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321話 脱走 23
しおりを挟む「高校一年生で、坂北透という名前です。亜奈月高校に通われていますので、ひょっとすると西村様はご存じなのでは? 」
っ...まさか。
心臓が嫌に大きくドクンと跳ねた。
「...どうしてですか? 」
「あなたも亜奈月高校の生徒なのでしょう? それも生徒会副会長さんなのだとか。」
っ!!
西村さんの、個人情報...!
なんで桂本さんが知ってるの。
「あは、調べたんですか、俺のこと。」
俺は、迷惑をかけてしまったのではと焦ったが、西村さんは楽しそうに笑って声を弾ませていて、やっぱり変わっていると思った。
西村さんは、少なくともこの旅館に泊まれる財力がある家だ。そこまで大きな家ならばその程度の情報なんて、調べればすぐに出てくるのかもしれないけど、その余裕は理解できない。
普通はもっと動揺するだろ...。
でも、個人情報を調べられて不適に笑っていられるその神経の図太さが今は頼もしかった。
「調べるだなんてまさか。お客様のプライバシーを侵害する行為は一切行っておりませんよ。透さんに聞いていただけです。」
嘘だ。俺は桂本さんに学校の話なんて...。
「なーんだ。桂本さんが俺に興味持ってくれたのかと思って期待しちゃいました。」
「......」
どこまで図太いんだ西村さんは...。
これにはさすがの桂本さんも沈黙しているようで。戸惑っているというよりは呆れて言葉も出ないといったところだろうけど、桂本さんにここまで軽口を叩ける人というのは珍しいだろう。
このまま、乗り切れるか...?
「坂北透くん、ね。確かに知ってます。何度かお弁当も一緒に食べたりしてて、可愛い後輩ですよ。ここの旅館の息子さんだったなんてびっくり。」
「...そうですか。」
「桂本さん。心配なのは分かりますが、彼はもう高校生ですし、分別のない人でもない。俺は多少は放っておいても大丈夫だと思いますよ? 家の生活が窮屈で飛び出しただけなのかもしれませんし、ね。」
...西村さんの言う通りだ。
窮屈、というレベルではないほどに縛りつけられた生活で、暴力は当たり前。その上話し合う余地もなく転校させられるなんて俺はもう耐えられない。
でも、なにもしなければこの状況は変わらない。だから、一旦逃げようと決めたのだ。
「だけ、とおっしゃいますけどね。全てを投げ出し、その責任から逃れるなど、坂北屋の次期当主として、あってはならないことです。西村家のご子息であられるあなたなら、分かるのではないですか? 」
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