頭か? 死に至る程の重傷なのか?」
「三河松平の重臣達のあの騒ぎようでは明日をも知れぬ命かと」
その報告に、
「あの狂犬の小僧を火縄銃で撃ってくれた織田兵に感謝せねばな、ハーッハッハッハッ」
高笑いを上げた義元は、
「よし、明日、沓掛城を出発して最前線の大高城に入るぞ。そう触れを出せ」
「ははっ」
沓掛城からの進軍を決めたのだった。
この今川義元の出発情報が清州城に入ったのはその日の昼間だったが、その頃には信長の方も清洲城下の全軍に登城の触れを出していた。
その登城の触れが出た事を受けて池田屋敷に居た池田恒興は戦に出る覚悟を決めて家族と向き合った。
恒興は既婚者である。
正室の名前は善応院。
こんな名前なのは前夫に先立たれた後家だからだった。
前夫の信長の異母兄の織田信時。
尾張で織田家の御曹司の妻になるのだ。善応院は美人な上に家柄も良かった。
まあ、善応院の実家の荒尾氏は早々に今川方に降伏しているのだが。
その善応院の横には前夫との娘で池田屋敷に引き取った七条が座る。
「どうやら明日だ。籠城か野戦かは信長様のお心次第だが」
「そうですか、死なないで下さいね」
「いざという時は勝九郎を頼むな」
女中があやしてる赤子を見ながら恒興は答えた。
「今川に降伏はされないのですか?」
「信長様の為に死ぬのみさ」
その言葉は自然と口から出たが遅蒔きに気付いて、カッコイイ、と思ってる三枚目なのが恒興なので締まらなかったが。
その後も戦前なので夫婦らしく愛し合った。
翌日。
今川義元は沓掛城から出発しなかった。
天気が理由ではない。快晴なのだから。
つまりは義元も馬鹿ではないという事だ。
清州城の内情を今川方も掴んでおり、信長が清洲城に兵を集めた事を知って、出撃するか相手の出方を見る為に出発を延期にしていたのだ。
「甘いわ、小僧。この義元を甘く見るではないぞ」
そう清州城の方を見て笑ったのだが、
奇行で知られる信長の方も清洲城に兵を集めただけで別に出陣などはしなかった。
触れで清州城内に兵が集められただけだ。
兵が集まった清洲城内にて、
「おい、恒興。信長様は本当に籠城策を選ばれるおつもりなのか?」
佐々成政が恒興に尋ねるが、本当に教えて貰っていないので、
「知らんよ。『出陣と籠城、両方の用意をしておけ』としか言われてないんだから。だよな、長門」
同意を求められた小姓筆頭の岩室重休は初耳とばかりに、
「えっ、両方なのか? オレは信長様から『籠城だ』と直接聞いたぞ」
「あれ、そうなのか?」
恒興の方がそう驚いたが、これは別に不思議な事でも何でもない。
信長は乳兄弟の恒興が嘘のつけない性格な事を知っており、本当の事は教えず、両方だ、と煙に巻き、重休は才人で嘘もさらりとつけるので野戦方針なのを知ってたが「籠城だ」と嘘をついているのだから。
「だよな、サル?」
重休が偶然通り掛かった藤吉郎に声を掛け、
「ええ、籠城だと思います。薪の確認をするように信長様に言われて、数えにいくところですから」
藤吉郎も演技派なので、そう答えて歩いていった。
「やはり籠城か。信長様なら討って出ると思ったんだがな」
そう成政は残念がったのだった。
◇
これで話は終わりではない。
何故ならば、この小説は創作多数だが史実の流れに沿っているのだから。
二日後の深夜。
今川義元が滞在中の沓掛城の門を、三河松平の陣からの脱走者が褒美欲しさに訪ねて来ていた。
「実はとっておきの情報があるのですが」
門を守る夜勤の兵は、またか、と思いながらも、素知らぬ顔をして通せ、と言われていたので命令通りに通した。
その密告者の応対をしたのは今川上洛軍に合流した笠寺砦の守将、三浦義就である。
直接、義就が対応するのは、雑兵の密告内容がそれだけの内容だったからだ。
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「悲鳴が漏れるとは仕事が荒いな。口を防いでから殺さぬか」
「申し訳ございません」
暗殺の指南をしてると、
「松平勢に付けていた暗殺部隊が戻って参りました」
との報告と共に、宗信の前に弓隊に扮する近習の1人が現れた。
「只今、戻りました」
「おまえ達が戻ってきたという事は死んだか?」
「はっ、火縄銃の流れ弾が首に当たって意識不明だった三河の若僧が先程、死にましてございまする」
「確実か? 丸根砦を松平勢が今日の昼間落としたと報告を受けたが?」
「はい、松平の陣に忍び込んで直接確認致しました。織田との戦が終わるまで松平の重臣どもは御大(御大将の事)に報告しない腹づもりです。手柄を積み上げて御家の存続を図るとか言っておりました」
「馬鹿どもが。それが理由で三河松平が解体されるとも知らずに」
宗信はニヤリと笑ったのだった。
同時刻。
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「何だと?」
「どこに行ったんだ?」
「熱田神社で集合だそうだ」
「だったら急がないと」
と城内が騒然となってようやく起き、鎧を着て追い掛けようとしたのだが。
恒興は織田一門衆と同格扱いだ。
よって足軽の鎧ではなく立派な鎧を与えられており、当然1人では装着出来ず、
「おい、誰かオレの鎧を着るのを手伝ってくれ。ああ、九右衛門、いいところにーー」
「悪い、勝さん。オレも親父みたいに織田姓が貰えるくらいの手柄を立てたいんでね、お先に」
小姓の菅屋長頼はそう言って足軽鎧を着ながら出ていった。
「嘘だろ。信長様だぞ? 戦場に出送れたらオレでも怒られるんだぞっ! そこの、ええっと、毛利新介っ! 鎧を着るのを手伝えっ!」
次に名前を呼ばれた21歳の若武者の毛利新介が嫌そうな顔で、
「ああ、もう。早く鎧を着て下さいよ、池田殿。池田殿と違って、小姓のオレの場合、送れたら本当に首が飛ぶんですから」
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新介を信長の小姓に推薦したのが森可成で、信長のお気に入りの可成と織田一門衆と同格扱いの池田恒興との仲が良好だったという家臣派閥の政治的な背景もあった。
恒興に名前が知られていたのもその所為だ。
それに織田一門衆と同格扱いの恒興に嫌われるのは、織田家中ではかなり拙いのも事実だ。
新介は渋々と手伝い、恒興はそのお陰でどうにか鎧を着る事が出来て清洲城から出発したが完全に出遅れたのだった。
そして夜が明けた朝、沓掛城からは今川義元の本隊が出発した。
目指すは尾張内の今川最前線基地の大高城である。
睡眠が妨げられる事もなく、寝起きと同時に、
「三河の松平勢は隠しておりますが、どうも松平元康が死んだようです」
との報告を受けた義元が御機嫌で出発の触れを出して。
馬に乗れないのではなく、京での生活の練習として輿に乗り込もうとした義元が、
「今日は良い事がありそうだな」
曇った天気だったがそう呟き、
「案外、清州城で寝返りに遭った織田の若僧の首が落ちてるやもしれませんな」
副将の松井宗信もそう追従し、
「そうかもしれんな、ハァーッハッハッハッ」
本当に機嫌良く出発したのだった。
登場人物、1560年度
松平元康(17)・・・三河松平家当主。祖父と父親同様、誰にでも噛み付く狂犬。信長憎し、織田憎しで有名。享年17歳。元康が知る信長は影武者だった池田恒興。
能力値、松平の狂犬一族S、三河魂D、信長憎しSS、生傷が絶えずA、雪舟の鎖B、本日の運勢最悪☆☆☆
善応院(21)・・・恒興の正室。前夫は信長の異母兄の織田信時。前夫との間に娘、七条あり。
能力値、再婚は信長の命令B、姑に頭上がらずSS、政治に口を挟まずA、実家にウンザリA、子育てA、今の生活に満足D
佐々成政(24)・・・信長の近習。近江源氏の佐々氏の庶流。織田信安の元部下。政務が有能。正室は村井貞勝の娘。
能力値、まさかの文官肌A、不運の佐々☆、豪傑への尊敬A、信長への絶対忠誠B、信長からの信頼B、織田家臣団での待遇B
岩室重休(24)・・・信長の寵臣の小姓。通称、長門守。文武、容姿共に優れている。甲賀五十三家の岩室氏の傍系。信秀の最後の側室、岩室殿とは無関係。
能力値、命知らずA、隠れなき才人A、信長の寵臣A、信長への絶対忠誠S、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A
菅屋長頼(22)・・・織田家の家臣。織田信房の次男。父親の信房は繊田一族とは無関係。信房の織田姓は褒美。恒興とは領地が隣同士。兄は小瀬清長。
能力値、父親の七光りB、武芸は下手の横好きA、若き奉行候補A、信長への忠誠A、信長からの信頼C、織田家臣団での待遇C
毛利新介(21)・・・織田家の家臣。信長の小姓。言わずと知れた桶狭間の戦いの主役。
能力値、我武者羅A、森可成の推薦A、信長への忠誠B、信長からの信頼B、信長家臣団での待遇D、本日の運勢最高☆☆☆
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この1週間、長岡は震災による津波で行方不明となっている妻(玉)のことを捜していた。この日も疲労困憊の中、老人の身体に異変が生じてきた。徐々に動かなくなる神経機能の中で、老人はあることを思い出していた。
長岡が青年だった頃に出会った九鬼大佐と大和型戦艦4番艦桔梗丸のことを。
~1941年~大和型戦艦4番艦111号(仮称:紀伊)は呉海軍工廠のドックで船を組み立てている作業の途中に、軍本部より工事中止及び船の廃棄の命令がなされたが、青木、長瀬と言う青年将校と岩瀬少佐の働きにより、大和型戦艦4番艦は廃棄を免れ、戦艦ではなく輸送船として生まれる(竣工する)ことになった。
船の名前は桔梗丸(船頭の名前は九鬼大佐)と決まった。
輸送船でありながらその当時最新鋭の武器を持ち、癖があるが最高の技量を持った船員達が集まり桔梗丸は戦地を切り抜け輸送業務をこなしてきた。
その桔梗丸が修理のため横須賀軍港に入港し、その時、長岡与一郎と言う新人が桔梗丸の船員に入ったが、九鬼船頭は遠い遥か遠い昔に長岡に会ったような気がしてならなかった。もしかして前世で会ったのか…。
それから桔梗丸は、兄弟艦の武蔵、信濃、大和の哀しくも壮絶な最後を看取るようになってしまった。
~1945年8月~日本国の降伏後にも関わらずソビエト連邦が非道極まりなく、満洲、朝鮮、北海道へ攻め込んできた。桔梗丸は北海道へ向かい疎開船に乗っている民間人達を助けに行ったが、小笠原丸及び第二号新興丸は既にソ連の潜水艦の攻撃の餌食になり撃沈され、泰東丸も沈没しつつあった。桔梗丸はソ連の潜水艦2隻に対し最新鋭の怒りの主砲を発砲し、見事に撃沈した。
この行為が米国及びソ連国から(ソ連国は日本の民間船3隻を沈没させ民間人1.708名を殺戮した行為は棚に上げて)日本国が非難され国際問題となろうとしていた。桔梗丸は日本国から投降するように強硬な厳命があったが拒否した。しかし、桔梗丸は日本国には弓を引けず無抵抗のまま(一部、ソ連機への反撃あり)、日本国の戦闘機の爆撃を受け、最後は無念の自爆を遂げることになった。
桔梗丸の船員のうち、意識のないまま小島(宮城県江島)に一人生き残された長岡は、「何故、私一人だけが。」と思い悩み、残された理由について、探しの旅に出る。その理由は何なのか…。前世で何があったのか。与一郎と玉の古の愛の行方は…。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
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第8回歴史時代小説参加しました!
架空世紀「30サンチ砲大和」―― 一二インチの牙を持つレバイアサン達 ――
葉山宗次郎
歴史・時代
1936年英国の涙ぐましい外交努力と
戦艦
主砲一二インチ以下、基準排水量五万トン以下とする
などの変態的条項付与により第二次ロンドン海軍軍縮条約が日米英仏伊五カ国によって締結された世界。
世界は一時平和を享受できた。
だが、残念なことに史実通りに第二次世界大戦は勃発。
各国は戦闘状態に入った。
だが、軍縮条約により歪になった戦艦達はそのツケを払わされることになった。
さらに条約締結の過程で英国は日本への条約締結の交換条件として第二次日英同盟を提示。日本が締結したため、第二次世界大戦へ39年、最初から参戦することに
そして条約により金剛代艦枠で早期建造された大和は英国の船団護衛のため北大西洋へ出撃した
だが、ドイツでは通商破壊戦に出動するべくビスマルクが出撃準備を行っていた。
もしも第二次ロンドン海軍軍縮条約が英国案に英国面をプラスして締結されその後も様々な事件や出来事に影響を与えたという設定の架空戦記
ここに出撃
(注意)
作者がツイッターでフォローさんのコメントにインスピレーションが湧き出し妄想垂れ流しで出来た架空戦記です
誤字脱字、設定不備などの誤りは全て作者に起因します
予めご了承ください。
北海帝国の秘密
尾瀬 有得
歴史・時代
十一世紀初頭。
幼い頃の記憶を失っているデンマークの農場の女ヴァナは、突如としてやってきた身体が動かないほどに年老いた戦士、トルケルの側仕えとなった。
ある日の朝、ヴァナは暇つぶしにと彼の考えたという話を聞かされることになる。
それは現イングランド・デンマークの王クヌートは偽物で、本当は彼の息子であるという話だった。
本物のクヌートはどうしたのか?
なぜトルケルの子が身代わりとなったのか?
そして、引退したトルケルはなぜ農場へやってきたのか?
トルケルが与太話と嘯きつつ語る自分の半生と、クヌートの秘密。
それは決して他言のできない歴史の裏側。
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