278 / 341
276話 説得 2
しおりを挟む「あ...あの、桂本さんっ...。」
俺は思いきって、桂本さんの説明を途切れさせ、自分から話しかけた。
怖くて心臓の音がバクバクと聞こえる。でも、勇気を振り絞って俺は続けた。
「どうしてそんなに、俺を次期当主にしようとするんですか? 」
俺の問いかけに、一瞬ピクリと動きを止める桂本さん。内心緊張しながら、俺はじっと桂本さんの答えを待った。
昨日の夜、ずっと考えてた。
今の状況。どうすればいいのか。俺にできること。逃げることも、戦うこともできない俺には、何ができるのか。
そして、一つの答えを出した。
桂本さんや父さんと話し合い、説得する。
ここから上手く脱出できたとしても、桂本さんはまた俺を追ってくるだろう。だから、本当の意味での自由を得るためには、桂本さんや父さんに諦めて貰うしかない。
欲を言えば、ここから逃げて南原さん達と合流してから説得を試みたいところだが、脱出できない以上一人でやるしかない。
だって、これ以外の方法は、今の俺には無いのだ。
上手くやらなきゃ...。
その為にはまず、桂本さんや父さんが考えていることを知らなければならない。
「それが私の仕事だからです。無駄口を叩いてないで、大人しく説明をお聞きください。」
「...じゃあ、どうすればここから解放してくれますか? 」
桂本さんは、短く答えただけだったが、無回答じゃなかったことにひとまず安心。
教科書を見るように指されるが、俺は怯まず次の質問を投げ掛けた。
「...私は茂さんの意思に従います。それが旅館坂北屋のためだと信じておりますので。」
ってことは、桂本さんか父さんのどちらか一方でも説得できれば、ここを出られる可能性がかなり高くなるということか。
父さんが俺の自由を許してくれれば、桂本さんは多分それに従う。逆に桂本さんが父さんの意思に反して俺の味方をしてくれれば、セキュリティなどの操作をしてもらい脱出ができる。
できれば二人とも説得したいが、今はそこまで考えられない。とにかく、情報を集めないと。
「いい加減勉強を始めますよ。これ以上の私語は目隠しです。」
「ひゃっ...! 」
思考を巡らせていると、脅しとともにペチンと手の甲を物差しで叩かれ、椅子からぴょんっと飛び上がるほど大袈裟にビクつく。
これ以上は流石にマズイと悟った俺は、仕方なく視線を教材に落とした。
2
お気に入りに追加
1,053
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる