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337話 制裁 10
しおりを挟む「だからせめて、少しでもこの旅館の役に立てるように、そして、少しでもこの旅館に居られるようにと、日々精進してきました。それなのにあなたは...! 」
「うぅっ...! った...」
今度はバシッと派手な音を立てて頬を叩かれる。
酷い痛みに顔をしかめて恐怖するけど、それよりも今は、初めて聞く桂本さんの気持ちに耳を傾けることに一生懸命だった。
これが嘘か本当かは分からない。
けれど、聞きたいと思った。聞かなくちゃいけないと思った。
確証はないけど、これはきっと桂本さんの本音だ。
「あなたはっ...私が喉から手が出るほど欲しいと思っているものを、下らないものの為にあっさり捨てようとしている。私は、そんなあなたが憎いのです...ずっと...! 」
バシッ!
「うぐっ! っ...桂本さん...」
「それでも私は、坂北屋のためならばとそれを受け入れ、教育係に徹してきました。しかし、もう限界です。私はあなたを許せない。」
よく分からないけど、桂本さんは俺が亜奈月高校を大切に思っているように、この旅館を大切に思っているのかもしれない。
だとしたら俺は、今までとても無神経な言動をしてしまっていただろう。
旅館なんて継ぎたくない。
坂北家の時期当主なんてなりたくない。
今まで俺は、そう数えきれないくらい何度も口に出してきた。
その度に桂本さんを傷つけていたんだ。
この人は、決して顔には出さなかったけれど、辛かったはず。そう考えると息が詰まるように、胸が苦しくなった。
「ごめん...なさい...桂本さん。俺、無神経だった。」
謝ったところでどうにもならないけれど、俺は謝らずにはいられなかった。
俺なんかより桂本さんの方が、よっぽど坂北屋を継ぐにふさわしい。凄く仕事ができる人だし、坂北屋を大切に思っている。
だったら、桂本さんが継げばいいのに...。
もし、それができたら全てが上手く行くじゃないか。なのに、どうして俺なんだ。
「でも...もっと早くに言って欲しかったです...。そしたら、何か変わったかもしれないのに...! 」
「無理ですよ。私にもできなかったことを、あなたに話したところで何も変えられるわけないでしょう? あなた以外の人間に、坂北屋を継ぐことはできないのです。」
「それは...」
俺よりもできることの多い桂本さんが無理だと言うのなら、かなり難しいのだろう。
でも、本当に無理なのだろうか。
事情を何も知らないからかもしれないけれど、俺にはそうは思えなかった。
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