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<第一巻:冷酷無慈悲の奴隷商人>

第六話:奴隷商人の息子は親父に意見する

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 奴隷たちに水浴びをさせるように指示した俺は、親父の部屋に来た。
 途中、下男のデルトとバッタリ出くわしたので、奴隷の部屋を閉鎖するように伝えておいた。
 あんな汚いところに住まわせたら、せっかく風呂に入れても意味がない。
 まずは、親父に奴隷の住まいを変えてもらう交渉をしよう。


「父さん、ちょっと教えて欲しいことがあるんですが……」

 俺が部屋に入ってそう声をかけると、椅子から転げ落ちそうになりながら親父は立ち上がった。
 あの……座っててくれていいんですけど。

「突然すみません。あの、奴隷について教えて欲しいことがあって」
「な、なんだい、そんな改まって。というか、ドアを叩いたりして驚くじゃないか!」

 そっか、ノックする習慣はこちらの世界にはなかったんだっけ。

「どうした、ニート。奴隷が何かやらかしたのかな?」
「いいえ、そうではなくて……」

 親父の部屋は、さすが社長室という感じで高級そうな調度品が置かれ、床には豪華そうな敷物が敷かれている。

「もしかして仕事中でしたか……お邪魔ですか?」

 目の前の男性が、自分の親父という気がしない。しかし、今後は父親として接していくことになるので、つい腰が低くなる。かえって、それが親父に不気味に思われることなど思いもしなかったが……

 親父は慌てて立ち上がると俺の元に駆け寄り、ソファに座るように手招きしてくれた。

「こっちに座りなさい。仕事ではないから大丈夫だ。それにしても私に用事があるって珍しいな。困ったことがあるのなら遠慮せず言うんだぞ」
「はい、ありがとうございます」

 俺が丁寧に頭を下げると、親父はギョッとした顔をしたあと、引きつり笑いをした。

「あ、ありがとうって……お前からそんな言葉が出るとは。どうも今朝から様子がおかしいが、いったいどうしたんだ?」

 親父は、後退して広くなった額に玉のような汗を浮き上がらせて言った。
 手ぬぐいを出し、額の汗を拭き取る。
 その一連の動作を見て、やっぱり親父っていうのはどの世界も同じなんだと、少し安心した。俺の日本の父もよくハンカチで汗を拭いていたっけ。やたら汗かきで、ちょっと動くだけで汗をかいてふうふうと息を切らせていたのを思い出す。

「汗をかいたりして、熱でもあるんじゃないですか?」

 俺の問いに、親父は慌てて手を振り、違うんだ、違うんだ、と二度続けて言った。なぜそんなに慌ててるの?

「聞きたいことっていうのは、奴隷の住まいのことなのですが、あんな狭いところに閉じ込めていて大丈夫なのですか?」
「どういうことだね? あそこで何か不満でも?」

 俺は不満ではないが、奴隷たちが可哀想に思ったのだ。狭い所に十人単位で小部屋に押し込んでいる状況は、牢屋と同じだ。ここの従順な奴隷を見る限り、奴隷を檻に入れて置く必要性を感じないのだ。
 しかも、奴隷たちは全員が女の子たちなのに不潔な場所になっている。

「奴隷は商品ですよね? それなのに、大切に扱っていないように思えるのですが……」
「……はぁ、なぜお前がそれを言うのだ? 私が五年前に奴隷は商品だから大切に扱えとお前に言った時、どうせ売り払われるのに、なぜそんな経費をかけてまで養う必要があるのかと、えらい剣幕だったじゃないか」

 ふっ、やっぱりな……奴隷の劣悪な環境って前の俺のせいなんだ。

「そんな昔のことは忘れました。俺は、今のことを話しているんです」
「そうか、やっとわかってくれたか……そうだ、その通りだよ。奴隷は商品だ。だから、大切にしてやることで高値で売れるんだ。お前だって知っているだろう。エルフが高値で売れるのは、美しいからだ」

 そっか、エルフって高く売れるんだ。ああ、陵辱ゲームでエルフを次々に奴隷にしハーレムを築いた日々が懐かしい。
 しかし、ゲームの世界と現実は違う。目の前の奴隷落ちしたエルフやケモミミの女の子を見ると、つい可哀想という気持ちが出てくる。こっちの世界では甘い考えかもしれないが……。

「お願いがあるのですが、この屋敷の空いた部屋を奴隷に使わせて良いでしょうか?」
「なんと? 奴隷をここに住まわせるのか? それはなぜだ」
「それは……この屋敷には空き部屋が多すぎです。使われていないのはもったいない。人が住めばそれだけ建物も長持ちします。部屋を閉め切っていると痛むので、毎日風を通しておくことで老朽化を防げます」

 俺は一気にまくし立てた。いいぞ、話しやすいぞこの親父。俺は女の子の前ではしどろもどろになって何を話せばいいのかわからなくなるが、男の前では堂々と意見することができる。
 しかも、以前の俺だったニートが横柄だったから、ちょっと丁寧に話すだけで印象が良くなるみたい。
 うんうんと親父は子供の成長を目を細めて見ているようだった。聞いていますかね?

「ニートよ。家のことまで考えてくれてありがとう。どういう心境の変化があったのかわからんが、母さんのことが吹っ切れたのなら、私はもういつでもお前に商売を譲ってもいい」
「いや、そんな話ではなくて……奴隷たちに部屋を与えて欲しいのです。それと、風呂を使わせる許可をお願いします」

 俺は、空き部屋に奴隷たちを住まわせ、使用人も別館からこちらに移してはどうかと親父に話した。
 親父は初めは渋ったが、俺が有無を言わさず矢継ぎ早に、なぜダメなのかと食い下がると、あっさりと認めてくれた。

「だが、風呂は一つしかないぞ。奴隷たちが入った風呂に私たちも入るのかい?」
「私たちが最初に入り、後で使用人が入り、最後に奴隷が入ってから掃除をするようにすればいいのです」
「なるほど、風呂を使わせるかわりに、掃除をさせるわけか……」

 親父は、膝をポンと叩くと「いいだろう」とニンマリして言った。
 どうやら、俺の案に納得してくれたみたいだ。

「奴隷が清潔になれば、もっと高く売れると思うので、ありがとう……ところで、奴隷ってどうやって売るのですか?」

 俺は、この世界に来たばかりだから、奴隷がどのように取引されているのか知らない。奴隷商の店の暗い檻に入れられた奴隷を、客が品定めして買っていくというスタイルならアニメか何かで見たことがある。
だが、この屋敷には客が来ている気配がなかった。

「前にも教えたと思うが……ダバオの街に奴隷商人の店が二つあるだろう。あそこに奴隷を卸している」
「あっ、はいはい、あの店ね。ダバオに二つありましたね……」

 一ミリもそんなことは知らないが、俺は適当に話を合わせておいた。中身が入れ替わっていることは、まだ知らさないほうがいいだろう。我が子が別人になったと知ったら、この温厚そうな親父も奴隷商というアウトローな仕事をしているのだ。どうなるかわからんし。

 奴隷たちは、街にある奴隷の店に置いて、そこに客が来て奴隷を品定めして買うということか。

「奴隷の値段は、その店が決めているんですか?」
「値段は、店で決めて売る場合と、エルフなど人気の奴隷になるとりで決めている。もちろん、競りも、最低金額は決めてあるがな」

 オークション方式か。ということは、俺たちがいた世界でいう人身売買みたいな感じかな。もちろん、実際にそんな場面があるのか知らない。テレビで女の子をずらっと並べてオークション方式で売られている映像を見たことがあるけど、そんな感じかな。

「売れ筋の奴隷は、やはりエルフですか?」

 俺は、次々に質問をし始めると親父は当初は怪訝な顔をしていたが、徐々に身を乗り出して俺に親切に教えてくれた。どうやら、後継ぎをする気になったと勘違いしたようだ。
まぁ、奴隷商人になるのは願ったり叶ったりなんだけど、俺って働いたことないからなぁ。

 とりあえず、売れ筋はエルフで間違いないらしい。しかも、夜の奉仕もできる召使いということだ。
憑依前のニートが奴隷を女だけに絞ったことで、女奴隷を買うならダバオに行けと言われるくらいには有名になっているらしい。俺は知らんけど、まぁ鬼畜な息子にも先見の明があったのだろう。

「我が息子よ。もし商売について知りたいことがあったら、いつでも聞いておくれ。今までそんなこと一度もなかったから面食らったが、やっと後継の自覚ができてきたようだな。父親として、そして経営者としてお前を立派に育てたいのだ。だから、わからないことがあったらいつでも聞いておくれ」
「わ、わかったよ。わかったわかった」

 俺は、そういうのウザいので、適当に手を振って親父の部屋を出た。

 ちょうど、廊下に出て自分の部屋に戻っている時、アルノルトがやってきた。

「ちょうどよかった。アルノルトにやってほしいことがある」
「はっ、なんでしょうか?」

 片膝をつき、手を胸に当てて礼を取るアルノルトを立たせると、俺は二つの指示を出した。

「奴隷を全員中庭に集めろ。その時、汚い服を着て来るんじゃないぞ!それと、全員で館の掃除をさせるから掃除用具を準備しておいてくれ」

 アルノルトは、小さく頷くと足早に奴隷の館の方に向かって行った。
 せっかく綺麗に体を洗ったんだから、汚れた服をまた着たら意味ないもんな。
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