50 / 97
第7章 冬休み
アウトス城はこうして崩壊した【セーラside】
しおりを挟む
冬休みになってクワナリス伯爵家に戻ってきた私は、ソファーで仰向けにヘバッてる下宿人のエニスさんに向かって新聞を見せた。
「切断された災害級の大型海洋魔獣15頭の死骸が浜辺には不気味に残られていたーーヴァルゼート半島の戦慄、ですって?」
私が記事を読むと、エニスさんが恨めしそうな視線だけをこちらに向けて、
「思い出させないでよ。あのお姫様が無理矢理、私を戦わせたんだからっ! 冬の海でよ? 寒い海風が吹いてくるのにさぁ~。水飛沫だって冷たいのにぃ~。最悪だからぁ~」
文句を言っていた。
「それはそうと、知ってる?」
「何が?」
「私の屋敷に今、約書が沢山届いてるの」
「セーラさんは美人だものね」
「違うわ、アナタへよ、エニスさん。何せ、冬の乙女祭の優勝者だからね。新聞にも一面で取り上げられたし」
「私に? 釣書が?」
エニスさんが眼を丸くして、
「聞いてないけど?」
真偽を確かめるように呟いた。
「そりゃそうでしょ。お父様が総て先方に叩き返してるんだから」
「御苦労さまです」
エニスさんはそう笑っただけだった。
「あれ、玉の輿に興味がないの?」
「私、多頭魔狼の素材売却金の10パーセントだけで、もう富豪だけど?」
そうでした。
このエニスさん、騎士団長をしてる我が伯爵家よりも、もうお金持ちだった。
「そうじゃなくて、結婚とか・・・」
「する訳ないでしょ、気持ちの悪い」
とエニスさんが一蹴してから、私を見て、
「ナニ? 小父さまに何か言われたの? 私の男性のタイプをそれとなく聞き出せとか?」
「いいえ。年頃の娘として興味本位で質問しただけよ。エニスさんはどんなタイプの人を好きなるんだろうなって」
「よしてよ、馬鹿馬鹿しい」
そう言いながらエニスさんはまたソファーに仰向けになってダラけたのだった。
私も疲弊したエニスさんほどじゃないけど、冬休みくらいはダラける気で屋敷に戻っていた。
なのに、なのにっ!
エニスさんの所為で騒動ごとが途切れない。
ミリアリリー王国の騎士団長は、他国で言えば将軍クラスで、正直言って王族を除く軍部のナンバー1と言っても過言ではなかった。
その為、ミリアリリー王国中の情報がお父様の許に集まり、その中で見過ごせない情報が私の許にも届いた訳だが、私はソファーに座って仰向けにダラけてるエニスさんに、
「大変、エニスさんっ! イザベラがバルット侯爵の養女にさせられそうなんだってっ!」
その情報を伝えた。
「あれ? イザベラって平民だって聞いてたけど? そう言えば母親とは幼い頃に死別したって言ってたわね。もしかして駆け落ちか何かだったの?」
「いいえ、報告じゃあ無理矢理、イザベラの父親に圧力を掛けて、養子にしようとしてるらしいわ」
「どうして?」
「そりゃ御前対校戦を観戦してイザベラに眼を付け・・・」
と言い掛けた私は、
「いえ、確かに2路循環覚醒者で魅力的だけど、それだけで貴族の養女になるには無理があるわね。おそらくはエニスさんよ。エニスさんの妹である事も加味されて利用価値があると・・・」
その結論をエニスさんに伝えると、初めてソファーから身体を起こしたエニスさんが、
「へぇ~」
とだけ呟いたのだった。
ミリアリリー王国の東部の重要拠点にアウトス城がある。
その夜、私はエニスさんと一緒に1頭の飛竜に同乗して、そのアウトス城の上空に居た。
2人乗をして、私が前で飛竜の手綱を握り、エニスさんが後ろに座ってた訳だけど、後部席のエニスさんが背鞍から立ち上がると(真似しちゃダメよ、危険だから)剣をシャキンッと抜いて、ビュンッと振った。
エニスさんの振った剣先から斬撃が発生する。
鋭利な斬撃じゃなくて、押し潰すような剣圧の斬撃が。
そして、その剣圧の斬撃をドシャアアアアアアッと受けて、アウトス城は私の眼の前で、そりゃあ、もう見事に、崩壊したのだった。
その光景をただただ見ていた私は・・・・・・
5秒後に我に返ると、
「はああああああ? えっ? な、な、な、何をやってるのよ、エニスさん?」
「何って・・・ねぇ?」
剣を鞘にしまったエニスさんは冬の夜に似つかわしくない晴れ晴れとした微笑を浮かべていた。
何よ、そのやりきった感っ!
あの倒壊したアウトス城を始めとしたここいら一帯の領地はバルット侯爵の領地だ。
クワナリス伯爵家の屋敷でエニスさんは確かに私に、
「セーラさん、バルット侯爵に会いに行くわ。飛竜を用意出来ない?」
と言ったわ。
だから、私は飛竜を用意してこの寒い夜空の中、飛竜で飛んできたのに。
「まさか、エニスさん。最初からこうするつもりで、ここに?」
との私の震える問いかけに、エニスさんは嫌味なくらいの笑顔で、
「当然じゃないの。私のイザベラに手を出そうなんて100年早いのよ」
そう笑い・・・・・・
私はと言えば、余りの事態に、
「見てない、見てない、見てない、見てないっ! 私はここに居なかったっ! いいわね、エニスさんっ?」
「何、今更いい子ぶってるのよ、セーラさん? 飛竜を駆って私をここまで運んだ黒幕の癖にぃ~?」
「どうして、私が黒幕なのよっ! それよりも早く逃げないとっ!」
私は飛竜を操って、さっさと崩壊したアウトス城が見下ろせる上空から逃げ出したのだった。
「切断された災害級の大型海洋魔獣15頭の死骸が浜辺には不気味に残られていたーーヴァルゼート半島の戦慄、ですって?」
私が記事を読むと、エニスさんが恨めしそうな視線だけをこちらに向けて、
「思い出させないでよ。あのお姫様が無理矢理、私を戦わせたんだからっ! 冬の海でよ? 寒い海風が吹いてくるのにさぁ~。水飛沫だって冷たいのにぃ~。最悪だからぁ~」
文句を言っていた。
「それはそうと、知ってる?」
「何が?」
「私の屋敷に今、約書が沢山届いてるの」
「セーラさんは美人だものね」
「違うわ、アナタへよ、エニスさん。何せ、冬の乙女祭の優勝者だからね。新聞にも一面で取り上げられたし」
「私に? 釣書が?」
エニスさんが眼を丸くして、
「聞いてないけど?」
真偽を確かめるように呟いた。
「そりゃそうでしょ。お父様が総て先方に叩き返してるんだから」
「御苦労さまです」
エニスさんはそう笑っただけだった。
「あれ、玉の輿に興味がないの?」
「私、多頭魔狼の素材売却金の10パーセントだけで、もう富豪だけど?」
そうでした。
このエニスさん、騎士団長をしてる我が伯爵家よりも、もうお金持ちだった。
「そうじゃなくて、結婚とか・・・」
「する訳ないでしょ、気持ちの悪い」
とエニスさんが一蹴してから、私を見て、
「ナニ? 小父さまに何か言われたの? 私の男性のタイプをそれとなく聞き出せとか?」
「いいえ。年頃の娘として興味本位で質問しただけよ。エニスさんはどんなタイプの人を好きなるんだろうなって」
「よしてよ、馬鹿馬鹿しい」
そう言いながらエニスさんはまたソファーに仰向けになってダラけたのだった。
私も疲弊したエニスさんほどじゃないけど、冬休みくらいはダラける気で屋敷に戻っていた。
なのに、なのにっ!
エニスさんの所為で騒動ごとが途切れない。
ミリアリリー王国の騎士団長は、他国で言えば将軍クラスで、正直言って王族を除く軍部のナンバー1と言っても過言ではなかった。
その為、ミリアリリー王国中の情報がお父様の許に集まり、その中で見過ごせない情報が私の許にも届いた訳だが、私はソファーに座って仰向けにダラけてるエニスさんに、
「大変、エニスさんっ! イザベラがバルット侯爵の養女にさせられそうなんだってっ!」
その情報を伝えた。
「あれ? イザベラって平民だって聞いてたけど? そう言えば母親とは幼い頃に死別したって言ってたわね。もしかして駆け落ちか何かだったの?」
「いいえ、報告じゃあ無理矢理、イザベラの父親に圧力を掛けて、養子にしようとしてるらしいわ」
「どうして?」
「そりゃ御前対校戦を観戦してイザベラに眼を付け・・・」
と言い掛けた私は、
「いえ、確かに2路循環覚醒者で魅力的だけど、それだけで貴族の養女になるには無理があるわね。おそらくはエニスさんよ。エニスさんの妹である事も加味されて利用価値があると・・・」
その結論をエニスさんに伝えると、初めてソファーから身体を起こしたエニスさんが、
「へぇ~」
とだけ呟いたのだった。
ミリアリリー王国の東部の重要拠点にアウトス城がある。
その夜、私はエニスさんと一緒に1頭の飛竜に同乗して、そのアウトス城の上空に居た。
2人乗をして、私が前で飛竜の手綱を握り、エニスさんが後ろに座ってた訳だけど、後部席のエニスさんが背鞍から立ち上がると(真似しちゃダメよ、危険だから)剣をシャキンッと抜いて、ビュンッと振った。
エニスさんの振った剣先から斬撃が発生する。
鋭利な斬撃じゃなくて、押し潰すような剣圧の斬撃が。
そして、その剣圧の斬撃をドシャアアアアアアッと受けて、アウトス城は私の眼の前で、そりゃあ、もう見事に、崩壊したのだった。
その光景をただただ見ていた私は・・・・・・
5秒後に我に返ると、
「はああああああ? えっ? な、な、な、何をやってるのよ、エニスさん?」
「何って・・・ねぇ?」
剣を鞘にしまったエニスさんは冬の夜に似つかわしくない晴れ晴れとした微笑を浮かべていた。
何よ、そのやりきった感っ!
あの倒壊したアウトス城を始めとしたここいら一帯の領地はバルット侯爵の領地だ。
クワナリス伯爵家の屋敷でエニスさんは確かに私に、
「セーラさん、バルット侯爵に会いに行くわ。飛竜を用意出来ない?」
と言ったわ。
だから、私は飛竜を用意してこの寒い夜空の中、飛竜で飛んできたのに。
「まさか、エニスさん。最初からこうするつもりで、ここに?」
との私の震える問いかけに、エニスさんは嫌味なくらいの笑顔で、
「当然じゃないの。私のイザベラに手を出そうなんて100年早いのよ」
そう笑い・・・・・・
私はと言えば、余りの事態に、
「見てない、見てない、見てない、見てないっ! 私はここに居なかったっ! いいわね、エニスさんっ?」
「何、今更いい子ぶってるのよ、セーラさん? 飛竜を駆って私をここまで運んだ黒幕の癖にぃ~?」
「どうして、私が黒幕なのよっ! それよりも早く逃げないとっ!」
私は飛竜を操って、さっさと崩壊したアウトス城が見下ろせる上空から逃げ出したのだった。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
ブラフマン~疑似転生~
臂りき
ファンタジー
プロメザラ城下、衛兵団小隊長カイムは圧政により腐敗の兆候を見せる街で秘密裏に悪徳組織の摘発のため日夜奮闘していた。
しかし、城内の内通者によってカイムの暗躍は腐敗の根源たる王子の知るところとなる。
あらぬ罪を着せられ、度重なる拷問を受けた末に瀕死状態のまま荒野に捨てられたカイムはただ骸となり朽ち果てる運命を強いられた。
死を目前にして、カイムに呼びかけたのは意思疎通のできる死肉喰(グールー)と、多層世界の危機に際して現出するという生命体<ネクロシグネチャー>だった。
二人の助力により見事「完全なる『死』」を迎えたカイムは、ネクロシグネチャーの技術によって抽出された、<エーテル体>となり、最適な適合者(ドナー)の用意を約束される。
一方、後にカイムの適合者となる男、厨和希(くりやかずき)は、半年前の「事故」により幼馴染を失った精神的ショックから立ち直れずにいた。
漫然と日々を過ごしていた和希の前に突如<ネクロシグネチャー>だと自称する不審な女が現れる。
彼女は和希に有無を言わせることなく、手に持つ謎の液体を彼に注入し、朦朧とする彼に対し意味深な情報を残して去っていく。
――幼馴染の死は「事故」ではない。何者かの手により確実に殺害された。
意識を取り戻したカイムは新たな肉体に尋常ならざる違和感を抱きつつ、記憶とは異なる世界に馴染もうと再び奮闘する。
「厨」の身体をカイムと共有しながらも意識の奥底に眠る和希は、かつて各国の猛者と渡り合ってきた一兵士カイムの力を借り、「復讐」の鬼と化すのだった。
~魔王の近況~
〈魔海域に位置する絶海の孤島レアマナフ。
幽閉された森の奥深く、朽ち果てた世界樹の残骸を前にして魔王サティスは跪き、神々に祈った。
——どうかすべての弱き者たちに等しく罰(ちから)をお与えください——〉
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!
蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。
家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。
何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。
やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。
そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。
やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる!
俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる