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259話 終業式の日 7
しおりを挟むそこそこ値の張る高級車の後部座席に、無理矢理押し込められてシートベルトで固定される。
運転席には、専属の運転手、その後ろに俺、そしてその隣に桂本さんが乗った。
すぐに動き出した車の中から、遠ざかっていく亜奈月高校の校舎を眺める。
「南原さん...みんな...。」
何故だか、もう二度と、会えないような気がした。
そんな訳ないのに。
もしかしたら、家に帰るのが不安で堪らないから、そう思ってしまうだけかもしれない。
だって、亜奈月に通う三年間は、卒業したら父さん達の望むように生きていくという条件で、自由にさせてくれるっていう約束だから。
本当は、車に乗り込むまでの間、恥も外聞もなく、もっと暴れて抵抗してやろうかと思っていた。しかし。
『あまり抵抗なされるようでしたら、目隠しさせていただきますので。』
そう耳元で囁かれ、それがどれ程恐ろしいことなのか身をもって知っている俺は、大人しく従わざるを得なかった。
悔しいけれど、車に乗ってしまった以上、すぐに逃げ出すことはできない。
南原さんと、一緒に帰る約束してたのになぁ...。
そうだ、南原さんに連絡しなきゃ...!
鞄からスマホを取り出し、電源を入れる。
きっと南原さんは、職員室に行ったきり戻らない俺を不思議に思うはずだ。心配して探してくれるかも。
それに一応、桂本さんに家へ連れ帰られてしまうことも南原さんに伝えておきたい。
南原さんを困らせないためにも、メールをしなければ。そう思って、メールのアプリを開こうとすると、それは桂本さんによって阻止されてしまった。
「わっ...? え? ...あの...スマホ、返して下さい。」
突然手元から奪われたスマホに手を伸ばすが、それは俺の手が届かない位置に掲げられている。
「それは出来ません。」
「なんで...」
「逃走防止です。彼には些細な情報も与えたくない。」
「彼って...」
淡々とした口調だが、珍しく、かなりの敵意と警戒心を露にする桂本さん。桂本さんに、ここまで警戒させる相手ってまさか...。
「南原真也。亜奈月の生徒会長だそうですが、どうやら透さんとは親密な関係にあるようですね。時々、家に泊まりに行くほどの仲とは。」
「っ...! 」
やっぱり。
桂本さんの口から南原さんの名前が出たことにもヒヤリとしたが、俺たちの関係まで知られていることに、俺は戸惑いを隠せなかった。
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