上 下
156 / 157
第十一章~敵は島津家!!九州大決戦~

九州征伐9

しおりを挟む
翌日、政家と直茂は長政のいる神威本陣へと供廻りのみを連れて訪れていた。

「お初にお目にかかります。龍造寺家家臣鍋島直茂と申します。」

「龍造寺家当主、龍造寺政家と申す。」

「龍造寺殿、鍋島殿、よくお出で下さりました。神威家筆頭家老を勤めます浅井長政と申します。」

「此度は直接の話をと言うことでこちらへ来させていただきましたが、どのようなお話で?」

直茂がそう聞くと長政は、

「本日こちらへお呼びしたのはお二人を始めとした龍造寺軍を我らの元へお誘いしたく思ったからです。」

「お誘いとは、降伏を促すと言うことでしょうか。」

長政は少し考えた後、

「広義的な意味で申せばそうとも言えましょう。しかし、我らが申したいのは降伏ではなく裏切りと申したほうがよろしいかと。」

「それは降伏とどう違うのだ。」

政家が苛立ちを隠しながらもそう聞いた。

「そう怒らずに聞いてくだされ。降伏を促すのであれば我らは龍造寺殿、鍋島殿の首と引き換えに将兵の命を救うと申し出ましょう。しかし、今回は話が違います。我らが言いたいのは龍造寺軍丸々島津を身限り我らの元へ来てほしい。そうすれば龍造寺家の再興をお約束しましょう。」

長政がそう言うと政家は席を立ち、

「それは誠かっ!」

「はい。」

「殿お待ちを。浅井殿、その決断を筆頭家老とは言え家臣が決定してよろしいのですか?」

「御安心あれ、この件は神威家当主、神威直虎様より許可を得たもの。神威家の家臣とはなりますが、龍造寺家の再興は叶います。」

政家は直茂のほうを向いて直茂が頷くのを確認してから、

「龍造寺軍はこれより全軍神威家へ降伏する。」

そう宣言して頭を下げた。

これにより龍造寺政家を始めとする龍造寺軍は全て浅井長政率いる別動隊に組み込まれ、直虎達の待つ大友館へと歩を進めることとなった。

一方大友館では大戦後、島津軍からの攻撃は小競合い程度の小規模のもののみが続いてる状況であった。

長政らが大友館に着陣するとすぐに直虎は長政を自身の元へと呼び寄せた。

「殿、浅井長政龍造寺軍を降伏させ只今罷り越しました。」

「長政、別動隊の指揮ご苦労だった。」

「いえ、殿より書状を頂いた後は速やかに事がすみましたので。」

「長政から見た鍋島直茂という男、どのような武将であった?」

「はい、直接会ってみて戦場で戦うことを避けたのは本当に良かったと思わされました。」

「それほどの者か。戦を続けていたら勝ったか?」

「それは間違いございませんが、こちらにも相当の被害が出たものと推察します。」

「そうか、わかった。長政ほどの者がそう言う男をこちらに引き入れられたのは今回の九州遠征の大きな成果だと言えよう。」

「誠にその通りかと。」

「では、その主、龍造寺政家についてはどうだ?」

「正直に申せば親の七光りで生きてきたような者かと。」

「手厳しいな。」

「鍋島殿が優秀ゆえかもしれませんが、すべての差配は鍋島殿に確認をとって行われる。それが主と呼べるのかと言えばそれは否。家臣とは自分を補佐する者であり、自分の考えを委ねる相手ではありません。主である者として決断は大きな責務。それを放棄していると言っても過言ではありませんでした。」

「そうか。誰かいるか?」

直虎がそう声を発すると、外から「ここに」小姓が声を上げた。

「明日、龍造寺政家、鍋島直茂にここに来るように使いを出せ。」

小姓は「はっ。」と声を出すとすぐにその場を離れた。

「直接お会いになりますか。」

「あぁ、龍造寺政家、見どころありそうなら良し。なければその時は、その時よ。」

「殿のそのお言葉ほど怖いものはございませぬな。」

「なに、私の目など、父上に比べれば優しい者よ。父上が評価する者は皆優れた才を持っている。逆を言えば、父上の御眼鏡に叶わなかった者も多くいる。その者らにとって神威家、ひいては徳川家での出世は相当に厳しいだろう。その分私は、見どころがあれば鍛える。父上のように才の溢れた者だけを集めて指揮するには私では役不足。使えそうな者は育てて引き伸ばしてやらねば先細りしてしまうからな。」

長政はこの時、改めて思うのであった。神威刹那は才能溢れる者を集める天才であり、その子、神威直虎は才能を育てる天才なのだと。

翌日、龍造寺政家と鍋島直茂は共に直虎の元へ来たが、直虎はまず政家だけと会うことを伝えて、直茂は別室にて待機するようにした。

「初めて御意を得ます。龍造寺政家にございます。」

「政家殿、良くお出で下さった。神威家当主、神威直虎にございます。此度お呼びしたのは政家殿に直接会って話してみたいと思ったからです。」

「はぁ。」

「龍造寺家と言えば、政家殿のお父上、龍造寺隆信殿のお名前を良く聞きます。肥前の熊と言う異名を持たれていたとか。」

「はい。龍造寺家を大きくしたのは父でございますれば。」

「私の父、神威刹那も今川家の属国であった徳川家を大大名まで押し上げた立役者だと世間で言われております。互いに父が優れていると苦労をなさいますな。」

「いえ、直虎様のご苦労に比べれば私の苦労など大したものではございません。」

直虎は一呼吸開けてからゆっくりと話し始めた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河

墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。 三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。 全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。 本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。 おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。 本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。 戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。 歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。 ※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。 ※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...