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269話 目隠し 3
しおりを挟む苦しいっ、早く、空気っ...!
そう思うのに、拘束されている両手では、大した抵抗もできない。
どんどん無くなっていく体内の酸素に焦るが、全く退いてくれる気配のない桂本さんの手にパニックになる。
まさか、おれ、このまま死...
「ぷはっ...はっ...! ゲホッゲホッっ! うっ...けほっ...はぁはぁ...」
もう限界だと感じた時、グイッと髪を引かれて顔を上げさせられた。途端、激しく咳き込み、懸命に空気を求めて呼吸する。
冷静に考えれば、桂本さんが俺を死なせるわけがない。だけど、あまりにも苦しくて怖くて、ヒヤリとした。涙が目隠しの下で次から次へと溢れる。
もう、目隠し外して欲しい。
ただでさえ水に溺れて息が苦しいのに、なにも見えない恐怖でさらに呼吸が荒れる。
「あ...ぁ...うぅ...たすけて...南原さんっ。」
「無駄ですよ。旅館の場所が分かったところで、いくら彼でも敷地内には入って来られませんから。」
...分かってる。
南原さんは、賢く、強く、桂本さんと対等がそれ以上の力を持っているだろう。けれど、まだ所詮ただの高校生。いくら南原さんでも、頑丈なセキュリティで守られている坂北屋に侵入することなど不可能だ。客として来れば入れるかもしれないが、ここは屈指の高級旅館。南原さんに、それだけの財力はないだろう。
だから俺は、自分の力で、ここを出なければならない。
「うっ! 」
ガボガボガボッ!
分かってるんだ。
一人で戦わなきゃいけないこと。
だからこそ、南原さんを想うことで、なんとか自分を保とうとしている。
でも、水の中じゃ、南原さんの名前すら呼べないよ...。
再び水に沈められながら、そんなことを考えていた。
「ぅ...ひっく...たすけて...も...やめて...」
それから、何度も顔を水に浸され、体力も精神も疲弊しきった俺は、掠れた声で嗚咽を漏らしながら許しを願った。
なんの感情もなく淡々と、ただ冷徹に俺を痛めつけてくる桂本さんに、心が悲鳴を上げている。
もう、嫌だ...。
「やめて欲しかったら、言うことがあるのではないですか? 」
言うこと...。
暗闇の中聞こえた冷たい声にビクリと震えつつ、虚ろな頭で考える。
謝罪と、次からどうするか。
お仕置きを終わらせるには、これを、桂本さんが納得する形で言わなければならない。それが、いつも許される条件だった。
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