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第四章

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 魔女達はその生活を他人に悟らせない。住居は勿論、薬の調合をする工房、集会で集まる場所、日常生活に必要な生活雑貨を買う店でさえ。
 彼女達は常に神秘のベールで隠された存在だった。
 勿論娯楽を求めたり、仕事で街に出向いて姿を見せる事は多々あるが私生活の部分では謎に包まれている。
 これは彼女達の自衛手段の一つだった。
 魔女はともかく狙われやすい。希少とされる魔法使いの中でも更に上の存在とされる彼女達は一般人からすれば便利な存在に思えるらしい。一度捕まってしまえば奴隷のような扱いを受ける事も少なくないので徹底的に自分達の私生活を見せない事で身を守っているのだ。
 魔女になりたければ魔女を見つける運と実力がいる。
 魔女になりたいと研鑽を積み、魔女の方から発見されてもらえれば魔女の仲間入りを果たす事が出来るのだ。
 魔女側も仲間が欲しいと思っている者も多いので実力があり、運が良ければ見つけてもらえる。
 魔法使いが多くいるディザイアといえど気安くお近づきになれない存在。それが魔女だ。
 だからこそ価値は高く、狙われやすいデメリットもある。
「面白い魔法だな」
 魔女が日用品を揃える市場には我が家から行けた。特殊な鉱石を砕いた粉末と幾つかの液体を混ぜ合わせて作った魔女薬品を利用した方法だった。
 扉に魔女だけが知る魔法陣を描いて市場に繋げるらしい。
 材料は魔女でなくとも揃えられるが魔女薬品を作れるのは魔女だけだ。
「あまり離れないでくださいね、タユラくん。あなたなら問題ないとは思いますが、魔女以外、使い魔でもない部外者だと難癖をつけてくる人もいますから」
「了解」
『此処は居心地が良いなぁ。魔力の濃度が高い』
 いつも通り連れてきた獣はタユラにピッタリとくっつきながら囁いた。自分で告げたように何処か上機嫌に見える。
「魔女の為の場所といった感じだな。ディザイアの何処かではあるんだろうけど」
 出入り口が特殊なだけで魔女の市場はディザイアの中にあるのだろう。街並みは普通だった。ただし遠くの通りや路地裏の先が不規則に揺らめいているので侵入を防ぐ結界や不可視の結界を重ねているようだ。
 アビゲイルと連れ立って歩く少年だったが、意外と男性も多くいるのでそこまで目立つ事はなかった。
「で、何処に行くんだっけ?」
「まずは箒のお手入れ用のクリームです。魔鉱石を砕いたクリームが最近、人気なんですよ。キラキラして綺麗だし、魔力ブーストもつくらしいので」
「そういうの好きだな、お前」
「大好きです!」
 食い気味に答えた同居人はテンション高くズンズン進んでいく。
 置いていかれないように少年も獣を連れて後を追った。
 店はファンタジー溢れる内装だった。ヨーロッパ風、といえば良いのだろうか。様々な材質の箒が飾られており、丁寧に整頓された棚にはクリームが入っているであろう丸い容器が並んでいる。
 匂いのテスターも置いてあるのだが、瓶を開けるとクリームのモチーフの映像と共に匂いが漂うので非常に面白い。
『(買ったところで我が主人には不要な物だろうに。欲しいのか?)』
「(いや、別に欲しくないが。見てると楽しい)」
『(よくわからん感情よなぁ)』
 悪魔にわかってたまるか。
 店の中ではやはり女子の比率が高かった。というか女子だけだ。タユラしか男がいない。
「タユラくん、タユラくん!」
 はしゃいだ同居人に名前を呼ばれたので彼女のそばに行く。
「どっちが良いと思います?」
 一つは星を砕いたような黄金の煌めきが散ったもの、もう一つは火花が散っているようなものだった。
 説明を読むと片方は魔法の威力の底上げと見た目通り炎属性の魔法の付与、らしい。
 微かな底上げ程度なのでどちらを選ぶかは趣味による。
「こっち。星の方。底上げなら満遍ない方がいい。お前、火の扱い微妙なところがあるし」
「選ぶ基準がそこなんですか!?」
 だってお前、料理させたら台無しにするだろ、と口まで出かかったが黙っておいた。
 魔女薬品なんていう取り扱い注意な材料を満遍なく混ぜ、細かな温度調整を行えるのに何故か料理が出来ないのだ。
 よって生命活動に欠かせない食事行為においては致命的。不味くても食べられるものが出来る、ならまだ良かったかもしれない。アビゲイルの場合、得体の知れねぇ、食い物とは絶対に思いたくない物が出来上がるのだ。
 炭になったらまだ成功。デフォルトで謎の物が出来上がるという始末だった。
 器用なんだかそうじゃないんだか、わかりにくい魔女なのである。
 ショックを受けつつも聞いたからにはタユラが選んだ方にするらしい。ぷんすかしながら商品を掴んでいた。
 先に外に出ているか、と店の外に出る少年。
「あ、」
「あ?」
 ベアベアコンビの片割れ、ベアトリクスがそこに居た。
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