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もはや辿り着けない

絶体絶命

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 多分今日が人生で一番走っている日だと思う。足はもう棒で間違いなく筋肉痛になるやつだし、喉を超えて肺からは呼吸するたびにヒューヒューと音が鳴っていた。

 しかし無事に逃げ切れたようだ。足音は聞こえてこない。中庭はある種の植物園も兼ねているからこの季節だと色とりどりな春の花々が見えるが生憎今は鑑賞する気分にはなれない。リア充がよく座っている二人用のベンチの後ろに隠れほっと一息。中庭は購買と同じぐらい隠れるところが多くてかつどの練からも出入り出来るから退路を塞がれる心配もない。

『て、天使様。ご無事ですか?』

『なあさっきのスターのそっくりさんは誰だ?』

 電話越しからも必死さが伝わったのか、質問が投げかけられたのはようやっと呼吸が安定したその時だった。

「逆陸虎杖。この世界での俺のクラスメイト」

『どうしてスターにそっくりなの?』

「知らん」

 アナの質問はもっともなことだ。魔術とが蔓延っている世界ならそっくりさんとか変身術とかけっこういるもんだと考えていた。だから多少似ている程度では動じないとも思っていたがそうでもないらしい。少なくともスターと虎杖がそっくりなのは現時点ではただの偶然の産物という解釈をするほかない。

『……なあ気になる事があるんやけど。さっきのスター二号は初めのことが見えとったよな』

「え、ああ。そうだったな。俺も最初はびっくりした。でもあいつはここの世界の人間だから魔術とかそんなんとは無縁のはずなのにどうなってんだ」

 学園長とネーミングセンスがダブってしまったという屈辱的な事実に一瞬言葉が鈍った。が、確かになんで見えているのかは気になる。事情は知らないが少なくとも俺は元の世界に帰れている。だけど透明人間状態でこのままだと死ぬから魔術で連絡をしてくれている。という情報じゃあ虎杖に俺が見えている理由の説明がつかない。

『ふーん……まあええよ。とにかく死なずに済む方法教えるな』

 少しだけ含みのある学園長は気になるがそんなの命が助かったあとだ。生に縋るべきほど大層な生き方じゃなかったが同時に無碍にしていい人生ではなかったはず。

 学園長と狐面の男曰くこちらから肉体を転移することは出来ないからまた俺には出戻ってもらう必要がある。その為にはこの世界で俺の方から魔術を使ってアプローチする必要があるらしい。いや使えないし教えてもらってすらいないんだけどと思ったが、どうやら俺がやるのは下準備だけで実際の行使は学園長とスターの二人が狐面の男が使う魔術を経由してそっちの世界からするみたいだ。

『はい質問です学園長。魔術の行使はしないとしても、術式の準備は素人には出来ない難しい課題が山盛りです。そこら辺はどうするんすか?』

『いけるいける。ちょっと目星がついとんよ。ハジメくんが違う世界に飛ばされる時に持っとった魔導書あるやん? それがあった場所に行ってくれへん? 勿論電話はそのままで、これ繋ぐんめっちゃ辛かったんよ。なあホワイト』

『ああ。ぶっちゃけ今も結構きつい。天使様、はじめまして。初めましてのところ申し訳まりませんがなるべく急いでください。辛過ぎて血反吐を吐きそうです』

 あんまりにも冷静に言われたが結構辛そうだし俺の命も含めて結構急がないと。最初にあの魔導書を見つけた場所? 図書室だよな。今思えばあん時に低身長を救う魔術とかいう馬鹿な代物に騙された俺大馬鹿すぎだろ。そんな過去の自分の尻拭いをするべく慎重に図書室は向かう。

 まだ全校集会中だろうか、閑散としている。虎杖と虎杖を探しに来た先公がいるかもしれないから最新の注意を払いながら歩く。

『気を付けろよ。抜き足差し足千鳥足だ』

『忍足な。酔っ払ってる場合か』

 バレたらまずいから静かにするようにと小言を入れる。そんな危機的状況でもJBとジョセフがしましているこのようなアホな会話ができる程肝が据わっている俺じゃないはずだけが、その会話のおかげで恐怖心が薄れたんだろう。

 あの本があったのは確か図書室のオカルトコーナー。そこの一番端っこにあるそれっぽいかつ古い本だったのを覚えている。あの時は藁にもすがる思いだったが、もしもタイムマシンがあったらあの時の自分を助走つけて殴り飛ばしたい気分だ。お前このままだと貞操奪われるんだからしゃんとしろという言葉も追加して。

 ……とりあえず図書室の入り口のドアにはつけた。司書さんはいつも午後から来るから今は無人のはず。やけに広いから慣れてないと迷うが俺はよく調べの回していたから余裕だ。誰もいないことを確認してドアを開ける__

「……見つけた。朝日奈さん」

 ドアを超えた目と鼻の先に、虎杖はいた。

「え、ど、どうして?」

 大きな手で腕を掴まれそのまま図書室に引き摺られてしまった。なんで、なんで。どうしていく場所がバレた? 待ち伏せされていた? 落としてしまったスマートフォン。どうしたんだと声を荒げる電話の向こうにいるあいつら。わからない。わからない。思考が止まった頭が認識したのは、満面の笑みを浮かべた虎杖だけだった。
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