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310話 脱走 12
しおりを挟む「あーあー...ただでさえ怯えてた子を更に怯えさせてどうすんの。ごめんね、こいつら本気じゃないと思うから安心して。坂北くんの反応があまりにも可愛いから調子に乗ってるだけで、根は悪いやつらじゃないんだよ。」
「え...」
俺が可愛いとかいうのはよく分からないけど、根は悪いやつらじゃないと言う西村さんの言葉に顔を上げる。
「そう、なの...? 」
西村さんの後ろに隠れつつ、チラッと顔を横から出して二人の様子を窺った。
「チッ、ああそうだよ。...半分くらいは本気だったけどな。マジで嫌がってる相手をどうこうする気はねぇ。緊張を解きたかったのも本当だし。」
「でも、もうちょっといじめて反応見ていたかったよね~。」
残念そうにしながらも、意地悪を言わなくなった二人。その様子から、西村さんが言ったことは嘘ではないことが見てとれる。
なんだ...ただのからかいや冗談のようなものだったんだ。良かった。
緩んだ場の空気に、少しほっとして体の力が抜ける。しかし、その時俺は胸に引っ掛かるものを感じた。
ただのおふざけだったから良かったものの、もし二人が本気で俺に無理矢理酷いことをしようとしていたら、今ごろどうなっていただろう...。
さっきのユキさんの言葉、協力する代わりに、なんて言われた時はすごくヒヤッとした。そんなこと言われたら、俺は脱出をあきらめて桂本さんの元に帰るしかなくなるから。
「ほら、もう何もしないからこっちにおいで。怖くない、怖くないよ~。」
まるで犬や猫などの小動物を懐柔しようとするように穏やかな声で呼ばれる。
机を囲む座布団を示され、あんまり警戒しすぎても、失礼だと思った俺は恐る恐る西村さんの前に進み出た。
「ん、どうした? 早くこっち座れよ。もう何もしねぇっつってんだろ。」
突っ立ったままなかなか座らない俺を不審に思ったのか、怪訝そうに俺の顔を見るアキさん。
「そうじゃなくて...。」
「坂北くん? 」
「あの、俺...自分が助かることばかり考えてて、お礼とか、全然頭になくて...」
迷惑かけてしまうかもとは思っていたけど、そこまで頭が回っていなかった。今渡せるものや、してあげられることは何もない。
だからせめて。
「お礼...は、します。だけど、体を差し出すことはどうしてもできません。俺を大切にしてくれている恋人のためにも...。でも、ここから出られたら必ず何かお礼をするので、お願いします。力を貸してください。」
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