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チャーリーの頼み事、デッビール、される方?
しおりを挟むカンカンカンカンッと敵襲を知らせる鐘の音が温泉街ソーゴの深夜に鳴り響いていた。
建造の屋根や屋上が7つは破壊されている。
そして、それをやったのは黒い影だった。
◇
オーケイ。
分かってる。
『どうせ、またおまえの仕業だろ』って言いたいんだよな?
だがな。
これだけは説明させてくれ。
オレは悪くない。
今回のこれはオレも想定外だったんだから。
いやぁ~、天才のオレにもあるんだなぁ~。
想定外の出来事が。
うんうん、勉強になった。
『何、他人事みたいに言ってるピョン。全部ご主人様が悪いピョン』
『おっ、久しぶりの登場で張り切ってるな、アル』
『最近出番がないピョン』
『仕方ないだろ、アルは切り札なんだから。誰にも見せる気なんてないし。ってか、おまえ、装置を破壊に出向いた別行動の2回の両方で神聖力をオレに内緒でプールしてるよな?』
『何の事だピョン? さっさと回想に入るピョン、ご主人様』
『チッ、これだから』
そんな事をアルと会話で喋りながら、オレは回想に入ったのだった。
◇
温泉街ソーゴで楽しんだ夕方。
ようやくオウムのチャーリーが帰ってきて、
「ロザリア、頼みがあるなのだ」
と言った時には、オレはマッサージをされていた。
ベッドで腹這いになるオレに馬乗りになったアシュがオレの足のマッサージを。
オレは一応、パンツだけは穿いてるからな。
アシュは、まあ、描写は控えよう。
ほらほら、女同士だからアリって事で。
後、オレの名前はロザリア・ローズレシアだから。
名乗らないとオレが忘れるからな。
名乗っておいた。
「何?」
「友人が困ってるのだ、助けてくれなのだ」
「具体的には?」
「この地域の大地の精霊を無理矢理集めてる奴がいるなのだ」
「銀髪のハーフエルフでしょ?」
「知ってたのかなのだ?」
チャーリーが驚く中、
「昼間に会ったわ」
オレは答えた。
前にゲリピーになった原因のエルフの里の老婆でさえ、戦闘力1100だったんだぞ。
それなのに、ハーフエルフの小娘が戦闘力2100って。
怪し過ぎだからな。
「そいつを倒してくれなのだ」
「術式を潰すんじゃなくて?」
「そうなのだ」
「無理ね。相手は一国の要人だから」
「そこを曲げて頼むなのだ」
「う~ん。どうしましょう?」
オレはチャーリーではなく、チャーリーを通して大地の女神ミーカルに質問した。
『その地の精霊を救う為です。やって下さい』
大地の女神ミーカルが直接答えた。
方法はオレに任せて貰えるんだよな?
『はい』
と答えてから、
『何をやるつもりですか?』
勇者行脚の一環ですよ。
オレは真顔でそう心の中で答えたのだった。
◇
その日の夜、温泉街ソーゴの一流ホテルからこっそりと抜け出す集団が居た。
巨乳ちゃんとその仲間たちだ。
通称、透明マントと呼ばれる【姿隠し】の効果のあるマントを羽織って姿を消し、飛獣を使う事もなく、跳躍や魔法で温泉街ソーゴを囲む城壁を越えて、外へと出る。
外はメシコス王国のバミー山岳地帯な訳だが、山岳地帯を長距離移動して、山岳地帯の開けた中腹で足を止めた。
古代の石畳が敷かれてる。
古代遺跡の名残りだが、建造物の方は解体されたのか、もうない。
そこに到着した巨乳ちゃんとその仲間たちの数は8人。
「準備に取り掛かって」
「はっ」
巨乳ちゃんの指示で、1人が方位磁石のような物で場所を正確に割り出し、
「ここだ」
地点を割り出すと、持参した絨毯くらいの布地を石畳に敷いた。
布には魔法陣が描かれており、その魔法陣に他の者達が魔石を配置する。
あっという間に術式の完成だ。
要した時間は到着から2分と掛かっていない。
「さてと、それじゃあ、力をいただこうかしら」
巨乳ちゃんが透明マントを脱いで姿を見せた。
衣裳は女魔術師ビキニ。
かなりエロイ。
術式の為か、他の装飾品は一切付けていない。
そして、魔法陣の中央に立った巨乳ちゃんが、
「初めてちょうだい」
との声で、
「はあああああああ」
魔法陣を囲んだ他の7人が杖を持って魔法陣を発動させると、周囲の大地の精霊が集まり始めた。
集まった大地の精霊が魔法陣に吸い込まれて、魔法陣の上に立つ巨乳ちゃんの身体の中に入っていく。
巨乳ちゃんの戦闘力が2100から2110、2120、2130・・・
と上がっていく。
巨乳ちゃんの限界は戦闘力2300ってところだろうか。
だが、全員2300では止めず、
巨乳ちゃんの戦闘力は2700を超えていた。
どうして限界がきてるのに止めないのかって?
上空で姿を消して一部始終を見ていたオレが全員を操ってるからだよ。
オレは連中から少し距離を取る為に下がった。
何故かって?
さすがのオレでも、これから起こる出来事の巻き添えは御免だからな。
「さぁ~て、外法の悪しき術式に頼ったマヌケの末路はどうなるのかなぁ~?」
限界はすぐに訪れた。
集めた大地の精霊を戦闘力に変えた巨乳ちゃんの戦闘力が2990になった時、
ボムっ。
と爆発を起こした。
精霊爆発に似てる。
まあ、規模は小さい。
威力もなかった。
埃が立った程度だ。
巨乳ちゃんの居た魔法陣を中心に精霊の粒子で視界はゼロ。
オレは聖眼があったから見えたがな。
「全員生きてるか。だが・・・おおっ! まさかの魂に獄界第9層追放者の烙印っ! 精霊の不正利用だから第10層だと思ったが第9層って、少し厳しくないか? ああ、大地の女神ミーカルの世界だから、大地の精霊は他の精霊よりも格が上の扱いなのか。それに巨乳ちゃんだけじゃなくて、噛んだ他の連中も全員か。オレは? ふぅ~っ、オレは大丈夫か。さすがは四半神族ぅ~♪」
オレが興奮気味にハシャイでると、
『・・・こ、これは、さすがにやり過ぎです』
大地の女神ミーカルの声が聞こえた。
でも、やり方は任すって。
『こんな事態は想定していません・・・ほら、見なさい』
倒れてる8人全員の周囲に黒い人魂が現れた。
人魂の中には骸骨の顔入りだ。
邪神ミレストローフの使いってね。
その黒い人魂が倒れてる8人の中に入った。
全員、獄界第9層追放者なので、その戦闘力は一律800。
外見も褐色肌になって纏ってた衣服を破けて蝙蝠の翼も出現。
『デッビール』って奴だ。
でも、勇者のオレがそんな存在の生存を認める訳もなく、
「【聖なる矢】っ!」
無慈悲に魔法を使った。
魔力(種族が四半神族だから本当は聖力だが、こっちの方が言い慣れてるから)1500を込めた聖なる矢を8本放つ。
誕生したばかりで起き上がるところを次々に貫通。
それで巨乳ちゃんとその仲間たち、8人全員の身体は黒い塵となって、風化し、完全に消滅した。
「じゃあ、任務達成って事で」
『これは・・・人の命を弄び過ぎです』
「えっ? まさか、獄界第9層追放者を見逃せば良かったと?」
『違います。人間のまま殺して輪廻のチャンスを与える慈悲を持ち合わせるべき、と言っているのです』
「大地の女神ミーカルに討伐の命を下させた時点で輪廻のチャンスを与える必要はない、というのがオレの考えだけどね」
こうしてオレはちゃんと後始末して温泉街ソーゴに帰ったのだった。
◇
そして部屋に帰って、リラとベッドの中で汗を掻いてたら、カンカンカンッと鐘が鳴り出して、
鐘が五月蠅かったけど、途中で止められないよなぁ~、こういう時って。
リラもノリノリだったし。
そんな訳でリラを満足させてからビキニ鎧だけを着て、剣を片手に素足で空中に着地したら、完全に出遅れてて温泉街ソーゴが酷い事になっていた。
やった奴を見ると蝙蝠の翼を持った獄界第9層追放者だった。
ピキッ。
数は1人。
・・・どういう事だ?
後始末はちゃんとしたよな、オレ?
仲間の出現に気付いて他から引き寄せられた?
そう警戒してると、
『あの追放者になる様子を遠視で見てた魔術師がいたという事ですよ』
大地の女神ミーカルが助言した。
そう言えば、あの魔法陣と魔石はそのままだったっけ。
知ってて見逃したと?
『大変な事になりそうだったのでアナタに教えようとしたのに、その、あんな事をしてるから声が掛けられなかったんです』
ふ~ん。
見てたんだぁ~。
清楚系なのに意外だな。
大地の女神ミーカルが。
へぇ~。
因みにどっちがお好みなのかな?
される方?
する方?
される方だな、完全に。
大地の女神らしく茨に縛られるのとか似合いそうだし。
『何、邪な想像をしてるんですか。それよりも討伐を任せましたよ』
1人だけだよな?
『いえ、後2人居ました。アナタの存在に気付いたのか、その街のと反対方向に逃げましたが』
なるほど。
用心深いな。
それも当然か。
オレが居るんだから。
だってオレ、もう四半神だからな。
四半神になって戦闘力も12万を超えてるし。
ってか、強者の存在に気付いて逃げろや、このアホもっ!
どうしてオレが居るこの街を突っ込んできていやがるんだ?
いいところを邪魔しやがってっ!
なっ?
さすがにこの襲撃はオレも想定外だったろ?
ってか、オレ、悪くないし。
襲撃が分かってたら、リラとエッチな事だってしてないって、さすがのオレも。
そんな訳で、不機嫌マックスなオレは、
「消え失せなっ!」
男口調で剣を振って、黒い翼の第9層追放者を斬り伏せた。
斬られたその身体が黒い塵と化す。
その光景を結構な数の人間が見ていた。
これがオレの勇者伝説の一章に加わるとはな。
マッチポンプじゃないが、これはさすがに誇れないぜ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
登場人物。
透明マント1・・・デムズス。30代の男。イエロ将国の隊長。魔術師。方位磁石を使う。
透明マント2・・・ビーカ。30代の女。イエロ将国の副隊長。魔術師。魔法陣を持参。
温泉街ソーゴを襲った馬鹿・・・獄界第9層追放者。バルダ。元38歳の熟練冒険者。メシコス王国の密偵部隊所属。
地名。
バミー山岳地帯・・・メシコス王国領内。温泉街ソーゴが有名。過去に古代文明の遺跡があった。
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