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ナンパ男、月の女神ルナシーの祝福あり

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 夕刻の事である。
 
 1頭のグリフォンとその乗り手が、ヨーク連合の国旗を掲げる飛獣部隊に追われていた。

 先頭を逃げるグリフォンの飛翔速度は最高スピードだ。

 その後、飛竜ワイバーンやグリフォン、100頭以上が追跡していた。





 ん?

 前回と描写が同じだって?

 違う違う。

 ほら、揚げてる国旗が違うから。

 前回はモンテ王国で、今回はヨーク連合。

 描写こそないが、鎧の色もモンテ王国は青色で、ヨーク連合は赤色だから。





 後、一番大切な事だけど、






 今回はオレが原因じゃないから、フフン(むかつくドヤ顔)。





 本当だぞ。





 アシュが原因なんだから。





 操縦席でグリフォンを操るアシュが、

「マジで信じられないから、あのクソヤロウ。兵を向けてくるか」

「まあ、ドンマイ、アシュ」 

 とオレは笑いながら回想に入ったのだった。





 ◇





 オレ達はヨーク連合の首都ルネオピリスの城下を歩いていた。

 今のオレの恰好は、オレ自身、右眼に眼帯をしてるのに紫髪左眼眼帯のレオナに変えていたのだが、

「何、その恰好?」

 アシュには不評で、

「ラミアの方がよかった?」

わたし的には最初に会ったピンクブロンドがいいんだけど」

「では、アシュのリクエストに応えて、【変身】」

 って事で、ピンクブロンドに変身したのだった。





 まあ、燃えたリティア大森林からも遠く離れてるから大丈夫でしょ。





 この認識が甘かった。

 オレの趣味ではなかったが、ピンクブロンドは男を寄せ付ける容姿のようで、

「ねえねえ、お姉さん達、オレとお茶しない?」

 表通りでナンパされたのだ。

 これまでは正直言って急ぎ旅だった上に、これ見よがしにアークドラゴンの素材の装備をしていた訳だが、今は変身魔法でそれも消えてる。

 なので、戦闘力も分からないアホな男がナンパしてきた訳だが、驚いた事にマジックアイテムを使ってナンパをしていた。

 御存知、【魅了】だ。

 ブレスレットの魔宝石がそうだ。

 それにまんまと引っ掛かったアシュが赤面しながら、

「いいわよ。ねえ、ご主人様?」

 尻尾をブンブン振りながらオレに質問したもんだから、

 仕方なく、オレがデコピンの要領で中指でそのブレスレットの魔宝石をギンッと弾いて粉々にしたら、

「のああああっ! これ高かったんだぞっ!」

 とナンパ男が叫ぶ中、

「あれ、今、私? ・・・」 

 アシュが正気に戻って、

「【魅了】のマジックアイテムにまんまと引っ掛かってたわよ、アシュ」

 オレが教えてやると、

「何してくれてんだ、クソヤロウっ!」

 アシュは両手にクローを装備してたので、肘鉄アッパーをそのナンパ男に喰らわして、

「ふべきゃああっ!」

 顎を砕いた訳だが、

 直後に私服姿の凄腕に囲まれた。

「おまえ達2人、一緒にきて貰おう」

 戦闘力440が代表してオレ達に凄む中、吹き飛ばされたナンパ男の周囲で、

「御曹司をすぐに議長屋敷に」

 とか男達が喋ってて、

「もしかして、ここの国の議長の馬鹿息子だったりするの?」

「おまえ達は知らなくていい」

「じゃあ、私達は出発するから」

 オレがそう言うと、

「逃がすと思うのか?」

 と凄んだが、動けずに、

「?」

 と視線を落とすと、全員の靴と地面が凍り付いて固定されていた。

 オレは天才だから無詠唱でも魔法が使えるって事さ。

「【氷靴】魔法ってね」

 ウインクしたオレは勝ち誇って歩き出したが、

「逃がすか、【火炎球】っ!」

 数人が攻撃魔法を撃ってきたので、

「【反射】っ!」

 と魔法を返したら、首都ルネオピリスの表通りで、どごぉぉぉん、と爆発してしまった訳さ。

 その後はお決まりのドミノで、





 オレとアシュは逃げて首都ルネオピリスの飛獣厩舎まで辿り着いて、グリフォンに乗って出発した訳だが、

 連中が追ってきて、

 追ってきて追ってきて、

 遂には夕方になったって訳さ。





 なっ?

 今回、オレ、悪くなかっただろ?

 悪いの全部ナンパ男なんだからさ。





 ◇





「ご主人様、いい加減、魔法でやっちゃってくれよっ!」

 夕日をバックに鬼ごっこに厭きたアシュがそう言ったが、

「まだダメよ。国境内でやったら面倒な事になるわ。国境の外に出てからよ」

「慣れてるよな、そういうのに」

 オレの言葉にアシュが呆れ、

「あら、そうかしら?」

 オレはとぼけておいた。





 そしてオレ達はまだ国境を出れなかった。

 つまりは首都ルネオピリスから連絡が行ってて、国境側からも飛獣部隊が飛んできて、それをかわすように進行方向を変えたりしていたので。

 これが組織の強みって奴だ。

 操縦席のアシュが夕日を背に、後部席のオレに言ってるんだから、つまりはオレ達が乗ってるグリフォンは西に向かってるって事なのだから。

 もう方向はグチャグチャだって事だ。

 盤上を俯瞰で見るように、地図を俯瞰で見て指揮してる奴が居るって事だろう。

 本当に、面倒臭いぜ、まったく。





 ◇





 そして夜になった。

 ようやくか。

 オレは魔法を使った。

 それも『月の女神ルナシー』の月の力を借りた、





「【月万華鏡】っ!」





 をだ。

 異世界なのに何故か元の世界の女神の魔法が使えるんだなぁ~、これが。

 お陰で余裕ってね。

 そんな訳で、次の瞬間、オレ達を追っていたヨーク連合の飛獣部隊の全員がオレとアシュになった。

 もちろんオレが使った魔法の効果だ。

 【幻影】魔法の一種で、強みは効果範囲。

 おそらくヨーク連合の全域を覆ったはずだ。

 さすがは月の女神ルナシーだろ?

 つまりは、もう完全に奴らはオレ達を見失ったって事だった。

「うわ、何なの、あれ? ご主人様がやったんだよな?」

「まあね。さあ、アシュ、西に向かって」





『いえ、南です。そちらに妨害結界の1つがあります』





 との大地の女神ミーカルの声が聞こえた。

「やっぱりアシュ、西はダメよ。南に向かって」

「そうなの?」

「ええ、そっちの目的の物があるっぽいから」

 こうしてオレ達が乗るグリフォンはヨーク連合の飛獣部隊の混乱の隙をついて、南側の国境を抜けたのだった。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 登場人物。

 ナンパ男・・・ジャンガ・ブリヒルケン。ヨーク連合の議長トブラ・ブリビルケンの第1子。モンテ王国で問題を起こした2人から事情を聞くべく穏便に移動させようとしたがナンパと間違われた。

 戦闘力440・・・ヨーク連合の近衛騎士。ジャンガ親衛隊長。凄腕。





 地名。





 首都ルネオピリス・・・錬金術師の育成機関多数。マジックアイテムの水準が近隣よりも高い。
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