BL 生徒会長が怖い

284話 説得 10

「お...脅したって、無駄です。ちゃんと治る程度に加減されてることは知ってますから。それなら、耐えられる...！ 」

桂本さんに言っているのか、自分に言い聞かせているのか。とにかく俺は、パニックにならないように落ち着きを保とうと努めた。

耐えろ、耐えろ耐えろ。
父さんを説得しなきゃ、もう亜奈月に通えない。南原さんに会えないんだ。

だから、今は。

ヒュッ...ピシッ！

「うぅっーー！ っく...うぐ...。痛っ...」

容赦なく二発目を与えられ、その痛みに悶える。両手の枷がガチャガチャと音を立てて、決して逃げられないことを改めて思い知らされた。

この痛み。本当に痕が残らないのだろうか。
既に皮膚が裂けてるんじゃないかというくらい痛い。

「...私は透さんが、ここまで拒むことが理解できません。大人しく言うことを聞いていればこんな目に遭わずに済むというのに。いえ、それ以上に、あなたは恵まれた立場にいるということがなぜ分からないのですか。」

「...恵まれた、立場...。」

生まれながらに高級旅館の次期当主。お金で苦労はしたことないし、父さんの言うとおりに生きていれば、将来は約束されている。何度も指を指されて言われてきた。「あいつは人生の勝ち組だ」と。

「坂北家の次期当主ですよ？ 誰もが憧れる地位に立つ権利を、生まれながらに与えられているというのに、なぜ拒むのです。」

確かに、恵まれているのかもしれない。
でも俺は、自分が「勝ち組」だなんて思ったことは、一度もなかった。

「俺は...そんなのいらない。俺の憧れはずっと、皆の楽しそうな笑顔だった。」

同級生達が、下らないことを喋って笑い合ったり、学校帰りに遊びに行ったりしているのが羨ましかった。勉強が大切なのは分かるけど、それは自分の選んだ将来のために、自分の意思でやるものだと思うから。

「...誰もが憧れるなら、その誰かが次期当主になればいいのに。」

俺じゃなくても。なりたい人がいるなら、喜んで譲るのに。

そう呟いた瞬間、バチンッと派手な音を立て、一層強い力で背中が打たれた。

「うあーーっ！！ っく...い、いだぃ...っ！ 」

「っ...！ それができないからあなたなんですよ！ できることなら私がっ...！ 」

「はぁ、はぁ...か...桂本、さん...？ 」