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一の才能

初めての敗北

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目を閉じて五感を研ぎ澄ます、そうした方が魔力の変なこう……気持ちいい感じ? がわかるんだ。第六感ってこういうの?

5階は余りにも遠く陣を置くのも面倒だったのか、俺たちの教室周辺以外はすっからかんといった所。下に降りる階段もスカスカで足の踏み場には困らない。問題は階が下がる度に陣の密度が上がっていく事。特に一階なんて全然遠いのに戦慄を軽く超えて気持ち悪いほど張り巡らされている。

「て、天使様……」

「苦しそうですけど……」

目を開けても出来るだけ視線を下にする。そうするだけで図体が高いだけのあいつらの顔を見ずに済む。体が熱っぽい、ぶっちゃけ服が肌に擦れるその感覚でさえ愛おしいと感じるほどに毒されてもいる。だから、そんな状態で俺に欲情した奴らの顔を見ると、期待してしまいそうで、胸が高鳴りそうで、それがとても恐ろしかった。だか目を逸らしたんだ。

俺の作戦はこうだ。ちゃっちゃと下に降りてちゃっちゃと主犯にお礼参りして、同じく一階にある図書室からいい感じに情報収集できそうな本を拝借してたったかと寮に帰る。もはや作戦でもなんでもないゴリ押しだ。図書室の要件に関しては知識人のスターとブルーブックにほぼほぼ丸投げしてしまうかもだが、元の世界に帰る為に協力は惜しまないという約束、この場で使わせて貰おうじゃないか。

「うぅ……スター、ブルーブック、俺について来い!」

「勿論です、天使様!」

「気合い入り過ぎ、一応転ばないようにハジメっちの近くにいるね」

苦し紛れかつ余りにバレバレの強がりを前にしても、知らぬ存ぜぬしたり何の気なしに接してくれる2人をすっかり配下にしてしまった俺は廊下に出る。俺が良いといった場所以外踏むなと釘を刺しておけば後は後ろからついてきてくれるだろう。

……難しいことは考えるな、今やるべきは何処に陣があるのかの把握と、主犯にかかる罵倒を幾多か考えておくぐらい。その後のまた魔力繋ぐとかそういうのは、後にしよう。今考えるとちょっと集中できない。

▷▶︎▷▶︎

天使様について、多少の違和感を感じていないかと言われたら、その答えは「はい」となるだろう。もともと魔術を学ぶ必要がないほど文明レベルが発達した世界である天界にいながら、たった1日で魔力の気配を覚えたそれは凄技の一言だ。

ここだけの話、少しプライドが傷付いた。さっき誰よりも魔法陣を早くに見抜いたのは天使様だ。生まれながらの天才と自負し、「リー」の称号を持つスタッフォード家の長兄にして才能のある人間としての振る舞いを常日頃から心がけてきた自分にとっては初めての敗北。負けたのか天使様でなければ露骨に機嫌を損ねてしまったやもしれない。言い訳のしようがないから取り繕うことも言い訳すらもできず、ただ機嫌を悪くすることしかできない、それほどまでの完膚なきまでの敗退だ。この今にも魔力をどっぷり浴びて気持ちよくなりたいと訴えるその目からは考えられないほどの才覚。

「スター、そこ危険だからもうちょっと右によれ」

「は、はい! 流石は天使様!」

「おう。……うぅ♡身体が辛くなってきた……」

「おんぶしましょっか?」

「やめろ、気持ち悪い。変な気分になるだろ」

5階から特に危なげなくトントン拍子に4階、3階へと駒を進めていく。

ハッキリ言って元の世界に返すには勿体無い。間違いなく伝説の天使様に並ぶ大魔術師になれるだろう。それでも僕には彼がこの世界にとどまるよう提言するほどの勇気はなかった。彼に嫌われるのは何より怖かったし、何より自分を超える才覚にこれ以上の敗北を重ねることが怖かったのもあるだろう。天界に帰って頂ければ、これ以上の負けはないのだから。

醜くて申し訳ありません。自分でも初めての感覚、嫉妬。今まで自分の事は最低限純真潔白だと考えていたのに、そんなドス黒い感情があったなんて。今の自分を癒すのは、貴方が天使様であるという事実。そして、そんな貴方の初めてを奪ったのは他でもない自分という悪魔のような思考。

「はぁ♡、、いぃ…辛いぃ♡」

「や、やっぱ抱っこを……」

「♡ッッだからいいって! ……わりぃ、今はあんま触んな……スター、何ぼさっとしてんだ。食堂はもう直ぐだぞ」

邪な思考を読まれているのかと一瞬思案してしまいびくりとした。すっかり頬は赤くなり、目もちょっとだけ涙を溜めている立ち往生している周りの人間が大きく狼狽えている。天使様のあまりの色気を前に唾を飲む音が聞こえた。


いけません、いけません。そんな淫らな御姿をこんな公衆の面前でお見せになられては危険です。今までの邪悪な思考を振り切るように上着を脱ぎ強制的に天使様に被せた。それだけで小柄な体はすっぽりと隠れてしまった。

「さ、サンキュー……おースターの匂いする」

「がはッッ」

「ハジメっち、今のクリティカルヒットだよ」

改めて見てみると、自分の上着を羽織った天使様はダメージが大変大きかった。さらにそんな事言われたら悶絶する以外の選択肢なんて無くなってしまう。天使様の次なるお言葉を僕は勿論ブルーブックすら聞き流してしまうほどに多大な迷惑をかけてしまった。

「____なんか、匂いまで虎杖に似てんだな」
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