マホウノセカイ

荒瀬竜巻

文字の大きさ
上 下
7 / 11
プロローグ

巣立ちの準備

しおりを挟む
言っちゃった。やっといえた。今の気持ちは、うん、心の臓がバクバクしててよくわからない。

しばらくしてやっと落ち着いた私は、恐る恐る4人を見た。奥の2人の顔は分からなかったけど、お母様とお父様はというと2人とも豆鉄砲を喰らった動物みたいになっている。そして暫くして口を開いた。

「その……妃芽花。あなたの魔術のセンスが凄いことはもちろん知ってる。あなたほどのセンスならなれる可能性は十分よ。でも、でもね……」

お母様は少し言葉に迷ったようにして、また話し始めた。

「魔術議員になるにはチームを組んで……領地のためにバトルをしなきゃいけないの。勿論怪我の心配のない勝負方法もあるわ。でもね……」

「お母さんは妃芽花さんを心配しているんですよ。……父さんとしては母さんと同じ意見かな……」

珍しくしどろもどろなお母様にお父様がフォローを入れる。勿論怪我なんて承知済みだ。でも今はそんな保身をしている場合じゃないの。こんなことをしている間にも高橋くんが酷い目にあってるかもしれない、寒空の中凍えているかもしれない、お風呂にも満足に入れないかもしれない。

今わかった。高橋くんとの出会いは、私を想像以上に強くしたみたいだ。無意識のうちに握りしめていた拳が痛みを上げ始めた頃、お父様が少し迷った様子で、それでも大切な人を労るように、訪ねて来た。

「魔術議員になると言うことは、お姉さんと同じことをするんだよ?それでもいいのかい?」

ぎくりと来た。反論としてお姉様が引き合いになる事は薄々思っていたけれど、本当にくるとは。

……駄目だ。お姉様の事を考えただけで身体の震えが止まらない。家族は好きだけどお姉様だけは好きになれない、あの人は最早人間の感性をしていないんだもん。魔術の才能はもちろん、価値観も感性も何もかもが常軌を逸脱している。

そんなお姉様が本当に愛おしいものを見るように私を見てくる、それが怖くてたまらない。女神からの熱視線が怖い、愛を説く言葉一つ一つに戦慄を覚える。そして何より私が魔術議員になると知った時、どんな反応をするのか、これが全くもって予想できないのが怖い。


こんな人が魔術議員の議長なんて、よく考えなくてもどうかしてるよ。


「そっそれでも私、本気なんだもん!」

空元気丸出しで発破をかけたけれど、どう聞いても声はひっくり返っていたし、自分でもわかるくらいに身体が震えている。でもお母様たちはこの瞬間を見逃す手はないだろう。仕掛けられる前に反論しなくちゃ……もう! どうにでも! なれ!

「みんなが賛成しないのなら、出てってやるんだから!!!」

後先考えずにそう叫んでしまった。一瞬ハッとしたけれど、もう遅い。勢いそのまま自分の部屋に逃げ込んでしまった。後ろから声が聞こえるけれど知ったこっちゃない。扉を閉め鍵をかけ、バックに荷物を積める作業に入った。

涙が止まらない。荷物を積める手が震えている。この震えはみんなを怒らせたのかもしれないと言う怒りなのか、それとも家を出て行っても上手くやっていけるかという不安ゆえなのか。でもスタートラインに立ったのだ、言ってやった、なんで考えている自分は心のどこかにいた。

必要なものを引き摺り出した。クローゼットからはお洋服と下着、ベットの隣にあるバックからお財布、あとは……

「クーン…………」

ドア越しから2世の声が聞こえてくる。元気がないみたいだ、心配してくれたのかな?

「2世、貴方も来る?」

そう聞くと、まるでこちらの言葉がわかるように2世はワンワンと吠えている。本当に頭の良い子だな、私はクローゼットから2世のご飯とリードを取り出し、バックに詰めた。

準備が終わり、すっかり重くなったバックを背負い上げ、ドアに手をかけたお母様達になんで説明すれば良いか一瞬戸惑ったけど、もうあんなに叫んだんだし、後はもう無視を決め込めば良いよね……?

でも私には2世がいる。今でも名前を呼ぶとヴーワンと鳴き返してくれる。2世は頭も良くて頼りになる。彼がいてくれればきっと大丈夫だ。深呼吸をして手の震えをなんとかしようとスーハースーハーと繰り返している。すると突然、

「妃芽花、リビングにいらっしゃい!」

お母様に高らかに呼ばれた。声色から怒る感じではないけれど、どうしたのだろう。ドアをゆっくり開けて、2世と共にリビングに向かった。決して意見は曲げないとパンパンに荷物を詰めたリュックを持って。

「妃芽花さん、そのリュックは……」

「私、負けないよ!」

お父様の声を食い気味に遮断する。もうみんなが何を言っても無駄なんだから。お母様も、お父様も、老婆やさんも岸本さんもってあれ? そういえば岸本さんの姿がないどこに行ったんだろう。

「うん、それはもうわかったわ。私たちが言いたいのはね……」

お母様とお父様、老婆やさんは暫く見つめ合っていた。それでも一足先にお母様が覚悟を決めたように私の肩を掴んだ。後ろの2人はそれをじっと見ていた。

「私達はね、妃芽花を応援したいの」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...