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313話 脱走 15
しおりを挟む「でもさ~、君がここにいることは桂本さんって人にもうバレてるかもしれないんでしょ? 坂北屋の大事なご子息が行方不明だっていうのに、やけに穏やかだし。だったら結局勝ち目なんて無いんじゃないの~?」
ユキさんの指摘にギクリとする。
さっきの桂本さんの反応、そして桂本さん達坂北屋の人間が俺を探している気配が全くないところを見ると、恐らくは...。
「バレてると思います...。」
それでも桂本さんが今すぐここへ乗り込んで来ないのは、一応客である西村さん達への配慮と、俺が一人では逃げられないことを分かっているからだろう。
でも、勝ち目はゼロじゃない。
「きっと西村さん達がチェックアウトの時、桂本さんはフロントに必ず来ると思います。だからその時、皆さんにはバレてる前提でしらを切り通して欲しいんです。」
「バレてる前提で? 」
「はい。」
桂本さんがお客さまに失礼な態度を取っているところは、一度たりとも見たことがない。いくら坂北屋の息子、俺が居なくなったと言っても、それは旅館側の勝手な都合。多分桂本さんは、お客さまの荷物の中身を無理矢理見たりなんかしないだろう。
だから何を聞かれても知らん振りをしていれば、桂本さんはそのまま送り出すしかなくなるはずだ。
俺がそう説明すると、三人は納得しつつも渋い顔でリスクを心配した。
「なるほど。可能性はあるけど...無茶だね。 桂本さんを相手する俺も大変だけど、坂北くんを荷物に紛れ込ませるってのも相当キツいよ。」
「そうだよね~。さっきアキが言ったみたいにキャリーバッグの中に隠れることになると思うけど、あんな狭いとこ入れるのか微妙じゃないかな~? 」
「それに、桂本さんが本当に無理矢理荷物を確認しないとは限らねぇし。いざとなったら、多少客に無礼を働いてもお前を見つけ出そうとするかも。 」
「けど他に方法なんてないよね~? 」
みんなの話を聞けば聞くほどリスクが大きくて、どれほど無茶なのかを改めて思い知らされる。
それなのに、何でだろう...。怖くなるどころか、安心している自分がいる。
文句の一つも言わず親身になって考えてくれて、心配してくれる皆を見ていると、温かくて頼もしくて。
西村さんはこの状況をゲーム感覚で楽しんでいるだけかもしれないし、アキさんユキさんはただの気紛れかもしれない。それでも俺は嬉しくて、ありがたかった。
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