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320話 脱走 22
しおりを挟む「それにしても、これはまた随分と荷物が増えたものですね、西村様。」
う...早速かよ...。露骨すぎ...。
スーツケースに入っていた衣服は全て、リュックサックや肩掛け鞄、たまたま持っていたというエコバッグなどに詰め込んである。
そのため、かなり大荷物な西村さん達。
俺がすぐそばのスーツケースに隠れていると分かっていながらわざと指摘してきているのだろうと思うと怖くて堪らない。
桂本さんは、西村さん達が俺を匿っていることはとっくに気づいているだろうし、形だけ隠れていればいいと思っていたので、俺達はこの異様な荷物をどうにかしようとはしなかった。
どうにかしようとしてもできなかっただろうけど...。
「お土産を買い過ぎちゃったんですよー! 」
「それはそれは。ご旅行を満喫されたようでなによりです。」
「お陰さまで。」
全く怯まず適当な言い訳をする西村さん。
お互いに嘘だと分かっていながらの会話は不自然なほど穏やかに進んでいく。俺は、聞いているだけで背筋が凍りつきそうなほど怖かった。
お願い...どうか上手くいきますように...。
「実はまだ、ここのご子息が昨夜から姿を消したままお戻りになられていないのですが、何かご存じないですか? 」
「さぁ? 俺は昨夜言った通り何も。お前ら知ってる? 」
「知らないよ~、和彦にぃ。」
「俺も。」
回りくどい言い方をせず直接的な聞き方をされても、ふてぶてしい態度でしらを切る西村さんは本当にすごい。客の立場とはいえ、悠々と桂本さんにそんな態度をとって大丈夫なのかと心配になるほどだ。
西村さんに話を振られたアキさんとユキさんもちゃんと協力してくれている。
俺が隠れていることはバレてると分かっているので、演技はこの上なく適当だけれど。
「まだ帰って来ないなんて心配ですね。でも、息子さんは高校生の男の子って昨日言ってましたよね? なら、心配しすぎるのもどうかと思いますよ~。」
俺が受けてきた桂本さんや父さんによる異常な教育は、昨日西村さんに全て話してある。
西村さんのこの言葉は、ごく一般的な意見をあてつけのように桂本さんに示して見せていた。
西村さんは、異常な教育を知っていることを仄めかして、桂本さんを牽制しようとしたのかもしれない。けれど、桂本さんも全く怯むことはなくて。
「そうです。高校一年生で、坂北透という名前です。亜奈月高校に通われていますので、ひょっとすると西村様はご存じなのでは? 」
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