上 下
25 / 71
JBからの挑戦状

意地っ張りな君へ

しおりを挟む
 ちょっと上に入れそうな隙間があって助かったぜ。おかげで身体強化の魔術をちょいと使うだけでハジメとご対面だ。ハジメのいた世界には魔術がないってのはどうやら本当で、本に魔術がかけられているという発想がないだけでなく、この程度の簡単な魔術に随分驚いている様子だ。

「……何の用だ」

「話し相手は必要だろう? オレ相談できるチャラ男って評判だから、バシバシ頼ってくれ」

 そう胸を張ったが、当の本人からの対応は辛辣オブ辛辣だった。まるで野生のクマを見るようなその視線は少しだけ傷ついた。

「お前も俺を馬鹿にすんのか、いいだろデカい親から小さい男が生まれても。遺伝子無駄にして悪かったな!」

「親が大きくても遺伝しないことだってあるから平気平気、別に攻撃してるわけじゃねえって。オレだけじゃなくて、アイツらも使ってる可愛いとかエロいって言葉で揶揄うつもりねえから、マジで」

 本当に拗らせてんなあ、人間を信用出来なくなったきっかけでもあるのか。こんなこと言うと300%の確率で嫌われるから言わないけれど、今のコイツを見たら腹が立つとかわからせたいと言う感情よりも、他人が自分を攻撃する存在という強迫観念に囚われている哀れな少年にしか見えない。

 こんなことスターに言ったら解釈違いとしてしばき倒されること待ったなしだが、オレからしたらコイツは全然気高くもライオンハートでもない。触れたら拒絶の果てに壊れるくせに、触れなきゃ誰の助けも得られずにスッと消えてしまいそうな、儚い存在。
 ボロボロになった牙を剥き出すことでしか他者と対等になれないと思い込んでいる一人ぼっちの捨て犬だ。

「少しぐらいは肩の力抜いてもいいんじゃねえか? みんなお前に従順だから、取って食ったりしねえよ」

「そ、そんぐらいわかってるけど……ただ、えっと……」

 ふーん。敵意があると勘違いされてる訳ではないと。こそこそと独り言を呟きながら下を向くのを見ると追い詰めてしまっている気がしてちょっと申し訳ない。でも独り言の果てに確かに聞こえた、

「……俺って、、なんで素直になれねえのかな」

 小さく聞こえたそれは、強がってばかりのそいつから初めて捻り出された明確な助けを求める声だと勝手に解釈した。その助けを求める声に勝手に応える事にして、その強がりな背中手を回して胸を貸した。……よし、拒絶されてはないみたいだ。丁度コイツも涙を隠す壁が欲しかったろう、好都合だな。

「そっかそっか。お前にとっちゃ、素直になるってのは難しい話なんだな」

「……死ね」

「はは、元気でで良かったよ」

 こんな意地っ張りが誰からも愛される天使様ってのは確かに荷が重いよなぁ。この手のタイプっていつもは自分の本音や建前にスパイス混ぜて話す癖に、ちょっとでもなんで素直になれないんだとかをキツめに追求すると、2度と心を開いてくれない。ここは優しく原因を一緒に探してやるか。

「キモくはない、ただ、ウザいんだよ」

「気持ち悪さは感じてないんだな? でもウザいのはお前にとって由々しき問題だよなあ、具体的にどんな感覚だ?」

「そ、そんなもん聞かれてもわかんねえよ!……お前らに可愛いって言われて愛されることも、沢山いやらしい目で見られる事も、胸と背中がソワソワしてばっかで何もかもわかんねえ」

 ……ん? それってソワソワというより、ゾクゾクなのでは? いや流石に自意識過剰というか、ハジメに対して期待しすぎじゃねえのか。そう思う冷静な自分もいるにはいた。高鳴る胸を押さえ付けられず、喉笛から半ば押し出される形で身勝手な推理を展開した。

「なあ、それってさ、可愛いって言葉やエロい目で見てくる視線とかで感じてるって事なんじゃねえの?」





 ヤバいと思ってももう遅い。次の瞬間拳や頭突きが飛んでくる事を覚悟したが、幸いそんな鈍い刺激は来なかった。
 そして代わりに、いいや代わりというにはあまりにも勿体無い、

「な、な……何言ってんだよ!!」

 まるで図星である事を白状するかのような真っ赤に染まった顔で威嚇するハジメの姿があった。アレ、ひょっとして推理当たっちまった? そんなマジカワイイ理由に自分で気が付かずに今まで意地張ってたの?

 俺まで恥ずかしくなったのに勘付かれたか、ようやく先程覚悟した痛みが肩を襲う。腕の中にいるハジメが俺の肩を力一杯握りつぶそうとしているのかミシミシ音がなった。

「痛い痛い! ゴメンって!!」

 お互いタコみたいに真っ赤になった顔にあえて触れないようにし、なんとかそのミシミシから解放してもらった。やっぱアレだよな、自分でも気が付かなかった恥ずかしい事を指摘されたら、いくら言葉の暴力しか使わない奴でも物理的な暴力に走るよな。

「ははは……痛かった~」

「他の奴らに話すなよ、話したら右腕だ」

「右腕折られるのは嫌だなぁ」

「じゃあ右腕以外全部折るに変更だ」

「改悪してんじゃねえか」

 少しだけハジメと打ち解けた気がする。何よりこんな可愛い顔を俺だけが間近で見れるなんてなんつう役得とすら思ってちょっと嬉しくなってきた。今も腕の中にいるコイツはなんだかんだ言いつつ逃げるそぶりもない。良いチャンスなんじゃないかと思い、ちょっと興味のある事を聞いてみる事にした
 今までハジメの住んでいたところを天界だと統一して呼んではいたが、そんな桃源郷でどうしてここまで泥だらけ傷だらけの人間が生まれてしまうのか。想像以上にハードなところなのかもしれない。

「聞いてもいいか? 元の世界の、ハジメがいた魔術も魔法もない世界で何があったのか。楽しいことも勿論、もし良いのなら、お前が悲しんだことも教えて」

「……うん」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

悪役の俺だけど性的な目で見られています…(震)

彩ノ華
BL
悪役に転生した主人公が周りから性的な(エロい)目で見られる話 *ゆるゆる更新 *素人作品 *頭空っぽにして楽しんでください ⚠︎︎エロにもちょいエロでも→*をつけます!

僕の兄は◯◯です。

山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。 兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。 「僕の弟を知らないか?」 「はい?」 これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。 文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。 ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。 ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです! ーーーーーーーー✂︎ この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。 今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

勇者御一行様

BL
総受け勇者による魔王討伐の旅の様子です。エロしかないのでご注意下さい。

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

断罪は決定済みのようなので、好きにやろうと思います。

小鷹けい
BL
王子×悪役令息が書きたくなって、見切り発車で書き始めました。 オリジナルBL初心者です。生温かい目で見ていただけますとありがたく存じます。 自分が『悪役令息』と呼ばれる存在だと気付いている主人公と、面倒くさい性格の王子と、過保護な兄がいます。 ヒロイン(♂)役はいますが、あくまで王子×悪役令息ものです。 最終的に執着溺愛に持って行けるようにしたいと思っております。 ※第一王子の名前をレオンにするかラインにするかで迷ってた当時の痕跡があったため、気付いた箇所は修正しました。正しくはレオンハルトのところ、まだラインハルト表記になっている箇所があるかもしれません。

処理中です...