敵国の者でも構わず治癒した聖女の行く末

1話 初夜

「お願いです…。今夜はお許し下さい…。お願いです…。ヴェルド様…。」

私は、この国レギュム王国のしがない町医者の娘だった。

しかし今は、強制的に王宮に連れて来られて、ヴェルド皇太子様の寝室で震えながら頭を下げている。

「シュリエル。お前は自分の立場が分からないのか。お前は敵国の…フリュイット王国の者を助けた犯罪者なのだぞ。」

低く冷たい声が、頭上から浴びせられる。
ヴェルド様の威圧的な雰囲気に逃げ出したくなるが、それ以上に私はその言葉に納得できなかった。

家に突然訪れた、フリュイット王国の少年は傷を負っていた。
私は迷わず治癒を施した。
敵も味方も関係ない。
私は目の前に困っている人がいたら助けたいと思うし、それが正しいと信じている。

今までもずっと私の家では、敵国だろうが自国だろうが、訪れた者は全員治療していだ。

しかし、今日は運悪く王宮の者に見つかってしまったのだ。
私にそれを詫びれる気持ちは全くない。

「私は、間違っていたとは思いません！まだほんの子供だったではありませんか。」

思い切って顔をあげ、反論する。
ヴェルド様の美しいブルーの瞳に、私の顔が映った。

「ふん、いつまでも反抗的なら、医者の家族ごと処刑台に送ってやってもいいんだぞ。」

「っ…、も、申し訳、ございません…」

そう脅されてしまったら、為す術もなく頭を下げるしかない。
おそらくもう、私は家族には会えないだろう。

だけど、生きていて欲しい。
大切な時を過ごした大切な人だから。

「犯罪者といえどお前の力は役に立つ。野放しにしておくには強大過ぎる力だ。だから婚約者にした。この皇太子ヴェルドのな。」

私は不思議な力を持っている。
どんな病気や怪我でも治してしまう力だ。
どうしてかは分からない。
その人に触れ、祈るだけで、完治する。

力目当てなだけの方と結ばれるなんて、例え皇太子であるヴェルド様が相手でも、胸が苦しい。
しかも、こんなに冷酷な方とだなんて。

「拒むことは許さない。風呂を済ませたらお前を抱く。いいな。」

「っ…は…ぃ…」

だけど、逆らうことなんてできない。
逆らえば家族が殺されてしまう。

私は、絞り出すように返事をした。