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第7章 冬休み

アウトス城はこうして崩壊した【セーラside】

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 冬休みになってクワナリス伯爵家に戻ってきた私は、ソファーで仰向けにヘバッてる下宿人のエニスさんに向かって新聞を見せた。

「切断された災害級の大型海洋魔獣15頭の死骸が浜辺には不気味に残られていたーーヴァルゼート半島の戦慄、ですって?」

 私が記事を読むと、エニスさんが恨めしそうな視線だけをこちらに向けて、

「思い出させないでよ。あのお姫様が無理矢理、私を戦わせたんだからっ! 冬の海でよ? 寒い海風が吹いてくるのにさぁ~。水飛沫しぶきだって冷たいのにぃ~。最悪だからぁ~」

 文句を言っていた。

「それはそうと、知ってる?」

「何が?」

「私の屋敷に今、約書が沢山届いてるの」

「セーラさんは美人だものね」

「違うわ、アナタへよ、エニスさん。何せ、冬の乙女祭の優勝者だからね。新聞にも一面で取り上げられたし」

「私に? 釣書が?」

 エニスさんが眼を丸くして、

「聞いてないけど?」

 真偽を確かめるように呟いた。

「そりゃそうでしょ。お父様が総て先方に叩き返してるんだから」

「御苦労さまです」

 エニスさんはそう笑っただけだった。

「あれ、玉の輿に興味がないの?」

「私、多頭魔狼の素材売却金の10パーセントだけで、もう富豪だけど?」

 そうでした。

 このエニスさん、騎士団長をしてる我が伯爵家よりも、もうお金持ちだった。

「そうじゃなくて、結婚とか・・・」

「する訳ないでしょ、気持ちの悪い」

 とエニスさんが一蹴してから、私を見て、

「ナニ? 小父さまに何か言われたの? 私の男性のタイプをそれとなく聞き出せとか?」

「いいえ。年頃の娘として興味本位で質問しただけよ。エニスさんはどんなタイプの人を好きなるんだろうなって」

「よしてよ、馬鹿馬鹿しい」

 そう言いながらエニスさんはまたソファーに仰向けになってダラけたのだった。





 私も疲弊したエニスさんほどじゃないけど、冬休みくらいはダラける気で屋敷に戻っていた。

 なのに、なのにっ!

 エニスさんの所為せいで騒動ごとが途切れない。

 ミリアリリー王国の騎士団長は、他国で言えば将軍クラスで、正直言って王族を除く軍部のナンバー1と言っても過言ではなかった。

 その為、ミリアリリー王国中の情報がお父様の許に集まり、その中で見過ごせない情報が私の許にも届いた訳だが、私はソファーに座って仰向けにダラけてるエニスさんに、

「大変、エニスさんっ! イザベラがバルット侯爵の養女にさせられそうなんだってっ!」

 その情報を伝えた。

「あれ? イザベラって平民だって聞いてたけど? そう言えば母親とは幼い頃に死別したって言ってたわね。もしかして駆け落ちか何かだったの?」

「いいえ、報告じゃあ無理矢理、イザベラの父親に圧力を掛けて、養子にしようとしてるらしいわ」

「どうして?」

「そりゃ御前対校戦を観戦してイザベラに眼を付け・・・」

 と言い掛けた私は、

「いえ、確かに2路循環覚醒者で魅力的だけど、それだけで貴族の養女になるには無理があるわね。おそらくはエニスさんよ。エニスさんの妹である事も加味されて利用価値があると・・・」

 その結論をエニスさんに伝えると、初めてソファーから身体を起こしたエニスさんが、

「へぇ~」

 とだけ呟いたのだった。





 ミリアリリー王国の東部の重要拠点にアウトス城がある。

 その夜、私はエニスさんと一緒に1頭の飛竜に同乗して、そのアウトス城の上空に居た。

 2人乗をして、私が前で飛竜の手綱を握り、エニスさんが後ろに座ってた訳だけど、後部席のエニスさんが背鞍から立ち上がると(真似しちゃダメよ、危険だから)剣をシャキンッと抜いて、ビュンッと振った。

 エニスさんの振った剣先から斬撃が発生する。

 鋭利な斬撃じゃなくて、押し潰すような剣圧の斬撃が。





 そして、その剣圧の斬撃をドシャアアアアアアッと受けて、アウトス城は私の眼の前で、そりゃあ、もう見事に、崩壊したのだった。





 その光景をただただ見ていた私は・・・・・・

 5秒後に我に返ると、

「はああああああ? えっ? な、な、な、何をやってるのよ、エニスさん?」

「何って・・・ねぇ?」

 剣を鞘にしまったエニスさんは冬の夜に似つかわしくない晴れ晴れとした微笑を浮かべていた。

 何よ、そのやりきった感っ!

 あの倒壊したアウトス城を始めとしたここいら一帯の領地はバルット侯爵の領地だ。

 クワナリス伯爵家の屋敷でエニスさんは確かに私に、





「セーラさん、バルット侯爵に会いに行くわ。飛竜を用意出来ない?」





 と言ったわ。

 だから、私は飛竜を用意してこの寒い夜空の中、飛竜で飛んできたのに。





「まさか、エニスさん。最初からこうするつもりで、ここに?」





 との私の震える問いかけに、エニスさんは嫌味なくらいの笑顔で、

「当然じゃないの。私のイザベラに手を出そうなんて100年早いのよ」

 そう笑い・・・・・・

 私はと言えば、余りの事態に、

「見てない、見てない、見てない、見てないっ! 私はここに居なかったっ! いいわね、エニスさんっ?」

「何、今更いい子ぶってるのよ、セーラさん? 飛竜を駆って私をここまで運んだ黒幕の癖にぃ~?」

「どうして、私が黒幕なのよっ! それよりも早く逃げないとっ!」

 私は飛竜を操って、さっさと崩壊したアウトス城が見下ろせる上空から逃げ出したのだった。
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