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325話 脱走 27
しおりを挟む「桂本さん。警察に連絡するのは、もう少し待ってからでもいいんじゃないですか? もしかしたら、坂北くんは学校の友達と遊んでいるだけかもしれませんよ。それを誘拐とは言いませんよね? 」
確かに、普通なら俺の証言で西村さんの潔白は証明されるはず。でも、あくまでそれは、普通なら。
「いえ、友達だろうが透さんが望んだことだろうが、私共が誘拐といえば誘拐なので。」
「......」
駄目だ...。
桂本さんの言う警察というのは、うちの息がかかった所のことだから。
「わー...さすが天下の坂北屋、顔が広いんですね。」
事実がどうであろうと、桂本さんや父さんの一声で、そんなもの簡単に書き換えられてしまう。
西村さんが俺を連れ去れば、濡れ衣を着せられることは確定だ。
西村さんが、俺を桂本さんに差し出すと言うのなら、それはもう仕方のないこと。
西村さんはただのお客さんで、坂北家のは無関係の人。ただでさえこんなことに巻き込んで迷惑かけてるのに、その上さらに犯罪者のレッテルを貼られるなんて理不尽極まりない。
俺、またあの薄暗い勉強部屋に逆戻りなのかなぁ...。
じわりと滲んだ視界で、ネックレスが放つ優しい光が歪んで見えた。
「でも、もしその友達が俺だったら、別にそれで誘拐犯になるのも悪くないって思います。それはそれで楽しそうじゃないですか。」
っ...!
待って。待ってよ...。
西村さんには俺を連れ帰ったところで南原さんに怒られないってことくらいしかメリットがなくて、大きなリスクも伴うのに。
誘拐犯になってもいいだなんて...。
俺は別に、この身を差し出されたって、西村さんを恨んだりしないのに。
桂本さんは堪らなく怖いけど、自分の身を犠牲にしてまで助けて欲しいなんて思ってない。
俺はそんなの嫌だっ...!
相変わらず西村さんは軽いノリで話していて、それが本心なのか俺に気を使っているのかは定かではないが、問題はそこじゃなかった。
今ので分かってしまった。
ああ、やっぱり俺は、帰れない...と。
このまま俺が黙っていれば、西村さんは連れ出してくれるだろう。せっかくの、逃げられるチャンス。
でも駄目だ。
俺には、西村さんに濡れ衣を着せて、南原さんの元に帰るなんてできない。
だって、そんなんじゃ南原さんに、胸を張ってただいまって言えないから。
南原さんはもしかしたら、それでも帰って来て欲しいって思ってくれてるかもしれないし、俺も、本当は南原さんの元へ今すぐ一秒でも早く帰りたいけど。
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